秋の日の静かな山歩き「赤石山(志賀)」
登山日1995年10月14日

赤石山(あかいしやま)標高2109m 群馬県吾妻郡・長野県下高井郡 /志賀山(しがやま)標高2036m 長野県下高井郡/鉢山(はちやま)標高2041m 群馬県吾妻郡・長野県下高井郡
赤石山から大沼池

 久しぶりに気象情報が好天との予報を出した。日曜日は村の運動会があるので、土曜日はゆっくりしようと思ったが、天気が良いとなると話は別だ。「山と無線フェスティバル」の参加も村の運動会の件で見合わせていたのに、全く我ながら優柔不断な性格であると再認識した。

 10月14日(土)

 草津の温泉街を抜けて「志賀草津道路」に入る。標高1500メートル付近のダケカンバの紅葉が見頃と言った所だろうか。やがて森林限界まで車で登ると、東の空から太陽が登ってきた。今日は本当に素晴らしい天気になりそうだ。白根山の白い山肌が一瞬「暖色系」の色に染まり、その上に広がる空が青く澄んだ色に変わって行った。道路の最高点を過ぎて下り坂になりしばらく走ると、道の左側にホテル群が現れる。ここが「硯川(すずりかわ)」と言う地点らしく、道の反対側には「前山サマーリフト」があった。

 前山サマーリフトの駐車場に車を止めて支度をはじめる。気温は12℃なので迷ったが結局、冬の厚手のトレッキングパンツで歩き始めた。リフトは夏の間だけの運行なのだろうか、それとも時間が早すぎるのか、まだ運転はされていない。サマーリフトを左にみてスキーのゲレンデと思われる斜面を霜柱を踏みながら意識的にゆっくり歩く。ここのところちょっと寝不足気味なので、バテたら悲惨だからだ。

 スキーリフトの頂上駅に着くと、そこには志賀四十八池のハイキングコースの案内板が設置されており、二万五千分の一の地形図と見比べた。それは赤石山に続く稜線の道は地形図には記載されていないのが気になるからだ。案内板には一応稜線に道があるように記入されていたので少しは安心した。

 道は幅の広い立派な道で、その内にアスファルト舗装されるような雰囲気さえある。これならばUGCが遭遇した子供の団体登山も有うるわけで、今日は間違ってもそんな事は無いように祈った。道の両側の笹は霜が降りて産毛を生やした様に見える。また池塘の水は結氷しているところを見ると、やはり冬が近い事を感じさせる。少し歩くとすぐに渋池だ。説明板にはPH4.6の酸性と書いてあるが、近ごろは雨水もその程度なのであまり驚く程の数値ではない。

 幅の広い道は相変わらずで、まわりは針葉樹の林となっている。折角の好天も陽が差し込まないのでちょっと残念だ。やがて道は志賀山への分岐して、右の四十八池に向かう。緩やかに鉢山の山腹を回り込んで行くと、やがて四十八池に着いた。ここには東屋があり、休憩に都合が良いので、ザックをおろしてベンチに腰掛けた。目の前には池塘と志賀山が良い位置で朝の光の中に浮かんでいた。

 さていよいよ鉢山の中腹にある群馬・長野の県境尾根に向かう。道はいきなり階段状の急登となった。それに道もいままでとは変わって、石がむき出しになって荒れている。傾斜が緩やかになったところに「赤石山・発哺温泉」の標識があり、道が左に分かれていた。この道で間違いなさそうだ。わりとハッキリしているので安心だ。刈り払いもされているところを見ると整備もされているようだ。

 尾根歩きなので、さぞかし素晴らしい展望だろうと期待をしていたが、実際は両側が背丈よりも高い笹に遮られてそれは出来なかった。しかし頭の上は青空が広がり、素晴らしい天候だ。今年はもちろんこんな良い天候の日の山歩きは経験がないほどだ。それでも所々では笹も切れて、展望が開けるところがある。目指す赤岩山の先には岩菅山が秀麗な姿を見せている。あの山に登ったときはガスで全く展望がなかった事が思い出される。また眼下には大沼池が青い水をたたえて静かに眠っていた。途中で標高2010メートルのピークの先で南側に展望の開けた場所があったので、八ヶ岳、南アルプスの展望を楽しみながら休憩した。

 休憩後少し歩くと下の大沼池からの道と合流した。ここからは道は良く歩かれていると見えて、靴跡が無数につけられていた。ここで「ドキッ !!」として立ち止まってしまった。それは青い合羽と白い下着が笹薮の中に置いてあったからだ。まさか合羽の中身(人間)が入っていないだろうか ?。おそるおそる近寄ってみると、よかった中身はなかった。しかし何故まだ新しい合羽と下着がここにあるのか理解出来ないところだ。

