紅葉の林を抜けて「杉野沢橋から金山・天狗原山」(頸城)
                            登山日2010年10月17日






裏金山(うらかなやま)標高2122m 新潟県妙高市・糸魚川市/金山(かなやま)標高2245m 新潟県妙高市・糸魚川市・新潟県北安曇郡/天狗原山(てんぐばらやま)標高2197m 新潟県妙高市・糸魚川市・長野県北安曇郡




9月に焼山に登ったときに、富士見峠を挟んだ先にある金山が気になった。こんなに近くにありながら焼山の荒々しさと違って、なだらかなその起伏を連ねる山容はゆっくりと歩くならば、快適な稜線散歩が出来るような気がした。この山域は高山植物の宝庫として紹介されているから、花の時期は混雑するに違いない。それならば秋の紅葉時期なら良さそうだと考えた。


10月17日(日)

前日が休日出勤で、疲れのためにどうしても登山口の杉野沢橋に行くことが出来ずに、黒姫野尻PAで仮眠を取った。この紅葉の時期なのに意外にもPAの混雑はそれほどでもなかった。妙高ICで上信越自動車道を降りて、杉野沢橋に向かう。周囲は真っ暗で紅葉がどうなっているのか確認することは出来ない。杉野沢橋の駐車場はワンボックス車が一台あるだけで、ひっそりとしていた。やはり、ここはマイナールートなので登る人はこの時期でも少ないのだろう。肌寒い中、ストーブを点けて湯を沸かしてカップラーメンを作った。1ヶ月前に歩いているので水場の様子も分かっているし、この時期ならば水の消費も少ないので水の量も少ないのが嬉しい。


5時半になるとヘッドランプも必要なくなり、出発することが出来た。1ヶ月前と違ってうるさい下草も少なくなり、朝露で足元が濡れることもなくなっている。心配していた渡渉を妨げるような水量も谷にはなく、登山靴で歩ける。実はこの前はゴム長靴で登っているので、水の中に入ることは問題なかったが、疲れが増したのかもしれない。夜明けと共に周囲の紅葉の鮮やかさが目についてきた。焼山の山頂部分は赤みが増し、その赤い光の部分が次第に麓に降りてくる速度は実に早いと感じる。


地獄谷を渡渉する頃にはすっかり明るくなり、この付近からの紅葉は素晴らしいものだった。それに空は青みが増し、今日の山行が成功することを約束しているようだった。それにしても素晴らしい紅葉で、自分自身が暖色で染まるようだ。1ヶ月前との風景は一変しており、気温の影響もあり実に快適な歩きが楽しめる。萎える気持ちを振り払い、無理をして来て良かったと感じる時間が過ぎていった。水場に到着すると、岩場から流れ出る水量は相変わらず豊富で、この広葉樹林の保水能力の高さを感じた。この水場を過ぎると展望も広がり、金山に続く稜線も見えてくる。すでに稜線付近は紅葉が終わり、枝だけが青空に浮かんでいた。富士見峠到着は9時少し前で、前回とあまり差がなかった。夏の暑さは既に終わり、コースに慣れている割には時間が短縮できなかったことは少し残念だった。立ち止まって紅葉見物に時間を取られた事があるかもしれない。






夜明け前の谷は薄暗い

焼山の山頂から朝の光が降りてくる



富士見峠から未知のルートに踏み込むときは何となくワクワクしてくる。地獄谷を見ると一ヶ月前に見た残雪が見えている。この辺りもあと少しで降雪があるだろうから根雪となるのだろう。そう考えると、いつかあの場所に行ってみたい気持が出てくる。道は笹藪が苅り払われて迷うことはないが、苅り跡が残っているので歩き難い。しかし、この刈り払いは並大抵の労力では出来ないのだからとてもありがたい。この時点では気がつかなかったが、裏金山は巻くように道が付けられて、いつの間にか通過してしまった。振り返ってあれが裏金山だったのかと確認したが、帰りに登ることにしてこのまま金山を目指すことにする。


