もっと鎖を!!「西上州・立岩」 登山日1994年3月24日
立岩は日本離れしたその風景から「西上州のドロミテ」と言われると、ガイドブックに書いてある。はたしてドロミテとは何処にあるものか、どんな所なのかさっぱり分からない。したがって今回の山行はそんな山を見るためにも、興味津々で出かけた。
3月24日(木)
昨日の雨も夜半には止んで、朝は良い天気となった。気温もだいぶ上昇してきている。休暇を取った甲斐があったと言うものだ。
久しぶりにミニバイクで出かける事にする。登山靴も軽登山靴に変更だ。下仁田町を抜けて南牧村に向かう。今までに何度となく通う道だ。羽沢集落の「尾沢小学校」手前の道を右にはいり学校脇を抜けて「線ヶ滝」に向かう。道は舗装されているがかなり狭い。それでも通行量が少ないので、さほど通行に支障はない。線ヶ滝の案内看板を見てからさらに100mほど進んだ所で、この道は行き止まりとなる。車ならばここに駐車する事になる。かなり広いスペースがあるので駐社に不安はない。今回はミニバイクなので更に先に進む事にする。今回は周回コースを取るので、その事を考えて「南登山道入り口」にバイクを止める事にする。
歩き始めは暗い杉林の中の道だ。かなり不気味な感じがする。道はジグザグに曲がりながら次第に高度を上げていく。暫く人が入った事がないのだろう、踏み跡があまり見られない。しかし登山道は明瞭で迷う事はない。又、道沿いに赤い色のプラスチック製の杭が打ち込まれており、分かりやすい。20分ほど登ると道は雑木林に変化する。それと同時に急に景色が明るくなり、陽の光りが射し込むので暖かく感じる。目の前には立岩の大岩壁がその威容を見せている。丸太で作った階段状の道が現れて数分でベンチが現れた。まことに立派なベンチで、しっかりとしている。この登山道にはこんなベンチがいくつも設置してあるがいずれもしっかりとしたもので驚いてしまう。
ベンチを過ぎて更に丸太で作ってある階段状の道を歩く。そしてガレ沢に入った途端に「ガラガラガラッ!!」と上部から白いバレーボール大の塊が、数個大きな音と共に落下してきた。幸いにもその塊は数メートル手前で停止したが、思わず身震いしてしまった。もし数分早く、歩いていたら確実に当たっていたに違いない。おそるおそる前進していくとその塊の正体が分かった。それは前方の左の壁から、このガレ沢に入っている滝が凍っており、それが日中の気温の上昇で緩んで落下したものである。慎重にそしてできるだけ足早にそこを通り過ぎた。道はこのガレ沢から右の壁を登る事になる。鎖が設置され更に幅15センチ程の足場が切ってある。しかしその足場は雪が凍り付いてツルツルだ。とても鎖がなければ歩けない。
やっとの事でガレ場の上部に出て、ベンチのあるところに出た。ここからは明るい雑木林の中の道を歩く、しかし日陰には雪が残っていてそれも凍っている、アイゼンを持って来なかった事が悔やまれる。こんな場所には鎖が欲しいところだ。しかたないので慎重に歩くしかない。やがて道は稜線歩きにかわると、すぐに立派なベンチが現れた。更に稜線を辿ると黄色の布を被った木像が設置されていた。白い色のその木像は、この場所には向かないように思われたが、それでも小銭がかなりの金額で置かれていた。そしてその木像の数メートル先に山頂標識が見える。
西立岩山頂(1265m)は山頂標識と、これ又立派なベンチが設置されていた。北は荒船山(経塚山)、兜岩山、物見山、その奥に浅間山が良く見える。山頂で430Mhzのハンディー機のスイッチを入れたが、とてもQSO出きる状態でなくあっさり諦めてしまった。山頂では昼食をとっただけだった。
山頂を後にして再び歩き出す。すぐに又ベンチが現れた。山頂よりもこちらの方が見晴らしは良い。それに立岩が屏風状に弧を描いているのが実感出きる。ここでは写真撮影を行った。ここからは再び凍りついた雪道との格闘が始まった。「もっと鎖が欲しい!!」何度もそう思った。岩峰の左を巻いて道が続き、それはやがて痩せた尾根歩きの道に変わる。
「立岩へ1km」の標識を見て、左の斜面を降り杉と桧の混在した植林の道に入る。道は下るのみである。突然目の前に素晴らしい、景色が広がった、飛沫状の滝が現れたのだ。落差40m程度はあるだろうか、上部から水が飛沫となって落ちており、時折風に吹かれて斜めに落ちている。滝壷は凍っており、氷がピラミッド状に盛り上がり春の陽を受けて輝いていた。滝壷の近くには修験者が使ったのだろうか、朽ち果てた小屋の残骸が残っている。コンパクトカメラを縦にして35mmレンズで、3回シャッターを切らなければその全容を写す事が出来ない。今まで出会った中でも、屈指の印象に残る滝だ。ここには少し下ったところに東屋があり、休憩が出きるようになっている。傍らには解説がありここは「威怒牟幾不動」(いぬむきふどう)と呼ばれ4月28日が縁日だと書いてあった。
ここから更に下ると、右に荒船山行きの道と分かれる。植林の道をただひたすら下る。途中で山仕事に向かう老夫に出会って、少し話した。
「最近は地元のもんより、あんたらみたいな山登りのもんの方が、道を良く知っている」
そう言った言葉が印象に残った。考えると複雑な気持ちになってしまった。老夫と別れて5分ほどでミニバイクについた。
記録
登山口10:30--(.28)--10:58ガレ場下のベンチ--(.15)--11:13ガレ場上のベンチ--(.17)--11:30西立岩頂上12:10--(.34)--12:44威怒牟幾不動--(.27)--13:11登山口
群馬山岳移動通信 /1994/