 再び樹林の中の道を登る事になり、15分も歩くとまわりが開けて赤岩山の岩場が現れた。かなり崩壊の進んだ場所でもあるので、足元に注意しながら登る。足を滑らせたらそのまま大沼池に落ちそうな雰囲気もある。最初の岩峰を過ぎるとその先にも、もうひとつ岩峰がある。どうやらそこが山頂らしいので岩の上に登ってみたが、標識はおろか三角点もない。降りて登山道をもう少し進んで見ると、完全に根元まで掘り出されてしまった二等三角点があり、山頂標識もあった。しかしここは展望もなく山頂らしくないので、先ほどの岩峰の上で休む事にした。ここは展望が良く360度の展望で、特に北アルプスの新雪に輝く峰が印象的だ。

 今回から6メーターでの運用も行う事にした。間に合わせの材料で揃えた簡単なダーポールアンテナをセット三脚に取り付けた。さてどうかなと思ってスイッチを入れると、予想に反して広範囲から多くの局の声が聞こえた。1Wの出力ではどうかなと思ったが、何とかなるもので、「山と無線フェスティバル」に参加のNNL/浅草岳、MLQ/荒沢岳とQSOする事が出来た。これならば簡単にQSLの確保も出来そうだ。ちなみに430Mhzは覗いてみたが、真面目な ?QSOをしている局は皆無だった。

 赤石山山頂を後に下山する。眼下に見える大沼山があまりにも綺麗なので、そちらに行きたいのだが、これから鉢山に登るとなると体力的に無理がある。しかたなく登ってきた道を戻り鉢山に向かう事にした。

 鉢山は四十八池から赤石山への分岐した道を今度は横手山に向かった途中にある。なんと赤石山の往復では誰一人として出会う事はなかった。こんな好天の日になんと贅沢な山歩きなのであろう。分岐からは大した事はないと思っていたが意外ときつい。なんとか息を整えながら登るとやっと傾斜が緩くなった。笹原の中の道をさらに進むと展望のない笹と針葉樹の林の中に標識があった。本当にKQAが表現していたように登山道の単なる通過点である。標識には標高2000mとあったが、地形図には2041mとある。

 ここでも6メーターの運用をして見たが不調で、「山と無線」メンバーのEEQとQSOしたのみで終わった。430Mhzのメインを聞いてみると蓼科山からHIGの声が聞こえた。まさに願ってもない良いタイミングだ。これでQSLは確保できたので安心して荷物をまとめた。

 鉢山から四十八池に降りるとそこは別世界のような賑わいだった。カメラを持っただけの若いカップル、子供、ナイスミディの団体と凄い騒ぎだ。赤石山の静けさと極端すぎてなにか異様な感じがする。立ち止まることもなくそのまま木道を辿って志賀山に向かった。志賀山の登り口には「志賀山神社」の鳥居があり、これは地形図を見ると裏志賀山に鳥居のマークがあるのでそれの関係なのだろうと思う。

 今までの疲労がたまってきたので、あまりスピードが出ない。ゆっくり、ゆっくり登るしか術がない。紅葉はダケカンバの葉が落ちてしまったところを見ると、少し遅いくらいだろうか。それにしても今までに素晴らしい紅葉と言うものに出会った事がない。はたしてこれは時期が合っていない事もあるのだろうが、いつかは燃えるような秋の景色を堪能したいものだ。

 やがて裏志賀山の分岐に到着したが、地形図に名前の記載のないピークは無理に登る必要もないので、そのまま志賀山に向かう事にする。一旦、鞍部に降りると南側の斜面には池が水をたたえていた。こんな標高2000m付近の斜面に池がある事はなにか不思議な感じを受けた。鞍部からは再び登りとなり、疲れがピークに達しようとしていた。志賀山で昼食をとろうとしていたのでエネルギーの補給がうまく出来ていない事もある。時間は午後1時をまわっていた。ショルダーピークらしきところを過ぎて再び登ると、そこには待望の三角点があった。展望はこれまた素晴らしいもので、近くの横手山のアンテナ群が大きく見えていた。

 山頂部は三角点のある場所と、方位展望盤の設置された場所にわずかな距離を置いて分かれている。不思議と展望盤のあるところは展望が悪い。しかしここの方がゆっくりできそうなのでここで食事と無線の運用をする事にした。やはり6メーターで運用したがこちらの方が鉢山よりはるかにロケーションがいい。わずかな時間で4局とQSOをしたのでとりあえず安心だ。

 志賀山をあとにして帰路についた。下に降りると広い登山道は観光客で一杯だった。どうやらあの前山サマーリフトが運行されているようだ。なにしろかなりのご老人がいるからだ。案の定リフトの駅に着くとリフトが絶え間なく動いていた。迷ったが料金250円を払って一気に駐車場まで下った。


「記録」

 登山口07:03--(.19)--07:22前山サマーリフト頂上--(.32)--07:54四十八池08:05--(.05)--08:10鉢山分岐--(.41)--08:51休憩09:01--(.07)--09:08大沼池分岐--(.17)--09:25赤石山山頂10:58--(.48)--11:46鉢山分岐--(.10)--11:56鉢山山頂12:36--(.09)--12:45四十八池--(.23)--13:08裏志賀山--(.21)--13:29志賀山14:25--(.33)--14:58サマーリフト--(.05)--15:03登山口



                     群馬山岳移動通信/1995/