谷川連峰の展望台「タカマタギ」「日白山」を歩く
登山日2002年4月6日
タカマタギはその名前に惹かれていつかは登ってみたい山だった。憧れをもっていろんな資料を集めてはチャンスを狙っていた。 そんな時に「酒呑童子のおひるねの森」のホームページを開設しているKさんと、タカマタギのことが話題になった。すると彼は何とも簡単にタカマタギに登ってきてしまった。それに詳細な報告をホームページに載せた。それを見るとこの残雪期に登ってしまうのがもっとも良さそうだと感じた。 同じくタカマタギに関心をもっていた猫吉さんに話を持ち出すとすぐに話がまとまってしまった。 4月6日(土) 土樽の駐車余地で朝5時半に目が覚める。寒さはそれほど感じない。車の窓を透して外を見ると、田圃には雪が残るものの周囲の山は雪が少ないと感じる。前夜は猫吉さんと合流したものの、この駐車余地に車を止めてお互いに疲れが出てそのまま分かれて眠ってしまった。昨日の情報では北陸からYさんが合流するとのことであったが未だに姿を見せていない。車中でお湯を沸かしてコーヒーを作り目を覚ます。パンを口に入れると何となく体が動き始める感じがする。外に出て明るくなった周囲の状況を確認する。猫吉さんも早くから目が覚めているらしく、やはり外に出てきて今日の予定について打ち合わせをした。するとタイミング良く、ジープタイプの車が横に止まった。なんと見れば長い黒髪の麗しいYさんではないか。なんの打ち合わせもしていないのに、こうして出会うことが出来るとなんと言うことだろうか。猫吉さんと顔を見合わせて驚いた。 ともかく3人が無事に合流して、毛渡橋に向かう。毛渡橋の手前には林道があり、そこには平標山と標識があった。その入り口はやや広いので、そこに3台の車を駐車した。それぞれに支度をはじめたのだが、私はスパッツを持ってこなかったことに気が付いた。幸いにも猫吉さんが予備を持っていたので事なきを得た。過去にも登山靴を忘れて借りたことがあるから、私は忘れ物の常習犯、猫吉さんはその度に救ってくれた恩人と言うことになる。 除雪された林道を歩き始める。両側は高さ2メートルほどの雪の壁になっている。関越道とJR上越線の高架をくぐり、道なりに雪の回廊を歩いた。やがて道の途中に東京電気大学の山荘があった。しかしここのあたりから出発前に確認した地形図上のルートと、今歩いている道がなにか違っているように感じた。慌てて地形図を取り出して確認すると、どうやら平標新道を歩いていることに気がついた。やはり単独行でなく3人のパーティーとなると、お互い人任せになってしまっていたのだ。Yさんは我々との山行は初めてなのだが、スタートの時点ですでに技術の薄さを示してしまった。猫吉さん共々すっかり意気消沈してしまった。 歩いてきた道を戻り「平標・土樽」の標識があるところまで来た。時を同じくして妙齢の女性登山者が二人歩いてきて、何のためらいもなくその標識のところを右に曲がった。そこは雪の壁になっていて、道があるようには見えない場所だった。二人は雪の壁を登ってさらに先に向かおうとするので慌てて呼び止めた。 「タカマタギですか?」 振り向いた顔は若々しく女子大生のような印象を受けた。 「そうです」 簡単な答えだけで、さらに先に歩いていってしまった。若いその姿はウサギちゃんと呼びたくなるほど軽やかで雪の上を走るようでもあった。 雪に埋もれた杉木立の林道にはトレースがくっきりと付けられていた。やがて林道の脇に赤い目印が付けられているところがあった。みればその上部の尾根を、先ほどのウサギちゃんが登っているところだった。その部分は雪が融けて藪漕ぎとなり、かなり苦戦しているようだ。さらに林道を少し進むと、その尾根にとりつく部分は傾斜が緩やかで残雪もあり、ウサギちゃんが登っているところよりも歩きやすそうだ。(この取り付き点は酒呑童子さんのメールが大変参考になった) 尾根に取り付いて三人がバラバラになって適当に登り出す。雪は締まっていて歩きやすいので順調に高度が稼げる。歩き始めると暖かい日射しに影響されて、すぐにTシャツ一枚でちょうど良くなった。 ほどなく鉄塔に到着した。鉄塔は何のために使われているのか分からないが、おそらくJRに関係するものではないかと思われる。鉄塔の下では若いウサギちゃんが腰を下ろして休んでいた。聞けば埼玉からやってきて、これでタカマタギは3度目だと言うことだ。この山を歩き慣れている感じがしたが、これは当然だと納得した。Yさんと猫吉さんが鉄塔に到着して話している間に、ウサギちゃんは先行して登っていった。 鉄塔から先は明るい雑木林の尾根歩きとなった。振り返れば足拍子山付近が間近に見え、茂倉岳は白く大きく朝日の中に輝いていた。