夏の谷川岳はすごいところだ
登山日1996年8月17日
ここのところ体調が思わしくなく、この連休に予定していた山行はすべて中止となってしまった。何しろ咳はでるし、体はだるいし季節はずれのインフルエンザにとりつかれてしまったようだ。8月のはじめは日頃の罪滅ぼしに家族を連れて、「黒部立山アルペンルート」「八方尾根」「白馬村」「小谷村」あたりを散策してきている。そのときは全く歩くことはなく、残雪の峰々を眺めたにすぎない。その後は仕事が忙しく、休日の「自主出勤」帰ってからは広大な表計算ソフトの書き込みと、かなりストレスと疲れがたまっていたこともある。そしてこんな事をしていて、気がついたらなんと一ヶ月も山歩きをしていない。
8月17日(土)
体調は相変わらずあまりよくない。しかしこの日を逃したら、山に行けそうにない。明日の日曜日は再び「自主出勤」が待っているのである。そこで無理を承知で、前日に子供に話をしておいた「谷川岳」に向かうことにした。
谷川岳のロープウェイは「土」「日」は朝6時からの運転開始である。とても始発には間に合わなかったが、何とか6時30分頃に乗り込んだ。まだ団体客が来ていないので、すんなりと乗り込む事が出来た。
天神平駅の付近は、すでにかなりの観光客でにぎわっていた。子供の荷物を配分して歩き出した。道はしっかりした木道が置かれて、階段まで作られている。実はこの時期に、このルートを歩いたことがない。今までは別ルートか、残雪期しか経験がないのだ。そんなわけでこの観光登山ルートは、初めてと言っても間違いではない。ところが天神峠からの道と合流する道を見送ったところあたりから、とんでもないぬかるみの道となった。たまらずズボンの裾をまくり上げて、ゆっくりと歩くことにした。
熊穴沢避難小屋は休憩をする人でごった返している。いままでこの避難小屋は雪に埋まった姿しか見ていなかったので、興味深くその外観を眺めた。しかし、ここではとても休む気にならないので、先に行くことにした。ところが登山道は大渋滞で、先に進むことが出来ない。老若男女が一列になって、なんだかんだと話しながら賑やかなものだ。これも観光地だから仕方ないと、先を歩く子供と顔を見合わせた。
このままではいつになっても休憩する場所が見つからない。樹林帯が途切れたあたりで適当な場所があったので、しばし休憩することにした。今日はとてつもなく良い天気で、谷川連峰の上部は緑の絨毯が広がっている。遠望する山々は、思いでの山、あこがれの山が見渡す限り広がっていた。また目の前には赤地さんと歩いた「阿野川岳」「小出俣山」がすぐに近くに迫っていた。見れば仏岩からの稜線は恐ろしく長い距離だと改めて感心してしまった。ここであまりの暑さに子供は半ズボンに着替えた。私はズボンのファスナーが壊れていたのを修理してやっと落ち着いた。
再び渋滞の列に加わって登り出す事にする。これだけ人間が多いといろんな人に出くわす。スニーカーを泥だらけにしている人、手提げを肩に掛けた人、子供を背負った人、それのカップルの姿が多いのが目立つ。なにもこんな所に汗をかいて登らなくともいいのにと思うが、大きなお世話と言うものだろうか。上部に行くに従って、登山道の渋滞がだいぶ緩和されてきた。軽装の観光客は自然淘汰されて、なかなかここまでは来ないものと思われる。
山頂のケルンは下から常時見えていたのだが、やがて間近に見えてきた。そしてここでは無惨な姿になった草地が現れた。登山者が好き勝手な所を歩くものだから、草地は裸となり、石が敷き詰められたようになっている。これほどの姿となった所は回復は不可能だろうと思われる。それでも残された草地に踏み込まぬように、先頭を行く子供に注意して歩かせた。
何とか疲労がピークになる頃に肩の小屋に到着した。新しくなった小屋を見るのは初めてだが、なかなか立派なもので、これなら充分使えそうだ。そばに設置されたトイレに入ってみたが、中に入ったとたん目が開けていられないほどの、刺激臭が充満していた。しかしこれだけの登山者がいるとこのトイレに入る以外方法がないところがつらい。そして、小屋から山頂を目指す事にした。
谷川岳山頂のトマの耳(最近はオキの耳が山頂だとする意見もある)に到着すると、ここもすごい混雑だ。山頂の標識など近づくこともできない。ともかく子供が疲れたと言うので、なんとか空き地を見つけて座り込んだ。凍らせたミカンの缶詰を開けてそのシャーベット状の歯ごたえと、冷たさを楽しんだ。これが利いたのか、疲れていた子供もこの先のオキの耳まで行くと言い出した。それもそのはずで、ここよりははるかに人間が少なく快適そうだ。
オキの耳につくとそこは一の倉沢の上部だけに、足下がどうも落ち着かない。とてつもない高度感がある。それでもここで、再び座り込んで本格的に休憩とした。凍らせたビールもちょうど飲み頃となっており、乾いた喉にしみわたる。無線機を取り出して数局とQSOを楽しんで、大展望と昼寝を楽しんだ。
大休憩の後、山頂をあとにした。ところが、オキの耳の反対側に大きな声で無線運用をしている人がいる。コールサインを聞いてみると何度か交信したことのある人だった。そこで名前を呼んで挨拶をしてみたが、こちらをちらっと見ただけで無視されてしまった。やはり無線だけのつき合いだけなのだから仕方あるまい。それにしてもあの人混みで、あれだけの大声で無線をするとは大したものである。こんな事で登山者からアマチュア無線が「鼻つまみ者」にならなければ良いがと心配をしてしまった。
下山も大渋滞に悩まされながら、登山道に群をなす人の列に加わった。
ところがこのあとで、体調が悪化してしまった。それは膝に痛みが走り思うように歩けないのだ。それにロープウェイで下りてから、耳が聞こえない。通常は唾を呑み込むと回復するのだが、今回は何度やっても回復しない。これは何か尾をひきそうな予感がある。
「記録」
天神平ロープウェイ駅07:01--(.32)--07:33熊穴沢避難小屋--(1.30)--09:03肩の小屋--(.06)--09:09谷川岳山頂(トマの耳)09:31--(.12)--09:43オキの耳11:25--(2.02)--13:27ロープウェイ駅
群馬山岳移動通信 /1996/