大月市が定めた秀麗富嶽12景で最後に残ったのが「御前山」となった。御前山は中央線沿線に6座あることから区別するために「駒橋御前山」と言うこともある。また山岳信仰の奥の院があり「厄王山」とも呼ばれている。この山に行くならば富士山が見える時に登りたいと思うのは当然だ。しかし、5月下旬ともなると富士山が見える確率は低くなり、天気予報を見ては考えていた。田植えも一段落したときに、ピンポイントで晴れる日がある。そこで、前日の午後に急遽出かけることに決めた。群馬から大月市までは車で2時間はかかるので、費用と時間を考えながら決めなければならないところは仕方ない。 5月24日(金) 大月市までの道のりはだいぶ慣れてきて順調に目的地に到着することができた。今回は駐車する場所が決めにくかったので、大月駅に近いところにある有料駐車場を起点として周回コースを取ることにした。朝6時半ということもあり、駐車スペースは十分にあり、ゆっくりと支度をすることができた。 国道20号大月バイパスのアンダーをくぐりそのまま進むと墓地の中に入ってしまった。どうも様子がおかしいと、戻ってから周囲を探すと、細い道が歩道のわきにあるのが見つかった。いきなり迷ってしまったが、なんとか登山口にたどり着いたので一安心だ。鳥居をくぐりわずかに登ると送電鉄塔に到着する。ここは展望があり、気持ちがいいので10分ほど休んで体制を整えた。 ここからはつま先上がりの本格的な登山道となる。小さな社を過ぎると道は傾斜がきつくなり、場所によってはロープがあり鎖もある。当然のことながらこんなところは足元が悪くなかなか手ごわい。菊花山の山頂に近づくと展望も開けてきて、大月市街地の建物がブロックを並べたように見えるようになる。そして富士山も全体が見えるようになってきたが、あいにくと青空ではなく曇り空に見えている状態だ。まあ、見えるだけでもラッキーというしかないだろう。 菊花山山頂は大きな岩が積み上げられて様な場所で、岩の上に立つと富士山はもちろん周囲の山が一望だ。山腹に大きな鏡岩が特徴的な岩殿山が大きく見えている。その奥にはすっかり緑が濃くなった大菩薩連嶺が横一列に並んで見えた。
菊花山からいやらしい岩場の道を下っていくと道が分岐する。左に行く道には赤テープが立ち木に巻きつけてある。おもわずそちらに行こうとしたがどうもおかしい。こんなところには標識が欲しいが、それらしきものは見当たらない。地形図を確認すると、向かおうとしているピークは直進するのが正解らしい。ちょっと紛らわしい分岐で迷いそうだが、迷ったとしても大したことはあるまい。ヒノキの植林地をどんどん下り、鞍部に到着する、このあたりには下から登ってくる道があるはずだが、確認することはできなかった。鞍部からわずかに登ると電波反射板があったが、使われているかは不明なほど老朽化しているような状態だった。ヒノキの植林地をダラダラと登り、朝とはいえ標高の低い里山は蒸し暑く上半身は汗でびっしょりとなってしまった。 汗だくになりながら「沢井沢ノ頭」手前で「御前山」への道を分けて、さらに直進すると「沢井沢ノ頭」に到着した。この山頂は展望がなくひっそりとしている。わずかに風があり、汗が少し引いた感じがした。当初はこのピークまでと思っていたが、もう少し歩いて「馬立山」まで歩いてみることにした。 途中にある「小沢ノ頭」まではアップダウンも少なく到着したが、標識もなくそのまま通り過ぎた。馬立山直下はトラバース道となるがトラロープが設置してありそれほどの不安感はない。馬立山山頂は展望もなく印象に残るような物はなく、すぐに山頂を辞した。 沢井沢ノ頭に再び戻ると、神奈川から来たという男性が休んでいた。この周辺の山をよく歩いているということで、「九鬼山」から歩いてくると馬立山の登りはかなりきつい」と情報をもらった。この周囲の山の情報をもらっているうちに時間を忘れるほど話してしまった。そのうちに単独行の登山者がやってきたので入れ違うように山頂を後にした。
いよいよ「御前山」に向かうことにする。周囲は緑が濃くなった木々に遮られて展望が無いのでよくわからないが、道の両側は切れ落ちているのではないかと想像できた。アップダウンも少なく距離を延ばすことができる。八五郎岩は基部を巻くので、その様子を見ることは出来なかった。最後の登りを喘ぎながら登ると、標識があり「この先崖行き止まり」と物騒なことが書いてある。そこを過ぎると周囲が開けて明るい露岩の御前山に到着することができた。 山頂にはヘルメットを被り腰につけたカラビナをカチャカチャと音を立てるクライマーの男女がいた。山頂からは富士山が大きく見えている。これで秀麗富嶽12景の20座を完登したことになるのでその感慨にふけりながら休んでいた。 そのうちにクライマーの女性が「今朝淹れたコーヒーです。飲みませんか?」と声をかけてくれた。「それはありがたい、いただきます」と言ってカップを差し出して注いでもらった。そのコーヒーの旨いこと、山で飲むコーヒーはこんなにも旨いものかと思った。クライマーの二人は大月市在住で御前山の登山道を整備しているという。御前山のクライミングルートのほとんどを二人で開拓したという。とんでもない人たちに出会ってしまったものだ。おまけに後期高齢者ということで、私よりも年上ということになる。これでクライミングなどよくできるものだと感心した。 さて、もう一座「神楽山」に向かうことにする。急斜面を下り登り上げると山頂に到着だ。山頂からの展望は木々に囲まれて周囲を見ることはできない。ここには三等三角点があり、TVのアンテナが設置されていた。かつてはメンテナンスのために定期的に人が入っていたのだろう。
神楽山から再び御前山に戻るとそこには犬を2頭連れた二人が占拠していた。犬は嫌いではないが、山で犬と一緒の空間に居たくないので、早々に引き上げて下山にとりかかった。 御前山から少し下ったところから大月市街に向かうルートがある。このルートは岩場のトラバースの連続でちょっと緊張するが、踏み段とロープがあるので、これを伝いながら行けば問題ない。これはおそらく御前山でお会いした二人が整備したのだろう。あのときザックから草刈り鎌を取り出していたが、それを使った痕跡がそこかしこに見られた。 途中には「厄王山奥の院」の社と鳥居があり、十合目の表示もあった。ここを過ぎると岩場は少なくなり、八合目の鳥居を過ぎると道に危険なところはなくなった。ほどなく四合目の鳥居をくぐると舗装された林道に出る。あとはこの林道を辿るだけである。沢には特徴的な砂防堰堤があり、土石流防止のための大規模な工事が行われたことが分かる。 林道はやがて国道20号大月バイパスの高架を渡って大月市街地に入る。駐車場に到着し車の外気温を見ると32℃になっていた。全身汗びっしょりで、すべて着替えてることになった。その後、駅前のラーメン店で昼食を摂ってからゆっくりと帰路に就いた。
群馬からだと、山梨の山はアクセスが悪いのでなかなか良い条件で登ることはできなかったが、なんとか20座を登れたことはよかった。
山梨県大月市制定 秀麗富嶽12景(20座)
駐車場07:02--(.09)--07:11登山口--(.53)--08:04菊花山08:17--(.50)--09:07沢井沢ノ頭09:10--(.13)--09:28馬立山09:30--(.11)--09:41沢井沢ノ頭09:48--(.16)--10:04御前山10:27--(.11)--10:38神楽山10:43--(.17)--11:00御前山11:10--(.28)--11:38林道--(.28)--12:06--駐車場 群馬山岳移動通信/2024 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号) |