雪の三峯神社から雲取山ピストン  
登山日2012年2月18日

芋木ノドッケの下部から見る和名倉山


霧藻ヶ峰(きりもがみね)標高1523m 埼玉県秩父郡/前白岩(まえしらいわ)標高1776m 埼玉県秩父郡/白岩山(しらいわやま)標高1921m 埼玉県秩父郡白岩山(しらいわやま)標高1921m)埼玉県秩父郡/雲取山(くもとりやま)標高2017m埼玉・東京・山梨県境

三峯神社から雲取山は一度辿って見たい道だった。途中の白岩山までは登ったことがあり、白岩山経由で長沢背稜を歩いたが、その時見た雲取山はすぐ近くに見えた。

 

2月18日(土)

このところの寒さで、どうしても出かけるのが億劫だ。実際、朝4時に自宅を出発すると、夜中に降った雪が凍り付いて、車体の下でバリバリを音を立てている。群馬から埼玉に入ると雪は少ないが、塩カルが路面に大量に蒔かれて、雪ではなく塩カルの上を走るようになってしまった。こりゃ、車体が錆びてしまうと思うと気になって仕方なかった。




路面は塩カルで白くなっている


三峯神社から登ると和名倉山に朝日が射し込んだ



三峯神社の駐車場には午前6時半頃に到着。駐車場は一面雪で覆われて駐車スペースの白線も消えていた。まずはお湯を沸かしてカップラーメンの朝食を取ることにする。その間に、準備に取りかかるが、それにしても寒い。外気温はマイナス6度程度だが、この前の大弛峠のほうがマシだったような気がする。目の前にゆったりと聳える和名倉山は山頂部がやっと赤みを帯びて来ていた。

出発は7時を過ぎてしまったので、帰りは日没との競争となることは間違いない。一度歩いているので間違うこともなく、駐車場を横切って登山道に入る。するとおびただしい数の赤いポリタンクが林の中に置いてある。「樹液採取中」と書いてあり、カエデの樹にチューブをさし込み、樹液をポリタンクに入れているのだ。その医療業務のような姿を連想してしまって、この異様な光景に息を呑む。どうやらこれは秩父の名産としてお酒などに加工されているようだ。




樹液採取中(ちょっと不気味)

霧藻ヶ峰手前の展望台


秩父宮殿下ご夫妻のレリーフ


霧藻ヶ峰休憩所



道はアイゼンのトレースが一本あり、それもかなり山慣れた人のものだとわかる。何しろ無駄がなく、立ち止まったり休んだ形跡も見られない。そのトレースを辿りながら、その先行者の人となりを想像して登っていく。初めはアイゼンも必要なかったが、地蔵峠付近でちょっとスリップしたこともありアイゼンを装着した。

さしたる苦労もなく、順調に秩父宮殿下ご夫妻のレリーフのある霧藻ヶ峰に到着。先週、秩父駅近くの「武蔵屋」という蕎麦屋に寄ったときに、殿下のレリーフ前に立つ妃殿下の写真があった。これを見ると妃殿下のレリーフはあとから取り付けられたことがわかる。レリーフが完成した1年後に殿下は亡くなっているとのことなので、蕎麦屋で見た写真は没後に撮られたものだろう。それにしてもご高齢でここまで登ったのは大変だったろう。いや、・・・・この山頂の下には林道が見えている。もしかして妃殿下が登るために作られた道なのかもしれない。

それにしても時間が経つのが早いのだが、その割には距離を稼いでいないことが気になる。体力が落ちているのか、気力が落ちているのか解らぬが、少し急ぐと息が上がってしまう。そんなとき後ろに気配を感じて振り返ると、なんと人が駆け上がってくる。エッ!と思ったが、トレランのランナーが必死に登ってくるのだった。こんな雪道を登ってくるなんて信じられない。明らかに登山靴ではない、スパッツもない、ザックは軽量でポカリスエットのペットボトルが剥き出しで見えている。登山者から考えると全く信じられない。「靴の中に雪が入ったらどうするんだろう」「滑落したらどうするんだろう」「水が凍ったらどうするんだろう」まあ、信じられない軽装備で体脂肪も少ないようだからさぞかし寒かろうと思った。




白岩小屋手前でトレランに追い越された


振り返ると雲取山が見える雲取山は遙か彼方


白岩小屋(使えるのかな?)


