忘れ去られた野反湖の山「大高山」
登山日1996年9月15日
野反湖の近くに気になる山がある。それは標高2079メートル「大高山」である。昭文社発行のエアリアマップによれば、カモシカ平から大高山までは「手入れ無く荒廃」と記載されている。しかし地形図をみると、このルートにはしっかりと破線が記入してある。
9月15日(祝)
野反湖ダムサイトの駐車場から歩きだした。まだ朝早い事もあり車道は閑散としている。100メートルほど歩いたところで、後方から初老の男性が追いかけてきて挨拶をしてきた。
「白砂山ですか?」
「いいえ、違います」
ちょっと気になったので反対に聞き返してみた。
「白砂山にこれから登るんですか?」
すると「ええそうですが」と答えた。そこでこの道は違うから戻って云々と事細かに説明した。男は良かったと言って道を戻って行った。(あの調子で無事に行き着けたのだろうか?)車道を詰めると道はキャンプ場に入って行く、ここで困ってしまった。はたしてどこから登ったら良いものか ?なにしろ迷路のようになっているキャンプ場の道は、なんだか良く解らない。それにバンガローが点在している中を歩くのは、なにか人の家の中に入るようであまり気持ちが良くない。
キャンプ場を抜け出してやっとの事で登山道を登る事になり一安心。ところがなんと一息ついたところで上から犬が下ってきた。おもわずドキリとしてしまった。やはり登山道に犬はあまり似合わないようだ。笹原の中をかなり快適に高度を上げて行き、振り返ると野反湖が朝もやの中に霞んで見えていた。
坂の途中にある水場を過ぎたあたりから、傾斜が緩やかになり登山道脇にはシラタマの実が増えてきた。どうも登山道は前日の雨のためかぬかるんでいて、歩きにくいし何よりもズボンの裾が泥だらけになってしまう。そこでロングスパッツをつけて歩く事にした。傍らでは大きなカタツムリが悠々と道を横断している。しばらくはそのゆっくりと移動する様子を眺めてすごした。
終始見えている野反湖はその形が地形図と同じなのが面白い。(あたりまえかな)その原因を考えてみると、それは湖のまわりに人工的な建物が全く無いからなのだと思われる。はたしてこれがいつまで維持できるのか興味のあるところだ。快適な稜線歩きを続けると、道はやがて「三壁山」に到着した。山頂は展望もなく地形図に山名が記載されていないので、立ち止まる必要もないのでそのまま通過した。
三壁山を過ぎてからも快適な道はそのまま続いていた。時折目指すカモシカ平の笹の絨毯が目に眩しく感じた。さしたるアップダウンもなく樹林帯の中にはいると、標識が現れた。ここが高沢山とカモシカ平の分岐である。迷わず右の道に入りカモシカ平への道を選択した。樹林帯を抜けると目の前にカモシカ平の笹原が開け、それを眺めながらの鞍部までの下降となった。
鞍部に着くとそこには標識があり、水場まで200メートルと書いてあった。とくに水場に行く必要もないので、ここも通過して先に進んだ。ここからの登りは笹原の中に作られた幅1メートルほどの刈払いの道を歩く。上部は再び樹林帯の中に入ってしまうので、そこに入ってしまう前に休憩する事にした。登山道の真ん中に腰を下ろし、笹原の中にポツンと立っている木を見ながらその時間を費やした。今日は体調が快復してから久しぶりの山なので、あまりガツガツ歩かないで行こうと決めた。
カモシカ平から大高山への道は、薮漕ぎを予想してコンパスで方向をセットした。それに帰りの事を考えて巻紙を用意、それにザックには熊よけの鈴を取り付けた。ところが予想に反して立派な道はカモシカ平からさらに続いていた。手入れが無いどころではない、良く刈払いがされており、整備がされているではないか。
終始、樹林の中の展望のない道をひたすら歩く事になる。周囲は笹で覆われており、この刈払いが無ければ歩く事はかなり困難だろう。そんな場所を歩いていくとなにやら笹原を動かす音がする。思わず立ち止まって聞き耳を立てると、あきらかに何物かが意識を持って動いているようだ。それも大型の動物のようである。熊はいないはずだが、気持ち悪いのでザックに取り付けた鈴を鳴らすと音はピタリと止まった。
