夏の終わり 飯豊に響く青春の鐘「二王子岳」   
登山日2009年8月30日




2011/11/12この建設に深く携わった方から丁重なご連絡を頂きました。
建設されたのはモンテローザ・新発田 の皆さんで、その建設にまつわる内容が記載されています。
私が出会ったのは二代目で、2010年に三代目が建設されました。そのご尽力に深く敬意をいたします。


二王子山(にのうじやま)標高1420m 新潟県新発田市/胎内市



例年8月は諸々の雑事があり、山に行けないことが多い。今年も8月31日(月)に予定していた山の天候が悪そうだ。(実際台風が接近して山どころではなかった)それならと、二日前の土曜日に別の場所を計画したが、これもくるくる変わる天気予報に翻弄されて中止となった。それではと日曜日に計画したが、どこを見ても天気が悪そうだ。唯一、新潟県の下越地区の天気が良さそうだ。そこで、このあたりの山を調べると、頭の隅に残っていた二王子岳が浮かび上がって来た。それは猫吉さんが19年前に、新潟県に在住のアマチュア無線家Nさんの歌を引用して紀行文を書いていたから印象に残っていた。その歌は「CQ,CQ,CQ,こちらは二王子、青い空、飯豊に響く青春の鐘」と言うものだった。このときの「飯豊に響く青春の鐘」このフレーズが頭の中に引っかかっていた。そんなわけで、どうしてもこの鐘の響きを聞いてみたいものだと思うようになっていた。

8月30日(日)
午前3時、出発直前に確認すると、前日までの晴れマークが曇りに変わっていた。しかし、今更中止するわけにも行かないので、このまま出発することにする。目的地まで260キロなので、久しぶりの長距離ドライブとなった。すっかりと夜が明けて明るくなった、日本海東北自動車道の聖籠新発田ICでおりる。ドキドキしながらETCのゲートをくぐると料金は「1000円」と表示されたのでまずは一安心。この日の総選挙で政権交代が進めば、無料化される可能性があるので、これからはこの表示も珍しくなるだろう。


「二王子岳」「二王子温泉」の道路標識とナビの情報を基にして登山口を目指すが、なぜか迷いに迷ってしまった。二王子温泉からの林道は舗装はされているものの、狭く対向車とすれ違うときは緊張するに違いない。そして、ガードレールが赤く塗られた「みたけはし」を渡るとT字路となり、右は登山者用駐車場となっている。素直にそちらに向かうと広い駐車場があり、車は7台ほど止まっていた。空きスペースはまだまだ充分にあるが「車上荒らし注意」「美しい山でも被害続出」なんて標識があるのでちょっとドキドキする。支度を整えて歩き出すと、頭上は雲が立ちこめて湿気があり蒸し暑く感じる。駐車場からわずかに車道を歩くとすぐに二王子神社に到着した。ここには車が20台ほど止まっており、まだまだ空きスペースは充分にあった。これならばこちらに駐車した方が良かったなあと思った。二王子神社は大きな木造の拝殿があり、この山奥にこれだけの建物を建築したことに驚くばかりだ。神社の境内にはトイレや炊事場もあり、幕営するにしても不自由はなさそうだ。実際キャンプ場としての利用もあるらしい。禊ぎに使えそうな水の落ち口などもある。猫吉さんはここで下山後に禊ぎを行ったということだ。周囲を探検してからいよいよ登山道に足を踏み入れる。