マイナス12度


白岩小屋は廃屋同然で、今にも朽ち果てそうに感じる。窓ガラスに映る自分の姿にちょっとドキッとさせられた。とても小屋の中を覗くなんて事は出来ないので、そのまま通り過ぎた。ここからは急斜面の登りとなるそれと共に雪も深くなるが、トレースがあるだけにそれほどの困難さは感じない。ただ、このルートは終始展望し恵まれないのが面白くない。白岩山に到着しても展望が無いためにそれほどの感激はない。むしろ、これからのルートの長さをあらためて思うと、気を引き締めて取りかからねばいけないと感じた。白岩山のベンチでザックを降ろして、シュガーロールに齧り付くが、触感としては凍っているような歯ごたえを感じる。だれが置いているのか、標識にぶら下げられたアルコール温度計はマイナス12度を指している。これが夏だったらとっても嬉しいだろう。

白岩山からはなだらかに芋木ノドッケに下っていく。芋木ノドッケの標識のあるところは議論される場所であるが、ともかくこの標識のある場所を芋木ノドッケ分岐として記録する。長沢背稜を歩いたときはここから上部に向かって薮に近いルートを取ったが、雲取山へは右に折れて下降するように道がつけられている。ここには注意書きの看板があり「アイゼンの技術のないものは引き返せ」と言った内容だ。まあ、どこまでが技量の範囲なのか解らぬが、とりあえず進むしかない。




白岩山


芋木ノドッケにある注意書き


なぜか石灰岩の標識


難所を通過したところにも注意書き


なぜか「石灰岩」と書かれた金属板が貼ってある岩を左に見ながら進んでいく。傾斜も無く積雪もくるぶしあたりなので問題はない。しかしそれもわずかで、次第に斜面のトラバースに道は変化して行くようになった。なるほど、これが注意書きの意味だったのかと納得した。今は斜面に雪が乗っていてトレースがあるから良いようなもので、これが凍結した斜面になったらそれこそ手に負えなくなるだろう。そうすればアイゼンは必携であるし、それなりの慣れも必要となるに違いない。それにしてもこの道はどんどん下降していくのが気になる。ひょっとして間違ったのではないかと疑心暗鬼になる。とにかく寒い、この道はほとんど日が射さない北斜面で、少しばかり風が吹くと手先と頬が痛くなる。目出帽を被るのだが、息で眼鏡が曇り前が見えなくなる。また、被り続けていると暑くなるので脱ぐと言った作業の繰り返しとなった。その目出帽は使わないときにはズボンのポケットに入れておくのだが、凍り付いた息の水分はそのまま融けることはなかった。このルートは帰りのことを考えると憂鬱になるほど長いものだった。時刻はすでに正午に近づきつつあるので、山頂へは13時頃、帰りは18時頃になることは明らかだ。正午に山頂に到達しないというのは、帰りの事を考えるからかなりのプレッシャーとなる。いやらしいトラバースもやがて終わりに近づきほっとすることが出来た。ここにも同じように「アイゼンに関する注意看板」が設置されていた。



廃墟となった雲取ヒュッテ


雲取ヒュッテ付近から白岩山を振り返る

閑散とした雲取山荘



シンメトリックな雲取山荘


先ほどとはうってかわって、なだらかな雪の山道をどんどん進んでいく。前方には寒々とした木々の枝の向こうにゴールである雲取山が見えている。ここまで来れば引き返すことは出来ない。小屋泊まりを選択する余地もあるから、ともかく安全度は増している。やがて「大ダワ」の標識があり、山頂へは二方向を示している。ひとつは直登の「男坂」でいきなりの急斜面、左は通常の道のようだ。トレースは左の道を選択している。当然左のルートを選択することにする。山腹を巻くように道はゆっくりと高度を上げていく。途中に荒れ果てた旧雲取山荘を見上げながら歩くと、すぐに立派な大きい雲取山荘にたどり着く。小屋の前は閑散としており、低周波を出す機械の音だけが、その庭に漂っていた。小屋の軒は解けた雪がツララとなって、見事に連なってぶら下がっている。この小屋で休憩も考えたが、ここでゆっくりしては時間がもったいない。立ち止まる時間も惜しいのでこのまま山頂を目指す。

