雪の中を泳いだ「高野山(四万)」
登山日1996年3月16日


高野山(たかやさん)標高1112m 群馬県吾妻郡
高野山山頂
 3月16日(土)

 車で吾妻郡中之条町に向かうが、前日降った雪と年度末のかけ込み工事で渋滞がひどい。今日、目指すのは中之条町四万温泉付近の「高野山」である。去年の3月19日は「不納山」に登ろうとしたが雪のために断念している。今日のこの雪ではその時の再現になるのかとの思いが頭をよぎった。新萩橋を渡りトンネル手前で左に入ると道は狭くなり、やがて「小倉の滝2.5km」の標識が現れる。その少し先に「四万屋外スポーツ林」の駐車場があり、ここに車をとめることにした。「高野山」に登るにあたって地形図で検討して、このあたりの尾根を登るのがもっとも良いと判断した。

 駐車場から車道を戻り、右側に民家を見て少し行ったところに山に登っていく道があった。しかしこの道は沢沿いに登っており、どうやら簡易水道の取水口に通じているらしいので、あっさりこの道を行く事は止めた。そこで左側(東側)の斜面を登り、尾根を辿る事にした。

 杉の植林の中の道はなかなか傾斜がきつく、早くも前夜の酒席での酒が汗になって出てくるようだ。杉の梢からは雪の塊が時折落ちてくるので、その物音にびっくりする。空は快晴で、それだけ気温が上昇しているのかも知れない。足元の積雪は大した事はなく、ピッケルを使ってそれなりに登る事が出来た。その内に杉の木の幹に赤ペンキで幅10センチ程に塗色してあるものが目立つようになってきた。どうやらこれは尾根に沿ってつけられているものらしい。地形図を見るとこの尾根を忠実に辿れば間違いなく「高野山」に行けるはずである。

 突然立派な登山道に突き当たった。左側から登って来ているところを見ると「新萩橋」の辺りからのものなのかも知れない。ともかく今度はこの登山道を登る事にした。そしてそこからわずかな距離で杉の林は終わり、雑木林に変化した。そこにはシラビソの大きな木が立っており、この付近では目立つ存在となっている。このシラビソの木の付近で少し休憩をする事にした。

 シラビソの木の付近から俄に積雪が深くなってきた。落葉樹の雑木林となったために頭上の覆いが無くなったからに違いない。膝の少し下あたりの積雪なのでなんとか歩けない事はない。しかしそれもわずかで道が傾斜を強めると共に雪は深くなり、膝の上を越すようになると簡単には登れなくなってきた。膝を前に出して雪の穴を広げないと足が抜けないからだ。ほぼ直登に近い形でつけられた道は、大きな石が現れたところでジグザクに登るようになった。

 試しにジグザグに登るのは時間が無駄なので、直登してみたが深雪でとても登れる状況ではなかった。しかたなく道のつけられた通りジグザグに登る事にした。しかしその道も、とてつもない深雪との戦いとなった。何しろ腰の辺りまで潜ってしまったのだから、雪の中を泳ぐ様なものだ。ピッケルを横にして前に出し、四つん這いになったら少しは前に進むようになった。おそらく無雪期だったらなんという事はない数メートルの距離を、何でこんな苦労をしなければならないのかと馬鹿らしく思えた。

 そこを何とか登りきると今度は道は水平となり、沢の中に続いて行くようになった。自分の考えとしてはここから道を辿らずに、ここからもさらに尾根を登りたかったが、あまりにもしっかりした道だったのでそのまま進んでしまった。突然、沢を挟んで東側の対岸の斜面から大きな雪の塊が落ちてきた。その更に上を見ると、カモシカが悠然と斜面を登っていた。

 沢に向かってほぼ水平に行く道は、雪は深いが傾斜がないので今までよりも歩き易い。そして沢に着いたのだが、その沢にどうしても踏み込む事が出来なかった。それはもし沢の中の吹き溜まりに潜ったら、その中からの脱出は不可能であろうと思われたからだ。ほかに道はないかと探したが思う様な場所はなかった。地形図を見るとどうやら沢の左岸(西側)の斜面を登って尾根に行くほかなさそうだ。見上げれば尾根の稜線はそこに見えているではないか。早速、雪の斜面に取り付いたのだが、雪の中をもがくだけで全く進む事が出来ない。何度か挑戦してみたが、結果は同じで雪の中をいくら足を前に出しても、滑って元に戻るだけだった。

 結局、諦めて道を引き返す事にした。そしてカモシカを見た場所まで戻り、ここでしばらく休憩とした。しかしあとわずかで山頂に行けると思うと悔しい。時間もあるし、何しろ天候も良い、それに疲れも限界までは来ていない。そこでここから尾根に登って山頂を目指す事にした。幸いにここは傾斜も緩やかで、何とか登る事が出来そうだ。予想通り、先ほどの斜面に較べたら前に進む事が出来るだけは良い。しかし、稜線に出ると雪は再び深くなり、一歩進むにもかなりの労力が必要になってきた。

 やがて両側の尾根と、自分の登っている尾根が交わる部分が見えてきた。おそらくそこが「高野山」の山頂に違いない。しかし、深い雪のためにどうしても最後の斜面が登る事が出来ない。おそらく距離にして20メートル程度、目の前に見えているのだが、進む事が出来ないのだ。目の前にして行けないのはなんとも悔しい。這ってでもそこに行って見ようと決めた。

 まさにその通り、這って登るような体勢だ。足を出すと踏み込んでしまうので、立木につかまり、膝から下を雪の上に乗せて身体を引っ張り上げる様な格好で行くしかない。しかしそんな体勢がいつまで続くわけがない、今度はラッセルで前にある雪をかき分けて進んでみた、しかし1メートルも続かない。もう無茶苦茶な格好で這ったり、泳いだりしながらともかく前に進んだ。

 そしてやっとの事で山頂に到着する事が出来た。長い道のりだったと思わずその場に座り込んでしまった。山頂にはダンダラ棒が2本、おそらく三角点がその下にあるに違いない。しかし、今日は雪が深すぎてとても掘り起こす気力などない。そしてG氏のブリキの山頂標識が立木に打ちつけられていた。

 展望は雑木の間から見る事になる。何よりも間近にある山々が素晴らしい、北側には「稲包山」「栂ノ頭」尖ったピークが槍の様な「コシキノ頭」そしてその横に「木戸山」が並んでいた。無線は430MhzでCQを出したが空振り、CQを出している局に応答して2局で断念した。

 帰りは登って来た道を降りたのだが、あっけないほどの短時間であった。



「記録」

 小倉の滝入り口10:07--(.28)--10:35登山道--(.09)--10:44休憩10:48--(.47)--11:35引き返す--(.07)--11:42休憩11:47--(.49)--12:36高野山山頂13:42--(.35)--14:17小倉の滝入り口



                    群馬山岳移動通信 /1996/