奥志賀の山で稜線漫歩を楽しむ「岩菅山から烏帽子岳」   登山日2007年7月28日



烏帽子岳付近から岩菅山、裏岩菅山、中岳を振り返る
烏帽子岳付近から岩菅山、裏岩菅山、中岳を振り返る

岩菅山(いわすげやま)標高2295m 長野県下高井郡/裏岩菅山(うわいわすげやま)標高2341m長野県下高井郡/中岳(なかだけ)標高2236m長野県下高井郡/烏帽子岳(えぼしだけ)標高2230m長野県下高井郡



烏帽子岳は奥志賀の岩菅山から切明に向かうルート上にある。この山の存在は「あさぎまだらさん」のHPで知ることとなった。動機はやはり彼と同じで佐武流山に登ったときに見たその姿であった。雲の上に浮かんだその秀麗な三角形の姿はとても印象的で忘れられないものだった。


7月28日(土)

岩菅山の登山口駐車場はひっそりとしていた。道の脇にある駐車余地は10台以上停められそうだ。時間はまだ5時ちょっと過ぎなので時間はたっぷりとある。ゆっくりと時間を掛けて支度を整えた。10分ほどすると、一台の軽自動車がよこに止まった。中からは同年齢とおぼしき単独行の男性が降りてきた。双方とも支度をしながら話はじめた。聞けば昨日は会社を休んで、本白根山に登り、今日は岩菅山、明日は白砂山の予定だという。日本300名山を目指しているという。なかなかの能弁で次々と話題が出てきた。その間に私はおいなりさんを3個食べる事が出来てしまった。良く見ると、その人の支度は本当に軽装で、雨具と水くらいしか入っていないように見える。こちらは、いつも通り水を3リットル、それにツェルト、着替えまで入っているから結構な重さになっている。どうやらその単独行氏は私が出発するのを待っているようだ。こんな軽装備の人と一緒に歩いたらペースを乱されてとんでもないことになりそうなので、先にどうぞと追い立てて行ってもらった。さてと、これで自分のペースでゆっくりと歩けるぞ。5分ほど遅れて私も出発した。


登山口
登山口
小三郎小屋跡
小三郎小屋跡
上条用水路沿いの道
上条用水路沿いの道
ギンリョウソウ
ギンリョウソウ



岩菅山は一度登ったことがあるが、そのときはロープウェイで東館山に登り、そこを起点にしているので今回のルートは初めての道である。樹林の中の道は良く整備されて、煩わしい階段が上に向かって伸びていた。階段にはなにかカーペットを敷いた様な痕跡がある。ひょっとすると泥濘対策なのかも知れない。しかし、これは今では泥まみれとなって、ただの粗大ゴミと化している。10分ほど登るとT字路となった。標識があり「小三郎小屋跡」と書いてある。見れば石積みの跡やトタン板の残骸が見られる。傍の立木には古めかしい看板があり「山火事注意本州製紙株式會社」となっていた。T字路は、右に下れば一ノ瀬、左に登れば岩菅山である。この道の山際沿いは用水が勢いよく流れており、気持ちの良い道となっている。谷側は有刺鉄線が張られて、「水源につき立ち入り禁止」の表示がある。まあ、こんな薮の中にわざわざ入る物好きもいないと思う。


用水路沿いの道はほとんど水平で延々と続いているように思える。しかし、不思議なもので傍らを水が流れているというのは安心できる。ときおり先行した単独行氏の足跡が、乾いた石の上にビブラム底の模様を残している。「この乾き具合から見て数分前に歩いたんだろうな」と想像を巡らせながら先に進んだ。途中、用水路の中に「底清水」と言う標識があり、傍らにはしめ縄を張った岩があった。「底清水」の場所を良く見ると用水の流れの中に湧水が見られる。透明度の高い流れは本当に綺麗で爽やかだ。
道を進むと沢音が強くなり、やがて強い流れのアライタ沢に着いた。ここは用水の取り込み口があり、やはり沢の中には立ち入り禁止の標識があった。この用水の工事は大変な難工事であったことが想像できる。まして、今の時点でも管理は大変な労力を要する事だろう。アライタ沢には橋が掛けられて、簡単に対岸に渡ることが出来る。さて、ここからは用水路沿いの平坦な道から階段の登りとなった。展望のない樹林帯は物音もせずに静まりかえっていた。天気は今のところ問題なさそうだ。むしろ、これから太陽が昇ったら暑くなることが予想された。それにしても道の状態が悪く、泥沼の様なところもあった。道が平坦になったところでちょっと上空が明るくなった。道ばたにイラストの標識があり、中間地点と書いてある。道を順調に辿ると木々の隙間から目指す岩菅山の山容が見えるようになった。さすがは一等三角点峰、結構立派な山容をしていると関心してしまう。かつて登ったときは、ガスが巻いていて展望が無かったから、この姿は初めて目にするものだった。


