日溜まりの小野子三山縦走
(小野子山〜中ノ岳〜十二ヶ岳)  登山日1999年2月14日


小野子山(おのこやま)標高1208m 群馬県吾妻郡・群馬県北群馬郡/中ノ岳(なかのたけ)標高1180m 群馬県吾妻郡・群馬県北群馬郡/十二ヶ岳(じゅうにがたけ)標高1201m群馬県吾妻郡・群馬県北群馬郡
小野子山から中ノ岳、十二ヶ岳を見る
 2月14日(日)

 小野子三山は、小野子山、中ノ岳、十二ヶ岳であるが、まだ中ノ岳には登っていなかった。そこでなんとか登ってみたいと考えていたが、わざわざ中ノ岳だけに登るのは癪なので、なかなかその機会はなかった。ふと考えてみると、小野子山の姉妹ツツジの場所を見たことがなかったので、そこを経由して中ノ岳に登ることにした。

 北毛青年の家の前の林道を登っていくと、程なく標識が現れた。標識は赤芝姉妹ツツジの方向を示すもので、ここが小野子山の登山口となる。駐車余地はこの登山口の前に2台程のスペースがあった。試しに林道をさらに進んでみると、適当な余地はまだ先にも数台は置けるようだった。再び登山口に戻り、車の中を引っかき回して支度を整える。支度をしている間にも、数台の車が前を通り過ぎ、林道の奥に消えていった。ひょっとすると、この先にも登山口があるのかも知れない。そう思ったが、ここから登ってもたいした時間ではないので、この場所から登ることに決めた。

 登山口からの道は、軽トラックの轍がありかなりの幅員がある。しかし、とても一般の車が入り込むような道ではない。うっすらと道の上に積もった雪を踏みしめながら、ゆっくりと歩いていく。すると今度は、さらに幅の広い道と合流した。一部コンクリート舗装もあるこの道はかなりの急傾斜で、ちょっと息切れをしてしまう。

 この幅の広い道も、右に大きく曲がるところで、登山道と分かれることになる。ここからが、やっと登山道と言った雰囲気でしっかりした道が上部に延びている。なぜかこんなにもしっかりした道を歩くのが、妙な感じである。思えば今年になってから、まともな道のある山に登っていない。そう考えると、今日の山は久々にメジャーな山と言うことになる。

 振り返ると、子持山のしっかりした山容が青空の中に浮かんで見事だ。子持山は女性、小野子山は男性との考え方もあるが、ここから見ても子持山は女性的な感じは受けない。これも上州の「カカア天下」と言うことだろうか。

 灌木帯の道を抜けると、明瞭な尾根に突き当たった。この尾根は左に折れて、さらに上部に進む。するとすぐに標柱があり道が分岐した。標柱には、右に行くと姉ツツジ直登すると妹ツツジと読めるのだが、妹ツツジは文字を消した痕がある。以前、妹ツツジが枯れたとの新聞記事を読んだ事があるが、その為なのかも知れない。

 ともかく、姉ツツジの方に向かって、右に折れてほぼ水平に歩いていく。すると、すぐに目の前に由緒ありそうな古木と看板が目に入った。周りには有刺鉄線が張り巡らされ、これがすぐに姉ツツジであることがわかった。姉ツツジ(樹種ゴヨウツツジ)は、さほど大きいとは感じられないが、花期になり白い花をつければ見事なのだろうと想像した。道は姉ツツジから直接、再び尾根に向かっていた。

 尾根に乗って、小野子山を目指して歩くと急に北西方向の展望が開けた。八ヶ岳、浅間山、草津、上越国境の山は雪を被って青空に映えている。そして目の前には、これから目指す中ノ岳、そして十二ヶ岳が重なり合って立ちはだかっていた。

 ここで、雪が深くなってきたので軽アイゼンを装着した。小野子山山頂までは、快適な尾根歩きだ。終始見えている山々が実に心地よい感じで、足が軽快に動いていく。そしてあっという間に小野子山山頂に到着してしまった。山頂にはいくつもの山頂標識があり、三角点も設置されていた。どうやら、今日はこの山頂には一番乗りのようで、雪の上の靴跡も古いものしかなかった。記念撮影をして、小野子山山頂を後にした。

