ロングコースで歩く長沢背稜(秩父山塊)  
登山日2009年11月15日



この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)


白岩山(しらいわやま)標高1921m)埼玉県秩父郡/芋木ノドッケ(いもきのどっけ)1946m埼玉県秩父郡・東京都西多摩郡/長沢山(ながさわやま)標高1738m/水松山(あららぎやま)標高1699m/滝谷の峰(たきだにのみね)標高1710m/酉谷山(とりだにやま)標高1718m/熊倉山(くまくらやま)標高1427m

同僚のTさんは一週間ほど前に雲取山を歩いたときに見た、芋木ノドッケから続く長沢背稜が気になって仕方ないという。そこで歩いてみたくて考えたルートがとんでもないロングコースであり、誘われたが実行には躊躇してしまった。しかし、二台の車を使って歩く機会はそんなにはないので、最終的には4日前に実行することを決めた。ロングコースでもあり、最悪の場合はエスケープルートとして、酉谷山の先から大血川に降りることにした。


11月15日(日)
Tさんと前夜に「道の駅あらかわ」で、ささやかに酒宴をやってからそれぞれの車で車中泊とした。午前4時前に起きだすと、空は満天の星が輝き、眩しさを感じるほどだった。これなら今日の晴天は約束されたも当然だ。おもわず気合を入れて湯を沸かしてカップラーメンを作り食べる。その後、前日にTさんが調査しておいた登山口に向かって車を走らせる。そのおかげで迷うこともなく、熊倉山の城山コースの登山口にたどり着いた。帰りは熊倉山からここに下降してくる予定である。私の車をここに置いて、Tさんの車で大血川上流の登山口を目指す。


釣堀を過ぎてさらに詰めると人里から隔離されたような「禅宗太陽寺」がある。さらにその道をつめると、三峯神社から雲取山に続く稜線上にある、お清平に向かう登山口に到着した。そこには東屋があり、すでに車が二台路上駐車してあった。当初は太陽寺のあたりから歩こうと考えていたが、Tさんの事前調査のおかげですんなりとここまで来る事が出来たので、約1時間の時間短縮となった。これは時間の貯金となり、結果的には大きな安心感となった。暗い中ヘッドランプを点けて装備を整える。寒さはそれほど感じず、手袋なしで作業が出来た。

5時半にTさんを先頭にして歩き始める。いきなりの急登がはじまり、これからのロングコースが心配となってくる。この時期は薄明から明るくなるまでの時間経過が早い。ヘッドランプで歩き始め、周囲の山頂部分が暖色に染まり始めてすぐに山腹まで光が当たっていく。その光景は実に見事とお言うほか無い。さしたる展望もなく植林地を過ぎて、落葉をしてしまった広葉樹の林を登ることになる。

やがて、尾根に辿り着くとそこがお清平で、ベンチと案内板や標識が賑やかに立ち並んでいる。しかし、今まで穏やかと思われた天候は、この場所に着いた頃から強風が吹き荒れて来るようになった。歩いていたときは暑くて仕方なかったのだが、この場所ではジャンパーを着ても寒いほどだった。そんなわけで、ゆっくりと休むことなど出来ずに、早々に腰を上げて歩き出すことにした。



大血川林道の登山口案内板

お清平



お清平からの道は良く踏まれており、ここが三峯神社から雲取山へのメインルートであることを実感する。しかし、そのわりには展望は優れずに、この落葉の季節でさえも周囲の景色を楽しむほどではなかった。ただ、ひたすら我慢の歩きが続くのみであった。今日は体調が良いのか、先を歩くTさんのペースが速く、付いていくのが結構辛い。しかし、この寒さでは少しくらいのオーバーペースの方が良いのかも知れない。時折、樹間から見える和名倉山の大きな山容はとっても目に付く。和名倉山は、以前登ったときに、あれだけ立派な山容でありながら、山頂からの展望が無くガッカリしたことが思い出される。

