コウシンソウ咲く「庚申山」から「鋸山」   登山日2007年6月16日



鋸山直下から見る皇海山


庚申山(こうしんざん) 標高1892m 栃木県日光市/駒掛山(こまかけやま) 標高1808m 栃木県日光市/鋸山(のこぎりやま) 標高1998m 群馬県沼田市・栃木県日光市/女山(おんなやま) 標高1836m 群馬県沼田市・栃木県日光市





鋸山は庚申山から皇海山に向かう途中にある山だ。去年の12月に挑戦したのだが、思わぬ深雪で断念した経緯がある。本来なら、皇海山に登るべきなのだが、そんな体力は持ち合わせていないので、コウシンソウの咲く季節に鋸山までを目標に登ろうと考えていた。

6月16日(土)


自宅を午前2時に出発して、2時間ほどかかって登山口の駐車場広場に到着した。すでに3台が駐車しており支度を整えていた。いずれも単独行者で、その内の一人は自転車を押しながら出かけていった。やはり、このルートは長い林道歩きがネックになっている。午前4時で、日の出まではまだ30分あるが、周囲は充分明るいので不安はない。新緑の中の林道を詰めると、約1時間で一の鳥居に到着した。疲労もそれほどないので、立ち止まることもなくそのまま登山道に入った。
登山道と言っても猿田彦神社の参道なので快適な道である。蛙の夫婦岩を過ぎると傾斜がちょっときつくなった。ちょっとペースが落ちたが、それでも一の鳥居から約1時間で旧猿田彦神社跡に到着した。ここはクリンソウの小さな群落があり、今はまさに満開だった。サクラソウ科の花は可憐で美しく、疲れを忘れさせるものがある。ザックを放り投げてカメラのレンズを向けた。


今日の目的のひとつはコウシンソウなので、ここから庚申山荘には向かわずに「お山巡り」と呼ばれるコースを選んだ。このコースは危険な箇所もあることから雨天時は利用しないこととなっている。幸いにも今日は梅雨時とは言え快晴で湿度も少なく快適な天候となっている。神社跡から右の道を辿り、沢を渡って宇都宮大学の「嶺峯荘」の横を抜けて笹の斜面を登る。笹原の中に付けられた道はしっかりとしており、ぐんぐん高度を上げることが出来た。時折、物音でギクッとするが、それは鹿の群れで人影を見つけると、あっと言う間にどこかに消え去っていく。この時期のおしりには白い毛が座布団のように見える。
急な道もやがてなだらかになると、満開のシロヤシオの群落の下をくぐることになる。シロヤシオの花は、葉が同時に出ているので、アカヤシオなどとは違って華やかさに欠ける様な気がする。道を振り返れば緑の森が遠くまで続いている。森の上は青空がスカッと晴れ渡っている様は実に気持ちの良いものだ。


レンゲツツジ旧猿田彦神社のクリンソウ
シロヤシオ奇っ怪な岩の下にコウシンソウが咲いていた


道は尾根を忠実に登っていくのかと思ったら、途中で左の岩場に巻きながら下っていく。その岩場は、まさに鮮やかなピンクの絵の具を筆で吹き付けたようなユキワリソウの群落となっていた。思わず、見入ってしまいその光景を見つめてしまった。花を見ながら岩場を進むと、踏み跡が乱れて道の先が分からなくなってしまった。どうしたことかとルートを探していると、なんとここの岩場にコウシンソウが咲いているのを発見した。この踏み跡はコウシンソウを見るための道だったのだ。ともかく、今日の目的のひとつであるコウシンソウを見つけることが出来たのは、偶然の事だったのに違いない。コウシンソウは思ったよりもずっと小さく、細かいと言った方が適切な表現のように思える。これが絶滅危惧種でなかったらこれほど騒がれないのに、そんなことを考えてしまうほど目立たない花だ。傍らで咲くユキワリソウの方がよっぽど魅力的である。結局、コウシンソウのところで40分近く滞在してしまった。

ユキワリソウ
コウシンソウ
吊り橋(しっかりしている)


