恐怖!!!大地が蠢く「丹沢山」    
登山日2010年9月19日


東峰(ひがしみね)標高1345m神奈川県愛甲郡・津久井郡 /中峰(なかみね)標高1360m神奈川県愛甲郡・津久井郡/西峰(にしみね)標高1352m神奈川県愛甲郡。津久井郡/丹沢山(たんざわやま)標高1567m神奈川県足柄上郡・愛甲郡・津久井郡




Tさんと一ヶ月前に八ヶ岳を計画したが、突然の出来事で二人で一緒に登ることは出来なくなってしまった。そんなTさんから丹沢へ行かないかと誘いがあった。どうも都会の山は好きになれないし、なんとか百名山にも全く興味がないから、あまり乗り気になれなかった。そんな訳でいったんは断ったのだが、いろんな話も貯まっているので結局は一緒に登ろうと言うことになった。ところが、私は金曜日に集合して土曜日に登るものと思っていたら、Tさんの予定は土曜日に集合して、日曜日に登ると考えていた。その食い違いが発覚したのが木曜日の夕方だったので、慌てて修正となった。まさに前途多難な山登りの始まりの幕開けとなった。また義姉に連絡したら、丹沢はヒルがいっぱいで、絶対に行きたくない山だという。それでは食塩水が効果的かと思ったが、旅人さんのHPでは食塩水なんて全く効かないと書いてある。そんなことを考えていたら、職場の同僚のH嬢がヒルの忌避剤があると言う。そこで、それを求めて会社を定時に切り上げて、スポーツ用品店をハシゴして何とか手に入れた。商品名は「ヒル下がりのジョニー」・・・・・・なんと冗談に近いネーミング。なんとなく効果はなさそうだが、Tさんの分も考えて2本購入した。



1万ドルもする貴重品

成分は何となく・・・



9月18日(土)


朝から畑の草刈りをしてから、17時過ぎに丹沢に向けて出発した。ナビの到着予定時刻は21時となっているので気が重い。上信道、関越道、圏央道、中央道と乗り継いで相模ICで降りて現地に向かう。宮ヶ瀬湖を過ぎて県道70号をそのまま走行すると、なんと携帯が圏外になってしまった。ここは群馬じゃなくて神奈川なのにこんな状態なのかと驚く。さらに進んでいくとキャンプ場があり、その先からとんでもない細い道になった。車一台がやっとで、これが県道なのかと疑いたくなる。対向車が来たら、それこそアウトで、すれ違いは出来そうにない。そんなことを考えていると、案の定前方からライトが見える、避ける場所がないのでどうしようかと思ったら、対向車がちょっと広いところで待機していてくれた。その後も2台すれ違ったが、ほんとギリギリのすれ違いで、早くも明日の帰りのことが心配になってきた。それにここは鹿の天国らしく、道路脇にはこれでもかと言うほどシカがうろついていた。やっとの事で待ち合わせの塩水橋に到着したが、駐車しているTさんの車に動きがない。おりて近づいてみると、なんとドアを開けっ放しにして、爆睡しているではないか。足を揺り動かして、起こすと寝ぼけ眼で不思議そうな顔をして起きあがった。「私ですよ」と言うと、やっと気がついたようで笑顔になった。


ともかく酒を飲みながら、いろんな事を話して過ごした。もちろん、周囲には食塩を播いて、忌避剤を履き物に吹き付けておいた。しかし、さすがに疲れて、23時頃には疲れて就寝。


ところが、この林道はなんという賑やかさ。夜中の2時になってもひっきりなしに車が通過するのだが、どんな目的でこんなところを走るのか全くわからない。眠れぬまま時間を過ごしたのだが、その間に3度ほど肩を揺り動かされた。隣の車で寝ているTさんが車に触っているのだろうか。しかし、その後の気配は感じられない。ひょっとしたらシカが車に触れたのだろうかともおもったが、そうでもないらしい。何となく気持ちが悪いので、トイレも我慢してじっと夜が明けるのを待った。


9月19日(日)

5時に起床して、準備を始めたが昨夜のことが気になり、Tさんに尋ねると一度も車から外に出ていないという。じゃあ肩を揺すったのは、なんだったのだろうか?それよりもTさんは早速ヒルの餌食になったらしく、足の甲に血がこびりついて残っているではないか。私には特段変わったこともなく無事だったようなので、食塩か忌避剤が効いているのかもしれない。


