誰にも会わない二日間だった「忠次郎山」
登山日2019年4月28日〜29日

忠次郎山・上ノ倉山・大黒ノ頭をムジナ平から見る

セバトノ頭(せばとのかしら)標高1890m 群馬県吾妻郡・新潟県南魚沼郡/大黒ノ頭(だいこくのかしら)標高2072m群馬県吾妻郡・新潟県南魚沼郡/上ノ倉山(かみのくらやま)標高2108m群馬県吾妻郡・新潟県南魚沼郡/忠次郎山(ちゅうじろうやま)標高2084m群馬県吾妻郡・新潟県南魚沼郡

忠次郎山は廃業した三国スキー場跡から日帰りで挑戦したことがあった。しかし上ノ倉山までで敗退してしまった。

2006年
2012年

再挑戦しようと思っていたところ、群馬県が4000万円を投じて完成した「ぐんま県境稜線トレイル」が去年の夏に開通した。そのこともあり、今度は三国スキー場跡から三坂峠に登り、一泊で忠次郎山を目指すことにした。

4月28日(日)
天気予報では群馬・新潟県境の三国峠は雪となっていたので、ノーマルタイヤに替えたばかりだったが、急遽前日にスタッドレスタイヤに履き替えた。しかし、雪はあったものの全く問題にならない程度で拍子抜けした。三国峠スキー場跡に行く道は通行できると思っていたが、あいにくと道は通行止めとなっていた。仕方なく戻ってペンションが立ち並ぶ場所の邪魔にならないところに駐車した。
今日は一泊という事もあり、幕営道具を詰め込んでザックの総重量は23キロになってしまった。実際はもっと少なくできるはずなのだが、単独行となるとどうしても不安になるので余分なものを持ってしまうのだ。気合でザックを背負ってヨタヨタと舗装路を歩き出す。ごみ処理場の先には車止めがあり「全車両通行止め」とある。実際にここを通過してみると積雪は多くなり、一般の車両では通行は難しいだろう。そんな雪道もフキノトウが芽吹いており林道の縁を彩っていた。

林道を約1時間かけてスキー場跡に到着した。荷物が重いわりにコースタイムは順調だ。風が強いが天候は回復傾向なので一安心だ。わずかな休憩ののちに再び歩き出す。標識はもちろん道形もピンクテープも見当たらないが、GPSの地形図を見ながら湯之沢の左岸を歩く。湯之沢は雪解け水を集めているために水量が豊富で音を立てており、岩のある場所や屈曲したところでは白い飛沫を見せている。何の変哲もない道を歩いていくと、道を横切る沢にでる。道が間違っていなかったことに安堵するが、その沢には丸太を渡してあり雪が乗っている。雪は不安定で今にも崩れ落ちそうだ。頭上にちょうど良い木の枝があったので掴まってバランスを取りながら渡った。しかし、帰りのことを考えるとちょっと憂鬱になった。雪に埋もれた樹林帯の中は何処を通っているのかさっぱりとわからない。そしてついに湯之沢の渡渉点についた。どこを見てもそれらしきものは見当たらない。しばらく行ったり来たりしたがさっぱりわからない。沢の上部を見るとスノーブリッジがあるように思えるので、そちらに行ってみる。しかしスノーブリッジはいかにも不安定で、その下は水量豊かな水が音を立てて流れている。


ここから通行止め(実際に無理)

無雪ならばここまで車で入れる

嫌らしい丸太橋

徒渉場所を探す

おそるおそるスノーブリッジを渡る

湯之沢から登ってきた

県境稜線手前の笹藪

県境稜線が見えてきた


スノーブリッジの前でしばらく佇んで菓子パンを食べる。しかし考えていても仕方ないどうしても渡らなくてはならない。恐る恐るスノーブリッジに足を乗せる。大丈夫、大丈夫と言い聞かせて一気に渡る。沢の中央部にある岩場で少し態勢を整えて一気に対岸に渡った。何とか無事に渡ることが出来たが、帰りも渡れるか保証はない。