男女4人のパーティーとすれ違って、少し歩くと白岩小屋に着いた。傍にはテントが二張りあり、その持ち主が水汲みに出かけるところだった。ザックを下ろさずに小屋の周囲を一巡りする。それはもう朽ち果てて倒壊しそうな小屋はちょっと近寄る気になれなかった。小屋の前には天水を貯めたドラム缶があったが、これはまさか使わないだろうなと心配になるほどであり、これが営業小屋だとは思えぬ状態である。引き戸を開けて、中に入るのもはばかられるのでそのまま通過することにする。

小屋を離れて、急登を登っていく、風は右から強く吹き、Tさんとの会話も聞き取れない状態である。それでも針葉樹の樹林帯にはいると風も収まり、暑さがぶり返してくる。ちょうど良い風はなかなか望めないものだと思った。白岩小屋から20分ほど登ると傾斜が緩み、白岩山山頂に到着した。登山道脇にはベンチがあり、ザックを下ろしてゆっくりとすることにする。山頂標識と三角点は登山道から数メートル離れたところにあった。とりあえず撮影して、ベンチでくつろぐことにした。この時点で、予定よりも1時間ほど先行している。これはTさんが前日に登山口を探しておいてくれたことが大きなウエイトを占めている。この1時間を貯金にすることで、行動はかなり余裕が出てくることは確かだ。



前白岩山

和名倉山が大きい

白岩小屋

白岩山山頂



白岩山山頂から10分足らずで、鞍部に到着した。鞍部には「芋ノ木ドッケ」(地形図では芋木ノドッケとなっている)の標識と、地名の解説をする看板が設置してある。それによればドッケというのは「突起」が訛ったこととある。その意味からすればこの鞍部は「芋木ノドッケ」であるというのは妙である。ここで道は二分するが、数日前に歩いているTさんは立ち止まることもなく直進して斜面を登っていく。道は倒木が多く、歩き難いので跨いだり潜ったりとするものだから、結構疲れる道である。それもわずかな時間で傾斜もなくなった。そのところから右に進んだ高みが芋木ノドッケであった。山頂から少し下がった地点に標識と長沢背稜の方向を示す表示板がつけられていた。

芋木ノドッケからいよいよ本日の目的である長沢背稜を歩くことになる。落葉したダケカンバとツツジの疎林を縫って、どんどん歩いていく。なんとも気持ちよい尾根歩きだ。それまで吹き荒れていた風も無くなり、快調に飛ばしていくことが出来る。このまま行けばなんと言うことはなく、熊倉山まで行けそうである。ところが快適なのは最初のうちだけで、急傾斜の下降が待っていたりする。地形図には表現されていない小さなアップダウンがかなりあり、意外と疲労が蓄積される。それでも振り返ると穏やかな雲取山が見送ってくれているのが印象的だ。

芋木ノドッケから約一時間で長沢山山頂に到着した。おそらく長沢背稜の由来となった山だから、かなり立派な山頂で展望がよいと思っていたのだが、単なるピークで展望もなくちょっぴり期待はずれであった。せっかくなので、ここでしばらく休憩としてアンパンとゼリー飲料を摂った。それにしても、この長沢背稜はさしたる展望もなく、特徴的な景色もなく、きわめて単調な山歩きである。Tさんと一緒でなければ、何ともつまらない山歩きとなったに違いない。



芋木ノドッケ

長沢背稜を歩き始める

長沢山はまだまだ遠い

振り返ると雲取山が見える

木の根で歩き難い

長沢山への登り



長沢山から下降すると、道はかなり人の手で整備されている感じを受ける。それは斜面のルートに丸太が打ち込まれ、道が崩れないようになっていたからがだ。このあたりまではかなり高い頻度で登山者が登っていることを創造させる。やがて水松山にさしかかるところにある標識で、ちょっと判断に迷った。「長沢背稜  天祖山酉谷山一杯水」と書いてあるが、天祖山なんて今まで無かったものだから、地形図を引っ張り出して確認する。たしかに水松山の山頂ををルートが巻いている。とにかく水松山に登りたいので、方向を示す標識は無いがそのまま山頂に続くと思われる道を辿った。それにしても何故水松山を迂回するようになっているのかわからない。(水松山=あららぎやま)と読むのもなにか腑に落ちない



