四万温泉周辺の山を歩く「新行山」「水晶山」
                                        登山日2016年1月10日


四万スポーツ林の駐車場から見る木戸山

新行山(しんぎょうさん) 標高1171m 群馬県吾妻郡/水晶山(すいしょうやま) 標高900m 群馬県吾妻郡


2016年の最初の山歩きは何処にしようか。やはり「群馬山岳移動通信」をタイトルにしているので、群馬の山に登っておくことにする。去年からの肘の痛みもそのままなので、あまり過激なところは無理だ。そこで、登り損ねていた四万温泉近くの「新行山」「水晶山」に登ることにした。


1月10日(日)

かつては通いなれた四万温泉への道、昔とはすっかり様子が変わってしまった。四万川ダム(奥四万湖)の建設に伴い、アクセス道路が整備され車の通行が格段に楽になった。四万スポーツ林と呼ばれる施設の駐車場で準備を始める。例年ならこの辺りは積雪があるのだが、今年は砂ほこりが舞うような状況だ。雪のことを考えて、ピッケルとアイゼンを準備してきたがこれでは出番がなさそうだ。しかし、持参した猫爺さんにいただいたCASINのピッケルは持っていかなくてはならないだろう。
「新行山」は小倉の滝への林道を歩いていく。林道の脇にはクマ除けの鐘が設置してある。鐘と言っても酸素ボンベの底を切り取り、上部に金具をつけて下げたものだ。一緒に置いてある金槌で叩くと耳が痛くなるほどの音が響き渡るのだ。この四万温泉付近はクマとヒルが有名で、春から秋にかけてはそれこそ命がけの山歩きとなる。

林道は軽トラックなら問題なく走行できる道幅となっているが、乗用車ではかなり勇気がいるに違いない。その林道も広場に到着すると、車止めが設置されてその先は遊歩道が続いている。この広場から杉の植林地に入っていく。植林地に入って数メートルで左に折れて道なりにひたすら歩いていく。杉の枯葉が敷きつけられているので、夏の時期なら間違いなくヒルの総攻撃を受けるだろう。ピンクのテープが枝につけられているのだが、これがはたして新行山へのルートなのかよくわからない。

杉の植林地が途切れたところはガレ場になっていた。ここでルートがちょっと怪しくなった。なんとなくガレ場を横切って左に進むようにみえる。進んでみると道形らしきものはほとんど無くなってしまった。立木に赤ペンキでマークがあるのみだ。ここからはなんとなく上部に行けそうな感じを受ける。そこでこの斜面を登ることにする。

斜面はかなりの急傾斜で、立ち止まるような場所もないほどだ。立ち止まったにしても、足元がズルズルと崩れていくほどだ。悪戦苦闘しながら高度を上げて行くが、CASINのピッケルが思わぬところで役に立ったという事だ。GPSを見ると、本来登るべき主尾根からかなり北を登っていることがわかる。ともかく、今登っている斜面を登ればその尾根に合流することは間違いない。



四万スポーツ林から小倉の滝に行く

小倉の滝まで40分


ここが林道終点 ヒルと熊に注意


熊除けの鐘の使い方

ガレ場にでる(ここが分岐で右に行くのが正解)


主尾根に近づく



やっと主尾根に近づくと傾斜も緩やかになってきた。この辺りはヤマグリが多く、いたるところにクリのイガが散乱している。これならばクマの食料は十分と思える。それが証拠に樹上を見ると、無数のクマ棚が確認できる。ここはクマの天国なのだ。そして主尾根にたどり着くと、そこは笹原となっていた。主尾根に出れば道があるかと思ったが、かすかな踏み跡が確認できるだけで明瞭な道は確認できなかった。今までなかったピンクテープも要所に見られるようになり、ちょっとだけ安心感が芽生えた。

広葉樹の樹林の中を喘ぎながら登ると傾斜は緩くなり、幼木がわずかな面積で育っている場所を通過してさらに高みに向かって登っていく。ここでGPSをとりだして確認すると、なんと山頂を通過していまっている。振り返って見るが、それらしきピークは見当たらない。しかし表示を見ると間違いないので、せっかく登った場所から下降することにした。GPSの表示を見ながら慎重に三角点を探すと、とても山頂とは思えない場所にその三角点はあった。それは登るときに見ていた幼木が密集している藪の中にあり、よく見ればピンクテープがその幼木に縛り付けられていた。この場所からの展望は無く、樹林越しに四万川ダムそして「不納山」が間近に見える。そしてこの尾根の先は大きく左に曲がり「木戸山」につながっている。「木戸山」は1999年の春に猫爺さんと一緒に登ったことが思い出される。その猫爺さんから貰い受けたピッケルを「新行山」の三角点の脇に突き刺して、若かったころに思いをはせた。

山頂でアンパンを一個食べてから下山することにする。下山は登ってきたルートを辿るべきか悩んだ。しかし、あまりにもピンクテープがしっかりとつけられているので、それを辿ってみることにした。迷ったにしても、下山は容易であることは間違いない。

