単独ではちょっと「マムシ岳」
登山日1996年11月2日
猫吉さんとかねてから計画していた目標の山は、もろもろの事情であっさりと中止となった。その代わりに浮上したのが静かな西上州での酒盛りと山登りだった。
11月2日(土)
待ち合わせの場所とした上野村の「道の駅」駐車場で猫吉さんを待つ事にした。特に時間を指定したわけではないのだが、遅くなりそうなので車の中で横になった。やがて電源を入れたままにしておいた無線機から、猫吉さんの声が聞こえてきた。どうやら渋滞に阻まれ、さらに道に迷って遅れたとのことだった。
猫吉さんが到着したのは19時をまわっており、あたりは真っ暗だった。さてこれから幕営地を探すのだが、暗くてなかなか思うように見つからない。仕方なく某キャンプ場の駐車場に決めた。ここはなかなかキャンプには良いところで、テントを設営してさらに周りを2台の車で取り囲んでおいた。
テントの中に入り、まずはビールで乾杯。あとは適当に持ち寄ったつまみで腹を満たした。特に猫吉さんが持ってきたニンニクはフライパンで炒めて食べたが、そのにおいがテントの中に充満して帰るまで抜けないので参った。最後はおでんで締めくくったのだが、満腹でやっとの思いで腹の中に押し込んだ。テントの中では持ち込んだパソコンで、最近購入した「山と地図Vol.2」のCDを稼働させて遊んだり、これからの山の計画などで話が進んだ。
日付が変わった頃、疲れが出たために眠ることにした。お互いにテントは離れて、それぞれの車に入って朝まで熟睡してしまった。やはり眠るには静かな場所と言うのは最高の環境を提供してくれたようだ。
11月3日(祝)
朝7時過ぎに目が覚めた。空模様が気になったので、曇った窓ガラスを通して外を見ると、どうやら雨の心配はなさそうだがどんよりとしている。それにしても驚いたのは周りの景色である。周りを取り囲む山々は素晴らしい紅葉で、まさに今年最後の彩りを見せている。出発に際していろいろな片づけを済ませてあわただしく駐車場をあとにした。
**「マムシ岳」**
どうも名前だけでその山のイメージが出来上がってしまうところがある。「マムシ岳」はどうも名前からして登るのに臆するところがある山だ。とても真夏には登る気分にはならないし、藪山だから一人で登るには勇気がいるからだ。どう考えても登山の対象としても、魅力に欠ける点があることも事実だ。こんな時は物好きな登山の同行者がいるというのは心強い。
私が先頭で、「ぶどう峠」への山道を車で登っていく。いつもながらこの道は狭いので緊張してしまう。「諏訪山」登山口の浜平への分岐をすぎて更に山道を登り、中ノ沢地区を通過してなお登って行く。すると中の沢第二ダムと書いた立派な石碑が目に付く。そこからわずかな距離で頭上に送電線が張られ、沢には橋がかかる場所に出た。「高崎営林署」の概念図を記した標識もあったが、あまり役立ちそうにない。地形図を見ながら猫吉さんが長年の経験で、送電線の巡視路があるはずだと調べている。しかし巡視路らしき形跡がないので、しかたなくそのまま斜面を登ることに決めた。
少し戻って駐車余地があったので、そこに車を止めることにした。そこにはコンテナの作業小屋があり、中を覗いてみると「JAL」のカレンダーが掛けてあった。これからも、「上野村」と「JAL」の関係は永遠に続いて行くのだと思った。
さて猫吉さんを先頭にして斜面を歩き出した。かなりの急傾斜の斜面で、けもの道と思われる踏み跡をたどって登っていく。そしてなんとなくニンニクの臭いの汗が出始めたときに、鉄塔の基部にたどり着いた。ここから見ると鉄塔が延々と、ぶどう峠の北を抜けて信州側に通じているのがよくわかる。現在、居るところが206鉄塔であり、目指す「マムシ岳」はこの先の203鉄塔あたりから登るのが近そうだ。しかし、地形図を見るとその手前の尾根を登るのが正解なのかもしれない。ともかくその時の様子で決めることにした。
206鉄塔を過ぎるとすぐに立派な道が現れた。思わず「ラッキー!」と叫んでしまった。このまま巡視路を進んで、203鉄塔まで行けるのかもしれないからだ。そして少し進んだところで、おなじみの黄色い杭があり「安曇幹線2号・205 206」と書いてある。さらにここはT字路になっており下に降りる道がある。目を凝らしてみると、下を流れる沢には橋が架かり車道と結ばれているのがわかる。帰りはこの道を下って見ようと言うことで猫吉さんと意見が一致した。
立派な道は快適で、次の205鉄塔までは緩やかな登りでわずかな時間で到着してしまった。これではこの205鉄塔から尾根を登るのは得策ではない。次の204鉄塔まで行くことにする。ここから巡視路は、ほぼ水平に付けられている。
相変わらず快適な道は、不安を全く感じさせない。谷を挟んだ対岸の山は、カラマツが紅葉して実に素晴らしい。205と204鉄塔のほぼ中間地点で、雑木が伐採された場所があった。地形図を眺めると、ここの尾根を登って行けば山頂の稜線に行けそうだ。しかし204鉄塔まで行ってから考えても遅くはないので、このままかまわず先に進んだ。
204鉄塔につくとそこは素晴らしい展望が待っていた。周りを取り囲むように紅葉の山が迫っているのだ。これだけの色彩はどうやっても人工的に作ることは不可能だと思う。いつまでも眺めていても飽きることのない景色だ。しばらく猫吉さんとはお互いに無言で展望を楽しみながら、この風景を目に焼き付けることにした。先ほどの中間地点の尾根はかなりの急傾斜で、途中には岩のコブまである。つくづく登らなくて良かったと感じた。猫吉さんが持参したミカンを食べながら、さて次は203鉄塔まで行ってから「マムシ岳」に行こうと話し合った。
