佐武流山は、奥深い山で薮山としての印象が強い。残雪期に野反湖から白砂山経由で一泊で登るのが一般的だ。そんなわけで自分には到底登れる山ではないと思っていた。しかし、2000年に「前進倶楽部」が整備完了した登山道があることを知った。昨年、鳥甲山に登った際に、登山口がどんなところなのか見ておいた。そこは中津川林道の標識があったが、厳重にゲートによって閉ざされていた。ゲートの隙間を測定してみると、原付のスクーター程度ならば通過できることがわかった。とにかくこの林道はまともに歩くと、片道1時間以上かかる。往復ならば、3時間になるかも知れないので、秋の短い日を考えるとかなり忙しい。まして体力的にも3時間というのはかなりの負担となるのは間違いない。今回の山行は、ハードな薮山を精力的に歩いている、館林の「TNCねくらハイキングクラブ」さんの詳細な記録を参考にさせていただいた。 10月14日(土) 軽トラックにスクーターを積み込んで、秋山郷の切明温泉「雄川閣」の駐車場に到着した。自宅から約150km、関越道では80km/hそこそこのスピードで走行。軽トラックなので腰は痛くなるし、荷台のスクーターが道路のギャップやカーブがあるたびに揺れるので気が抜けなかった。時間的には自宅から3時間半もかかってしまった。 まだ薄暗い駐車場で荷台からスクーターを降ろして支度を始める。なぜか今日はワクワクしている。それは久しぶりの山行であり、あこがれの佐武流山に登ることが出来るという事からであろう。トラックの荷台にはプラスチックケースに入れた着替えがあるが、きたない親父の下着では、車上荒らしが来てもガッカリするだろう。しかし、スクーターの積みおろしに不可欠な足場板があるので、荷台には一応シートをかぶせ、ロープは車内に入れておいた。 スクーターにまたがり、すっかりと明るくなった道を走行して、中津川林道の入口ゲートに着いた。ゲート前には駐車してある車はなく、ひっそりとしていた。ゲートは一年前と同じで、鎖と南京錠でしっかりと固定されていた。しかし、ゲートの下は空間があり、小さなものならば通り抜けることが出来る。スクーターをそのまま入れようとしたが、頭がつっかえて入らない。横倒しにしてもミラーがつっかえて入らない。仕方なくミラーを横にしてなんとか入り込むことが出来た。 林道は、車両があまり入らないためなのか、それほど荒れてはいなかった。しかし、未舗装の道はそれほど早く走行することは出来ない。それに林道を横切るように取り付けている排水溝の溝がネックである。スクーターの小径タイヤでは排水溝を越えるときにかなりのショックを受けるのだ。そのたびに停止して腰を上げて乗り越えるのだ。そんなものだから、時速15キロ程度がやっとと言うところだ。それでも歩くよりも速いのは間違いない。林道を3キロほど進んだところで、道が分岐する。そこには、10人ほどのパーティーが休憩していた。こちらもびっくりしたが、そのパーティーも驚いたに違いない。「いいなあ!!」の声を聞いたので、片手を上げてそこを通過した。 やがて、川音が近づき歩き始めて9分で、檜俣川にたどり着いた。川には2本のロープが渡してあったが、このロープに伝って徒渉するのは大変なことだった。なにしろ水流が豊富で、川の中にある石は水面に出ているが、それを踏み石にして対岸に渡るのは、石が不足しているので不可能だ。上流を見ても状況は変わらない。いざとなったら、水中に足を入れて素早く渡ればいいと、そのまま渡ることにした。水面に出ている石を辿って、中程まで進むと、案の定行き詰まってしまった。しかたないと、流れの中に足を入れて、次の石に飛び移り一気に対岸まで渡った。幸い水没したのは左足だけで、ロングスパッツを着けていたので、靴の中に水は全く入ることはなかった。ここ数日は雨が降った様子がないのにこの状態である。雨が降ったときは、この川の徒渉は不可能に違いない。 さて、ここからいよいよ登山道を登ることになる。この道も良く踏まれおり、不安感は全くない。しかし、かなりの急登でカラマツと広葉樹の混在した中を登ることになる。見る間に汗が噴き出してくるので、Tシャツになって登ることにした。今日の天気は快晴で、雨の心配はなさそうだ。振り返ると青空をバックに月夜立岩が、朝日を受けて見えている。今日は紅葉の時期を狙ってきたのだが、どうも紅葉は鮮やかでない。どうやらこの前の台風16号の強風で葉が落ちたり、縮れてしまっているのかも知れない。期待はずれの紅葉だが、こればかりは仕方ない。 下を向きながら急登を続けると、なにやら黒い生き物に遭遇した。良く見ると巨大化したヒルであった。長さは20センチ程度もある。これだけ巨大化するのは、それなりの獣がいるはずである。慌てて頭上を見たが、熊棚は見られなかった。