主尾根はクマ棚がいっぱいなので、あまり気持ちがよくない。この時期ならば小熊もいないだろうから、それほど凶暴にはなっていないだろうと、勝手な判断でどんどん下っていく。主尾根の947mの標高点まで行くのかと思いきや、ルートは大きく右にカーブして下降していく。不安になりつつも、登ってきたルートに近づいていくので自信は持てる。灌木に掴まりながら恐ろしいほどの下降を強いられる。そのまま下るのかと思いきや、杉の植林地を避けるように右にトラバースする。やがて見覚えがある場所に飛び出した。それは登るときに悩みながら通過したガレ場だった。

林道に降り立って一安心、駐車場まではクマよけの鐘を叩きながら歩いた。



栗がいっぱい

主尾根は広々としている

新行山の三角点にCASINのピッケルを突き刺す

三角点で記念撮影






四万川ダムの奥四万湖

稲裹神社近くの小泉の滝



四万川ダムの堤体を見学してから今度は「水晶山」に登ることにする。
「不納山」に登った時に立ち寄ればよかったのだが、この山だけを登るのはもったいない感じがするので、そのままになってしまっていた。まして、ヒルとクマの話があればとても出向く気にはなれない。スタートの稲裹(いなづつみ)神社の近くには駐車場が無いのでちょっと離れたところに駐車する。このルートもかなりの急登で、数分で早くも息が上がってしまう。道なりにジグザグに登っていくが、落ち葉が積もっており滑るので歩きにくい。あと数カ月もすればヒルがウジャウジャと考えると、どうしても落ち着いていられない。あの塩水橋から「丹沢山」で受けた、ヒルからの攻撃がすっかりトラウマとなっているようだ。静かな山歩きでひたすら登っていく。ところがフト気配を感じて顔を上げると、下降してくる単独行の女性と鉢合わせしてしまった。「ああ!ビックリした」と私、「危ないですから注意してください」と女性。あまり突然だったので交わした言葉はここまで。それにしてもロングスカートにストック二本を操り、舞うように下降していく姿に見とれてしまった。それにしてもどこから登ってきたのだろうと、興味をそそられる姿だった。

正午を過ぎると気温が急激に下がってくる。思わず帽子を被ろうとしたが、ザックの中から出てこない。どうやら「新行山」で脱いだ時に紛失したものと思われる。いまさら回収に戻るのもできないので、あきらめるしかないだろう。愛着があっただけに悔しい。今頃は寒がりのクマが見つけて被っているかもしれない。




稲裹神社の社

落ち葉をかき分けて

短い笹の道

不納山への道を分けて水晶山に曲がる


直進すれば「不納山」へ続く分岐を右に折れて、アップダウンのほとんどない道をどんどん歩いていく。この付近のクマ棚も多く見られ、あまり気持ちがよくない。やがて目の前に鉄製の階段が現れ、標識は「水晶山 900m」とある。その階段を登るとそこは岩峰になっており、周囲は鉄の柵で囲まれている。一番高いところには石祠があり「秋葉大神」の文字が読み取れた。ここのクマよけの鐘は金色の塗装がされてちょっと豪華だ。岩峰からは四万温泉の旅館街を見渡すことが出来る。夜景は綺麗だろうが、ここまで歩いてくる勇気のあるものは少ないだろう。周囲の岩には、水晶山の由来となった石英の層が見られた。地形図の「水晶山」は曖昧でピンポイントで特定できない。この岩峰ではないと思うのだが、ほかには見当たらない。

下山は道が整備されており、問題となるようなところは無かった。小さな沢の流れを跨ぐと、かなり崩壊した階段とフェンスが設置してある場所に到着。そこを過ぎると広い道となりやがて四万温泉からの登山道の起点に到着した。ここは広場になっており案内板などが設置してあった。それにイノシシ捕獲用の檻があったが、現在は使われていないようだ。



水晶山の階段

水晶山の鐘は金色塗装

水晶山の石祠(秋葉神社奥社?)

石英の層がある

フェンスと階段(整備された遊歩道だった?)

登山口起点





ハクサイを漬けていた

ハクサイの漬け物を貰った

帰路、新行山を見る

四万温泉の街路灯


登山口基点からはよく整備された舗装路をどんどんと下っていく。ほどなくゆずりは神社の前を通過し道が分岐するので右に折れる。ここでやっと民家が立ち並んだ道を歩くことになった。民家の庭先ではハクサイを漬けている人がいる。
「ハクサイは水が上がってきたらどうするんですか?」と聞いてみた。
「水が上がったら捨てて、そのままつけておくんだいね」
「うまく漬けたものがあるから、持っていきないな」
遠慮したが、漬物樽を開けてビニル袋に詰め始める・
「ひとつで充分です」
「そんなこと言わねえで持っていきなよ」
「そうですか、ありがとうございます」
そんなわけで漬物が入った袋をぶら下げて、車が行きかう道を駐車地点まで歩いた。



四万スポーツ林07:38--(.20)--07:58車道終点08:06--(.16)--08:22分岐--(.57)--09:19主尾根--(.16)--09:35新行山10:00--(.32)--10:32分岐--(.14)--10:46車道終点--(.15)--11:01四万スポーツ林


稲裹神社12:13--(.57)--13:10分岐--(.14)--13:24水晶山13:38--(.25)--14:03中井起点14:08--(.06)--14:14秋葉神社--(.20)--14:34稲裹神社


群馬山岳移動通信/2016


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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