長沢山山頂

振り返ると芋木ノドッケは遠くなっている

整備された登山道に出会う

標識は水松山は迂回するようになっている水松山は直進する



水松山の山頂には三角点があり、その立木には達筆標識が針金でぶら下げられていた。そのために標識は強風で激しく舞っていたが、なんとかその間隙を狙って写真を撮った。それからTさんと交代で記念撮影して過ごす。達筆標識の裏面は93.4.24の書き込みがあるので、すでに15年が経過しているが、褪せることのないその姿はさらに持続するだろう。

水松山を辞して、都県境をさらに下降しながら進む。やがて迂回していた道と合流すると道は格段に良くなってくる。しかし、この道は微妙にピークを迂回しているので、下手をすると次の滝谷の峰を外してしまうおそれがある。そこで都県境の尾根に沿って歩くように努めた。滝谷の峰手前の1690m付近では右に迂回する道がある。しかし、迂回するとどうも山頂に行けそうにない。迂回路を進んで見上げると大きな岩場が控えている。Tさんは無理だろうと言うが、再び戻って都県境と思われる尾根を登ってみる。すると何のことはない簡単に岩場も通過することができた。さらに進むと尾根は平坦になり、あまり人が入り込んでいない雰囲気である。それでも尾根に沿って歩いていくと、どうもおかしい。立ち止まってGPSで確認すると、滝谷の峰を微妙に通過してしまうところだった。わずかばかり戻って一番高そうなところでザックを下ろして休むことにする。ここには境界見出の杭が打ち込まれており、山頂標識は見あたらなかった。ここから樹間を通してみると、目指す酉谷山が見える。さらに眼を凝らすと酉谷山避難小屋の青い屋根が見えている。地形図では感じないが、酉谷山はこのピークから左にほぼ直角に折れて歩くような感じだ。



達筆標識

滝谷の峰の佇まい



滝谷の峰からは落ち葉の積もった斜面を一気に下ることになる。歩き始めてここまで約6時間、やっと行程の半分を消化した感じである。時折見える熊倉山は遙か遠くにあり、まだまだ先は長いので気は許せない。尾根に沿って忠実に歩いていくと再び迂回路と合流しさらに5分ほど進むと道は再び分岐する。避難小屋に向かうものと、酉谷山山頂に向かうものである。当然山頂を目指すことして、疲れ切った身体にむち打って斜面を登ることにする。

苦しい登りであるがなんとか息を整えながらやっとの事で山頂にたどり着いた。山頂には三角点と大きな山頂標識が設置されている。すでに山頂には単独行の登山者がザックを背負ったまま景色を眺めていた。展望は南方面にひらいており、山頂部が白くなった富士山の姿が眩しい。それにひきかえ、すぐそばに見える天祖山の石灰採掘によって削られた山肌がなんとも痛々しい。単独行の登山者はこの山域に詳しいらしく、熊倉山の位置やここから下って小黒と呼ばれるピークを正確に教えてくれた。さらに「避難小屋は暖かいから休んできませんか」とも言った。しかし、時間を考えるとそんな余裕は無いので断念だ。登山者はやがて下山して行き、Tさんと二人だけの山頂となった。とりあえず先も見えたことから昼食を摂って、ゆっくりと休むことにした。



