寂れた山の良さを知る「雨ん坊主」「中垣岩」「大峯」   
                                                登山日2009年1月17日




中垣岩からの帰路に見る雨ん坊主


雨ん坊主(あまんぼうず)標高1295m 群馬県高崎市/中垣岩(なかがきいわ)標高1098m 群馬県高崎市/大峯(おおみね)標高983m群馬県高崎市





今年の初登りはどこにしようかと思っていたが、思わぬ寒波で平地にいても寒くて仕方がない。そんな訳でぐずぐずしていたら、中旬になってしまった。暖かい日だまりの山もいいが、雪の上も歩いてみたい。そんなわけで当初はみなかみ市の藤原湖あたりを考えていたが、あまりにも雪が多そうなので敬遠して、浅間隠山周辺の山を登ることにした。記録は「今度どこ登ろうかな」「等高線の狭間から」を参考にして計画を立てた。今回も職場の同僚のTさんに声を掛けて同行して貰うことにした。こうなると、車2台となるので縦走が可能になるので、思い切った計画がたてられるのがうれしい。そこで、はまゆう山荘から雨ん坊主に登り、中垣岩をピストンしてから、大峯に登って降りるコースを考えた。


1月17日(土)

Tさんと車を連ねて倉渕村のカネト水産を目指す。狭い道は凍結していた。軽トラックは車重が800kg弱なので滑り出すと止まらないので緊張する。まるでエアーホッケーのパックのようなもので、凍結した坂道で停車するとブレーキを踏んでいても、滑り出すのである。そんなわけで、今回は荷台にU字溝を二つ積んでおもりにしておいた。(結果的にはこれでもアクシデントに見舞われることになるのだが・・・)大峯は1998年に登っているので、林道の様子も知っているとタカをくくっていたらこれが大間違い。結局わからずにカネト水産近くの路上にある余地に駐車することになった。ここに、軽トラックを置いて、Tさんのジムニーではまゆう山荘に向かう。


はまゆう山荘は、かつて横須賀市民休暇村の冠名称が付いていたが、いまではこれは外されている。横須賀市の市花が「はまゆう」と言うことで付けられたのだが、この山奥ではちょっと似つかわしくない様な名前となった。ここの駐車場で夜明けを待ちながら支度を整える。今日は暖かいせいか、素手で装備を装着することが出来る。去年購入したまま未使用となっていた登山靴を初登りと言うことで使用することにした。またトレッキングパンツはウエストが減少してダブダブになっていたので、これまた新調したものを使用することにした。先人の記録を見ると、凍結した急斜面と岩場があると言うことなので、念のために12φ×40mザイルをザックのなかにしまい込んだのでいつもより重量が増してしまった。Tさんは相変わらずハイドレーションで2500mlの水をザックにしまい込んでいる。


案内板
新しい登山靴
朝焼けの浅間隠山と竜ヶ岳
破壊された標識



はまゆう荘前の県道を横断して雪の林道に入る。この道は角落山に登るときのアプローチとなる烏川に沿った道である。県道から10分ほどで「三洋の森」の標識のある場所に到着した。三洋電機が整備をした事によるネーミングだが、昨今の吸収合併を考えると「パナソニックの森」となるのだろうか。そんなことを考えながら標識に沿って山道に入った。カラマツの植林地を縫うようにして続く道は、積雪があるものの歩きやすい道だった。その道には無数の動物が歩き回った足跡が残されていた。最近の熊は冬眠しないと言うことを聞くので、熊の出没が多いこの周辺はどうなのかと心配したが、イノシシ、ウサギ、シカといったものが多く熊のものは見られなかった。雪質は乾燥した状態なのでまとわりつかない分歩きやすい。歩き始めて30分ほどで尾根に乗ることが出来た。振り返ると、浅間隠山の山頂部に朝日が当たり始めて燈色に染まっていた。


この登山道の所々には立派な標識があり「しおじの森」「みずならの森」「針葉樹の森」「広葉樹の森」などと書いてあるのだが、その位置関係が不明なのでさっぱりわからない。またそれらの標識は熊によるものと言われているが、ことごとく壊されて原型をとどめているものは希だった。前方には角落山が素晴らしい角度で屹立しており、とても登れる様な山ではなさそうに見える。その荒々しさはこの辺の山では目を引き、近くの鼻曲山などは目立たない存在となってしまっている。凍結した滝を見送ると、傾斜を増した登路が待っていた。とてもストックなしでは登れないのだが、Tさんは苦もなく登っていく。この辺はバランスの問題なのではないかと思われる。


