静寂の「黒滝山」から「トヤ山」     登山日2005年12月18日    
黒滝山に登っていない人はさあ急げ!!


黒滝山→トヤ山の途中で見る「鹿岳」「「四ッ又山」


黒滝山(くろたきさん)標高870m 群馬県甘楽郡/トヤ山(とややま)標高1220m 群馬県甘楽郡

西上州山域の地形図に山名が記されたピークのなかで、群馬県側で唯一登っていないのが黒滝山だ。実際には五老峰に登っているのだが、このピークは実際の山頂ではない。黒滝山は不動寺の裏山の総称と言うのが正解かも知れないが、地形図の表記のあるピークにこだわりを持って登ってみた。


12月18日(日)

 前夜降った雪が、下仁田町あたりまで来ると凍結して、国道を走る車はノロノロ運転となった。南牧村まで来ると、なぜか雪は少なくなり、走行しやすくなった。それでもさすがに黒滝山に続く道は白くなっていた。狭い道は軽トラックにとって最適で、対向車に苦労することもなかった。

 黒滝山不動寺の駐車場は雪が降り積もり、車の轍は見られなかった。この先も道は続き、不動寺の境内まで通じている。「駐車スペースが3台ほどしか無く、足の不自由な方がお使いください」と言った看板を目にすると、どうしてもそこに行くわけには行かなかった。

久しぶりの山なので準備に時間が掛かる。ロングスパッツを持ってきたのは良いが、足底のバンドの無いものを持ってきてしまった。仕方なく軽トラックの荷台に付けてあった、針金で代用した。こんな時は何でも利用しよう。

 歩き出すとすぐに車道ではなく古道に入る。それもわずかで、すぐにお寺の境内に到着だ。ここで一番目に付くのは、岩の上に建てられた鐘楼だ。戦艦陸奥の羅針盤が合鋳されているとの説明があった。そのまま不動寺の境内を散策する。岩雫の下の不動明王石像も火焔が凍り付いていた。すると「おはようございます」の声が聞こえてきた。振り返ると僧正が祈祷の準備をしていた。「山ですか?」「そうです、黒滝山はこちらですか?」「そうですよ道の右側で、皆さんは五老峰に登って黒滝山に登ったと言いますが、間違いですよ」そんな会話をしてすごした。

 境内を離れて急傾斜の山道に入る。ひとしきり登ると分岐となり、「六車← →荒船山」の標識が出迎える。ここで、ちょっとだけ五老峰に行ってみようと言う気になった。六車方面に向かい、20メートルほどで、再び分岐となり、「上底瀬← →馬ノ背 九十九谷」と書いてある標識に出会う。ここは馬ノ背方面に六かうことにする。


不動寺の鐘楼五老峰付近から見る不動寺



 直ぐに鉄ハシゴを登りちょっとした岩の上に立つ。そこから見る急峻な馬ノ背にただ驚く。深い谷底から迫り上がった壁が頂点で合わさり、30センチほどの幅で続いているのだ。馬の背だってこんなに狭くないはずだ。今日はそこに雪が乗っているのである。ちょっと躊躇したが、ともかく行ってみることにする。慎重に歩を進めるが、どうしてもへっぴり腰である。それに九十九谷から吹き上げる風がとにかく冷たい。とくに今日は12月としては異例な寒波が押し寄せているから格別だ。

 鉄の鎖が取り付けられているのだが、とにかく不安定で支柱も細いもので簡単に曲がりそうである。鎖は緩んでおり。体重を掛ると身体が振られるので軽く持つ程度にしか使えない。それにしてもとんでもないルートを造ったものである。水平部分を過ぎると今度は傾斜が強くなってくる。足元は雪が付いているので今度は鎖が頼りとなった。これにつかまって登るのだが、帰りのことを考えると不安になる。垂直に近いハシゴをのぼり、ヤレヤレと思ったら、今度はコブのような岩が立ちはだかった。鎖は付いているのだが、どうしてもコブの上に立とうとすると、鎖は足元になるので身体は不安定になる。それに両側は切り立っているのだ。意を決して足元の雪を振り払い一気に登ってしまった。

 まあ、とにかく怖いルートである。これが家族向きと紹介されているのは本当に疑問だ。道は雑木林となり、見晴台に到着。御嶽神社の札も岩に取り付けられている。しかし、どうしてもこの雪がへばり付いた岩の上に登る勇気はなかった。この先の五老峰ももちろん断念である。