滝谷の峰付近から見る酉谷山

滝谷の峰付近から見る熊倉山方面

酉谷山山頂

山頂部が白い富士山



酉谷山の山頂から北に向かって下降する。かなりの急傾斜でジグザグに下降するしかない。それでも道形はハッキリとしているので迷うことはなさそうだ。鞍部から枯れた笹の斜面を登るとちょっとしたピークとなっている。ここが小黒(1650m)で、立ち枯れた木の根っこが風雪にさらされ、その周囲だけ広場のようになっていた。ここからの道もハッキリしていて、急斜面の下降となった。この急斜面は崖のようでもあり、のんびりと歩くわけには行かない。それが証拠にタイガーロープが設置されていた。それにしても急激な下降で、どんどん高度が下がってしまう。これは道が違うのかも知れないと不安に駆られるほどである。しかし、この道はハッキリとしており枝道とは明らかに違う。不安を持ちながらもどんどん下降を続けていくとやがて道は斜面をトラバースする様になってくる。そしてそのトラバースが過ぎると、明瞭な尾根歩きとなった。さらに進むと標高1480m付近で道が分岐する。山火事注意の東京大学の円形の標識がそのそばに立っていた。ここから下降すれば大血川支流の林道に降りることが出来るはずだ。今回のコースを考えていたときに、日没となったらここをエスケープルートと考えていたが、今日はその必要はなさそうだ。



酉谷山山頂から南方面

小黒山頂

小黒からの下降

大血川への下降路分岐



ここからの道は地形図上では平坦に見えるが、小さなアップダウンがありかなりの疲労感を感じる。しかし、今日は二人ともハイドレーションシステムを装備してきたこともあり、休むことなくどんどん進むことが出来た。この時点で水の消費は1リットル程度であったと思う。それでも標高1451mの檜岳までくると、あまりの長時間歩行にうんざりして休憩とした。

檜岳からは熊倉山まで一気に歩くことにした。太陽は次第に高度を下げて、いろんな影の長さが伸びてきている。こんな時はどうしても不安になってくるが、同行者がいると言うことはかなり心強い。あめ玉とハイドレーションシステムの水を飲みながら、展望のない尾根道を我慢しながら進んでいく。やがて馬酔木の木が目立つようになると、ひょっこりと熊倉山の山頂にたどり着いた。

山頂は三角点と大きな錆びた山頂標識があった。とりあえずここまで来れば安心だ。いままで温存しておいたリンゴを食べること、Tさんはラフランスである。それと、ノンアルコールビールでここまでの苦労を称え合って乾杯とした。しかし、時刻は午後3時を回るとさすがに寒い。もっとゆっくりしたいところだが、震えながら休むのも無駄時間である。どちらからともなく下山するという事でザックを背負った。

熊倉山からの下降は、これまた苦難の連続となった。なにしろ急斜面とその距離の長さに閉口するばかり。標高差800mなのだが、こんなにも長いのかとうんざりした。特にエアリアマップの時間では1時間30分だったから、ひょっとしたら1時間程度で行けると思っていたが、そんなに甘いものでは無かった。

途中で見下ろした秩父市街地の景色が印象的だったが、さしたる展望もなく二人とも疲れ切っていたのか口数も少なかった。とりあえず出る言葉は「あとどれくらいかな?」と言うものだ。それにしても、この熊倉山への城山コースは登るとしたらかなりの体力が必要であろう。



檜岳山頂

熊倉山山頂

ノンアルコールビールで乾杯

熊倉山から下降する

秩父市街地が夕日に輝く

下降路にこんなピークがあった(疲れているからきつい)

植林地の下降まだ着かないかな

やっと駐車地点に着いた



駐車地点でザックを下ろし、用意しておいた2リットルペットボトルの水で顔に付いた汗の塩を洗って、やっと人心地がついた。さらに大血川林道にデポしておいた車を回収に行くと、あたりはすっかりと暗くなっていた。

今回の山行はさしたる展望もなく、印象に残らない山行となった。とにかく、長距離を歩いた満足感だけがせめてもの慰めだ。GPSの測定で、のり面距離は23キロとなっており、ロングコースであることを実感した。きっと、このコースを参考にして歩いてみようと思う人は中々いないだろう。


「記録」
登山口05:28--(.55)--06:23お清平06:33--(1.20)--07:53白岩山08:00--(.18)--08:18芋木ノドッケ08:20--(1.04)--09:24長沢山09:30--(.44)--10:14水松山10:16--(.50)--11:04滝谷の峰11:06--(.57)--12:03酉谷山(天目山)12:21--(.44)--13:05分岐--(1.40)--14:45熊倉山15:05--(1.23)--16:28林道


群馬山岳移動通信/2009