さらに上部に向かって歩いていくと再びスノーブリッジのかかる沢にぶつかる。ここまで来ると恐怖心は消えて一気にここも渡ってしまった。慣れとは恐ろしいものだとつくづく思う。ここにきてGPSを確認すると正規のルートから尾根を1本間違えていることが判明した。しかしこの尾根を辿って行けば県境に出ることは間違いないので、このまま登り続けることにした。快適にキックステップで雪面を登って行く。しかし、尾根の途中にコブの様に盛り上がった場所があり雪が消えて笹薮になっている。これはどうしようもないので笹薮の中に突入だ。過去に経験した笹薮の中では難易度はそれほど高くない。笹薮を抜けると明るい雪原のなかに疎林が広がっていた。もう見えているので県境稜線まではもう少し。

県境稜線に到着すると、最初に眼に入ったのは今まで見えなかった風景だ。榛名山塊が自宅から見るのとは違って鏡に映したように逆になっているのだ。見慣れた風景を見るだけでも安心してくるから不思議なものだ。雪の無いところを見ると「ぐんま県境稜線トレイル」は刈り払いの跡がしっかりと残り整備がされていることを確認した。ここから快適な稜線トレイルと思いきやなかなか手強いと感じた。小さなアップダウンを繰り返しながら標高を上げて行くのは実に苦しいものがある。それに道を直線でつないでいるために、急登の部分が多いという点だ。

標高1563mのピークで初めて人工的な標識を確認した。今まで見たことの無いプラスチック製の不思議なもので、白砂山まで9.6kmとある。眼前には「コシキノ頭」「栂ノ頭」が大きく見えている。この山は本当に懐かしい山で今でも記憶に鮮明に残っている。標高1766mのピークの登りは雪の斜面にてこずった。ここの途中でたまらずにアイゼンを装着することにした。この辺りで引き返そうかと思ったりするようなものだった。アイゼンを取り付けると急斜面もかなり楽に登ることが出来た。その登り上げた先には大展望が待っていた。谷川連峰から赤城連山、榛名山塊、浅間山群と群馬県北部の山が一望のもとにある。それらの一つ一つのピークにそれぞれの思い出があり、とても懐かしい。


谷川岳方面

栂ノ頭・コシキノ頭、奥は榛名山塊

稲包山



1766mのピークは登り上げた先の何でもないところにある。展望はあまりよくなく通過点の一部というべき場所だ。道はコメツガの枝に引っかかりながら苦労して進んで行く。そしてその林を抜けると広大な斜面が広がり、懐かしい景色が眼の中に入ってきた。目の前には忠次郎山が見えるのであそこまではどうしても行きたいと思った。しかし時刻は14時になってしまっている。歩き始めて9時間を経過しているわけで、せめて15時までにはテントの設営を始めたい。なんとしても「セバトノ頭」を越えたいものだ。

雪が深くなりツボ足の登行はかなりきつくなってきた。この時期だから先行者のトレースを期待していたのだが、どうやらここに踏み込んだのは一人だけだったようだ。セバトノ頭付近は雪がさらに深くなり、場所によっては股まで踏み込むところも出てきた。GPSを確認しながら慎重に方向を定めて進んで行く、道はやがて下降となり標柱が見えてきた。標柱は方向を示す2枚が欠けてなくなっているが、おそらくここが「ムジナ平」なのだろう。時刻は15時、ここを幕場としてテント設営に取り掛かった。この幕場は携帯は圏外だがAMラジオは良く入る。無線機のスイッチを入れると伊勢崎のモービル局が良く入感してくるので、緊急時は無線機は有効な連絡手段となるだろう。


セバトノ頭へ

ムジナ平の折れた標識

日没


4月29日(月)
朝4時に起床し、NHKのラジオ深夜便を聴きながら準備を始める。もたもたしていたら、すぐに5時をまわってしまった。とりあえず撤収の準備を整えながら必要なものだけをもって忠次郎山に向かって出発だ。ラジオの天気予報によれば低気圧が西から進んでおり、天気は下り傾向とのこと。しかしここまでくれば行ってみるしかないだろう。