のっきりから岩菅山への道
のっきりから岩菅山への道
岩菅山避難小屋
岩菅山避難小屋



やがて、道は東館山からのルートと交わり、一本となって岩菅山に向かうことになる。この交差点はノッキリと呼ばれている場所だ。傍らにはベンチも置かれ、休憩地点となっている。しかし、展望もなく休憩にはちょっと難があるようだ。立ち止まらずにそのまま進むと、一気に樹林帯を抜けて展望が広がった。先行した単独行氏が10mほど前を歩いているのが確認できた。道はここに来て岩場が多くなり、明らかに今までの道とは違っていた。また階段の残骸が散乱しており歩きにくくなった。かつて神様のご子息が登ったときに整備された道は、いまでは見る影もなくなっている。道の傍らはコバイケイソウとクルマユリの姿が目立つが、花の最盛期は過ぎてしまった感がある。振り返ると横手山の特徴ある姿が際だってくる。そして、浅間山や四阿山もその位置関係から確認できるようになった。気持ちよくぐんぐん高度を上げると、単独行氏とほとんど同時に広い山頂に到着した。広い山頂には石祠や石塔、石碑が置かれて信仰の山といった雰囲気を出してい。展望はすっきりとしないが、それでも八ヶ岳のピークがそれぞれに確認できる。目指す烏帽子岳は裏岩菅山に隠れて確認することは出来なかった。ともかく展望は良く、大きな一等三角点にふさわしい山頂だった。かの単独行氏は悩んでいた。「どうも明日は天気が崩れそうなので、今日中に白砂山に登ってしまおう」そう言って慌ただしく山頂を去っていった。山はいろんな楽しみがあるが、ともかく忙しい山登りだと思った。山頂の避難小屋は昔と変わりなく、内部は薄暗く穴の中に入った様な感じを受ける。机の上にはノートがあり、いろんな人が登っている様子が分かる。学校の団体で75人なんてのもあるが、こんな時は登りたくないものだ。


スポーツドリンクを一口飲んでから、裏岩菅山に向かって歩き出す。岩菅山からの道は快適な稜線歩きだ。稜線の右側は草付きの斜面で明らかに雪の影響を受けている様だ。左側は針葉樹の森となっている。時折、左側の針葉樹の森の下から車の喧噪が聞こえてくる。それもそのはずで、下には車道が見えているのだ。それに対峙する焼額山はスキーコースが山肌をバリカンで刈り取ったような模様を作っていた。以前ここを歩いた時、この稜線は花で満ちあふれていたが、いまはその姿は極端に少なくなっている。やはり、7月も最後となるとこんなものなのだろう。いくつかのコブを越えて稜線漫歩を続けると見覚えのある裏岩菅山にたどり着いた。ここは山頂らしくなく登山道の途中と言ったところだ。前と変わったところはGさんの新しい山頂標識が増えたことぐらいだろうか。山頂からは経由してきた岩菅山が意外と低く感じられる。裏岩菅山の標高の方が46メートル高いことになっているが、その差はもっとあるようにも思える。山頂部分は土がむき出しになっているところを見ると、ここまではかなり人が入って来ていることを感じさせる。これから目指す烏帽子岳はこの山頂に来て初めて見ることが出来た。烏帽子岳に続く稜線はゴジラの背のようになっている。それは三角定規を並べた様にも見えたが、その先の稜線はなだらかで山上の楽園が広がっているようにも見えた。