振り返ると日本海をバックにした焼山が大きく、とても立派に見える。火打山などはその足元にも及ばない。妙高山に至っては全く冴えないコブにしか見えない。眼下には今まで歩いてきた標高1500m付近の紅葉がとても見事だ。その後方には黒姫山、高妻山、戸隠山が霞んで見えた。これから登ろうとしている金山は意外に立派で頼もしささえ感じる。気持ちよく歩いていると、突然初老の単独登山者に出会った。聞けばこれから焼山を越えて高谷池に泊まるのだそうだ。素晴らしい健脚で、自分としてもいつか歩いてみたいルートなのでとても羨ましかった。

道は徐々に傾斜が急になり、刈り払いの道も雨で土砂が流されて堀のような状態になってきた。いや刈り払いがされる前から堀のような状態になっていたことも考えられる。しかし、振り返れば常に立派な山容の焼山が間近に見えて、疲れがたまらない感じがする。それに、この前の丹沢と違ってヒルに悩まされないことは、この上なく幸せなことだった。


つま先上がりに笹の中の道を辿ると、やがて草付の岩場となった。ちょっとルートがわからなくなるところはあるが、登りは上部を目指していけば間違いない。帰りのことを考えて、辿っている道を頭の中にたたき込んで登ることにした。まあ、いざとなればGPSの軌跡を辿ればよいのだが、当然のことながらあまり頼りすぎるのは良くない。


そして、思い描いていた金山の山頂は意外とあっさり頂上に到達してしまった。古い墓標のような標柱と三角点がそこにはあった。展望は焼山方面に開けているが反対側の展望は薮に覆われて見ることは出来ない。天狗原山に向かう道はここから明瞭に続いているのがわかる。その道を辿って3人の登山者が登ってきた。記念撮影を頼んでしばし雑談。天狗原山へのコースタイムを聞くと1時間は掛からないという。当初の目標は金山だったが、それならば行ってみようという欲求が芽生えてきた。



地獄谷には残雪が見える

裏金山の北を通る切り開きの道

大きな焼山・火打山、妙高山は意外と目立たない。その横は黒姫山

何度も焼山を振り返る

金山の山容はどっしりしている

金山山頂

金山から天狗原山へ



金山から天狗原山へは神の田圃と呼ばれるほど、花の時期には一面の花畑になると言うが、いまはその片鱗も見えない。それにしてもこのコースは道が踏み固められて、凹んでしまっている。そこが歩き難いものだから、窪みの横を歩くことになる。確実に道は広がっており、そう遠くない時間でいずれは尾瀬のアヤメ平のようになってしまうだろう。理想は木道だが、荒廃する時間を延ばすならば、ロープの柵でも有効だろう。南に向かってに緩やかにアップダウンを繰り返して伸びている。しかし、この道は稜線に付けられたものではなく、稜線に東側にあるものだから展望は今まで登ってきた、東側の地獄谷を俯瞰する形で歩く。このまま歩いていく道さえあれば最短の周回コースとなるのだが、今日はピストンなので延々と戻ることを考えると憂鬱になる。この道はさすがに人が多く10人ほどとすれ違った。


さて、ゴロゴロした石の斜面を下って鞍部に降りてから再び登り上げると、道が平坦になった。この辺が天狗原山の訳だがそれらしき目印は見あたらない。そのまま進んでいくと、ちょっと下ったところで二人の登山者が休んでいた。その傍らにはお地蔵様と山頂標識があった。しかし、ここを山頂とするのは無理がありそうだ。GPSで確認すると山頂は既に通過してしまっている。そこで登山道をもどり笹で覆われた高みの場所に向かった。今の時期は枯れ草の原となっているが、花の時期に入り込むことははばかれる。その原を抜けて笹原を分けて進むと、赤い表札が立木に打ち付けられているのが見えた。再び笹藪をかき分けてその場所に向かった。するとそこは一部分が刈り払われ、三等三角点がその刈り取った笹の上に突き出ていた。ここが天狗原山の山頂であることは間違いなさそうだ。妙なこだわりがなければ、あのお地蔵様のところを山頂としていたかもしれない。山頂は藪に覆われて展望は優れない。背伸びすると雨飾山、そして白馬三山から槍ヶ岳までの北アルプスが見られた。持ってきたビールをここで呑む気にはなれないので、ふたたび金山に向かった。