道はしっかりしているのだか、やはり不安があるので地形図を確認しながら歩いた。時折ナナカマド、ヤマザクラで色付きはじめたものがある。夏の間、山歩きをしなかったので季節の感覚がなにかピンと来ない。なにしろ今年はハクサンコザクラ、ニッコウキスゲなど代表的な夏の花を見ていないのだ。ミズバショウから、いきなり紅葉といった感覚なのだ。そんな立木にプラスチックのプレートが取り付けられており、見ると「一之瀬旅館組合」の名前が書き込まれていた。この道は去年登った志賀の「赤石山」に続いているのだ。
そして展望のあまり無い道を登り詰めると、「大高山」山頂に到着した。山頂には三等三角点が埋め込まれており、「六合山岳会」が書いたプレートがそばに落ちていた。さらに山頂から先の道は「これより先、赤石コースは未整備ダメヨ」の標識が立木に打ちつけられていた。展望は南西方面に開けているだけで、志賀草津の山々が間近に見えている。そしてその方向の笹原の中の立木に「六合大展望台」のプレートが見える。そこまで笹を漕いで入っていくと眼下に池が見えている。これがおそらく「天狗池」なのだろう。ちょっと興味が涌いたが、残念ながらそこまで行ってみようとする気力は残っていなかった。
山頂では430Mhz、50Mhzで運用した。50Mhzでは富士山山頂のJM2WOD/池田さんと初のQSOとなった。
大高山から下山して、再びカモシカ平で30分の休憩をした。ここでは珍しやJS1JDS/栗原さんとQSOすることになった。以前から見るとアクティビティは落ちたが、山登りは続けているらしい。カモシカ平からは再び登りとなり、ゆっくり歩くと「高沢山」山頂に着いた。登山者が一人休んでいただけの山頂は、樹林に囲まれて展望はなかった。その内に女性を含む数人のパーティーがやってきたので、山頂から離れて腰を下ろした。無線をやるにはやはり気をつかってしまう。430Mhzで数局とQSOして山頂をあとにした。
「高沢山」から「エビ山」までの道は、リンドウが咲き乱れる素晴らしい道だ。展望も志賀草津の山が迫って見えているので、時折足を止めてその展望を楽しんだ。快適な道をゆっくりと味わいながら歩くと、エビ山山頂には実にあっけなく到着してしまった。
エビ山山頂では430Mhzのアンテナを立てて、無線の運用をしている人たちがいた。テントまで張ってあるところを見るとかなり苦労したと思われる。しかしあまりにも山頂標識のそばなので、ほかの登山者がここで記念撮影が出来ない。山頂ではほかの人から隠れて無線運用をする私とはずいぶん違うなと思った。良く聞いてみるとまんざら知らない人でもなかったので、山頂から離れるときに軽く挨拶をして早々に山頂をあとにした。山頂から少し離れた所で無線機を出して、「エビ山」山頂として運用した。
エビ山からは野反湖に向かってひたすら下るだけだ。
野反湖に着いて驚いた。なんとそこはキャンパーたちで大賑わいなのだ。子供の泣き声、犬の吠える声、それに人は右往左往している。こんな所でキャンプをして何が楽しいのか良く解らない。よけいにストレスがたまるような気もするのだが。とんでもない喧噪のキャンプ場を抜けて、駐車場についたらなにかホッとした。
「記録」
駐車場06:34--(.09)--06:43キャンプ場--(.58)--07:41三壁山--(.24)--08:05分岐--(.11)--08:16カモシカ平--(.11)--08:27休憩08:35--(.44)--09:19大高山10:21--(.34)--10:55カモシカ平11:29--(.20)--11:49高沢山12:14--(.28)--12:42エビ山13:22--(.38)--14:00駐車場
群馬山岳移動通信 /1996/