草木湖周辺の山は複雑に尾根が入り組み、地形図に表記されない林道が張り巡らされている。土地勘が無いものにとってこの山域は迷いやすい。東毛地区の人たちが精力的に歩いて記録をホームページにアップされている。そのなかのひとつである「白浜山」が目にとまった。エアリアマップには山名の記載があるものの登路はなく取り残された感じである。打田さんの著書「ハイグレードハイキング」では「たぬき山」とある。別のガイドブックでは白浜山東峰は「熊糞山」なんて名前で紹介されている。ここは地元の人のHPを尊重して「白浜山」と呼ぶことにする。
12月14日(土) 草木湖の左岸に沿って取り巻く道を上流に向かう。わたらせ渓谷鐵道の沢入駅手前で右折し、黒坂石キャンプ場に続く道に入る。ほどなく川を渡る道が分岐する。石材加工の工場脇を通過してさらに荒れた林道を上ると、すぐに道が三つに分岐する。左は荒れて枯れ草で覆われており、真ん中はログハウスに通じる私道のようだ。右は狭いが舗装されているが、急坂が続いている。あまり気は進まないが、その舗装の道に入ってみることにした。しかし、風に飛ばされた枝が散乱し、どかさなくては進めない。さらに法面の土が流れて道に堆積しているので、道はさらに狭くなった。車を降りて歩いて先に進んで様子を見たが、しばらくはこんな道が続いていた。これではどうしようもない、諦めてバックで林道を下ることにした。結局長い時間を掛けて三つに分岐した場所まで戻った。 たいへんな時間のロスをしてしまったが、気を取り直して支度をはじめた。気温は氷点下5度で風があるから、寒さに震えながら着替えた。こんな日は白湯が必要と、ストーブでお湯を沸かして、ついでにカップラーメンを作って朝食にした。ザックを背負って歩き始めると、林道があまりにも傾斜が急なので、たちまち背中が汗ばんでくる。 車をバックさせた地点をちょっと過ぎると道はかなり改善されてきた。しかし、乗用車でボディーの傷を気にしながら走ることはできない。やはりこんなところは軽トラックで来るべきだ。それにしても急登で、アキレス腱を思いっきり伸ばしながら歩く。林道歩きでこんなにきつい上り坂は早々あるものではない。その急登もやっと緩やかになったと思ったら、気になる注意書きが見える。「ツキノワグマ給餌事業実施中」なんとツキノワグマを集めているらしい。しかし、熊棚は見えないので、この事業は成功しているのか不明だ。給餌用?のドラム缶があったが、そこからはバタバタとムクドリが集団で飛び立っていった。鈴を盛大に鳴らしながら、おそるおそる道を進むと、前方に黒いものが動く。スワッ!熊か・・・と思ったが、よく見ればサルの集団がこちらを威嚇しながら林の中に逃げ込んでいくところだった。
沢に架かる橋を渡ると、林道はその沢に沿って登っていく。なにかに伐採が行われたのだろうか、倒木が目立ち大きな石が累々として沢を埋め尽くしていた。この林道は「藤川畑林道」と呼ばれるのだろうか?終点の標柱には「藤川畑本線」と書かれていた。この終点からは少しばかりの植林地を抜けて倒木と石で埋め尽くされた沢を登ることになる。振り返れば、周辺の山に朝日が射し込み、今日の明るさを増長している。しかし、寒さは変わらず風も強く典型的な冬型の気圧配置となっていることが想像できた。
その沢もやがて左の斜面(右岸)に沿って歩くようになる。沢にはムラサキシキブの実が鳥に食べられることもなく残っている。この付近はヒノキの植林地で、この道はあきらかにその作業道だろう。あまり人が入り込んでいない割には道形は崩れることなく、明瞭に続いている。しかし、この道形も細くなり、今度は右の斜面(左岸)に渡ってしばらく行くと、巨石に覆い尽くされた場所に出た。その前方は崩落があったらしく、前方の斜面が崩れて白いザレ状になっていた。このまま先に行くのは無理と判断して、左の斜面を登ることにした。なにしろ、左の斜面は木々の間から尾根が間近に見えているのだ。予想通り、斜面を5分ほど登ると、尾根上に到着した。