そのひとつの原因はルートを失ったからだ。踏み跡だらけでどこに行ったらよいのか判らない。ふと、下を見るとなにやら標識がある。近づいてみると、「落石注意」と書いてある。さらに下を見ると、立派な吊り橋があるではないか。これでは分からないはずだ。このルートは逆コースの方が分かりやすいと思う。吊り橋を渡り、踏み跡に沿って屹立した岩壁中腹を横切るように道は続いている。要所には橋やロープがあるので難易度は少ないように思える。しかし、時として踏み跡が乱れることがある。きっと、コウシンソウの絡みなのだろうが、そんなときは無理に進まないことだ。引き返えして慎重にルートを探すことだ。下手をすると進退窮まる事になりそうだ。実際、このルートで2回ほど迷ってしまった。


「鬼のひげすり」「めがね岩」などを過ぎて、石祠が安置してある岩場を過ぎると、庚申山荘からの道と合流する。ここでは単独行の男性が二人で談笑していた。どうやら、ここまでの間にコウシンソウは見られなかったようである。一人の男性がこの先の山頂手前に群生地があると言う。そこで、この群生地まで、同行することにする。男性は、かなり山慣れているようだったがペースが遅い。先行しながらそれらしいところを探すが、見つかるものではない。振り返ると、富士山が青空に浮かんでいる。本当に梅雨時とは思えぬ天気となっている。そのうちに下から声がかかった「その岩場の右です」。確かに踏み跡があるので登山道から逸れてみると、確かにコウシンソウがひとつかみ程度見つかった。お山めぐりコースから見るとちょっと寂しい群落だ。そのうちに男性が近づき、「あれ、この前は岩壁一面にあったのに・・」しばし絶句。それほど寂しい群落だった。あまりにも期待はずれだったので、すぐにその場をはなれてしまった。


めがね岩富士山を遠望する
庚申山展望台から皇海山


傾斜が緩くなり、ほぼ水平の道となると、すぐに庚申山山頂になってしまった。ここは立ち止まらずに、この先の展望台に向かうことにする。展望台からは大展望が広がっていた。盟主皇海山はもとより、日光の山まで一望で、緑が本当に眩しく感じる。そのうちに3人が到着してちょっと賑やかになってきた。話題は、これから先に行こうか、戻ろうかと言うことだ。時間はまだ9時なので、一人を除いて3人が先に進むことになった。3人と言っても単独行なのでバラバラである。まずは私が先んじて出発することにした。


もったいないほど、下降してからちょっとだけ登り上げると、御岳山を通過する。さらに下降して行くと鞍部に辿り着く。この辺は薮がひどく、道形も不明瞭で時間が掛かってしまう。すると後方から鹿が走ってきて私に20m程度のところで立ち止まった。カメラを向けると、慌てて逃げてしまった。笹藪を抜けてさらに進むと駒掛山で山頂らしくなくそのまま通過してしまった。このあたりから、再び笹藪が深くなり何気なく歩いていったら、道を失ってしまった。慌てて修正して事なきを得たが、赤と黄色のプレートが立木に打ち付けられており、誤認してしまったのだ。正規のルートに戻ったところで、しばらく休むことにした。すると、庚申山山頂で会った二人が追いついてきた。そして先に行ってしまった。そのあとを追うようにこちらも腰を上げて歩き出した。
ところが、ここで足が攣って痛みが出るようになった。両足の太ももの下部分の筋肉が硬直しているようだ。これは数年前に荒沢岳で経験したものと同じだ。あの時は歩くことが出来ずに断念して下山した思い出がある。どうやら、運動不足がもろに露呈してしまったようだ。しかし、ここまで来て断念は出来ない。下山だって並大抵の道ではないからだ。重い足を引きずって急登を登ると、展望が開けた薬師岳の山頂に着いた。ここかからはいよいよアップダウンの激しい、まさに鋸の刃の上を歩くような道となった。


熊野岳に登る岩場は、露岩の一枚岩を登るようなものだった、頼りなさそうなトラロープに命を託して慎重に登らなくてはいけない。ここで、先行する単独行の人を抜かすことになった。この方とはこれから前後になりながら同じルートを歩くことになった。今までなら何ともない岩場なのだが、足が攣っているために痛みが太ももに走った。何度か息を整えて必死に登った。