 さて帰りはどうしたものか?このまま先に進むことが出来ない以上、あのナイフリッジを戻るしかない。下降は登るときよりも大変だ。登るときは気にならなかったが、堆積した落ち葉も嫌らしい。慎重に雑木の道を下ると今度はあのコブに出くわした。登るときも大変だっただけに、しばらくそこで考えてしまった。意を決して取った行動は、腹這いである。鎖につかまって腹這いになり摩擦を掛けながら、身体をづり降ろした。もう格好なんてどうでもいいと思った。その後、垂直のハシゴを下降、ナイフリッジを一気に越えた時、やっと人心地が付いた。そう言えば今日は家人にも行く場所を教えていなかった。携帯を取り出したが電波の状態は圏外となっていた。


馬の背のナイフリッジ垂直に近いハシゴ



 さてこれから、地形図上の黒滝山を目指すことにする。不動寺への道を分けてしばらす進むと道は左に大きくカーブする、ここを反対に右に曲がると10mほどで、不動寺の上の岩峰に出る。ここには標識があり、「黒滝山 870m 南牧村」の標識がある。しかし、ここは標高740m程度で表示とは異なる。まして地形図の位置とも明らかに違うのである。まあ、地形図の記載自体が絶対に正しいとも言えないので、議論は延々と続くのかもしれない。

 ここを過ぎると杉林の鬱蒼とした、薄気味悪い道を進むことになる。小さな小橋を渡ると、右側に「山火事注意」の看板がある。どうやらこのあたりから右の斜面に取り付くのが良さそうだ。この時期は下草が枯れているので、道が無くとも意外と歩きやすい。一旦コルに辿り着き、そこから左に向かって上部を目指す。GPSで位置を確認しながら進むと。迷うことなく山頂に到着してしまった。黒滝山山頂は檜・杉・雑木が入り交じったところで展望は全くなかった。それに山頂をあらわすものは全くない。わずかに赤テープと赤いプラスチックの杭があるだけだった。こんな山は今となっては珍しい、赤テープやお節介すぎるほどの書き込み、山頂標識もなく実に味わい深いものがある。


何にもない黒滝山山頂


 何かわからないが、充実感をもって黒滝山山頂をあとにした。これからはトヤ山まで足を延ばすことにする。

 荒船山に続く道に戻り、広い道を再び歩くことにする。杉林も程なく終わり、雑木林の美しい明るい場所に出た。標識があり、六車への道を分けていた。ここからの道は実に素晴らしいものだった。幅が広く軽トラックだって走れそうだ。それに明るい日射しが充分に注ぎ込まれていた。場所によっては鉄の柵まであるところまである。こんなところは疲れも半減で、スピードがどんどん上がる。雑木の間から見える特徴ある鹿岳・四ッ又山は何とも特異な形で美しい。そんな気持ちで歩いていると、いつしか幅の広い道は無くなり、山の斜面に付けられた細い道に変化した。

 このあたりから日陰の道となり、暖かさが無くなるとともに雪が深くなった。道も怪しくなりアイゼンがちょっと欲しいかなあと思うような場所もあった。トラバース気味に道を進むと、薄暗い杉林のなかで道は高原地区のものと分けた。地形図を見ると、トヤ山まではあとわずかなので休憩無しで歩くことにした。もっとも寒くて休む気にもならなかったのだが。しかし、疲れは徐々に増してきたので、あんパンをひとつ囓りながら歩いた。

 トヤ山の入り口は明瞭な道が付けられており、すぐにわかった。登山道を離れその道に入ってみると途方にくれた。トヤ山は岩峰で、その斜面には雪がべったりと付いているのだ。ともかく近づいてみると、岩峰なのだがツツジが密生しており、手がかりは充分ありそうだ。ともかくここまで来て敗退は情けない。トヤ山に向かって踏み出した。雪はあるのだが、手がかり充分で何とかなりそうだ。慎重に少しづつ登っていくと、ルートの傾斜は緩やかになり、細長い山頂部分の突端に立つと、そこには山頂標識があり、360度の展望が広がっていた。

 山の同定は尽きることなく広がっていた。浅間山、榛名山、妙義山、赤城山、西上州、奥秩父、八ヶ岳はいつまで経っても飽きることのないものだった。



トヤ山の入り口(標識に書き込みがある)
トヤ山の岩峰
トヤ山山頂から赤城山
トヤ山山頂から両神山


「記録
駐車場09:08--(.08)--09:16不動寺09:27--(.13)--09:40分岐--(.18)--09:58見晴台10:00--(.24)--10:24分岐--(.12)--10:36黒滝山入り口--(.12)--10:48黒滝山10:52--(.04)--10:56黒滝山入り口--(.10)--11:06六車分岐--(.22)--11:28高原分岐--(.45)--12:13トヤ山分岐-(.10)--12:23トヤ山13:16--(1.06)--14:22不動寺


群馬山岳移動通信 2005





この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)

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