凍結した滝の横を登る
角落山からの稜線
雨ん坊主の先端が見える
雨ん坊主の登り

角落山とは1220mの等高線で囲まれたピークを巻くところでつながっており、角落山まではルートが出来上がっているようにも見えた。この1220mのピークを巻くと雨ん坊主の山頂部が藪の間から見えるようになってきた。丈の短い笹藪を進むと、いよいよ雨ん坊主の最後の登りとなった。ここでストックはザックにしまいこんで、ピッケルを持つことにした。結構傾斜が急なので、ピックを差し込んだり、灌木に掴まりながら慎重に登っていく。途中に展望の良い場所があり、角落山、鼻曲山、浅間山を一望に望むことが出来た。そこをさらに進むと出発から2時間半を要して雨ん坊主の山頂に到着した。山頂は外見から見た急峻なイメージとは違って東西に長く平坦でノンビリと過ごすことが出来るような場所だった。石祠があり、雨ん坊主と言う名前からして農作業の信仰の山のような感じがする。山頂でこれから進むべき中垣岩の方角を偵察する。中垣岩と思われる場所はテーブルマウンテンのように岩壁で囲まれている感じがする。HPの情報によれば、雨ん坊主の下降は急傾斜であると言うことなので、Tさんとともにアイゼンを取り付けることにする。ここでも素手で装着できることは、かなり暖かいと言うことなのだろう。


雨ん坊主山から見る角落山・鼻曲山・浅間山

雨ん坊主山頂雨ん坊主直下の下降(このあとにアクシデント)
中垣岩に向かう途中の石祠中垣岩に向かう途中の樹林



さて、ここから中垣岩に行くには北東に行かなくてはいけない。なにか目印があるかと思ったが、それらしきものはなく不安になったが、中垣岩までの稜線がハッキリ見えることもあり確信を持って下降することにした。この斜面はとんでもない急角度の斜面で、後ろ向きになってピッケルを突き立ててアイゼンを差し込むような場所だった。灌木もあるが、それも疎らでさらに枯れ木があるので、あまりアテにならない。そのうちにTさんが雪煙を立てて、滑り落ちるのがスローモーションのように見えた。きっと5m程度だったのだろうが、恐ろしく長く滑ったように見えた。幸いに立木にしがみついて怪我もなく事なきを得た。見ていたこちらも、緊張しておもわず慎重に下降することにした。ザイルを出そうとしたが、そこまでは必要なさそうなので止めた。陽の差し込まない急斜面と20分ほど格闘してやっとの事で降りることが出来た。するとそこには木で組んだ階段状の古い道が残っていた。ここからは慎重に複雑な枝尾根が無数ある稜線を慎重に辿っていく。Tさんは地形図を手に持ったまま、ひとつひとつの道を確かめるように先を進んでいく。こちらは任せっきりで、立ち止まって景色を眺めたりしながら歩くことが出来た。標高1050mのコルは東側が植林地で人の手がかなり入っているように見える。ここには石祠と倒れた山火事注意の丸い標識があった。アップダウンを繰り返しながら進むとやがて岩場に出て展望が良くなった。西の方角にある真っ白な浅間山が美しい、それにまとわりつくように山並みがここまで押し寄せているのが圧巻だ。キレットのように切れ込んだ岩から下を覗くと目眩がしそうな程の断崖となっていた。さらに進むと岩頭に到着。その上に立つと本日一番の大展望が広がっていた。画角24ミリのレンズでも入りきらないほどの展望だった。高いところが苦手なTさんは、さすがに登ることを躊躇してしまった。この岩頭からは藪の中を辿り植林地を登り上げるとなんの変哲もない中垣岩の標高点のある場所に到達した。灌木に遮られて大展望を見るとまでは行かない。Gさんのプラスチックの標識と青い荷造り紐が立木にビスで止められていた。あまりにも展望が悪いので、この先に見えているピークに出かけてみる。しかし、ここも大展望とはならないで、風が吹き付ける寒い場所だった。早々に標高点まで引き返して、昼食にすることにした。今度はTさんがリンゴを持参したのでありがたくいただくことにする。山で食べるリンゴは実に旨い。それから日本酒を180ml、恒例のコロッケパンを一気に食べた。