まあ、念のために鈴をストックにくくりつけ、ホイッスルを胸ポケットに忍ばせた。 この道は微妙に稜線から外れる事がある。そこにはロープが設置されており、ルート工作がしてある。できれば、稜線上を忠実に辿って欲しいところだが、いろんな制約があってこうなっているのだろう。「TNCネクラハイキングクラブ」の記録ではヒカリゴケの記述があるが、その標識はもちろんヒカリゴケ自体見あたらなかった。なだらかに登っていくと、今までの樹林帯を抜けて展望の開けたピークに飛び出した。このピークの倒木の根に標識があり、「ワルサ峰 苗場山へとの分岐まで35分」と書いてあった。ここからの展望はほぼ360度で、展望の良いピークとなっていた。展望が良いだけあって、風も強いのだろう。山頂の針葉樹は風を受けて、葉が無くなり白骨のようになっていた。 ワルサ峰から一旦下って、再び登り上げる。そしてワルサ峰を振り返ると、その特徴あるピークが何とも良い画となって見える。このままここで昼寝でもしたい気分になってくるようだ。開けた稜線を辿ると、ワルサ峰の標識にあったとおり約35分で道は明瞭に分岐した。ここは「西赤沢源頭」で苗場山への分岐ともなっている。さらに標識には「水場 赤倉山方面へ10分」と書いたものもあった。金属プレートに打刻した標識も、味わいのあるものであった。さらに近くの木には、登山道整備に使用した残りなのだろうか、針金が掛かっていた。ここの標識によれば、佐武流山へはここから70分と書いてある。地図を見てもここから70分はかからないであろう。 分岐から、笹の刈り払いも真新しい道を登っていくと、道は再び樹林帯に入ってしまった。急登を15分ほど続けると、ちょっとした広場となり、丸太が腰掛けように転がっていた。標識には「坊主平」と書いてあったが、このまま通過することにした。すると下の方から声がするのに気がついた。樹林の隙間から覗くとワルサ峰のあたりに人影が確認できた。林道で追い越したあのパーティーであろうか?団体にしては恐ろしく速いペースだと感じた。これはおちおちしていられない。スクーターで楽をしているのだから、追いつかれたか格好悪いではないか。 坊主平を過ぎると泥濘が多くなってきた。何の気なしにそこに踏み込んだら、臑のあたりまで踏み込んで、スパッツが泥だらけになってしまった。ましてこの泥はドブくさいので閉口してしまった。なるべく草の中を歩いて泥を取るようにしたが、なかなかそのとおりには行かなかった。こうなると、帰りは檜俣川徒渉の際に、川の中に入って洗うしかないと思った。泥濘から5分ほどで、目の前が開けて佐武流山の山頂が見える場所に着いた。ここまで来れば山頂はすぐそこで、自然と気持ちが楽になった。 苗場山方面の展望が開けた快適な稜線の登りとなり、鼻歌が出てくるようだった。なんと言っても、あこがれの佐武流山がどんどん近づいてくるのがうれしい。ちょっとした樹林帯を通過すると、目の前に大きな標柱が現れ、その先で刈り払いの道は行き止まりとなっていた。ここが佐武流山の山頂だった。山頂は期待していたものとは、かけ離れた地味なものだった。展望は苗場山方面がわすかに開けていたが、いつの間にか山頂は雲が覆っていた。また白砂山から派生する忠次郎山も雲に隠されてしまっていた。ともかくザックをおいて、菓子パンを頬張った。最近は軽量化の関係でラーメンは止めている。それに体調の関係でビールも止めているので、ちょっと豪華さに欠けるがまあ良いだろう。山頂に20分ほど留まり、先ほどの団体が到着する前に山頂を立つことにした。 観光客で賑わう切明温泉雄川閣に戻り、スクーターを軽トラックに積み込むと、やっと今日の山行が終わったことを実感した。かけ流し湯である雄川閣の風呂に入ると、なんとも言えない充実感を味わうことが出来た。 中津川林道ゲート06:00==(.24)==06:24佐武流山登山口06:38--(.09)--06:47檜俣川06:51--(.50)--07:41物思平07:49--(.57)--08:46ワルサ峰08:59--(.33)--09:32苗場山分岐--(.13)--09:45坊主平--(.40)--10:25佐武流山山頂10:46--(1.14)--12:00ワルサ峰--(.42)--12:42物思平12:46--(.28)--13:14檜俣川13:25--(.19)--13:44登山口13:53==(.29)==14:22林道ゲート 群馬山岳移動通信/2006 |
GPSトラックデータ この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像) 及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号) |