みぞれとガスの中「北穂高岳」から「奥穂高岳」   登山日2012年10月11日






涸沢岳(からさわだけ)標高3110m 長野県松本市・岐阜県高山市/奥穂高岳(おくほたかだけ)標高3190m 長野県松本市・岐阜県高山市


10/11(木)


北穂高岳の朝食は5時半からだ。ちょっと外に出てみると周りはガスで真っ白。所々に海老の尻尾が出来ている。どうやら雨は降りそうにないので、予定通り行動することにする。今日は穂高山荘経由で白出沢を下降して新穂高温泉に向かう予定だ。朝食後ザックを背負い外に出た。乳白色の太陽の動きがわからないため、時間が止まったようにも見える。ともかく歩き出すが、歩いて数分のところにある北穂高岳(北峰)に立ったとき、これは尋常ではないと感じた。風も強く、時折みぞれが顔に当たるのだ。先行した4人は涸沢方面に向かって下山していった。こうなると前後に人は居なくなった。涸沢への分岐を分けて道は上部に続いている。岩は表面が霧氷に覆われて、角は白くなっている。こうなると出発した事を後悔することになった。空間の開いた岩を通過すると、ルートは下降することになる。しかし、凍り付いた岩場の下降は緊張する。油断するとスリップしてそのまま滑落、乳白色の霧に包まれた奈落の谷底に吸い込まれてしまう。昨日すれ違った女性は「ルートはしっかりしているし、要所には鎖があるからここよりも安心ですよ」と言っていたが、要所に鎖はなく、大キレット越えよりも難易度は高いように感じる。あの女性は相当な技術の持ち主ではないかと思う。



北穂高岳を出発

標識にエビの尻尾

北穂高岳(南峰)のピークは踏めず

前が見えない



最低コルは風も弱まり、ちょっとだけ緊張感から解放された。耳を澄ますと、先行者の鈴の音が聞こえてきた。先行者が居たとは気づかなかっただけに、ちょっとだけ安心した。コルから鎖を辿って岩場を登ろうとしたが、鎖は凍り付いていて掴まったがそのままズルッと滑ってしまう。困ったことになった、こうなったら鎖は使えないので岩に掴まって登るしかないので、覚悟を決めて岩場にとりつく。クライミンググローブは濡れてしまったこともあり、冷たくなった指先が思うように動かない。なんとか、登って今度ははしごだ。はしごは滑ることもなく登れるのでありがたい。先行者の鈴の音が近づいてやがて涸沢岳の手前で追いついた。涸沢岳山頂の標識は海老の尻尾が付着して、周囲はガスに巻かれて展望がきかない。先行者の男性にシャッターを押してもらい、記念撮影をしてから、穂高山荘に向かって降りていった。

穂高岳山荘に着いたのは8時半、予定ではこのまま白出沢を下って下山する予定だった。しかし、この天候では危険と判断して、この穂高山荘に宿泊することにした。手続きを行ったが、入室は10時からと言うことなので、山荘の中で手袋をストーブで乾かしながら待つことにした。そこへひょっこり昨日一緒だったNさんが現れた。昨日は涸沢に下山してテント泊し今朝、涸沢から再び登ってきたのだという。思わぬ再会に話が弾んで、待ち時間を楽しく過ごすことが出来た。



最低コル

鎖は凍り付いていて滑るので使えない

涸沢岳は寒い

穂高岳山荘に逃げ込む



10時になったので、入室し着替えて再び一階に降りていくと、雨具を着けた登山者がひっきりなしに入ってきた。それに引き替え、図書室は暖房が効いていて快適でゆっくり出来る。関西から来たという女性が一人で本を読んでいた。女性は食料を持ってここに泊まっているという。今日はこの天候では行動できないので連泊するそうである。なんでも昨日は80人程度の宿泊、その前は涸沢ヒュッテに泊まったが、とんでもない大混雑で眠れなかったという。いろんな話をしながら時間を過ごした。11時になったので昼食のために、うどんとビールを注文した。暖炉の燃えるロビーを一人占めしてゆっくりと味わう。その後、コーヒーを持って再び図書室で、地図を見ながら白出沢のルートを検討する。そうしているうちに、外が明るくなってきた。雨があがって天気が急速に回復してきたようだ。サンダルを履いて外に出ると、奥穂高岳への岩壁が次第に現れてきた。また下方を見ると真っ赤なナナカマドに囲まれた涸沢ヒュッテがはっきりと見えてきた。こうなると、せっかくなので奥穂高岳に登ることにした。