ここで休憩しなかったことが、大きな負担となったのか疲れをひどく感じるようになった。それに寒さが一段と厳しくなってきた。頬が凍り付いたようになり、思うように動かすことが出来ない。これでは笑うことはもちろん、疲れたと言って泣くことも出来ない。これは危険と判断してほとんど凍ってしまった目出帽を被ることにした。風が吹くと寒さは一段と増し、指先はもちろん足の指も痛みを感じるようになった。とんでもない寒さになっていることは間違いない。風が吹くと梢に積もった雪が目の前を舞い、視界が一瞬真っ白となるほどだ。そのために先行者のトレースはほとんど消えてしまっている。しかし登山道の両脇はロープが張ってあるので、よほどのことがなければ迷うことはあるまい。




雲取山山頂はもう少し


雲取山山頂(晴れていれば富士山が見える場所)

 
雲取山山頂から飛龍山方面

 
雲取山避難小屋


スキー場のような小雲取山への道

避難小屋内部



やがて前方の風景が開けると、一気に山頂に飛び出した。そこは今までとは全く違う風景が待ちかまえていた。広い雪原と大展望で、雪原はさながらスキー場のようだった。また日射しは春の雰囲気を含んでおり快適そのものといった感じだ。山頂には奥多摩湖方面からやってきた二人の登山者と同時登頂となり、記念撮影を頼んだり、見知らぬ山の名前を教えてもらった。あいにく富士山は雲に隠れて見ることは出来なかったが、雲取山の大きな標識の右がその位置だと聞かされた。それに「原三角点」を見ようとしたが、あいにく深い雪に埋もれて確認することは出来なかった。

雪に雪原を見ればその先に小屋が見える。何となく快適そうなので、そこで休憩することにした。

その小屋の前には数人の登山者が休んでいた。なぜ中に入らないのか解らないが、ともかく引き戸を開けて中に入った。すると「中に入っても良いんですか?」と聞かれてしまった。どうやら、避難小屋は入ってはいけないものだと思っていたらしい。

小屋の中は清潔で心地よい場所だった。ストーブに火をつけてお湯を沸かしてカップラーメンの昼食だ。やはり暖かいものは嬉しい。ストーブに当たりながらゆっくりとラーメンを食べて、やっと人心地がついた。しかし、ゆっくりしているヒマはない。どんなアクシデントが起こるか解らないので13時半にはここを出発しなくてはならない。名残惜しいがいつの間にか大人数に膨れあがり賑やかになった山頂をあとにした。

帰路は寒さが一段と増して、ザックに仕舞い込んだペットボトルの、スポーツドリンク、お茶はシャーペット状になり、呑むことが出来なくなってしまった。途中で家に連絡を取ると、バタバタするような事態が起きていた。雲取山への登頂の感激もなにか薄れて、暗くなり始めた山道を下降した。




この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)

三峯神社駐車場07:18--(1.53)--09:11霧藻ヶ峰--(.07)--09:18お清平--(1.40)--10:58白岩小屋--(.20)--11:18白岩山--(.09)--11:27芋木ノドッケ分岐--(.44)--12:01大ダワ--(.25)--12:26雲取山荘--(.32)--12:58雲取山13:33--(1.15)--14:48芋木ノドッケ--(.12)--15:00白岩山15:02--(1.30)--16:32霧藻ヶ峰16:45--(.58)--17:43三峯神社駐車場


往復歩行のり面距離:23km


群馬山岳移動通信/2012