考えがまとまらないまま準備を進めたために、歩き出したのは6時半頃になってしまった。塩水川に沿って道を辿るとすぐに簡易水道の施設がある。その先には昨日呑んでいるときに、やってきたツーリングのライダーのテントが見えている。あんなところにテントを張ってヒルは大丈夫だったのだろうか。ここから道は始まっており、「塩水山神」が祀ってあった。道はすぐにシカ避けのフェンスに阻まれた。ここには朽ち果てそうな丸太で作った通路が設置されている。これを慎重に渡ってフェンスの中に入った。道は作業道がいくつも分岐しているが、尾根が明瞭なので登る時には問題無くルートを辿ることが出来る。一部カヤの密集する薮もあったが、総じて針葉樹の中の道を辿っていく。Tさんは4ヶ月ぶりの山行なので調子が出ないようで遅れ気味となった。また、9月中旬だというのに湿度が高く、不快さが肌にまとわりついている。



塩水橋の駐車地点

塩水山神

ここは登山道ではありません

ヒルの生息域



杉の落ち葉がちょっと積もった道を辿ると、何かに気がついた。
尺取り虫のようなものが動いている。
直感的にそれがヒルだと気がついた。
それは1匹なので、その動きを観察するが、なかなか動きが速い。
いや、もの凄く速い。
全体がバネのようで、弾んでいるようにも見える。
記念に写真でも撮ろうか、なんて思っていると。
なんと地面全体が一瞬動いて見えた。
それもそのはずで、なんと自分はヒルの絨毯の真っ只中にいるのだ。
足元を見ると、もう既に何匹か登山靴を這い上がっているではないか。
全身が総毛立つのがわかった。
「Tさん、大変なことになっているよ」と叫んだ。
ところが、そんなTさんの登山靴もヒルが這い上がっているではないか。
とにかく、パニック状態となり、撮影なんてとんでもない、一刻も早くここから抜け出さなくては。
戻ることは考えなかった、とにかく全力で尾根道を登っていった。
時折、足元を見るとまだヒルが取り憑いている。どうやら、ビブラム底の隙間に挟まったヒルが剥がれずにそのままになっており、それが徐々に這い上がってくるのだ。しばらく登ってから岩場の上で落ち着いて、良く観察してみると、登山靴に忌避剤(ヒル下がりのジョニー)を塗りつけた効果なのか、ある一定の場所から上には這い上がってこない。「これって結構使えるじゃん」とTさんと話したが、あのヒル攻撃に精神的にいつまで耐えられるのか疑問がある。ともかくこんな山は二度と来たくないと、登り始めて30分も立たないのにそんなことを考えてしまった。


ここで、Tさんが地形図を取り出して位置を確認したのだが、ここで私は愕然とした。てっきり、塩水橋から丹沢山に登って、ピストンで帰ってくると思っていたら、なんと東峰(本間ノ頭)に登る尾根を歩いているという。「ええ・・・・・!!!!」
私自身、全くルートを検討せず、お任せでやってきているのが悪いのだが、この時点ですっかり気持が萎えてしまった。最近、疲れ気味なのでヒルとルートの勘違いで、すっかりと気落ちして歩くのもやっとの状態となってしまった。いままで先行して歩いていたのだが、Tさんのあとを歩くのがやっとの状態となった。


ヒルの出現は精神的に大きなダメージを受けることになった。この後はひたすら下を確認しながら歩くことになった。かなり神経質になり、アリであってもクモであっても動くものに反応してしまうようになった。しかし、この後何度もヒルの絨毯の上を歩く羽目になってしまった。そのうちに妙なことに気がついた。それはキイロスズメバチが周囲を飛び回るようになったことだ。はじめは1匹だったのが、いつの間にか3匹になっていた。地面にはヒル、空中はキイロスズメバチ、最悪の状態となってきた。このハチは良く観察してみると、足元にまとわりついている。どうやら、ヒルの忌避剤に反応しているようだ。ヒルには効果があるが、ハチにとっては好物になっているのかもしれない。ともかく、座ることも出来ない、ザックを降ろすことも出来ない、立ち止まればハチが周囲を飛び回る。体力的にも精神的にも疲れが溜まって来るのが分かる。Tさんはおまけに近づくとアルコールの臭いがする。これが抜けるまでには相当な時間がかかることだろう。



モミの巨木地帯

なんの目的なのか立派な標識(標高1050m)