穂高岳山荘のロビー

ガスが切れてきたぞ



奥穂高岳は約30年前の春に登ったことがある。そんなわけで今回はやめておこうと思ったが、時間がたっぷりあるので軽装で往復することにした。サブザックにカメラ、GPS、ヤッケ、水、ヘッドランプを入れて、穂高山荘から出発だ。鎖とはしごを使って上部に向かって登っていく。天気は申し分なく、穂高山荘が見る間に眼下に遠のいていく。岩壁を登り切ると、うって変わって快適な登山道が続いている。周囲の風景を眺めながら、荷物の少ないことも幸いして約30分で山頂に到着した。山頂には、男性二人が休んでおり、そのうちの一人は北穂高小屋で同宿だった人だった。まずは、記念撮影のシャッターをお願いしてから大展望を楽しんだ。いままで歩いてきた槍ヶ岳からの道のりに思いをはせた。振り返ると西穂高岳からジャンダルムを経てやってくる稜線が迫っている。一木一草も無いこのルートは夢のまた夢のルートだ。目を前穂高に転じれば顕著な岩峰が上高地まで連なっている。10分ほど展望を楽しんでから下山した。下山は次々に登ってくる人たちに対する落石に注意したこともあり、登りと同じような時間を費やしてしまった。思わぬ奥穂高岳への登頂が出来たことは収穫だったかもしれない。



奥穂高岳に登る途中で涸沢岳、北穂を振り返る

奥穂高岳に続く道

奥穂高岳山頂

前穂高岳方面

エビの尻尾の標識、槍ヶ岳を遠望する

穂高岳山荘の石畳に彫り込んである



山荘に戻り、部屋に着くとあらぬ光景が繰り広げられていた。男女がお互いにあらわな姿でストレッチの真っ最中。「そこ」「ここ」「ああ〜ッ」これはたまらない。どうりで同部屋の人たちは空になっているわけだ。私とて同じで、いたたまれずに階下の図書室に逃げ込んだ。

図書室で蔵書を読んでいると、ついウトウトしてくる。気分転換に外に出てみると、とてつもなく寒く涸沢ヒュッテあたりの明かりがついているのがわかった。山荘の裏に回って笠ヶ岳の日没を見ようとしたが、西方面は厚い雲に覆われて見ることは出来なかった。

夕食がすんで、部屋に戻ろうとすると関西から来た女性が一人で寂しそうに自炊をしている。ちょっとだけ話をすることにした。そのときにあることに気がついた。それはリップクリームを忘れて唇が荒れてしまっていたのだ。そこで、リップクリームを分けてもらうことにした。ガスカートリッジの蓋に爪で削ったクリームを入れてもらい、唇に付けると何ともいえぬ安心感が戻った。しかし、リップクリームをおねだりするとは自分でも情けない。話をしてから部屋に戻り就寝の準備をして早々に布団をかぶって眠りに落ちた。



穂高岳山荘夕食(エビ入りコロッケ・焼き魚)

穂高岳山荘朝食(スクランブルエッグ)



北穂高小屋05:53--(.04)--05:57北穂高岳(北峰)--(.24)--06:21北穂高岳(南峰)--(.52)--07:13最低コル--(.53)--08:06涸沢岳08:08--(.17)--08:25穂高岳山荘

穂高岳山荘13:37--(.29)--14:06奥穂高岳14:16--(.32)--14:48穂高岳山荘






群馬山岳移動通信/2012


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)