カルメンを尋ねて浅間牧場「天丸山」
登山日1997年9月20日
昭和27年に日本で最初の総天然色映画がスクリーンに映し出された。題名:「カルメン故郷に帰る」、制作:松竹映画、監督:木下恵介、助監督:小林正樹、松山善三、主演:高峰秀子、ほかに笠置衆、佐野周二、佐田啓二とそうそうたるメンバーが出演していた。物語は、牧場の娘が東京でストリッパー「カルメン」として成功。その娘が故郷に帰ってきて引き起こす騒動である。昭和27年は私が生まれた年なので、もちろん実際に見たわけではない。だからビデオで見ただけなのだが、その中の浅間山の下に広がる風景は心に残るものであった。映画の中で使われた学校は、いまでは軽井沢スケートセンターになっており、牧場は昔のままの浅間牧場である。小学校は実際にそこにあった千ヶ滝分校が使われ、実際にそこにいた児童がエキストラとして使われたようだ。いつだったか、「星野温泉」の結婚式に行ったことがあった。そこでマイクロバスの運転手にその話をしたら、私はそこに出演しましたと言う返事が返ってきた。おもわずその時の事を聞くことが出来て、とても嬉しく思った。いつかその牧場の風景の中に立ちたいと思っていた。地形図を見ると牧場の中に天丸山と言う山があるではないか。
9月20日(土)
いろいろな用事に追いまくられて、夏山はついにどこにも行けなかった。およそ1ヶ月以上も山から離れてしまった。そこで簡単な足慣らしと、気分転換を兼ねて浅間牧場の天丸山に行くことにした。天気も上々なので、スクーターでの移動となった。二度上峠を越えて北軽井沢に入ると、既にシーズンを過ぎた避暑地がかなり寂しく感じた。
浅間牧場の駐車場もガラガラで、なにか混んでいるときしか知らないものだから、拍子抜けしてしまう。牧場入り口から少し登るとすぐに牧場の風景が広がった。登山の格好をしているのは私だけなので何か恥ずかしい。ひとしきり登ると「丘を越えて」の碑にたどり着く。おもわず口ずさみながら、先に進むと林の中に入る「熊出没」なんて看板があるが本当だろうか? 林を抜けると草原に出て、ススキが風に揺れていた。右に折れて車道に進むと、男性がゴルフの素振りをしている。天丸山はどちらですか? と尋ねるとあそこのこんもりした森の中だと、車道の先を指して教えてくれた。試しに「カルメンの映画はどこで撮影されたか知っていますか」と聞いた。すると「私はそのロケを見ました。あの牧場入り口がそうですよ。あのときの木はもう大きくなっていますよ」そんなわけでまた話し込んでしまった。
アスファルト舗装の道は車が走ることもなく、ゆっくりと歩ける。時折現れる標識は「「白糸の滝」を示している。ときおり、牛がゆっくりと動いているのがなんとものどかだ。
やがて道は大きなT字路になる。標識に従って右に折れて、なだらかな坂道を上るとすぐに天丸山の標識がある。それに従って木の階段を登ると、そこが三角点と標識のある天丸山々頂だった。山頂は相撲の土俵のように円形で平らになっていた。そしてそこからの展望は期待以上の素晴らしさだった。なにしろ周りは遮るもののない牧草地、特に目の前に迫る浅間山の姿は圧倒的だ。紫色のマツムシソウが風に揺れる中、腰を下ろしてゆっくりと無線とひなたぼっこを楽しんだ。
帰りはその牧場入り口の立木を眺めて、写真に撮った。これを見ているとあたかも自分があの映画の中にいるような錯覚に陥ってしまう。そして牧場の売店で絞り立ての牛乳を小ジョッキで飲み干した。その味は本当に格別だった。
時間も早かったので、帰りは小浅間山に立ち寄って帰路についた。
「記録」
浅間牧場入り口10:29--(.38)--11:07天丸山11:44--(.32)--12:16浅間牧場入り口
群馬山岳移動通信/1997/