綺麗なキノコ



いつしか、周囲はガスが立ち込めて樹林の中の展望はほとんど得られなくなってしまった。ますます気分は落ち込んでいくのがわかる。それにしてももの凄い急登で息も絶え絶えとなってくる。また、シカの食害を防ぐためのフェンスが張り巡らされ、どうも気分が良くない。それにそのフェンスは倒木で破壊されているところもあり、あまり役立っていないと思う。この尾根は踏み跡はあるものの、標識は一切無く時折現れる赤テープが人の通った痕跡を示している。それに標高点が記されたピークがあるが明確ではなく、帰ってからGPSのトラックデータで時間を調べた。ともかく登り一辺倒で、展望もなく景色に関しては印象が残っていない。標高1050m付近には文字か消えかかっている立派な標識があった。いったい誰が見るのだろうかと疑問に思う。



標高1137mの標高点あたりから、樅の巨木が目立つようになり傾斜も緩んできた。ヒルの姿も見かけなくなり、執拗に追いかけてきたキイロスズメバチもいつしかいなくなった。結局キイロスズメバチには標高差400mを付きまとわれたことになる。それにしても、我々の疲労は尋常ではなく、食欲はなく、水ばかり消費していた。出発前に我慢して食べておいたカップラーメンは正解だったようだ。しかし、戻ることはしたくないのでひたすら登って行くことにした。



辿り着いた登山道に標識有り

東峰(本間ノ頭)三角点

東峰

登山道は良く整備されている



歩き始めてから、予定時間を大幅に超過して一般の登山道に辿り着いた。そこには標識があり、踏み跡もあったので何となく幸せな気持になった。それにしても、逆コースを取った場合、この登山道からの地点が塩水橋への下降点と認識するのはかなりの経験が必要と思う。登山道を丹沢山に向けて20分ほど歩くと、東峰(本間ノ頭)に到着した。山頂はブナの木に覆われて何も見えない。大きなテーブルがあり荷物を置いて休めるようになっている。ストックで慎重にヒルがいないか確かめる。もちろんテーブルの下も同じである。何度か叩いてみたが、動きが無いので、ザックを下ろして腰掛けた。座ると言うことはなんと幸せなのだろう。H嬢から差し入れて貰った、塩飴を食べると何となく気分が落ち着いて体力が回復した。ミネラルと糖分+αがあるに違いない。Tさんとこれからのルートを検討するが、これからは問題なく丹沢山に行けるだろう。体力があれば蛭ヶ岳なんて考えていたが、それは当然断念することになった。


丹沢山までの道は、木製の真新しい階段があったり、至れり尽くせりである。しかし、まわりを取り囲んでいるシカ避けのフェンスが目障りだ。ガスが巻いていることも何となく気分が優れない。イワシャジン、ヒゴダイ、そして時折あらわれるシロヨメナの群落に目を奪われる。途中で、3人パーティーとすれ違った。どうやら女性が蛭にやられたと、顔色が悪い。優しいTさんは足元に忌避剤をスプレーして、「もう大丈夫」と慰めていた。


瀬戸沢ノ頭を過ぎて、嫌になるほどダラダラと登っていくと、やっと堂平への分岐、山頂まであとわずかだ。



至れり尽くせり

なんか丹沢らしい雰囲気

シロヨメナの群落



丹沢山山頂は広く、多くの人が休んでいた。今まですれ違ったのは4人だったので、なんとなく嬉しくなった。したがって数台のテーブルはみな占拠されて休むことは出来ない。とりあえずわずかに離れたところにある三角点を確認する。さすがに一等三角点なので大きい。標識も大きく立派なものである。実は、ここが日本百名山の一つであるとはこの時点まで認識がなかった。まあ、都会のハイキングコースのひとつ暗いしか認識がなかったからだ。それにしても、展望は皆無で期待していた富士山は見ることが出来ない。二人とも汗っかきなので水の消費が半端じゃない。Tさんは4リットルが終わりそうだという。そこで、山小屋で水を調達することにする。


なぜか山小屋の名前は「みやま山荘」、引き戸を開けると、いかにも山小屋に居そうな女性が店番で座っていた。ペットボトルを買おうと、冷蔵庫を見たらなんとビールがあるじゃないか。迷わずにTさんはラガービール。私はスーパードライを購入。それから記念にみやま山荘のオリジナルの手拭いを購入した。やはりを山を利用させて貰っているのだから、地元でお金を使わなくてはいけない。ここで、気になっていることを聞いてみた。「堂平から塩水橋に下るのですがヒルはいますか?」「私は昨日登ってきましたが全く居ませんでした」それを聞いてTさんとほっと胸をなで下ろした。



