飯豊連峰最北の山「杁差岳 」   登山日2013年6月24日


杁差岳からの展望
大石山(おおいしやま)標高1562m 新潟県胎内市・岩船郡/鉾立峰(ほこたてみね)標高1573m 新潟県胎内市・岩船郡/杁差岳 (えぶりさしだけ)標高1636m 新潟県岩船郡

*えぶりさしだけは(木に八と書くが便宜上 「杁」を使用する)

北アルプスに行こうとしていたが、どうも天気が良くない。どこか晴れているところはないかと探すと新潟県下越地方が良さそうだ。急遽めぼしい山を探すとありました「杁差岳」。二王子岳に登ったときに、とても目立っていたピークの山。これで決まった、急いで計画書を作り、家人に渡して出発。杁差岳はガイドブックを見ると一泊コースとなっている。コースタイムは往復12時間なので、日帰りで何とかなるはずだ。それにしても片道300キロの運転は帰りのことを考えると辛い。
6月24日(月)

午前3時半に車外に出ると周囲は明るくなりかけており、空気はヒンヤリとしている。ジャンパーを着込んで支度に取りかかる。駐車場は7割ほど埋まっているが、どうやら工事関係者の車両らしい。それというのも、この駐車場自体が奥胎内ヒュッテという宿泊施設の一部らしい。それにこの宿泊施設の1階が現場事務所となっていることにもよるらしい。

約1時間をかけて出発準備を整える頃は、三日前が夏至だったこともあり、周囲はすっかり明るくなっていた。奥胎内ヒュッテ前には様々な情報が掲示されていた。どうやら今年は6月29日から乗り合いタクシーの運行が始まると言うことだ。登山口まで片道3.3キロなので、歩けば1時間弱、始発が5時30分だから、利用したほうが体力的にも楽なのは確かだ。ヒュッテ前には登山カードがあり、記入して投函しておいた。
ヒュッテ前の道は鎖が張られて車両進入禁止となっている。理由は工事車両が通るので危険と言うことだ。県道53号線は奥胎内ヒュッテまでであり、この道は工事用の道路なのだ。つまり、登山者は利用させて貰っている立場にある。一般車両を進入禁止にして、指定した業者の乗り合いタクシーを運行させるというのは、なかなか商売上手だ。自然保護を理由にして車両進入禁止で利権を貪るよりも、目的がハッキリしていて気持ちがいい。歩き始めて約30分、アスファルト舗装の車道を進んでいくと、右手に立派な橋があり、その先にトンネルが見えている場所に着く。看板を見れば奥胎内ダム本体建設工事 平成31年3月15日までと書いてある。なにか気の遠くなるような工事期間で、そのあとも付帯設備工事が続くのだろう。この場所を過ぎると道は未舗装道となるが、車両の通行が少ないからだろうか、路面の状況は大変良い。ダラダラと歩いていくと、ふたたび大きな橋を渡りたどり着いたところが「足の松尾根登山口」で、ちょっとした広場になっていた。広場には車が2台駐車しており、「胎内市観光課」の腕章がダッシュボードに置いてあった。また、マウンテンバイクが一台置かれてあった。




駐車場


奥胎内ヒュッテ




ここから進入禁止


車道を歩く


工事中の奥胎内ダム


登山口


木の根に掴まり登る


岩場


姫子ノ峰


岩場(落ちたらタダではすまない)


登山口は標高460mだから山頂まで約1200mの登行となるわけだ。新潟の山はほとんどがそうなのだが、標高が低いところから急登が始まり、帰りは猛暑の中を歩くことになる。今回もそんな山行になるのだろうと予想した。その通りで、初めはなだらかな登山道だったが、標高550m付近からは、木の根を掴まりながらの、いきなりの急登から始まった。思わずカッターシャツを脱いでアンダーシャツ一枚になった。それにしても暑いのだが、標高が低い割には残雪があり、この付近の積雪量は大変なものだと推測できる。尾根の両側を流れる沢は雪解け水を集めてゴウゴウと音を立てているのが聞こえてくる。また、ジェット機の爆音かと思うような、雪渓が崩落する音が時折聞こえてくる。展望がほとんど無いブナを中心とした尾根道をひたすら登っていく。時折岩場があるがロープを渡してあるので問題ない。しかし、登りは良いのだが下降時は大変だろうなと思う。

