雷鳴に追われた「大岩・碧岩(西上州)」
登山日1996年5月27日


大岩(おおいわ)標高1133m 群馬県甘楽郡/碧岩(みどりいわ)標高1120m 群馬県甘楽郡
大岩から見る碧岩
 5月27日(月)

 今日は計画停電で会社は休みとなった。月曜日では無線をやるにもまともな相手はいないので、「山ラン」には関係のない西上州の岩峰に出かけた。場所は「大岩」と「碧岩」である。地形図には山としての記載がないが、西上州マニアには知られた山で、この山域の良いところが凝縮されている。

 天気も良いし、この山域の道幅の狭さも考慮してスクーターで出かけた。まさにその通りで狭い道でもスクーターは快適に山道を縫って目的地に到着した。長野県境に近い南牧村熊倉の集落が始まる手前に「三段の滝入り口」の立派な看板がある。さらに最近出来たばかりと思われる立派な駐車場があり、清潔なトイレが設置されていた。さらに水道もあるので登山口としては完璧な場所だ。しかしこんな良い施設が、いつまで維持できるかは疑問であるが。

 標識に従いグランドを横切り「居合沢」に入る。沢の右岸に沿って登山道は続いており、歩き易いなだらかな登り坂の道である。時折現れる杉の丸太の小橋は、設置されてからかなりの時間がたっているのだろう。かなり痛んでいるようで、巨漢の私が渡ると今にも壊れそうになる。途中でご婦人の2人連れが下ってきて、軽く会釈をしてすれ違った。おそらく「三段の滝」見物であろうと思われた。

 やがて左岸に渡り、ロープが設置してある崩壊地を登り、再び右岸に渡るとそこには「三段の滝」の標識が立っていた。目の前を見ると、水量の豊かな滝が水しぶきを上げながら落ちていた。この滝は西上州では屈指の滝でありなかなか見応えがある。木々の新緑は滝の上で日に照らされて、淡く輝いている。時間さえ許せば、水の流れを見ながらここで一日を過ごしたいと思うほどだ。そこでカメラを取り出してシャッターを数回押した。しかしコンパクトカメラの悲しさ、スローシャッターも切れないからたいした写真にもなるまい。

 三段の滝を越えるには左岸に渡り、その横の斜面を登る事になる。高巻きは普通は疲れるものだが、道がしっかりとしているので全く疲れは感じない。むしろ滝の横を登る事で変化があり楽しいくらいだ。危険な場所もなく滝の上部に着いた。ここで落ち口から下を見たかったが、あまりにも危険なので断念した。

 再び沢に沿って道はしっかりと、つけられており道に対する不安はない。忠実に沢を詰めると標識が現れた。登ってきた方向が「三段の滝・熊倉」沢の本流を行くものが「二子岩」左の斜面に上がるものが「碧岩・大岩」と書いてある。標識に従って左の斜面に取り付き、大きな岩の右側を抜けて行くと再び沢に出た。道はここに来てもしっかりしていた。

 沢から離れ、左に数メートル行ったところに再び標識があった。それは「碧岩・大岩」の方向を示している。またここは石積みの跡があり、かつて作業小屋がここにあった事をうかがわせる。考えてみればここが水場としての最終地点でもあった。ここで初めて腰を下ろして休憩をした。

 休憩後、コンパスで大岩の方向を確認してから道を辿る。道は数十メートル先からいきなり急登の斜面の登りとなった。赤テープが数多く見られるのだが、踏み跡はここにきて無数に見られる。それはあまりにも急登なので、登山者が適当なところを上り下りするものだから、道が出来ないのであろう。こちらも木の根や枝につかまって、適当なところを登った。

 なんとか尾根に上りあげて上部に向けて道を辿る。先ほどの急登はないものの、傾斜は急で喘ぎながら登った。この尾根道は右側が杉の植林のされた斜面が広がり、左は雑木が生い茂っている。この植林の道は標高1000メートル付近まで伸びていた。植林地を過ぎて暫く行くと今度は碧岩の稜線に出た。ここには標識はないが、しっかりした道が稜線上につけられていた。この分岐は左に行けば碧岩、右に行けば大岩である。

 とりあえず碧岩は後回しにして、稜線を右に折れて進むと4分程で再び分岐に出た。ここには標識があり、登ってきた方向は「碧岩」右は「三段の滝・熊倉」左は「大岩」となっている。この標識を見ると三段の滝からは、まだ他にも道が登って来ているらしい事が解る。左の稜線の道を進み、先を急ぐ事にした。この道は快適な道で、新緑の中をくぐり抜ける事は快感さえ覚える。

