自宅から思いついたときにブラリと行くことが出来る西上州と呼ばれる山域、ここには綺羅星のごとく無数のピークがある。地形図に記載された山、コンサイス山名事典に記載された山、またどちらにも記載されていない山もある。「焼岩山」はそんな目立たない山であるが、バリエーションルートとしての魅力に溢れている。この焼岩山から上武国境に至るルートはかなり難しいらしい。それならばと焼石山のピストンならば何とかなりそうだ。
11月14日(水) 上野村野栗沢から林道を辿って、天丸山の登山口である天丸橋を通過してさらに上武に向かっていく。ほどなく太尾トンネルに到着、トンネルを潜って駐車地点を探す。適当な場所が無く結局は林道分岐に駐車することにした。今回は岩場が想定されるので、ハーネス、ヘルメット、50mロープを用意した。装備を整えて歩き出すと時間はすでに10時になろうとしている。自身としてはかなり遅い出発となってしまった。 **焼岩山** 太尾トンネル手前にちょっとした階段があり、そこには古いワイヤーが設置されていた。このワイヤーに掴まって間知ブロックの上に出る。ここからは植林地なのだが、かなりの急傾斜で足場も不安定で留まっているのも困難だ。まして、立木に掴まろうとするとほとんどが枯れていて、力を入れると折れてしまうので場所によっては四つん這いになって登った。高度は短時間で稼げるが、疲れることは間違いない。 寒いはずなのだが、大汗をかいて尾根に到着。尾根は風が吹いており、一気に身体の熱が奪われた。思わずウインドブレーカーを着込んでから尾根の上部に向かった。尾根は明瞭で落葉の時期でもあり展望が効くから迷うこともない。積もった落ち葉をかき分けながら、気持ちよく登っていく。前方には白い岩肌を見せた岩峰が見えている。おそらくあれが前衛峰なのだろうと思うと、不安と期待が入り交じった不思議な感覚にとらわれる。 それにしても、この付近はクマの痕跡が濃い。頭上にはクマ棚が無数にあり、葉を付けた枝が折られて地面に転がっている。それにクマの大きくて黒い糞がその存在感を示している。鈴をザックにくくりつけてこちらも存在感を示すことにした。登りはじめは青空が広がっていたが、いつしか西方面は雪雲が張り出してきていた。
尾根を登り詰めると大きな一枚岩の岩壁が目の前に立ちはだかった。高さは5mほどであろうか、ここを登ってしまえばその上は雑木林となっているので、それに掴まれば何の問題もなく登ることが出来るだろう。さてどうしたものか?この岩壁を観察すると、右に黄色いテープが見える。テープはこの岩壁を右に巻き、上部に登っている。手がかりも充分ありそうなので、そのテープに沿って進むことにした。 一旦尾根から外れ下降してから岩場にとりつく事になるが、右下は一気に落ちているので緊張する。2mほどよじ登り、岩の間をすり抜けると今度は岩場の下降になる。手がかりも乏しく下降に躊躇する。それはロープを出すまでもないが、滑落したらただでは済まない中途半端な高さだ。慎重に足場を選びながら一気にすり抜けた。着いた先は急傾斜だったが、土の斜面は足場を作りながら登れば済むような場所だった。しかし、ここを下降するのは難儀だと早くも帰りの事が心配になった。 ともかくルートはまっすぐ上に行くしかないようだ。右手の岩場に沿って縁を登るような感じでルートをとっていく。このルートは立木が豊富で困難さは全く感じられない。時折色あせた荷造り紐が見られるが、目印になるようなものとは言い難く、ここを登る登山者は本当に少ないようだ。この付近、落葉は進んでいるがまだまだ見応えはあり、紅葉の中を登っていく幸せは充分に感じながら、稜線にたどり着く。ここには目印になるように巻紙を枝に結んでおいた(帰りに回収済み)。稜線をそのまま上部に息を切らせて登っていくと、小ピークに到着、ここを仮にP1としておく。ピークには標柱があったが、古いものらしく文字などは全くわからなかった。ここから目指す焼岩山のピークはまだまだ先のように見える。