駐車場の標識


二王子神社拝殿


登山口


一合目



登山道は良く整備されて沢に沿って登っていく。杉木立に囲まれた登山道は暗く、なにか心細くなるような道である。あれほど、車が駐車している割には登山者が少ないと感じた。もっともこの時期は花の時期も終わり、紅葉にも早いから人気がないのも当然だ。途中で立ち止まってキノコの写真を撮っていたら、後ろから歩いてきた男性に無言で追い越された。あまりにも素っ気ないので驚いたが、結局はこの男性の後ろを追いかける格好になってしまった。道は良く整備されており、土嚢を敷き詰めた階段状の場所もある。これだけの仕事をするにはとてつもない労力が必要と思われる。あいかわらず、先ほどの男性の後を追うようになってしまった。どうもペースが同じのようで、追いつくことも追い越すことも出来ずに、一定の間隔を置いて登っていくようになってきた。植生は次第に広葉樹に変化し道も傾斜を増してきたところに「一合目」の標識があった。周りは露土が剥き出しとなって休憩場所となっているのだろう。ここは木が鬱蒼としており休むにはあまり気持ちが良くないのでそのまま休まずに歩いた。


傾斜はきつくなり階段を歩くような登山道になった。すると後方から賑やかな鈴の音を鳴らしながら登山者が登ってくる。あまりにも賑やかなのでうるさく感じると共に、歩くペースが乱れ気味になってきた。蒸し暑くなったこともあり、たまらず大きな岩のあるところで、着ている長袖シャツを脱ぐために立ち止まった。賑やかな鈴音の登山者は、立ち止まっている私の脇を無言で通過していった。前を行く男性も、この賑やかな鈴音の登山者もあまりに素っ気ないので拍子抜けだ。そこからわずかに登ると二合目の標識と水場があった。ここで先行した男性が休んでいたので、挨拶をすると「さきほどキノコの写真を撮っていた方ですよね」素っ気ないと思っていたが、なかなか紳士的な男性だった。聞けば何度も二王子岳は登っているということで、いろいろな情報を教えてもらった。備え付けのひしゃくで水を一杯汲み上げてから、喉を潤して休まずにここも通過した。階段状の道はなおも延々と続き汗をかきながらひたすら登った。


三合目は一王子神社跡と言うことだが、その痕跡を見ることは出来なかった。(下山時に近くの高みに登ると石祠があったが?)ブロック壁の避難小屋があり、内部に入ると良く整理された広い板張りの床が敷き詰められていた。外に出ると、2パーティーと先ほどの男性が休んでおり賑やかだった。誰かが「ここからはたいした登りは無いんだ」と言う会話が聞こえたのでちょっと安心した。たしかに三合目直下の登りよりも歩きやすいことは確かだった。雨こそ降らないが、今日は曇り空で周囲の展望もブナの林だけが続いているだけの単調な登りだ。






三合目


三合目避難小屋


ブナの登山道


登山道がえぐられている



五合目は三角点があり「独標」または「定高山」と呼ばれている場所だ。またパンザマストが一本立っており、積雪調査に使うのだろうか、6.5メートルまで目盛りがペンキで書いてあった。ここには先行した男性二人組と、追い越していった賑やかな鈴の登山者が休んでいた。挨拶したが、鈴の登山者は相変わらず素っ気なく、ザックを背負って立ち上がるところだった。見れば女性で年齢は私に近いと思われた。長身だったものだから、はすれ違っただけで女性とは気がつかなかった。そのうちに前後して歩いていた男性がここに到着した。休んでいた登山者が車座になって情報交換だ。男性が分けてくれたハッサクのふた房が疲れをいやしてくれた。それにしても蒸し暑く、お腹に入れておいたタオルと首に巻いていたタオルは絞ると凄い勢いで水を吐き出した。それでもタオルで吹き出る汗を拭うと、また同じように絞り出した。




五合目




池塘


七合目手前の水場からお花畑



六合目まで来るとブナも疎らとなり、次第に展望が得られるようになってきたが、曇り空では大展望というわけにも行かなかった。それでも頭上の木の枝が無くなっただけでも気持ちがいい。関東付近と違って色の薄い土の登山道は堀のようにえぐれている所を見ると、かなりの登山者が入山していることがわかる。多少のアップダウンを繰り返し、湿地もあらわれるようになってきた。しかし、このあたりで右太股と左ふくらはぎに「ピチッ」と痛みが走った。どうやら足が攣ったようだ。1ヶ月以上山に入っていないこともあり、運動不足は明らかである。最近は右膝に違和感を覚えていることから不安があったが、それが現実となったようだ。しかし、これもストレッチをして1分ほど休むと痛みが和らいだので一安心。しかし、痛みは残っているので慎重に登ることにした。


