消えゆく信越本線と「離山(軽井沢)」
登山日1997年5月4日
我が安中市を貫く信越本線が、今年の秋に寸断されることになった。北陸新幹線の開業により、横川〜軽井沢間が廃止されるのである。廃止されるのは残念だが、個人的には今までも利用したことがさほどないので特別な感情はない。軽井沢と言えば車で行くことが当たり前で、かつては会社の帰りのデートコースともなっていた。それでも廃止される前に乗っておきたいと思うのは人情だ。
5月4日(日)
横川〜軽井沢間の鈍行は既に本数も減らされて、下りが5本となっている。その時間にあわせて、松井田駅に向かうことにする。なぜ安中駅ではないかと言うと、それは無料駐車場が完備されていないからだ。留守番の長女を残し、妻と長男を連れて電車に乗り込んだ。運良く空席が見つかり妻と長男は座ることが出来た。沿線にはいたるところにカメラを構えた人が陣取っている。聞けば今日はレトロトレイン(茶色に塗色された旅客列車)が走るので、それが目当てらしい。趣味のないものにとっては、電車の写真のどこが面白いのか解らない。横川駅では碓氷峠を越えるための、EF63形電気機関車の連結風景に人垣が出来ていた。これもこれからは見られなくなると思い、興味のない私もカメラのレンズを向けてしまった。
外壁だけとなっている、丸山発電所の煉瓦作りの建物を過ぎたあたりで、妻が猿を2頭見つけたと騒いでいる。ここからはトンネルをいくつか通過、旧熊ノ平信号所あたりの新緑はハッとするような美しさだった。
軽井沢駅に着くと曇っていた空は、太陽がのぞき暑くなってきた。駅前の喧噪は大変なものなのだが、大通りを離れると嘘のように静かになる。ここで目指す「離山」を見るとかなり遠方に見える。そこで、レンタサイクルにやっかいになることにした。
長男はいつも通学に使っているだけになかなか要領がいい。肝心の妻は、かつて会社に勤めていたときに、場内の連絡で乗っていただけなので不安がいっぱいである。案の定、車と対向したときに避け損なって堀に片足を踏み込んだと騒いでいる。これはうまくないと途中の「雲場の池」で自転車を降りて、付近を散策して気分転換だ。
池の散策後再び自転車で「離山」を目指し、再び自転車に乗り先に進む。早大グランド付近で脇道に入ると「離山登山道」の文字が見えてきた。やがて別荘地の入り口に到着「関係者以外立ち入り禁止、車両乗り入れ禁止」の文字が立ちふさがっている。妻は「自転車は車両?」と不安そう。「離山に登る関係者」「自転車は降りて押せば歩行者」と勝手な理由をつけてそのまま自転車で進むことにした。事実急坂で、とても乗ったままでは登れない。
別荘地内を右に左に迂回しながら上部に、自転車を押し上げる。「帰りはきっと快適だぞ」そう言って後続の二人に声をかけた。別荘地内からは優雅に三味線の音も聞こえてくる。「優雅だな!」そう言って自分で妙に納得した。
自転車が重たくなり、顎を出し始めた頃に、やっと車道が終わり登山道入り口に着いた。入り口には鎖が渡されて、歩行者以外は抜けられぬように処置がされている。この登山道は幅も広く整備されていて、下手な林道よりもずっと素晴らしい。きっと百名山マニアの誰かさんが登ったときに整備したのかな?と妙な勘ぐりをしてしまった。入り口には「登山者名簿」なるノートがおいてある。見ると今日だけで、かなりの人が登っていることが伺われる。残念ながら群馬県人は記帳が無いようだ。
自転車を置いて、登りに取りかかる。明るい林の中をゆっくりと歩くと、とても気持ちがいい。それにGWの連休中の軽井沢だと言うことを忘れさせる静けさだ。木々の芽吹きは始まったばかり、白いコブシの花がそんな中で一際目立つ。面白いことに、有益な植物?(タラ、サンショ、フキ、ウド)が全く見あたらない。
時折、道の傍らには山頂まで500m間隔で標識がある。しかしその間隔が実に長く感じられる。いくら歩いても変化のない景色と、幅の広い登山道が原因なのかもしれない。振り返ると「矢ヶ崎山」の山腹のスキー場の人工雪の残りが、妙に場違いに思われる。
途中に大きな看板が現れ、「離山」の山頂が紹介されている。どうやらいろいろと名前が付けられて、幾筋も道が取り付けられているようだ。見てもさっぱりわからないので、あいかわらず広い道をそのまま歩くことにした。(どうやらこれは間違いだったようだ)
汗もたっぷりかいて、おなかの虫も泣きした。山頂はまだかと、妻と長男も騒いできた。こちらも同感で、このあたりでお弁当にしようかと思ったが、もう少しだろうと頑張ることにした。
やがて、急登の階段を登ると東屋があり、その一段高いところに三等三角点があった。その脇には西暦2036年に開けるタイムカプセルが埋められている。そしてさらに方位展望表示板と望遠鏡が設置されていた。ここからの展望は素晴らしく、特に浅間山の雄大さを実感するのにあまりある。
山頂から少し離れたところに陣取り、待望の昼食とする。眼前には西上州の山、上信国境の山々が連なっている。さらに「矢ヶ崎山」の後方には裏妙義の山が霞んでいた。あまりに気持ちがいいので、1時間あまりもここでゆっくりしてしまった。
帰りに道の脇を見ると、サクラソウが一株咲いており、思わぬ発見に今日の疲れが吹き飛んだようだった。
帰りは快適にサイクリングで軽井沢駅まで直行した。
「記録」
軽井沢駅12:21--(.44)--13:05離山別荘地入り口--(.21)--13:26登山道入り口--(.37)--14:03離山山頂15:02--(.34)--15:36登山道入り口--(.20)--15:56軽井沢駅
群馬山岳移動通信/1997/