P1からは鞍部に下ってすぐに登り返す。P1から遠いと思われた焼岩山は時間も掛からずに、あっけなく到達することが出来た。山頂は岩があり、遠くから見た感じとは異なって展望は無かった。山頂からの展望がないので、もう少し進んで見たが両神山方面がわずかに開けているだけで、冴えないものだった。ここから上武国境に行くのはさほど困難はなさそうだ。しかし、このまま進んだのでは駐車地点から離れてしまうし、無理をする必要もないのでここで引き返すことにした。
せっかく持ってきたロープを使わなくては・・・そこで登りの時に難儀した岩場で懸垂下降に使った。あまりガイドブックにも紹介されない焼岩山であるが、往復の行程ならばさほどの困難は内容に思う。 **大山** 焼岩山から下山して次は大山に行くことにする。天丸橋の駐車余地に車を移動し準備をする。この時期の平日と言うこともあり、ほかの車はなく不気味なほどひっそりとしている。時刻は13時を回ったこともあり、太陽の光が射し込まない沢はいっそう寂しく感じられる。標識に従って沢の中を進んでいく、踏み跡がしっかりとしておりルートを間違うことはないと思うが、何度も徒渉を繰り返して高度を稼いでいく。さしたる変化もなく単調な歩きは延々と続くようだ。物音一つしない沢は本当に不気味で、早く抜け出したい衝動に駆られる。いや、このまま引き返してしまおうかとも考えた。季節風に伴う頭上の雲も寒々としていっそう寂しさを募らせている。 単管パイプで作られたハシゴを過ぎると、流れのある沢からやっと離れることが出来た。沢から離れて斜面を登ると、徐々に明るさが取り戻されて、なにかホッと安堵することが出来た。陽の光によって寒さは和らぎ、心の中の不安は一気に消え去ってしまった。斜面の登りは気持ちの良いほどハッキリと高度を上げているのがわかる。次第に右手に天丸山、左手には目指す大山の岩壁が太陽に照らされて白く浮かび上がっていた。
傾斜が緩くなり、道はちょっとなだらかになり、左にわずかに寄ってから窪地をトレースしていく。ルートは落ち葉によって見えにくくなる部分もあるが、さほどわかりにくいところはない。ともかく上部に登っていくだけだ。県境稜線が見える頃になって標識が現れた。まっすぐ行くのは天丸山、左の斜面を登るのが大山とある。ここまでくればもう一息、がんばってその斜面を登っていく。ケモノミチがそうさせているのか、踏み跡は上部に行くに従って数本に乱れる。一番踏み跡の濃い部分を辿っていくが、それでも道は急に途切れたりした。 そして、ついに岩場に出ると一気に周囲が開けて、先ほど登ってきた焼岩山がドーンと大きく見えた。さらに眼下は大きく切れ落ちで高度感がバッチリだ。岩場はホールドがしっかりとしているので恐怖感はない。岩場の小ピークを二つほど越えると太陽の光が眩しい大山山頂にたどり着いた。 岩峰の山頂からは、期待を裏切らない大展望が広がっていた。焼岩山の勇姿はもちろん、この付近の盟主と感じさせるが如く、大ナゲシの岩峰は天を突いている。目を上武国境に沿って西に辿れば天丸山が大きく迫っている。しかし、ここから見る天丸山は意外と平面のようで迫力を欠いている感じもする。展望を堪能した後は、汗が冷えて寒くなった事もあり、ウインドヤッケを着込んで急いで下山した。
「焼岩山」 太尾トンネル09:52--(.14)--10:06稜線--(.19)--10:25岩壁--(.24)--10:49P1--(.13)--11:02焼岩山11:16--(.24)--11:40岩壁11:53--(.25)--12:18太尾トンネル
群馬山岳移動通信/2012「大山」 天丸山橋13:11--(.37)--13:48沢を離れる--(.28)--14:16大山分岐--(.23)--14:31大山14:39--(.52)--15:31天丸橋 |
GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。 (承認番号 平16総使、第652号) |