 稜線上の小ピークを越えて行くと、再び標識があり「砥沢」への道を分けた。そこからすぐに大きな岩が立ちはだかり、左を巻いて登りあげるとそこは素晴らしい景色が広がった。目の前が明るく開けて、碧岩と大岩の岩峰がそれぞれ左右に聳えていた。更に正面は荒船山(経塚山)を中心とした上信国境の山々が緑の衣をまとい連なって。思わずここでもカメラを取り出してシャッターを押してしまった。

 さていよいよ最後の登りだ。

 明るい岩場は気持ちがいい。慎重に三点確保を取りながら、最初は岩場の左側を辿りその上部に出てから、今度は右側を巻いて行く。最後は岩場の上部に登ってそのまま進むとそこが「大岩」山頂だった。山頂にはやはりG氏の山頂標識があり、これは一度立木から離れてのであろう、針金で枝に吊るしてあったからだ。山頂の東側は雑木で展望は効かない。それとは対象的に西側は目の前の碧岩を中心とした素晴らしい展望が広がった。山ランのポイントにはならないのだが、430Mhzで1局のみQSLの交換を約束した。

 それにしても目の前の吃立した碧岩は、どこから取り付いたら良いのかわからない。とても人間が登れるような感じがしない。ガイドブックによればザイルが必要とも書いてある。これから行くべきか、どうしようかと大岩から碧岩を眺めて考えた。ともかく行って、ダメだったら断念して引き返そう。そう思いザックを背負い立ち上がった。それと同時に信州側の方向から雷鳴がとどろいたので、おもわず首をすくめてしまった。

 これは困ったことになったと思った。雷鳴は途切れる事なく鳴り響いて来る。しかし、まだ空が暗くならないところを見ると時間はまだありそうだ。

 急いで大岩をあとにして、碧岩の取り付きに向かった。ここでもう心は碧岩に挑戦する事で決まっていた。頭上では相変わらず雷鳴が鳴り響いる。道は良く踏まれており、赤テープが絶え間なく立木に巻いてあるので心配はなさそうだ。やがて碧岩の基部に到着、道は岩尾根を左側に一度巻いてから登り始める事になる。ここにはタイガーロープがつけられていて、それにつかまってよじ登った。遠くから見たよりも雑木が多く、木の根もかなりあるので、注意して登れば特に問題はなさそうだ。再び短いロープが現れ、ここはかなり緊張しながら登った。なにしろそこは木の根も少なく、立木は枯れているので、うっかりつかむ事も出来ない。それでもなんとか慎重にロープを頼りに登った。そのロープもだいぶ老朽化しているので、このロープがダメになったら、かなりきびしい場所になりそうだ。その後はたいした岩場もなく立木につかまって登る事が出来た。途中にトウゴクミツバツツジの見事な花株があり、しばし見とれてしまった。

 傾斜が緩やかになり、道がほぼ水平になると同時に山頂に到着した。山頂は標識はなく雑木が生い茂っており、思ったほどの展望もない。少々期待外れのする山頂だった。雷鳴のする方向の空を見ると、黒い塊がこちらに向かって来るように見えた。しかしここでも記念写真と430Mhzで1局とQSLの約束をして、すばやく山頂をあとにした。

 急な岩峰の道は、登りよりも下りの方がはるかに難しい。慎重に三点確保を守り、ともかく焦る気持ちを抑えながら岩場を下りた。碧岩の基部に着いた頃より、空から雨が降りだし、新緑の林に雨音が響いているのが解る。しかし、ともかく本降りにならない事を祈りながら道を急いだ。何しろ沢に沿った道である、雷雨による鉄砲水でも出たら、それこそ生命の保証はない。そして三段の滝を過ぎたあたりから雨が強くなりはじめた。

 そして、登山口に着いたところで雨は本格的に強く降り始めた。この季節なかなか天候を読みとるのは難しいと感じた。




「記録」

 登山口10:41--(.18)--10:59三段の滝--(.10)--11:09滝の上部--(.14)--11:23作業小屋跡11:29--(.21)--11:50碧岩分岐--(.21)--12:11大岩12:56--(.16)--13:12碧岩分岐--(.11)--13:23碧岩13:33--(.09)--13:42分岐--(.20)--14:03三段の滝下部--(.14)--14:17登山口


                    群馬山岳移動通信 /1996/