「金城山(越後)」は悪魔が潜んでいる  登山日2004年9月4日






金城山(きんじょうさん)標高1369m 新潟県南魚沼郡

金城山は巻機山の北に位置しており、登山道はいくつか開かれている。しかし、車でのアプローチを考えると、新潟県六日町の五十沢地区から登るルートがもっとも現実的である。この周辺の山は有名な山が目白押しで、いずれの山も一度は登ってみたくなる山ばかりだ。
登山口の標識歩き始めはこんな小橋を渡る

 9月4日(土)
 秋雨前線と連続して襲来する台風の影響で、どうも天候がすぐれない。この日も関東地方はいずれも雨の予報で、新潟県地方がなんとか雨の心配がなさそうだ。当初予定していた山を見送って、新潟県の山を物色し見つけたのが金城山だった。

 六日町の五十沢地区にはいり、五十沢温泉を通過して右に折れ、田圃の中の道を山に向かう。田圃は水稲が黄色く色づき初め、秋の気配を感じさせている。道はやがて林の中に入り、細い道を辿ると終点となった。そこには大きな金城山の案内図が立っており、かなり整備された登山道があるような感触を得た。駐車スペースは杉林の中にも散在しており、10台程度の駐車が可能と見られる。天気予報では雨は心配なさそうだったが、雲があまり高くないことから、杉林の中は暗くどうも気分的に良くない。車の中を引っかき回して20分ほどかけて、やっと出かける準備が整った。

 ここからのコースは2本あり「滝入りコース」と「水無しコース」がある。どうも沢沿いの道は、下山時にはスリップの危険があるので気が進まない。そこで「滝入りコース」を登りに選んだ。歩きはじめるとすぐに幅50センチほどの、鉄板を渡した小さな橋に出た。そこを慎重にわたると、はっきりとした道それに続いていた。道ははっきりとしていたが、下草が生い茂りたちまち足下を濡らしてしまった。しかし、スパッツをつけていたので、まずはひと安心だ。

 曇っているからと、荷物になるのを覚悟して長袖のカッターシャツとセーターを、ザックに入れてきたが歩き出すとその蒸し暑さに閉口した。やはり9月初旬で湿度が多いとなれば当然で、二合目に到着する頃には汗でTシャツはびしょ濡れになってしまった。
登山道沿いは小さな滝が連続する青大将が木の枝を伝わっていた

 案の定この「滝入りコース」は沢沿いに登っていくだけあって、足下の石が滑りやすくなっている。そんなものだから余分なバランスをとることになり、なかなか気が抜けない。四合目を過ぎると道は沢を渡り右側に移って、小さな沢沿いに登る。その小さな沢もすぐに渡って、今度は尾根を登ることになる。沢沿いの道から離れて尾根道を登るのは何となく気分が良い。ところがそんな気分は、あっさりと打ち消された。なんと道の真ん中を赤い腹を見せながらヤマカカシが横切った。おお!!と声を上げて、その場から飛び退いた。ところが今度は灌木の間を動くものがいる。よく見るとアオダイショウが木の枝に絡まりながら動いている。どうやらこの道は蛇の巣窟なのかもしれない。ともかく心を落ち着けて、ほかに蛇がいないかどうか見回した。しかし、ほかには動き回るものは無いようなので、ひと安心と言ったところだ。この辿り着いたところは、五合目で「長の峰」と地名がかかれていた。地名の由来は「長い=蛇」と言うことではないかと思った。

 蛇の恐怖におののきながら、尾根道を上部に登っていく。道は勾配が急だが、それだけ高度が稼げるので気分が良い。またミズナラの樹林は緑が爽やかだ。やがて右からの尾根が、こちらの登山道と合流するところに、六合目の標識があらわれた。その右からの尾根には道が付けられて、その道は大月からのルートだ。ルートの途中には小高いピークがあり、なにか電波の反射板の様なものが見えている。ここで本日初めての休憩をとることにした。ザックを下ろし、パンをほおばりスポーツドリンクを飲んだ。
ミヤマクワガタを見つけた雲洞コース分岐

 六合目からの道は、明るい稜線の道で目指す金城山のピークが眼前に迫り、気分的にも足が軽くなる。少しばかり歩くと七合目の標識に出会ったが、この合目の間隔はここが一番短かった。さらに歩くと開けた場所に飛び出して、道が分岐した。この分岐した道は雲洞コースで、まっすぐに黄金色に色づき始めた、魚沼平野に下っていた。同じく眼下を見れば、自分が登って来た五十沢地区の登山口付近が霞んで見えていた。こんな風景がとても好きで、何度も何度も振り返ってはこの景色を眺めた
色づきはじめた田圃を眺める
 この分岐点から道は大きく曲がり、南から東に向かうことになる。時折、岩場があらわれるが、それほどきついところもなく順調に距離を稼ぐことが出来た。八合目は二坪ほどの裸地になった場所で、先ほどの雲洞コースの分岐点がよく見えた。しかし、立ち止まることもなく先に進んだ。

 道はブナの林で、赤土が雨で洗われた場所もあり、そんなところはスリップに注意しながら慎重に歩いた。八合目から少しばかり歩くと、水場の標識があらわれた。耳を澄ますと沢の流れの音が心地よく聞こえてくる。山頂近くでのこの水場はありがたいと思った。標識には60mと書いてあったが、往復120mを考えると、とても行く気にはなれなかった。水場入り口を過ぎてわずかな距離で、展望の良い場所に出た。標識には長崎コースの文字が見えたが、エアリアマップにも記載されていない道だ。しかし、尾根伝いに黄金色の田圃まで一気に下っていく道で、気持ちが良さそうだ。
山頂の石碑山頂付近の岩場