裏岩菅山
裏岩菅山
クルマユリ
クルマユリ
エゾシオガマ
エゾシオガマ
コゴメグサ
コゴメグサ
ツマトリソウ
ツマトリソウ
ハクサンチドリ
ハクサンチドリ



裏岩菅山からの道は今までとは明らかに違っていた。刈り払いはされているものの下草がかなり生い茂っている。裏岩菅山からはいきなりの急降下で、足元の土が見えないほど草に覆われている。慎重に下ったが、雨が降ったらこの道は最悪だなあと思った。(帰路は実際に最悪の道となった)鞍部に近くなると道の左側に小さな湿原があらわれた。そしてヌマガヤが繁茂する直径2メートルほどの地塘もある。その地塘の周りにはモウセンゴケが密生している。良く見ると赤とんぼが一匹捕らえられている。まだ動きがあるようなので、捕獲されて間もないのだろう。かわいそうだが、これも自然の摂理で仕方あるまい。この湿原を過ぎると深いシラビソの樹林帯に入る。道はハッキリとしており、迷うことはなさそうだ。しかし、泥沼の道は歩きにくく、靴とスパッツは泥だらけとなってしまった。ゴジラの背のように見えた最初のピークがやってきた。登山道から見ると、おむすびの様な格好のコブの真ん中に登山道が一直線に溝のように見えている。かなり困難と思われたが、取り付くと意外に簡単に登ってしまうことが出来た。コブの上部はなだらかになり、岩壁のあるピークが再びあらわれた。そのピークの基部に立つと踏み跡は乱れて、ルートを失ってしまった。どうしようかと考えながら見ると、岩に黄色のペンキで「切明↑」と書いてあるのが見えた。これだけの岩場なので、ロープくらいあるかと思ったがそれらしきものは見あたらなかった。ストックをザックにくくり付け岩場に取り付いた。取り付いてみると岩場は階段状になっており、意外と簡単に登ることが出来た。左に回り込むようにして稜線のルートに入ることが出来た。暫く歩くとほどなく中岳の山頂に到着した。地形図にこの山名は記されていないが、エアリアマップには記されており、現地で見ると明らかに立派なピークだ。展望は優れており、烏帽子岳の向こうにある鳥甲山も青く見えるようになった。


裏岩菅山から中岳、烏帽子岳を見る
裏岩菅山から中岳、烏帽子岳を見る
小湿原
小湿原
中岳の前縁
中岳の前衛
モウセンゴケと赤とんぼ
モウセンゴケと赤とんぼ
中岳の岩場
中岳の岩場
中岳から見る烏帽子岳
中岳から見る烏帽子岳



中岳からは少し下降して烏帽子岳に向かう。この烏帽子岳に向かう道はこの山行で最も快適なルートだった。天候は晴れ、時折吹く風は心地よく、道は短い下草があるだけなので歩きやすかった。振り返ると、今まで辿ったピークが連なって見えていた。こうやってみると裏岩菅山は大きいなあと思う。隣にある一等三角点の岩菅山は見劣りがしてしまうほどだ。名残りのシャクナゲの花を見ながら進むと、広く平らな草原上の場所に飛び出した。その草原上の片隅には新しい感じを受ける三等三角点。その奥には布で出来た烏帽子岳の表示があった。烏帽子岳の先はどうなんだろう。そう思って先進んでみた。コースタイムを見れば90分ほどで笠法師山に行けると書いてあったからだ。しかし、実際にその現場を見てみると、烏帽子岳からの下りは恐ろしく急で、笠法師山はかなり下に見えていた。時刻はまだ11時なのでなんとかなりそうだが、体力的に無理な感じを受ける。そこで、烏帽子岳山頂に戻って今日の締めくくりとした。広い山頂のど真ん中に腰を下ろして、ビールを取り出した。冷蔵してきたものだから、缶の表面に結露が出来ている。周囲の景色に向かって腕を上げて乾杯だ。乾いたのどにしみ込んでいく。目の前の白砂山、佐武流山が大きく迫っている。この烏帽子岳の斜面には地塘があるところを見ると、遅くまで雪田が残っているのかも知れない。無線機を出してCQを出すと、山ランの主宰者で山名事典の著者である武内さんと更新することが出来た。しばらくとりとめのない話をした。その後、何となく足元を見たら、なんと足元からササダニが這い上がってくるのが見えた。ギョッとして思わず摘んで爪で潰した。今年はこれで3度目なのでことしはササダニによくよく縁がある。ここで気分もそがれたので、山頂をあとにすることにした。


烏帽子岳直下の池塘
烏帽子岳直下の池塘
烏帽子岳山頂
烏帽子岳山頂
烏帽子岳から笠法師山方面
烏帽子岳から笠法師山方面
ポンチョ
ポンチョ



中岳付近で天候が急変。大粒の雨が降り出してきた。道はぐちゃぐちゃ、下草の生い茂った道は歩きにくい道に変わった。今度はポンチョを持ってきていたが、これは意外と快適で汗っかきの私には効果的だった。今回の宿題は笠法師山となったが、いつかは切明地区から登ってみたいと思った。


「記録」
登山口05:41--(.09)--05:50小三郎小屋跡--(.21)--06:11アライタ--(1.06)--07:17のっきり--(.30)--07:47岩菅山山頂08:04--(.40)--08:44裏岩菅山08:57--(.55)--09:52中岳09:55--(.31)--10:26烏帽子岳11:34--(.27)--12:01中岳--(1.18)--13:19裏岩菅山--(.49)--14:08岩菅山14:14--(1.24)--15:38登山口




群馬山岳移動通信/2007


GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)