標高800m標高点の手前は胎内尾根と頼母木沢がよく見える開けた場所で姫子ノ峰と呼ばれる場所だった。ここでちょっと休憩してゼリー飲料をひとつ飲み干す。

姫子ノ峰からはアップダウンを繰り返すだけで標高がなかなか上がらない。両側が切れ立った岩の通過もあるが、ミズナラの木が茂っているのでさほどの恐怖感はない。標高が上がるにつれて植生も変化して樹丈の短いナナカマドなどが増えてくる。頭上の展望も次第にひらけて青空が眩しく感じる。「滝見場」という標柱の場所は足ノ松沢を見下ろすことが出来て、そこに掛かる滝が見えていた。そこからわずかに登ると、「英三ノ峰 940m」という標柱があった。

標高1050m 付近は残雪が残りその周囲はカタクリ、イワウチワが待ちかねた春を謳歌している。本日のコースで残雪の上を歩いたのはここだけだった。花を見ながら進むとすぐに「ヒドノ峰 1080m」の標柱の立つピークに立った。ここからはやっと目指す杁差岳のピークを確認することが出来る。しかし、そのピークはまだ遠く青く見えていた。景色を見ていると、若い男性が下ってきた。足元を見るとトレランシューズなので、登山口にあったマウンテンバイクの持ち主なのだろう。雪の状態を尋ねると「全く問題ない」ということだ。どうやら持ってきた軽アイゼンは出番がなさそうだ。

ヒドノ峰を過ぎると標高を一旦下げる事になる。下がったところには「水場」の標柱があったが、エアリアマップを見ると遠いとあるので、確認をしないでそのまま通過した。道はふたたび樹林の中の急登となった。汗が腰のあたりで溜まってトレッキングパンツがびしょ濡れとなって、色が変わってしまっている。これが、登山者の多い山だったらみっともないだろうと思う。そんなことを思っていると、2人、4人、2人と立て続けにパーティーとすれ違った。いずれも、山頂の避難小屋に宿泊したものと思われる。

「イチジ峰 標高1265m」の標柱がある場所に立つと、周囲はすっかり開けて振り返ると二王子岳が大きく見えている。残雪はくっきりと斑模様でさながら大海を泳ぐシャチの様にも見える。この辺から崩壊地が連続するが、慎重にロープを伝えば問題ない程度だ。ここにはヒメサユリの群落が見られ、今が丁度見頃と言った感じだ。ヒメサユリは名前も素晴らしいが、その色彩と風に揺れる立ち姿はいつ見ても可愛いと感じる。目指す大石山と杁差岳をつなぐ稜線がハッキリする頃になると「西ノ峰 標高1525m」にたどり着き、灌木はいつの間にか笹原に変わっていた。
ここからは道はなだらかになり、10分ほどで大石山に到着した。大石山は地形図を見ると1562mの標高点の場所に表示がある。しかし山名辞典では東にある1567mを山頂としている。だいぶ疲れたこともあり、この1562mを山頂として大休憩することにした。時刻は9時ちょっと過ぎなのでまだまだ余裕はある。ゆっくりと菓子パンを食べ、お茶をたっぷりと飲んだ。そういえばここに来るまでにすでに2リットル程度は水を消費している。残りはまだ2リットルあるから問題はなさそうだ。
大石山で15分ほど休憩して、いよいよ杁差岳にむかって歩き出す。しかし、遠いなあ!!と口に出すほど疲れた身体には感じられた。とにかく約150m近く下って、鉾立峰に約150m登り返して、70m下り、150m登るというものだ。みれば先行者が1人鉾立峰に登っているのが見える。ともかく一歩を踏み出すと、あっという間に鞍部に到着してしまった。さあ、これから小ピークを越えて鉾立峰に向かって登り出す。こんな場合はゆっくりと登るのが王道で、急いでも疲れるだけだ。振り返ると、大石山付近にウサギの顔のような雪形が見えた。そんなことを思っていると、笹に覆われた登山道になにか転がっている。見れば野ウサギが動けない状態で横たわっている。息はあるようだが、おかしいぞ。背中が不自然に折れ曲がってエビ反りのようになり、後ろ足が顔のところまできている。ストックで突っついたが瞼が動くだけだ。病気なのかケガなのか解らぬが、瀕死の状態であることは間違いない。ストックで登山道の脇に退かして先に進んだ。しかし、どうも気になるので水を持って引き返して、その野ウサギに掛けてやった。しかし、水を飲む気力も無いようだった。どうすることも出来ないので、自然の循環に任せるしかない。



