対象的な賑わい「黒斑山・高峯山」
登山日1995年6月11日
黒斑山はかつて頻繁に通った思い出がある。比較的自宅から近距離にあり、展望がなんとも素晴らしく、一日中浅間山の噴煙を眺めながら過ごすことが好きだった。
6月11日(日)
朝起きると前日までの天気予報に反して青空が広がっていた。この機会を逃したら、2週間連続で山から離れてしまう。急ぎ支度を始めて、自宅を出発したのは9時になってしまった。ところが碓氷峠を越えたところで、重大な忘れ物をしたことに気がついた。
それは430Mhzの無線機である。一瞬にして山での楽しみが消えかけた。
しかしまてよ! たしか1200Mhzの無線機は車内のどこかにあったはずだ。車を止めて確認すると、後部の荷室の隅っこに転がっていた。よかった、これで何とかなりそうだ。しかし1200Mhzで相手がいるかどうか一抹の不安はあった。
「黒斑山へ」
車坂峠に車を止めて歩き出すことにする。ここは観光地なので、なんと人の多いことか、老若男女が標識の前でひっきりなしに記念写真を撮していた。その人混みの中をかき分けるようにして登山道に入る。すると人はかなり疎らになったが、それでも前にも後ろにも登山者の姿が確認出来る程だった。ゴーロ状の登山道は良く踏まれており歩き易い。振り返ると車坂峠を挟んで、篭ノ登山が新緑に輝いている。
登山道の脇は植生が豊かであり、さまざまな植物が観察できた。ウラジロヨウラクは薄紫色の可愛い花を無数に付けていた。この花の格好は女性のタイトスカートに似ていると思うのは私だけだろうか? ハクサンシャクナゲは場所によっては綺麗な色で花をつけていた。
ところで先ほどから気になることがある。それは登山道に沿って同軸ケーブルとACコードらしきものが引かれているのだ。ACコードは、接続部がビニールテープで巻いただけの素人仕事のようにも見える。この行き着く先は黒斑山山頂で解ることになる。
登山道は快適に高度を上げていくが、なにやら賑やかな声が前方から聞こえてきた。それは「新ハイ(老ハイ)」の集団のようだ。なにしろ賑やかなオバサン(私と同年代)を中心とした50人ほどの団体だ。これは困った! なにしろ追い抜くには人数が多すぎる。しかたなくその列の最後尾について、まるでこの集団の一員のように歩くしかなかった。オバサンの話は途切れることはない、料理のこと、近所の人の噂話、そうかと思うと突然道ばたの草木の事と、本当に元気がいいのである。
やがて目の前には黒斑山の語源ともなった、シラビソ・オオシラビソの縞枯れ現象が斑状になっているのが見えてきた。そして浅間山が噴火したときのための、避難用のシェルターを通過すると前から声が聞こえた。
「ここで10分間休憩します」
これで助かった、この集団は槍ヶ鞘で休憩をしてくれる。やっと集団から解放されたので足どりも軽く、槍ヶ鞘から一旦コルに下りて、トーミの頭に小走りに登り上げる。しかし、ここもものすごい人混みで休む事も出来ない。もうこうなったら休まずに黒斑山まで行くしかない。道はそれほどきつくはなく、苦にはならないのでなんとかなりそうだ。
時折、樹林の間から見える浅間山が素晴らしい。そして山頂付近で、登山道に沿って引いてあったケーブルの意味が解った。それは浅間山の監視用TVカメラだったのだ。しかしなにかこちらも監視されているようであまり気持ちが良くない。そして数十メートルで黒斑山山頂に着いた。ところがここも登山者でいっぱいなので、とても座る余地がない。まして無線なんて出来そうにないので、ここも通過して先に進んだ。
この稜線沿いはどこであっても素晴らしい展望が得られるので良い。山頂から少し離れた場所で腰を落ちつける事にした。
眼下には湯の平高原が広がり、目の前には浅間山が噴煙を上げている様は、いつまで見ていても飽きが来ない景色だ。かつて結婚前に妻とそんな時間を過ごした思いでもある。また残雪期に仲間とここから湯の平高原まで下りて、再び登ってきた苦しい思いでも甦った。