やがてちょっとした岩場に到着、ここが「油こぼし」と言われるところで、灯明の油を運んだ際にこの岩場で油をこぼしたことが名前の由来と言うことだ。この岩場はどうやらルートが二本あるようで、右側を選択すれば設置してあるロープに頼らなくとも登れる。まあ数メートルの岩場なので積雪でもなければ問題はないだろう。ここを乗り越えると道は水平となり草原となった。おそらく7月頃ならお花畑になるであろうが、今ではイワイチョウの残骸程度しか見られない。ここには水場があり丁度いい給水地点となっている。やはり前後して歩いていた男性が休んでいた。足が攣ったと言うと、飴を3個渡してくれた。(なんと親切なんだろう)しばらく雑談しながら休憩。今度は一緒に山頂を目指すことになった。





奥の院

九合目


山頂付近


山頂付近(避難小屋が見える)



山頂部分はアップダウンも少なく、オレンジ色でカマボコ形の避難小屋を目指して行く足取りも早まった。すると前方から鈴を鳴らして登っていた女性の登山者が下山してきた。「早いですね」と声を掛けると「ええ」とこれまた素っ気ない返事をして歩みを止めずに下山していった。九合目は気象観測用の施設と土台だけの奥の院がある。登山口の二王子神社の立派な建物から見ると貧相に見える。さあ、山頂目指してどんどん進んでいく。避難小屋の脇を抜けて山頂に立つには数メートルの距離だった。


山頂でまずすることは「青春の鐘」を鳴らすことだ。大きな鳥居のような櫓が組まれて、5メートルほどの高さに「青春の鐘」はつり下げられていた。鐘には紐が結ばれており、それを引っ張ると大きな音で鐘が鳴った。音色は意外にも鐘が大きいためか低い音だった。しかし、その音色は期待通り山々に響き渡った。3度ほど打ち鳴らしたところで、これ以上鳴らすのはひんしゅくと思いやめた。山頂には二等三角点を中心に15人程が休んでいた。展望は飯豊連峰が見えているのだが、このあたり不案内でさっぱりとわからない。文字の消えかかった山頂表示板のイラストと見比べて展望を楽しんだ。山頂の丸太に座ると隣の初老の男性と四方山話に花が咲いた。なんでも二王子岳は10回以上登っており、今日の登りは2時間20分だという事だった。私のタイムが3時間なのでその差は40分もある。ザックの大きさは私より小さいが、それでもそのコースタイムはとんでもないものだと思った。おいなりさんをつまみに日本酒パックを呑んで時間をゆっくりと過ごした。山頂はひっきりなしに登山者が入れ替わりながら登ってきた。人気の山であることがわかる。





二王子岳山頂


飯豊方面


避難小屋


避難小屋内部



山頂で久しぶりにゆっくりとした時間を過ごし、充実した気分で下山に取りかかった。帰りに避難小屋を覗くと、登りに前後して歩いていた男性が支度をしているところだった。「温かいコーヒーをどうぞ」そういってテルモスのコーヒーを差し出してくれた。遠くの山に来て知る人情はとてもあたたかく感じた。



「記録」
駐車場07:31--(.03)--07:34二王子神社07:36--(.41)--08:17二合目(水場)--(.13)--08:30-三合目(一王子神社跡)08:33--(.30)--09:03五合目(独標)09:13--(.58)--10:11水場10:19--(.12)--10:31九合目(奥の院)--(.05)--10:36二王子岳山頂11:19--(.10)--12:29三合目12:37--(.35)--13:12二王子神社

*ところで「青春の鐘」と名付けたことに興味あがるが、どなたかご存じではないだろうか?



群馬山岳移動通信/20009





この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)