熊野岳の先はハシゴが掛けてある剣の山だ。ロープから見れば格段に歩きやすい。そして最後の登りを歩ききると、そこが鋸山山頂だった。山頂には単独行の男性が一人いたが、すぐに下山していった。しばらくすると、先ほど追い越した男性が到着した。この単独行氏は栃木市からやってきており、2年前に六林班峠経由で下山したという。コースになんの問題もないという話だ。そのうちに皇海山方面から若い男女が登ってきた。女性はなかなか快活で、我々とも良く喋り一気に山頂が華やいだ雰囲気となった。山頂からはほとんど360度の展望が開けていた。本当にここにジッとしていたい気分になったが、足のことを考えるとそうも行かない。早めに山頂を離れることにした。
シカが見ていた熊野岳の登りを見る
ハシゴは楽だ?
鋸山山頂から皇海山を見る


山頂から標識に従って六林班峠に向かうと、すぐに笹原が眼前に広がった。いつかは袈裟丸方面に歩いて見たいものだ。笹原の道を下降すると、やはり足が攣ってきた。これはたまらないと笹原に転がって休んだら、痛みが和らぐどころか、今度は激痛が襲ってきた。笹原の中でのたうち回ってしまった。こんな時のために用意しておいたクエン酸を山頂で呑んだのだが、効果はあらわれていないようだ。ともかく休むとダメなようなので、痛みをおして歩くことにした。


あとで医師に聞いたところでは、痛みが出たら、冷やすこと、テーピングも有効、休むと血行が悪くなるので逆効果と言うことなので、歩いたことは正解だったようだ。笹原の中の道はやがてなだらかになり、それと同時に踏み跡が怪しくなる場所もある。地形図を見ると、六林班峠からは大きく左に曲がることになるので、どうしても左に寄ってしまう傾向がある。GPSで確認すると、ポイントはまだ先なので右に進路を修正して歩く。道の途中にある三角点の目立たないピークらしいところが女山だ。標識もなく全く山とは思えない場所だった。ここをわずかばかりダラダラと下ると、幅の広い道に出た。


ここが六林班峠で、そこは車道かと誤認するほどの立派な道である。焚き火の跡もあり、人が利用していることが推測できる。足の痛みに耐えながら、鋸山から引き返すことを考えたらとても幸せなことだった。ともかく安心して一休みすることにした。程なく、栃木市の単独行の男性が到着した。しばらく話したところで、先行して歩き出すことにした。歩き始めるとすぐに、沢を横切ることになる。ここで、充分水分補給をして再出発となった。何度も何度も徒渉を繰り返して、セミの鳴き声を聞きながらゆっくりと歩いた。


鋸山から六林班峠を目指す六林班峠
快適な六林班峠からの道沢は良い水場となっている


庚申山荘に近づくにつれて、ヘリコプターの音が激しくなった。しかし、私が庚申山荘に着いたときには、その騒音は無くなっていた。聞けば、落石で骨折した人を搬送したとのことだ。庚申山荘からは足の痛みが激しくなり、明らかに素人と思われるご夫婦に追い抜かれてガッカリしながら、ゆっくりと歩いた。コースタイムを見ると往路とほぼ同じ時間で歩いていたことが分かった。

かじか荘のヌルヌルした湯に浸かってから帰路についた。

その、2日後に風呂上がりに妻が脇腹にある変なものを見つけた。なんとそれは笹ダニだった。2日間に渡り私の身体を動き回っていたのだ。ともかく、まだ食らい付いていなかったので、一安心だが、気持ちが良くないことは事実である。

群馬山岳移動通信/2007


笹ダニ(体長3ミリ程度)




04:12ゲート前駐車場--(.53)--05:05一の鳥居--(.56)--06:01旧猿田彦神社跡06:08--(.43)--06:51コウシンソウ観察07:34--(.17)--07:51めがね岩--(.20)--08:11分岐(合流)--(.39)--08:50庚申山山頂09:06--(2.05)--11:11鋸山11:42--(.55)--12:37六林班峠12:48--(1.55)--14:43天下見晴らし分岐14:52--(.08)--15:00庚申山荘15:08--(.51)--15:59一の鳥居--(.54)--16:53ゲート



この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

トラックデータ

地形図の登山道とGPSの軌跡には大きな違いがある。(おそらくGPSが正しいと思われる)