満開のマンサクの花が雪の中に一際映えて咲いているのは心がなごむ。それにしても良い天気で、青空と白い残雪がとても幸福感を満たしてくれた。 標高1040mのピークはそれほど顕著なものではなかったが、そこが屈曲点となり西から南に向かい棒立山に向かうことになる。ここから見る棒立山は急峻で、はたしてあそこまで登れるものだろうかと不安になる。ともかく尾根に沿って急斜面を登ることにする。尾根の谷川岳方面は不安定そうな雪庇が張り出し、反対側は藪があらわれている。ともかく藪の中は歩きにくいので、どうしても雪庇の方を歩くことになる。あまり気持ちが良くないが、慣れてくると危険を感じなくなってくるから不思議なものだ。 ほどなく猫吉さんとYさんが山頂に到着し、山頂が一気に賑やかになった。それぞれに大展望を目のあたりにして、山座同定が熱をおびてきた。猫吉さんの提案で将来の山ランのポイントになるかも知れないと言うことで、交信をしておくことにした。するとYさんはTシャツの襟首から手を入れて、胸の中から無線機を取り出した。そういえば携帯電話も胸に手を入れて出していた。聞けばなんでも小物は胸の中に入れておくようで、豊満に見えた胸はこんな秘密があったのかと納得した。まるで「ドラえもん」の四次元ポケットだとからかった。山頂はそれからも二人の登山者が到着、タカマタギからは一人が降りてきた。こうなるとタカマタギは本当に隠れた名山なのかも知れない。 こんどはYさんを先頭にしてタカマタギに向かう。いったん鞍部に降りて再び登りあげるルートである。雪は締まっているので歩きやすい。また棒立山から見るときよりも、傾斜はゆるやかで、それほどの困難さは感じない。振り返ると棒立山が見る間に遠ざかり、周囲の景色も展望がさらに広がるのが楽しい。 日白山への稜線はトレースもなく雪原がただ広がるだけだった。それに何よりの魅力は左手の谷を隔てた谷川連峰の景色だ。残雪が光に照らされて、輝きを増しているのがさらに美しい。そのうちにちょっと遅れていた猫吉さんが追いついてきて、「日白山まで行くにはまだ時間がかかる、行くのを考えたらどうか?」と言った。そこで地形図を広げてGPSで確認すると、たしかにまだ先は長い。見れば二つの大きなピークが見えている。考えている間にYさんは先に歩き出してしまった。これは行くしかないと猫吉さんと後を追いかけた。 途中の1581mのピークは、中腹から右に巻いて行くので、ちょっとは気が楽になった。そのピークを巻くと日白山の山頂が間近に見え、まさに指呼の距離となった。いつしか猫吉さんとYさんを置いて先頭に立って歩いていることに気がついた。猫吉さんは昨日の山の疲れが残っていたのだろう。Yさんは北陸から6時間かけて一般道で駆けつけているから無理もない。日白山の山頂近くになるとは、雪の中に若干ではあるが潜るようになった。しかし、ワカンを着けるほどでもないので、そのまま歩くことにした。 山頂に立つと再び西の視界が開けて、白砂山方面が一気に姿を見せた。もちろん平標山は間近ですぐにでも登れそうな距離だ。眼下には二居スキー場あたりの建物も見ることが出来た。ラーメンを作るために、お湯を沸かして沸騰する頃に、猫吉さんとYさんが山頂に到着した。早速Yさんは胸の中で暖めた無線機を取りだして、CQを出した。するとさすがは女性の威力?。すぐに声がかかって難なくQSOが成立してしまった。猫吉さんと私もそれに便乗してQSOをしてしまった。 ここまで来るとこの先の登谷山に向かい、さらに二居スキー場に降りたくなる。しかし、それが出来ない理由がある。それはタカマタギでQSOをしないで通過してしまったからだ。距離的には東谷山に向かった方がはるかに近い。しかし、山ランなどという趣味を持ったおかげで戻るしか方法はなかった。 タカマタギに再び到着して、記念撮影とQSOを済ませた。しかし、この雄大な景色の中に身を置いていると、とても立ち去りがたい気持ちになった。 「記録」 07:05毛渡橋--(.15)--引き返す07:20--(.11)--タカマタギ林道分岐07:31--(.11)--07:42尾根に取り付く--(.15)--07:57鉄塔--(1.31)--09:281040m峰--(1.22)--10:50棒立山11:19--(.42)--12:01タカマタギ--(.59)--13:00日白山13:51--(.48)--14:39タカマタギ15:05--(.24)--15:29棒立山--(.52)--16:211040m峰--(.38)--16:59林道--(.16)--17:15毛渡橋 群馬山岳移動通信 /2002/ |