八ヶ岳南部の岩峰「権現岳」

登山日2000年10月28日

天女山(てんにょさん)標高1529m 山梨県北巨摩郡/前三ツ頭(まえみつがしら)標高2364m山梨県北巨摩郡/三ツ頭(みつがしら)標高2580m山梨県北巨摩郡/権現岳(ごんげんだけ)標高2715m山梨県北巨摩郡

 八ヶ岳は自宅から見える山でありながら、なかなか登る機会が無く、空白の部分が多い。今回はその南部の権現岳に登ることになった。それは、気の置けない仲間が集まると言うこともあり、足が自然とそちらに向いてしまったからだ。
朝の富士を遠望する
10月30日(土)

 天女山の駐車場に着いたのは、朝の6時少し前だった。広い駐車場には私の車一台だけだった。支度をしていると、数人の人が車でやって来てにわかにあたりが騒々しくなった。手にはそれぞれカゴを持っているところを見ると、キノコ狩りが目的のようだ。

 ザックを背に登りはじめるが、寒さはそれほど感じない。すぐに着ていたセーターは脱ぐことになった。カラマツの落ち葉が敷き詰められた道は、歩くとふわふわの金色の絨毯のようだ。ひとしきり歩くと、天ノ河原と呼ばれる広い場所に出た。ここにはベンチが数脚置かれ、観光客の休憩場所と言った感じのところだ。見れば秀峰富士が朝の雲海の上に浮かんで見えている。その左には茅が岳、右には南アルプスを従えて、独立峰の富士は実に堂々として見えた。
遭遇したカモシカ
天ノ河原からは緩やかな登りとなり、目の前の前三ツ頭を目指して快適な歩行となった。時折、秋の名残のマツムシソウが紫色の鮮やかな花を咲かせていた。そんな花に目を奪われていると、突然目の前で動いている黒いものが見えた。その黒いものは熊と一瞬考えたが、すぐにカモシカとわかり落ち着くことが出来た。さらにもう一頭が離れたところにおり、やはりこちらを伺っていた。カモシカの個体数の増加は、数年前とは比較にならないほど多くなったと感じている。

 天女山駐車場から歩き始めて、ほぼ一時間でベンチのある場所に到着。ここでザックを降ろして大福とお茶を腹の中に入れて、10分ほど休憩した。

 休憩後歩き出したが、先ほどからどうも目障りな標識がある。調布市の名前の入ったものだが「あと110分」「これから急な登り休んでおこう」「ここが一番きつい」などと書いてあるものである。(山登りはあと何分掛かろうが勝手である)(どこで休もうが大きなお世話である)お節介な標識を立てることが、立派なことと思っている人もいるのだ。山道を自分の能力を使って、地形図を読み検索しながら歩く楽しみを奪われているようである。

 それに引き替え、時折現れる丁目石に刻まれた「標高****m」と言うのは好感が持てる。しかし、ちょと怪しい(標高が合っていない)場所もあり、その点が残念であった。もっとも誰かが移動させたと言うことも考えられるのだが。さらに移動するのはちょっと重いので、断念するしかなさそうだ。
前三ツ頭から南アルプス
 前三ツ頭の手前の道はかなりの急傾斜で、一部荒れているところもあり歩きにくい。しかし、普段は道のないところを歩くのが多いものだから、道があると言うことは気分的に楽である。息を整えながら樹林の中を登り、前三ツ頭の山頂に飛び出すと一気に展望が開けた。富士山はもちろん、北岳を盟主とする南アルプスが青く朝靄の上に浮かんでいた。ここまで、暑いのでTシャツで行動していたのだが、一気に身体が冷えてきたのでジャケットを着たのだがまだ寒いほどだ。樹林帯とは較べものにならないほど、体感温度の差がある。

10分ほど休憩をして目の前に見える三ツ頭に向かって再び歩き出す。するとすれ違いに、下りの登山者に会った。今日はこれが初めての登山者との遭遇であるから、かなり静かな今日は山歩きが出来そうだ。しばらくは吹きさらしの道を辿るが、すぐに樹林帯の登りとなった。その途端に暑くなり、再びジャケットを脱いで温度調節をすることになった。

