新雪をラッセルして登る「高檜山」 登山日1999年12月25日
12月25日(土)
去年の暮れ、やはりこの付近の山に登っている。それは板沢山で、そのときはとんでもない事態に大慌てした経緯がある。板沢山まで到達したものの、天候の関係もあり稜線伝いに高檜山まで行くことは諦めた。
今回は高檜山だけを狙うこともあり、ルートを水上町から延びる林道を利用することにする。水上町の旧道に入り、小日向沢に架かる小日向橋を渡り、すぐに右に折れて山に入る。集落を過ぎると、アーチ型の水路の架橋が林道の上を横切っている。くぐると、新雪が積もった広い駐車余地があり、林道はさらに奥に入っている。雪のこともあり、車はここに駐車することにした。
車の中から、装備を引っぱり出してパッキングして歩き出す。歩いてみると積雪はそれほどでもなく、車でも十分走行可能な状態だ。これなら行けるところまで行って、歩行時間を短縮した方が得策だ。そこで再び戻って車に乗り込んで走り出した。積雪は5センチほどで不安は全く感じない。しかし、奥に進むに従って雪が深くなり、適当な駐車場所を探しながら進んだ。すでに、車の底を雪が擦っている音も時折聞こえてくる。標高700m付近で大きな駐車余地があり、ここで車を転回して駐車した。積雪は10センチ程度であろうか。
距離にして約1.5km、標高差150m程度を短縮した事になる。これだけでも気分的にだいぶ楽になった。いよいよ小日向沢に沿った林道を歩き出すことにする。林道はすぐに大きく蛇行しながら上部に登っていく。見れば20mほど上にガードレールが見えるので、そこに向かって杉林の中を直登した。いきなりの急登で、たちまち汗が背中に噴き出てくる。なんとか見えていた林道のガードレールに辿り着き、噴き出す汗をタオルで拭った。
林道は、小日向沢の右岸に沿って続いていく。沢には時折熊棚があり、ここが熊のテリトリーであることが容易に想像出来る。そうすると、この山に立ち入るのは季節を選ばないと、とんでもない事故に遭う可能性があると言うことだ。
雪は次第に深くなり、ふくらはぎのあたりまで達するようになってきた。こうなると、輪カンを持ってこなかったことが悔やまれる。それでも必死になって足を動かして前に進む。振り返ると、谷川連峰の白い峰々が青空の中に映えていた。
林道の終点はやはり大きなスペースがあり、小日向沢がなおもその先に続いている。地形図を見ると右の植林地の斜面を登り、尾根に達してからそのまま尾根伝いに山頂に向かうのが良さそうに見える。そこで見当を付けて、標高差約100mのその斜面に取り付いた。はじめは何とかなると思われたその斜面の急登に、最初から甘い考えは吹き飛んでしまった。何しろ軽い新雪が急斜面を覆っているために、それをラッセルしながら登らなくてはならない。それにはじめは手掛かりが多くて、良さそうに見えた雑木の幼木は、行く手を遮るバリケードになってきた。
あまりの急登に、何度も息を整えて斜面の上部を見るが、なかなかその斜面は終わりそうにない。そのうちに軍手で行動していた手の自由が、全くきかなくなってしまった。これはまずい、凍傷の一歩手前まで来ていることは確かだ。慌ててザックの中から毛手袋を取り出して、指先の動かなくなった手を入れ、感覚が戻るまで何度も指を叩いた。感覚が戻ると同時に、指先に鈍痛が襲ってきた。これは本当に危ないところだったと、軍手で行動していた事を反省した。
上部に近づくと、なにやら山腹を横切る道にぶつかった。そこでそれに従い、右に折れると程なく尾根上に辿り着くことが出来た。尾根の右斜面は雑木林、今登ってきた左斜面は植林地で対照的な景色になっている。辿り着いた尾根は標高1018mピークの鞍部だったために、見晴らしの良い場所を探して尾根を高檜山に向かって歩き出した。
ところがここも新雪が膝のあたりまであり、思うように前に進むことが出来ない。やっとの事で見晴らしの良いところに出て、一息付けることが出来た。見れば高檜山の山頂はまだまだ遠く、辿り着けるのかどうか不安に駆られてきた。振り返る谷川連峰はいつの間にか鉛色の雲に覆われてきていた。とにかく日没が早いこともあるので、先を急がなくてはならない。ウイスキーの小瓶をあけて少しだけ呑んでから山頂を目指した。
雪は相変わらず膝のあたりまであり、疲れてきた身体にはこたえた。標高1100m付近で植林地も終わり、索道に使ったワイヤーが残置されている場所にたどり着いた。山頂まで残すは標高差約200mであるが、時間はすでに12時を回ってしまった。もしも13時までに山頂に行けなかったら帰ろうと心に決めた。
幸い尾根筋はしっかりとしており、迷うことはなさそうだ。しかし、突然目の前の視界が塞がれ、林の中に雪が吹き込んできた。山の天気は変わりやすく、それも突然やってくるものだから驚いてしまう。そんな雪模様の中、ひたすらラッセルをして山頂を目指した。
傾斜を強めた斜面はなかなか終わりそうにない。右の板沢山から延びてくる稜線がだんだんと迫ってくるので山頂が近いことが予想できる。気圧が下がっているのか、時計の高度計はすでに高檜山の標高を超えている。雪の上に残された鹿の足跡を辿り、尾根を登ると山頂にあと数メートルの地点に迫った。
ところが、なんと雪が邪魔して前に進むことが出来なくなった。仕方なくピッケルで雪の壁を崩して、穴をあけてそこから身体を潜り込ませて突破した。目の前は灌木が切り取られてちょっとした広場になっていた。そしてGさんの山頂標識が、山頂の一角の立木に取り付けられていた。
山頂からの展望は、灌木に遮られてあまり冴えない。雪が止んだ空間にわずかに赤城山が遠望出来るが、谷川岳方面の展望は全く駄目だった。三角点を確認しようと、ピッケルを雪に差し込んで見たが見つけることが出来ないので諦めた。山頂には時間的にあまり長くいることが出来ないので、あわただしくラーメンを作って食べた。無線はいつもの通り奥の手QSOで済ませた。何しろ最近のアマチュア無線の衰退ぶりには、目を覆いたくなるような状況である。
さて下山であるが、登ってきたルートを戻るのも癪なので、途中から一気に沢に下りてしまうことにした。あれほど苦労して登った雪の斜面も下りは全く問題ない。あっという間に標高1060m付近に到達した。ここには大きな枯れた木が残っており、ここから沢に向かって足を踏み出した。
沢にもなんと10分ほどで降りてしまい、なにかあっけない。沢には少しながら流れがあったが、歩くには全く問題なかった。そのまま沢を下って行くと程なく林道に辿り着いた。この林道から3時間掛けて登ったのだが、下りはわずか半分の時間を要しただけだった。
その後は、傾き掛けた陽を名残惜しむように、ゆっくりと林道を車の駐車地点まで戻った。
「高檜山」
小日向林道「標高700m」08:54--(1.15)--10:09林道終点--(.41)--10:50尾根「標高1000m」11:03--(1.52)--12:55高檜山山頂13:23--(.33)--13:56尾根「標高1060m」--(.19)--14:15林道終点--(.40)--14:55林道「標高700m」
群馬山岳移動通信 /1999/