天狗原山の三角点は薮の中

天狗原山から見る焼山

天狗原山から見る雨飾山

この辺が神の田圃か


戻った金山山頂は、団体に占拠されて休む場所もない。これではたまらないと、山頂をすぐに辞して富士見峠に向かって歩き出した。それは登ってくる途中に展望に優れた草地があった事を記憶していたからだ。その草地に到着して腰を下ろし、休憩することにした。まずはビールのプルタブを開けて、焼山に向かって乾杯だ。実に旨い!!地獄谷の紅葉と焼山の堂々とした姿は何よりも素晴らしい。

休憩後、富士見峠に向かって歩き出す。さてどこから裏金山に登ろうか?富士見峠に向かって行く途中の西側から登ろうとしたが、笹藪が深くてとても入れそうにない。それではと北を巻く刈り払いの道を歩きながら取り付く場所を探したが、とても入り込む場所がない。そしてついには東側に回り込んでしまった。いつの間にか周囲はガスに覆われて、あんなにも澄み切った青空はどこかに消え去ってしまっていた。この東側から山頂の方向を見ると何となく道形がある。それに笹藪も丈が短い感じがするので、思い切ってこのルートを辿ることにした。


このルートは地獄谷側が崩落しており笹藪が無くなっている。しかしこの谷側は滑落の危険が考えられるので、あまり近寄れない。笹藪の中を歩いていくのだが、はじめは膝くらいだったものが、やがて身の丈を越す笹藪となった。両手でかき分けてその中に身体をねじ込んで登っていく。しかし、今まで経験した中では難易度は高くない。喘ぎながら登っていくと山頂部に到達することが出来た。裏金山は長い時間を掛けたようだったが、実際は取り付き点から5分ほどだった。そこには裏金山の文字が書かれたブルーシートの切れ端が風になびいていた。そしてその傍らにはコンクリート杭が打ち込まれていた。さらに木の枝には赤い布が結んであったが、文字は読み取れなかった。ガスのために展望は無く、早々に裏金山山頂を辞することにした。



裏金山の取り付き点

裏金山山頂

残照が紅葉を際だたせている

最後の難所(右側の岩場がルート)



富士見峠に再び到着したのは13時半で、こうなると日没が気になってくる。なんとか17時までには帰らなくてはならない気持が持ち上がってきた。それはこの前の膝の痛みが再発する可能性があるからだ。ストックを使って慎重にゆっくりと下ることにした。紅葉が残照に照らされ鮮やかさを増した頃、なんとか無事に杉野沢橋に辿り着くことが出来た。




今さらだが無線機を新調(VX-6)防水性能を重視した

クマ除け鈴も大きいものに新調
両方とも越後で求めたものだが音色は素晴らしく遠くまで響く。



杉野沢橋05:29--(1.48)--07:07地獄谷徒渉--(.30)--07:37水場07:39--(1.33)--08:55富士見峠09:18--(1.10)--10:28金山10:46--(.25)--11:11天狗原山11:24--(.28)--11:52金山--(.13)--12:05(休憩)12:36--(.30)--13:06裏金山取り付き--(.05)--13:11裏金山13:13--(.04)--13:17取り付き--(.13)--13:30富士見峠13:35--(.56)--14:31水場-14:36--(.16)--14:52地獄谷徒渉--(1.21)--16:13杉野沢橋






この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)






群馬山岳移動通信/2010