 道は再びブナの林の中に引き込まれていく。やがて九合目、展望も目印もないただの通過点だ。しかし、標識には「9合目をもって半ばとする」と書いてある。なかなか味わい深い言葉だと思う。何しろ下山のことを考えるとそれも頷けるのである。九合目からは急登続きの坂道で、時には灌木に掴まって登らなくてはならない場所もあった。そして鎖のついた岩場を登り切ると、山頂の一角に飛び出した。今までの樹林帯を抜けて、展望が一気に開けるので、その変化は実に爽快だ。あいにくと巻機山方面はガスがかかっている。しかし、この山頂の岩峰群の造形はどうやって出来たのか想像するだけで楽しい。金城山の山頂は、地形図上は避難小屋のあたりなのだが、そこは樹林に阻まれて展望はきかない。むしろ辿り着いたこの岩場の周辺が山頂と言った方が適切だ。

 山頂の岩峰群を越えて楽しんでいると、同年代の男性単独行者と出くわした。本日初めて出会う登山者で、水無しコースを登って来たとのことだった。新潟市内から来たと言うことで、しばらくこの周辺の山の事を話題に時間を潰した。さて展望の良い岩場に陣取って休憩だ。持参したビールを開けて一口飲むと、何ともいえない充実感が身体を満たした。上半身裸になると、巻機山方面からの心地よい風が身体に当たった。仰向けになって薄日の差し込む空を見ていると、思わず意識を失って眠り込んでしまった。約10分ほど眠ったようだが、とても気分が楽になった。結局、山頂では1時間半も休憩をしてしまった。これ以上ここにとどまることは、空の雲が厚くなってきたことから許されそうにない。
避難小屋
 ザックを背負い、水無しコースの道に向かって歩き出した。するとすぐにきれいな外観の避難小屋に到着した。内部は広々としており、避難小屋としては最高のものであろう。小屋の屋根には梯子が架けられていたので、この上で休めば良かったかなと思った。

 小屋の先はわずかに湿原があり、山頂でありながら不思議な感じがした。この先で山慣れた感じの男性3人のパーティーに出会った。さらに8合目で、夫婦連れのパーティーに会った。本日の登山者はこれで6人、何とも静かな山だ。水無しコースは、登ってきた滝入りコースと違って、急傾斜の道が延々と続いていた。そして何も考えずにダラダラと下っていくと、岩場に突き当たった。岩場には鎖が取り付けられていたが、それは岩場に数本が間隔をおいてぶら下がっているものだった。岩場は濡れており滑りやすく、鎖のような手がかりがなければとても通過出来るものではない。しかし、この鎖の様子を考えると、ターザンのごとく片手で順番に伝わって行くしかない。
悪魔が潜む岩場
 意を決して岩場にとりついた。鎖を片手で握って次の鎖に手を伸ばす。手を離したら一巻の終わりと、どうしても力が入る。これが登りなら何とか姿勢も整えられるのだが、下降はどうしても姿勢が無理な体勢になる。最後は鎖もなくなり、岩にへばりついて身体を移動した。なんとか安全な場所にたどり着いて、一息する間もなく次の下降が待っていた。ガレ場を灌木に伝わって急斜面をゆっくりと下る。下の方には中身の入ったペットボトルのお茶が転がっている。どうやらここで落としてしまったが、あまりの急斜面で拾うことすら出来なかったのかもしれない。

 どうにか、ペットボトルのお茶のところまで辿り着いて、足で転がしてみると比較的新しいもののようだ。ここで立ち止まったので上部を見上げた。すると何となく上部に道のようなものが見えるのである。不安になって自分がいま居るところを確認してみると、どうも様子がおかしい。周辺をさらに見渡してみると、道だと思っていたのは間違いで、沢に入り込んでいるのだと気がついた。そこで上部に向かって3メートルほど登ってみると、そこにははっきりした道が付けられていた。おそらく先ほどの岩場をおりたところから、そのまままっすぐに降りたのだが、正解は少し右にルートを変えなければならなかったのだろう。危ないところだった!あそこでペットボトルが無ければ、そのまま沢を下降した可能性がある。考えただけでも恐ろしい。
*実は帰宅してから過去の記録を見ると、猫吉さんはこのまま沢を下降して、あわや遭難の危機に瀕したことがわかった。

 この後も急な下降は延々と続き、急斜面でのロープも少なく、車に辿り着いたときは結構ヘロヘロになっていた。

 帰りは五十沢温泉「ゆもとかん」で汗を流した。風呂からあがって外に出たとたんに猛烈な雨が降り出した。どうにか雨に降られなかったことが唯一の救いだった。







「記録」
登山口06:50--(.20)--07:10二合目--(.18)--07:28三合目--(.16)--07:44四合目--(.20)--08:04五合目--(.23)--08:27六合目08:37--(.14)--08:51七合目--(.09)--09:00雲洞コース分岐--(.15)--09:15八合目--(.09)--09:24水場入り口--(.03)--09:27長崎コース分岐--(.07)--09:34九合目--(.23)--09:57金城山山頂11:24--(.37)--12:01岩場--(.38)--12:39四合目12:48--(.40)--13:28登山口



群馬山岳移動通信/2004/