さて無線の方は不安だった。果たして1200Mhzでどこまで運用出来るのだろうか? この周波数は相変わらず静かなバンドである。適当に周波数チェックをかけて、CQを出す。しかしなんとパイルになって呼んで来るではないか、これで不安は一気に解消された。そして連続で呼んで来るので実に効率がいい。しかし、適当な所で切り上げなくてはならない。こんな贅沢をしていいのだろうかと申し訳ないほどだった。そんな中で「7K3WNX/あべさん」から「山と無線」の方ですか? と声が掛かった。聞けばNIFTYで知ったと言う事である。有線の方でも皆さんが活発に活動している事をうかがわせる。
QSOも一息ついてふと傍らを見ると、なんと「巻き巻き」がほんの数十センチの距離を隔てた所にあるのを見つけた。あまりにQSOに熱中していて、30分間もこの「巻き巻き」と並んで過ごしたとは全く気付かなかった。
「巻き巻き」から離れて簡単な食事を済ませ、山頂を後にした。
下山はトーミの頭から下った所から分岐する「中道」を辿る事にする。この道は展望はあまり良くないが、アップダウンがなく下るだけの道なので大変に楽だからだ。この道は登りの時の人混みが信じられない。なにしろ車坂峠にたどり着くまで誰にも会わなかったのだから。
「高峯山へ」
車坂峠から車道を横断して、国民宿舎の裏にあるトイレの脇を抜けて山にはいる。ここが高峯山の登山口で、道は分かりやすく歩き易い。しかしこちらの山は静かだ。先ほどの黒斑山の喧噪が嘘のように静まり返っている。樹林帯を抜けて尾根の端に着くと、そこには簡単なベンチが置いてあり、休むのに良いと思われる。しかしあえて休む必要もないのでそのまま通過した。ここからはアップダウンの少ない快適な稜線歩きとなった。南側のなだらかな斜面はその先の小諸の市街地に続いている。
この稜線の道にはハクサンイチゲが清楚な白い花を見せていた。この花のファンも多いようで、知り合いなどは子供にイチゲと名前をつけたがっていた人もいたほどだ。この山も植生は豊富でツマトリソウの群落も見られた。
稜線の道はやがて高峰温泉への道を右に分けて上部に続いていた。ここにもハクサンシャクナゲの見事な花が咲いて思わずカメラを取りだした。やや登り気味になった道を行くと、やがてこの尾根の最高地点(高峯山)に着いた。しかし、標識などは何もないし高峰神社は影も形もない。地図を取り出してみると、たしかに神社の記号がありその先に三角点があるらしい。そこで更に進むと道は下ってしまい、それから突然視界が開けて岩稜帯に着いた。ここにも標識は無く、M大の青いブリキのプレートが木に打ち込んであった。また岩稜帯の最先端には刀の形をした大きな鉄板が差し込んであった。しかしいくら探しても三角点は見つからない。地形図では三角点の印があるのだが・・・。しかたなくもう少し先に進んでみると鳥居があり幣束が下がっていた。更に先はどんどん下ってしまい、道も怪しくなってきた。これはたまらないので戻る事にした。先ほどの岩稜帯が高峯山であるとして、無線運用する事にした。
しかし今度は何度もCQを出して、やっと2局とQSOしただけでQRTとなった。わずかな距離ではあるが、黒斑山とは全く異なったロケーションの山だと感じた。ここまでの間、全く人には会わなかった。黒斑山とはここでも対象的な山だった。
帰ってからファイルを見ると、怪人もわずか半月前にここに足跡を残しているのが解った。やはり高峰山については、山頂にあまり自信を持っていない様子。あそこでの運用なら高峯山と認知してくれると思っています。
「記録」
車坂峠10:23--(.55)--11:18槍ヶ鞘--(.05)--11:23トーミの頭--(.12)--10:35黒斑山山頂12:43--(.13)--12:56中道分岐--(.25)--13:22車坂峠--(.38)--14:00高峯山15:16--(.25)--15:41車坂峠
群馬山岳移動通信/1995/