中垣岩途中の岩稜から見る雨ん坊主中垣岩手前の岩峰から見る浅間隠山
中垣岩山頂中垣岩から雨ん坊主の登り



この時期の日没は早いので、正午前なのだが早々に中垣岩を立つことにした。帰路は自分たちが歩いたトレースを辿るだけなので気楽というものだ。さてあの雨ん坊主の急斜面の登りはどうだろうか。基部に立ってあの朽ち果てた木組みの階段の残骸をトレースして登ることにする。雪が乗っていてわかりにくいが、それなりの道形がわかるのでそれをジグザグに辿る。しかし、急斜面でアイゼンがなければとても登ることなんて出来そうにない。それでも下降するときの半分の時間で登り切ることができた。


さてここからは高圧線鉄塔に向かって東に延びる尾根を辿ることになる。快適な稜線をどんどん下っていく。地形図を手放さないTさんが、そろそろ林道に下降したいと言い出した。たしかに地形図を見ると、林道はすぐそこにあるようだ。しかし、下降は慎重にやらないととんでもない事になる。なんとか説得してもうしばらく先に進むことにした。しかし、快適と思われた尾根も鉄塔まではかなり長い距離がある。送電線鉄塔はすぐそこに見えている。そこで、下降することに決めた。下降地点からは植林地なのでもうアイゼンは必要ないし、むしろ引っかけて危険と考えられるので外すことにした。


なんのことはないと思われた植林地の下降は、バラの藪があったりと結構辛いものがあったが、10分ほどで林道に到着してしまった。何となくあっけない下降だったので拍子抜けの感がある。林道はゲートで閉じられているのだろうか、轍もなく降った雪がそのまま残っていた。さてここから林道を下って、地形図の破線を辿って977mの標高点の尾根に登り上げて大峯を目指すことにする。林道からの道は明瞭にわかった。流れのある沢にいったん下降して再び登り上げるのだ。沢には丸太が渡してあったが、朽ち果てて使える状態ではなかった。笹の斜面は雪が積もっていたが、それほど困難なものではなく簡単に尾根に到着することが出来た。ここには明らかな道筋があり、切り開きのような場所もあった。ナラの林の中を道なりにどんどん進んでいけばいい。この付近はイノシシが多いらしく、いたるところに掘り返しのあとがあった。熊棚は見あたらす、意外な感じがしたが、すでに落ちてしまっているのかもしれない。伐採地なのか、山火事の跡なのかわからぬが、展望の良い草地を過ぎて進むと、大きなナラの木の下に石祠がある場所に到着。ここが大峯の登りらしい。植林地の縁を抜けてドングリが無数に落ちている急斜面を登り、わずかに痩せ尾根を通過すると山頂に到着した。


林道から大峯に向かう途中の沢大峯に登る手前のナラの大木と石祠
大峯から妙義山方面大峯山頂の石祠



山頂は10年前に来たときの記憶と全く重ならなかった。擬宝珠の付いた石祠さえも思い浮かばなかった。それに下降するべき東側の斜面があまりにも急斜面なので驚いた。このまえはなんと言うこともなく、下降したような気がするのだが、今見るとかなり勇気を必要とする急斜面だった。この標高983mの山頂からの展望は、周囲の山が高いこともあるが、灌木が刈り取られてすっきりとしていて気持ちがよい。山頂で残ったパンとポットのお湯を飲むと充実感をしみじみと味わうことが出来た。


さて、下降はどうしようか?東側の斜面はコップを押しつけたように窪んでいる。下降はその両端を伝わるようにして下山するしかない。左は両側が切れ落ちており、その上に凍結した雪が乗っているのが気になる。そうなると右側の尾根を下降するしか選択肢がない。右側は灌木も多そうなので、それに掴まりながら慎重に下った。途中に大きな畳2枚程度ののっぺりした一枚岩があり妙な気がした。それは人工的でもあり、なにかの文字が書き込まれていても不思議のないものだった。傾斜が緩くなると間近に林道が見えると安心することが出来た。あとは雪の林道を辿って車の駐車地点まで歩いた。Tさんと山行の無事を喜びながら、今年の初登りを締めくくることが出来た。


群馬山岳移動通信/2009


はまゆう山荘06:44--(.12)--06:56三洋の森入り口--(1.51)--08:47角落山分岐--(.48)--09:35雨ん坊主09:49--(.48)--10:37石祠--(.28)--11:05展望の岩--(.16)--11:21中垣岩11:51--(.59)--12:50雨ん坊主--(.42)--13:32尾根を離れる--(.10)--13:42林道--(.22)--14:04尾根へ--(.09)---14:13尾根--(.26)--14:39石祠--(.14)--14:53大峯15:05--(.20)--15:25林道--(.46)--16:11カネト水産




GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)