さて203鉄塔に向かって出発しようとして道を探したが、なんと道がない!これは困ったと二人であちこち動き回ったが、どこも藪ばかりで完全にふさがれてしまった。しかたない、こうなったら203鉄塔は諦めて、ここから尾根を登るしかない。
覚悟を決めて藪の中に入った。この前の「土鍋山」は笹藪だったが、今度は木の枝の藪だ。まあ、こちらのほうがましかもしれないと思い、先行する猫吉さんのあとについた。尾根はかなりはっきりしており、迷うこともなさそうだ。それでもコンパスだけは離さずに時折確認して進むことにした。
10分ほど登ったところで、大きな岩壁に突き当たった。とても直登は出来そうにない。猫吉さんは左側に、私は右にまわって岩壁を巻く事にした。結果は私の方が正解だったようで、先に上部にたどり着いた。ここからは私が先行して登ることになった。藪はかなりうるさく、座り込むことさえ出来ないので、仕方ないから歩くしかない。これでは拷問と変わりないではないかとさえ思った。それでも上部に行くに従って藪も少なくなり、なんとか休憩する場所に出会った。
休憩後、今度は猫吉さんが先頭になり、再び藪の斜面を登る事になった。そしてしばらく歩いたところで猫吉さんから歓声が聞こえた。どうやら稜線に到着したらしい。私も遅れて稜線に到着すると、そこには藪もない立派な道がついていた。一息いれて出発しようとしたら、「覚えましたか?」と猫吉さんが尋ねてきた。「.....?」キョトンとしてしまった。そうだ目印を忘れていたことに気がついた。そこで持参したコピー紙を枝に引っかけて先に進んだ。
稜線をたどると、最後の登りに到達した。ところがここには大きな岩が立ちふさがっていた。左右に巻き道はないか、調べてみたがそれらしきルートはなさそうだ。仕方ない正面にあるクラックに沿って登るしかなさそうだ。もし登ったとしても、降りることを考えるとどうも気が進まない。こんな時は同行者がいると言うのは心強いものだ。後のことは登ってから考えようと言うことで、二人とも簡単に登ってしまった。岩の上部に登ると、あとは簡単に三等三角点のある「マムシ岳」山頂に到着した。
「マムシ岳」山頂は実に気持ちの良い場所だった。展望はほぼ360度にわたって見渡せる岩綾の上にあるからだ。今日は天候は曇りで展望はあまりないが、それでも西上州の山座同定を楽しむことができた。近くの諏訪山(上野村)は山頂部分が雲底にかかっている。どうやら標高1500メートル付近がその雲底の高さだと思われる。山頂にはツツジが多いらしく、赤い色の葉が多く見られて、その葉も個体によって色が異なるのがおもしろい。ともかくこの山頂は、今まで登った西上州の山の中で最高のものだと感じた。まだまだ西上州の山を登り尽くすには時間がかかるが、これからこれだけの山に出会えるか疑問に思うほどだった。
山頂では忙しい仕事の始まりだ。まずは食事をしながら無線機のスイッチを入れる。今日は「大福餅」が昼食で、口に思い切りほおばった。無線機の周波数を動かしていると、聞き慣れた声が聞こえている。村上さんではないか、これはラッキーQSLは確保出来たようなものだ。早速QSOの合間を縫ってブレイクを入れて、呼び出し周波数に移った。空き周波数を指定して村上さんとQSOすることに成功した。今日は「二子山」に登っているらしい。続いて猫吉さんと代わってQSLのお願いをすることにした。これで安心したのかあとはゆっくりとすることにした。猫吉さんは山頂標識を持ってウロウロしている。今日の標識は特別で、裏書きは私にも記念となるものとなっている。ともかく山頂標識はこれしかないので、いずれ登る人はこの標識で記念撮影をするしか方法がないだろう。
実はこの後にもう一つ山を登る計画があったのだが、どうやら時間的に無理があるのでこの「マムシ岳」で時間を潰すことにした。猫吉さんは144MhzFMで運用を始めたのだが、意外とマナーがいいので驚く。かなりパイルになって、QSLもかなり確保出来たようだ。私はピコ6+DPで50Mhzの運用で一局と交信しただけだった。ともかくゆっくりと山頂での時間を楽しんだ。
さて下山だが、第一関門の山頂直下の岩場を避けるために、左の斜面を下ってみたがどうやら正規の道から離れて行くのであきらめた。仕方ない登る時に通過したルートを降りるしかなさそうだ。慎重に足場を選び、ゆっくりと降りたらなんとか無事に足を地に着けることが出来た。
あとはゆっくりと秋の山道を惜しむように下山した。
「記録」
駐車余地10:20--(.08)--10:28車道を離れる--(.12)--10:40鉄塔(206)--(.10)--10:50鉄塔(205)--(.26)--11:16鉄塔(204)11:30--(.35)--12:05休憩12:12--(.07)--12:19稜線--(.14)--12:33マムシ岳山頂14:12--(.42)--14:54鉄塔(204)15:18--(.15)--15:33巡視路分岐15:38--(.05)--15:43車道--(.10)--15:53駐車余地
群馬山岳移動通信 /1996/