 小野子山からの下降は大変な急傾斜の道で、とても軽アイゼンがなければ安心して歩けそうにない。慎重にピッケルを支点にして下りるのだが、それでも緊張感は消えなかった。そこで、道から外れて歩くと今度はかなり楽になった。そのうちに、下の方から人の話し声が聞こえて、やがてその人たちとすれ違うことになった。

 そのパーティーは総勢15人ほどの、おなじみの中高年登山集団だった。どうやら、登山口で支度をしているときに、通り抜けた数台の車のパーティーに違いない。先頭の肉付きの良い女性が、挨拶代わりに「ずいぶん早いですね」と声をかけてきた。「ええ・・」と返事にもならない言葉で答えて、そのパーティーとは早めにすれ違った。

 最低鞍部に着くと、そこには林道が延びてきていた。しかし、雪がかなり積もっており、さすがにここまで車で上ってくる強者は今日はいないようだ。最低鞍部から中ノ岳の急登をいよいよ登り始める。道は尾根に沿ってつけられており、道の右側は刈り払いがされて見晴らしが良い。日差しは暖かく、眠気を覚えるようだ。そんな絶好のコンディションで登ることは滅多にないから、疲れが気にならない。
中ノ岳から十二ヶ岳を望む
 やがて、道はなだらかになり、中ノ岳山頂にたどり着いた。山頂には標識があり、小野子山と十二ヶ岳の方向を示していた。展望はあまり良くなく、灌木の間から周囲の山々を見るだけだ。携帯電話で自宅に連絡、子供に無線に出てもらって、奥の手QSOを済ませた。時間を見ると、まだ10時半、いかにしてもこれで引き返すのはもったいない。そこで目の前にある十二ヶ岳に向かってみることにする。

 十二ヶ岳はかつて、その登りがきつくて苦労した思い出がある。しかし、その山頂の展望はいまだに忘れがたいものが残っていた。中ノ岳からの下降もかなりの急傾斜で、帰りの登りのことを考えると、ちょっと不安になる。それでも時間はまだ早いので、何とかなりそうだと言う気持ちが支配していた。

 鞍部には10分ほどであっけなく到着してしまった。いよいよ十二ヶ岳への登りである。ちょっと登ると、男坂と女坂の分岐があり、迷うことなく男坂を登ることにした。なんと言っても無駄なエスケープルートを通らずに、直接登ってしまうのがこのルートの気持ちの良いところだ。

 思ったほど積雪もなく、前に登ったときよりもあまりきつくないので、なにか拍子抜けをしてしまう。何のことはなく、ひょっこりと山頂に飛び出してしまった。

 山頂は期待に答えるかのように、360度の大展望が広がっていた。まさに絶景の大パノラマがそこにはあった。しばらくは座ることも忘れて、何度も何度も周囲を見回して、知っている限りの山名を心の中でつぶやいた。それは、すでに山頂には中年の夫婦(?)と思われる二人がいたからだ。この二人とは距離を置いたところに陣取って、コンロを取り出して食事の支度に取りかかった。その間を利用して、再び自宅の子供と連絡をとって時間を過ごした。

 出来上がったラーメンを食べながら、隣の二人のあまり正確ではない山座同定を、聞き流しながら、暖かい山頂の日差しを楽しんだ。何という幸せな時間なのだろうと、遠くの山を見ながら何度も心の中で繰り返した。

 去りがたい十二ヶ岳山頂を女坂経由で後にした。

 中ノ岳と小野子山の鞍部からは、小野子山の山頂には向かわずに、1181mの標高点に向かって延びる道にはいった。道はウサギの足跡だけが続く人の歩かない道だった。この道は終始展望に恵まれており、何度も何度も振り返っては大展望を楽しんだ。これだけの大展望を、この山で再び見ることは無いだろうと思うと、なぜかとても目頭が熱くなった。


「記録」

赤芝登山口08:27--(.18)--08:45登山道に入る--(.22)--09:07姉ツツジ09:11--(.23)--09:34小野子山09:46--(.13)--09:56鞍部--(.22)--10:18中ノ岳10:32--(.10)--10:42鞍部--(.15)--10:57十二ヶ岳11:30--(.22)--11:52中ノ岳--(.10)--12:02鞍部--(.15)--12:27小野子山稜線--(.36)--13:03赤芝登山口


           群馬山岳移動通信 /1999/