ムジナ平から雪を掻き分けながら鞍部を通り過ぎ、登りにかかる。とりあえずの目標の「大黒ノ頭」までは急斜面が続いている。帰路はストックではなくピッケルを使わないと無理だろう。見れば前夜の天候が荒れ気味だったのか「エビのしっぽ」で樹の枝が覆われて朝日に輝いている。今のところ天気が崩れる心配はなさそうだ。しかし陽射しが強烈で日焼け対策をしなければならないほどだ。大黒ノ頭に到着すると、今まで見えなかった広大な山頂台地を持つ苗場山が見えた。群馬県側に張り出した雪庇に注意しながら稜線を進んで行く。


県境稜線に朝日が当たる

つぼ足で登る斜面

忠次郎山(左のピーク)

大黒ノ頭

大黒ノ頭中腹から振り返る

大黒ノ頭に登る

気持ちの良い登りだ

そこが大黒ノ頭


標高2108mの上ノ倉山はピークではあるが、その先の2120mのコブのほうが立派に見える。三角点ピークを優先するためにこのようなことになったのだろうが、何かしっくりと来ないような気がする。2120mピークからは目指す忠次郎山が見え、さらにその先に続く白砂山までの稜線が延々と続いている。ところでこの上ノ倉山からの下降で気になる場所が見えている。それは見るからに嫌らしそうな岩場だ。夏道ならどうということは無いだろうが、雪と岩の混在する場所は難易度が増しアイゼンをつけているとなおさらだ。


寒そう

上ノ倉山へ向かう

大黒ノ頭を振り返る

上ノ倉山へ登る

大黒ノ頭が遠くなる

苗場山

苗場山と霧氷

霧氷の道

上ノ倉山n標識


上ノ倉山を振り返る


岩場は予想していた通りかなりの困難を伴った。足を踏み外せば群馬県側の斜面を滑落、新潟県側に逃げようとすれば藪に阻まれて進むことさえ困難だ。何とか鞍部に降り立ちホッと一息ついた。さあ、最後の登りに差し掛かる。疲れてはいるが、気持ちは高ぶっている。

忠次郎山の山頂に到着。標識の類は見当たらず雪に覆われた山頂は静かそのものだった。無風で自身の心臓の音が聞こえるほどだ。振り返れば辿ってきたルート、先を見ればはるかに続く白砂山までの稜線。この先まで行きたいがここで諦めるのが分相応というものだ。三度目の挑戦でやっと到達できた場所、67才にしては良くできたものだと自分をほめてみる。山頂に15分ほど滞在し山頂を辞することにする。


苗場山が目立つ

忠次郎山へ

嫌らしい岩場を通過

忠次郎山へ最後の登り

忠次郎山山頂 遠く白砂山まで続く稜線


幕場に戻りテントを撤収、長かった往路を辿って戻ることことにした。湯之沢のスノーブリッジはそのまま残っており無事に渡ることが出来た。しかし丸太橋手前の雪の上に乗った途端に雪が崩落、危うく沢に転落するところを何とか切り抜けた。ここで落ちたら、しばらくは見つからなかっただろう。帰りの林道はフキノトウを採取しながら帰った。


往路よりも雪が少なくなっている

丸太橋の雪が崩れた

フキノトウを採取

駐車地点に戻ってきた


二日間とも10時間近い行動となったが、この時期はスキー場跡地を登るほうが良いのかもしれない。また、スキー場跡地まで車が入れる時期ならば日帰り往復で可能かもしれない。但し、ムジナ平の水場が使えればとの条件もあるだろう。それから重要な条件は湯之沢の渡渉を考えると荒天時は水量が増し困難となることも考えなくてはならないと思う。

4/28
苗場スキー場外れ06:29--(1.06)--07:35三国スキー場跡07:50--(.32)--08:57湯之沢09:22--(1.03)--10:18稜線10:25--(4.27)--14:52セバトノ頭--(.10)--15:02ムジナ平

4/29
ムジナ平05:20--(.59)--06:19大黒ノ頭--(.26)--06:45上ノ倉山--(.46)--07:31忠次郎山07:53--(.36)--08:29上ノ倉山--(.12)--08:41大黒ノ頭--(.43)--09:14ムジナ平10:05--(.09)--10:14セバトノ頭--(2.36)--12:50下降点--(.30)--13:20湯之沢13:40--(.40)--14:20三国スキー場跡--(.55)--15:15苗場スキー場跡


群馬山岳移動通信/2019

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)