800円

みやま山荘

丹沢山は100名山だったのだ

一等三角点はでかい



山荘の傍のテーブルが空いていたので、ここに座ってビールで乾杯。実に旨い!!ヒルの心配もないので大休止だ。その傍らを無愛想に動き回るオヤジが居る。トイレ掃除をしたり、周囲をかたづけたりしているところを見ると、どうもこの小屋の従業員?いやあの風体は小屋主かも知れない。

「この小屋のまわりもヒルが居るんですか?」
このおやじは、こちらをちょっと睨んでから「ああ、その辺りにもいるかも」ぎょっとして見たがヒルは居なかった。その後はヒル談義がはじまった。忌避剤については、「ヒル下がりのジョニー」は高いから「サロメチール」が良いという。筋肉痛にも効くからとオヤジは笑った。そのほかには木酢液、除草剤が効くという。そう考えると「ヒル下がりのジョニー」の主成分は弱アルカリ性溶剤とある。それに界面活性剤も成分として必要だから、想像が付いてくる。今回、塩水橋から直接本間ノ頭に登ったが、あそこは丹沢のヒルの発祥地とのこと。どうりでヒルの絨毯が出来ているわけだ。しかし、あそこの尾根はシーズンによっては、あるものを目的に登りたくなる理由があるようだ。

「ところで、塩水橋に駐車して寝たのだが、何度か肩を揺り起こされた」と話した。
「大丈夫、幽霊の話は聞いたことがないから、勘違いだろう」「もっとも頭蓋骨は見つかったことはあるけれど」
じゃや、因縁話があるじゃないか。

それから、ここの一等三角点は古いもので、初期に設置されたとのことだ。この辺は調査しないとわからないがそう言う意味でこだわりの三角点であるようだ。

ところで、このオヤジ良く喋る。話しているうちに小屋主であることがわかった。年齢は私より4歳上で、この小屋に25年、丹沢で登っていないところは無いという。オヤジさんは雑誌なんかで有名な人なんですかと聞いたら、「おれは、そう言うのは嫌いだ」と真顔で答えた。(帰ってからHPで見たら、なるほど)


ともかくこのオヤジと30分以上話して過ごしてしまった。



さあ、帰ろう、腰を上げてザックを背負った。賑やかな山頂を立って堂平に向かって降りていく。道は木製の階段が数多く設置されて、良く整備されていた。とても歩きやすくどんどん下っていく。やがて堰堤に到着すれば舗装された林道まではわずかだった。長い林道もふTさんと話していると辛くはなかった。



鎖場がある

フジアザミは大きい

これなら歩きやすい

天王寺尾根分岐

林道に降り立ったところにある観測小屋

林道は幅員が広くてヒルの心配がいらない



駐車した車から離れて、水温のあまり高くない塩水川で素っ裸になって身体を拭いて着替えるとやっと落ち着くことが出来た。
なんとその時に犬を連れた男性がやってきて、一部始終を見られてしまった。
「なかなか移動しないので、い「この辺はヒルがいっぱいなので犬の点検をした方が良い」と忠告しておいた。


ところで、帰ってから点検したら、車のフロアマットとセンターコンソールに血糊がついていた。足を観察すると3カ所に吸血の痕が残っていた。そこで、ザックと衣類は塩水に一晩浸けておいた。ところが、アマチュア無線機を誤って入れっぱなし担っていたことに気がついた。今回の山行は高いものとなった。

おそるべし、丹沢山



06:27塩水橋-(1.05)--07:32 741m標高点-(1.38)--09:10 1137m標高点-(.40)--09:50稜線-(.18)--10:08東峰(本間ノ頭)10:22-(.14)--10:36無名峰(煩悩ノ頭)--(.20)--10:56中峰(円山木ノ頭)--(.24)--11:18西峰(太礼ノ頭)11:26--(.20)--11:46瀬戸沢ノ頭-(.32)--12:18堂平分岐--(.05)--12:23丹沢山13:20-(.33)--13:53天王寺尾根分岐-(.22)--14:15堰堤14:23--(.21)--14:44林道--(1.35)--16:19塩水橋


群馬山岳移動通信/2010






この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)