「榛名天狗山」の出来事
登山日1993年8月13日


天狗山(てんぐやま)標高1179m 群馬県群馬郡
天狗山山頂
 8月13日(木) 今日は暑い!

 どうも蝉の鳴き具合から水銀柱が上がりそうな気配がする。こんな日は山に行くことが手っとり早く涼しくなれる方法である。

 近くの山となると榛名山が近くて手頃な山となる。こっそり出かけようとしていたのだが、いつもの通り子供に見つかって一緒に出かけることになってしまった。そうなると、あまり無理の無い山となる。そこで榛名天狗山に行くことに決めた。カミさんには「迎盆があるのだから15時までには帰って来るように」との言葉も戴いての出発となった。

 榛名神社周辺は「おみやげや」の無料駐車場がいっぱいあるのだが、実際は登山姿で車から出るとあまりいい顔はしてもらえない。つまり長時間の駐車は歓迎されないのである。従って今回は「榛名町歴史資料館」の駐社場に車を置くことにした。

 榛名神社の山門の手前を右に進む。道はしっかりしており迷うことはなさそうである。子供を先頭にして後をヨタヨタと付いていく様は相変わらずだ。途中水場があり水の補給を行った。暫く子供と水に手をいれてその冷たい感覚を楽しんだ。

 4合目のベンチで休んだあと再び歩き始めたが、道は山を登る感じでなく山をまわる様に歩く感じである。そしてアップダウンも無く、あっと言う間に山頂についてしまった。子供となんだか物足りなさを感じながら山頂の鳥居のところで記念写真を撮った。しかしなにか居心地が悪いので若干戻って、一番高そうな場所を選んで休むことにした。

 子供は実に食欲旺盛だ。コンビニで買って来たおにぎり2個と小割そば1パックをあっと言う間に食べた後、まだポテトチップをつまんでいる。このまま行けば将来、親父はみんな子供の胃袋に飲み込まれそうである。

 その時、山頂の鳥居のところから突然大きな声がした。
子供はびっくりしてポテトチップを食べるのをやめて、声のする方を見て口を開けている。

 どうもそれは「般若心経」の様である。「般若波羅密多・・・・・・・・・・」実に気持ち良さそうに声を出している。山で聞くのは始めてである。子供は面白いと言って笑った。しかし天気の良い明るい場所で聞くからいいようなもので、夜中聞いたら気持ち悪いだろうと思った。

 般若心経は途切れること無く続いている。430Mhzのリグのスイッチをいれると、西西御荷鉾山移動のJS1JDSと交信をする事が出来た。リグのマイクを通してこの般若心経の声が聞こえるかと聞いたが、さすがにJDSのところまでは届かないようだ。

 その内にその般若心経の”般若氏”は我々の方へやってくる。子供はちょっと身構えている。
「山で聞くとなかなか良い物ですね」と声を掛けると
「ご迷惑を掛けました」と”般若氏”はなかなか紳士的である。
「私は、行者の修行で今日登ってきました」と言う。
行者にしては太り気味、服装はジャジーに軽登山靴。なんとなくそれらしい雰囲気がない。
 しかしザックの中には錫杖となぜか4合瓶の清酒が入っている。聞けば”般若氏”は奈良の大峰山(山上ヶ岳)で千日回峰行(←字が違うかも知れない)を成し遂げた”丹生東岳”の弟子だと言う。

 それからはいろいろなことを良くしゃべった。相槌をいれると更に能弁になった。しかし面白いので聞いていた。子供はさすがにつまらないらしく、木の枝で折って遊んでいる。彼は神通力を使えると言う。なんとかそれを見たいと思ったが。ついにそれは見せてもらえなかった。

 暫くして、こちらもさすがに疲れたので下山することにした。”般若氏”も腰を上げて下山を開始した。

 9合目の鳥居のところまで来たときに、”般若氏”はなんと跪いて頭を地につけて祈り始めた。子供はまたびっくりした様子だ。そのあと我々と別れた彼は足早に下山をして行った。

 車に着いてみると、買ったばかりの軽登山靴のD環ハトメが2個壊れていた。”般若氏”の神通力だったのだろうか。

                           群馬山岳移動通信 /1993/