 快適な登りを過ぎると、再び展望が開け分岐の標識のある場所に出た。まだ新しくコールタールの臭いのする標識は、甲斐小泉に繋がる道を示していた。ここからわずかな距離で三ツ頭の山頂に到着した。
三ツ頭から権現岳、赤岳
山頂に着くと、まずその大展望に目を奪われた。目指す権現岳の尖ったピーク、その右には八ヶ岳の盟主赤岳、目を転じると女性的な山容の編笠岳は低く見える。編笠岳と権現岳の鞍部の青年小屋は、その青い屋根がはっきりと確認できた。山頂では既に二人の登山者が休んでおり、標識の前でカメラのシャッターを頼んだ。デジカメのディスプレーで画像を確認してから、権現岳に向かって歩き出した。

 ハイマツの密集した道を一旦鞍部に向かって下る。そして鞍部からいよいよ最後の登りとなるのだが、見上げればかなり急峻な登りで、本当に登ることが出来るのか不安に駆られる。ともかくゆっくりと登ることにする決め、砂礫と岩の道を歩きだした。道は明瞭と思われたが、いつの間にか正規のルートを離れ、微妙に修正をすることもしばしばだ。
Vサインの権現岳山頂
 時折振り返ると、三ツ頭のピークがどんどん眼下に下がってくる。それほど高度を稼いでいると言うことも出来る。小さな鎖場を過ぎて、目の前の岸壁を左に巻くと目の前に権現岳の山頂部の岩峰が見えた。ここから見るとVサインのような形に見えるが、これ又登れるのか不安になってくる。

ここで下りの登山者に会った。
「山頂は寒いですか?」
「それほどでもないですよ」と言う答えが返ってきた。まあ、風さえ吹かなければそれほど心配はなさそうだ。岩の道は踏み跡が無数にあり、どれを辿ったら良いのかわからない。ともかく上に向かっていけば何とかなるだろうと、直登に近い道を選んだ。手がかりもあるし、足元もしっかりしているから不安はない。しかし、稜線の右側(東)は切れ落ちていてなかなか緊張感がある。ほどなく石祠がある場所を通過、岩場を乗り越えると目の前に権現小屋が見えた。そちらに向かおうとすると、右の岩の上に丸い標識が見える。そこには権現岳と書いてあった。山頂と言うイメージからはほど遠い、岩のピークであった。

 適当なところを選んで、その標識にたどり着いたが、本当の山頂である岩の上に登る技術は持ち合わせていない。この地点で山頂に着いたと言うことにして記念撮影をした。山頂には大きな鉄剣が斜めに差し込んであり、それは錆びていたがしっかりとしたものだった。心休まらない山頂からおりて、安定した場所に腰を下ろした。無線機を取り出すと運良く権現岳の直下の青年小屋から出ている局がいたので交信をすることが出来た。
権現岳から八ヶ岳の峰々
 さて、権現小屋の方角に向かって歩き出すと、目の前に赤岳、阿弥陀岳、そして硫黄岳と八ヶ岳の峰々が眼前に迫って見えた。さらに北アルプスが遠望でき、展望を楽しむ山として最高の場所と思われる。権現小屋の前の寒暖計は3度を示しており、この時期としてはさほど寒いとは感じられない。しかし小屋は静かで中に入る気にもなれず、そのままUターンして下山に取りかかった。

 三ツ頭との鞍部で、ラーメンを作り暖まってからゆっくりとゆっくりと山を下りた。

 夜からは仲間が集まり、天女山の東屋で酒を酌み交わし就寝したのは翌日の3時頃になってしまった。それにも関わらず、6時に起床して7時に出発、雨の中権現岳に登り正午には戻ってきた強者もいた。つくづく前日に登り、今回のメンバーと一緒に登らなかったことを喜んだ。とても一緒に行動して登ることなど不可能と思われたからだ。



「権現岳」

天女山駐車場06:35--(.15)--06:50天ノ河原--(.39)--07:29休憩07:39--(1.08)--08:47前三ツ頭08:57--(.35)--09:32三ツ頭09:47--(.44)--10:31権現岳11:00--(.19)--11:19休憩11:40--(.13)--11:53三ツ頭--(.21)--12:14前三ツ頭12:23--(1.07)--13:30天ノ河原13:45--(.05)--13:50天女山駐車場



群馬山岳移動通信/2000/