ヒドノ峰から大石山を見る


対岸の胎内尾根


振り返って二王子岳


杁差岳のピークを見る


大石山山頂から北股岳方面


大石山から杁差岳


鉾立峰を登る


鉾立峰から杁差岳 (杁差岳避難小屋が見える)


大石山にウサギの雪形




鉾立峰からは、杁差岳避難小屋が良いランドマークとなり、歩く目標も定まり時間も見えてきたが、一向にペースが上がらない。疲れもこの辺がピークなのだろう。有名な人なのかレリーフを確認してから避難小屋手前で先行していた登山者とすれ違った。彼も登山道の途中で見た野ウサギが気になっていたようで、その後の様子を聞いてきた。「まあ、仕方ないだろう」と言うことで別れた。避難小屋は2階建てで内部はきれいになっており、トイレは男女別で別棟にある。水場の矢印があったので、進んでみると今の時期は残雪が豊富にあり、雪渓の末端まで行くのは大変だろうと思う。状況を確認しただけで確認することはなかった。
避難小屋からわずかな距離で杁差岳山頂にたどり着いた。山頂に着くとあんなに広がっていた青空は、いつの間にか雲で覆われ展望は得られなくなってしまっていた。山頂には朽ち掛かった標柱と三角点、そして石祠が祀られていた。山頂から先を見ると穏やかな湿原が続いていた。その中には地塘もありせっかくなので足を延ばしてみる。途中に慰霊碑があるが、他人にはあまり気持ちの良いものではない。地塘には花があるかなと期待したがそれはなかった。しかし、雪渓を渡る湿気を伴った風が冷やされて白く見える様は飽きない風景だった。



もうすこし


杁差岳避難小屋


内部は綺麗になっていた


小屋の水場はこの雪渓の下端(遠いぞ)


杁差岳山頂




湿原は雪渓で冷やされた空気が白く見える


湿原の風景


これから下山の事を考えると、あまり余裕はない。明日は仕事が待っている。とにかく大石山まで食事は我慢して帰りを急いだ。
やっとの思いで登山口にたどり着き、灼熱の舗装路を駐車場まで歩くのは辛かった。脇を猛スピードで走り去る工事車両を恨めしく思った。

奥胎内ヒュッテでの風呂は我慢して「クアハウスたいない」で汗を流して300キロ 約5時間のドライブで家に帰った。


「記録」
奥胎内ヒュッテ4:37--(.46)--05:23登山口--(.53)--06:16姫子ノ峰06:22--(1.14)--07:37ヒドノ峰--(1.34)--09:11大石山09:27--(.47)--10:14鉾立峰--(.34)--10:48杁差岳 11:10--(1.11)--12:21大石山12:38--(.45)--14:23姫子ノ峰14:32--(.37)--15:09登山口--(.39)--15:48奥胎内ヒュッテ



タニウツギ


ナナカマド


ヒメサユリ




ハクサンチドリ


ハクサンイチゲ


アカモノ


マイヅルソウ


ツバメオモト


イワウチワ


コバイケイソウ


カタクリ


群馬山岳移動通信/2013

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)