この尾根にたどり着いて驚いた。尾根上には立派な道が付けられていたのだ。ケモノ道とは明らかに違って、整備されている気配がするのだ。ともかくこの立派な道を辿って上部に登っていく。頭上はゴーゴーと木の枝を揺さぶる強風が吹き抜けている。行動中は汗をかくのだが、立ち止まると一気に身体が冷えてしまうので、なるべく立ち止まらないように心がけた。 道はやがて稜線と交わることになる。この交点には半分以上が朽ち果ててしまった標柱があった。わずかに残った白ペンキが人工物であることを見せている。この稜線上も立派な道が続いており、安心しきってダラダラと歩いて行くと、前方になにやら動物の気配。岩場の上で休んでいるのだろうか、長い体毛が風に揺れている。鈴を思いっきり鳴らしてみたが、反応がない。そこでよく目をこらしてみると、なんと岩の上の枯れ草が風になびいているだけだった。あまりのお粗末さに思わずニヤリとしてしまった。 天狗山は標識がなければ通過してしまいそうなピークだった。この天狗山という名前は公式に認知されているのか不明なので、ここでは立ち止まらずに先に進んだ。
アカマツの巨木を見ながら下降すると、なにやら展望が得られそうなので、寄り道をする。思った通りで、その場所からはカヤトの原が広がり、その先には赤城山が大きく見えていた。アンテナの林立する地蔵岳、大きなピークは黒桧山なのだろう。うっすらと雪で白くなっているのがわかった。
ふたたび稜線の道に戻り、ダラダラと進んでいくと、遠くに見えていた白浜山はあっさりとその頂きに到着してしまった。意外に綺麗な三等三角点はかなり違和感がある。以前はあったらしい標識は皆無で、立木にテープが巻かれていることが山頂の雰囲気だ。樹林に阻まれて袈裟丸山、皇海山といった山は近くにありながら、まともに見ることはできなかった。
白浜山から、東峰に行って見ることにする。
東峰の手前にちょっとだけ急登があるが、さしたる問題もなく東峰に着くことができた。ここには「熊糞山」の標識があるが、この名前はひんしゅくをかっているようである。しかし、標識が撤去されずに残っていることは面白い。この「熊」という文字は迫力があり、みれば周囲の木は熊の爪痕が残り、枯れ葉を付けた枝が随所に落ちていた。それにドングリが豊富で、いかにもクマが出てきそうな雰囲気を作っている。周囲をうろついたが見るものもなく、15分ほどで山頂を辞して白浜山に戻ることにした。 再び白浜山山頂に戻り、大休止とする。しかし、寒いので持ってきたジャンパー類を全て着込んで、白湯で菓子パンを腹の中に流し込んだ。 白浜山から往路を辿って天狗山に向かう。その途中に巨石群があったので立ち寄ってみる。この山頂付近にこの巨石があることは不思議な感じを受ける。大男がよいしょと運んできたと考えたくなるのも不思議ではない。 さて、帰路はどうしても見ておきたいものがある。 稜線を辿り、登ってきた尾根を反対にどんどん下降していくと、目指すものが見えてきた。それは「天狗の太刀割岩」である。大きな岩が、見事に真っ二つに割れているのだ。自然の造形の素晴らしさに、しばらくは声もなく眺めるだけだ。観光地化されていない静かな場所で思う存分にこの造形美を堪能できるのは、何という贅沢なのだろうか。吹く風もしばらくは収まったような気がした。
「天狗の太刀割岩」から下降すればすぐに、往路に辿った作業道に出られることはわかっているのだが、尾根上の立派な道がどうなっているのか気になる。そこで、この道がどうなっているのか辿ってみることにした。
しばらく進むと、突然目の前の視界が、大きく開けた。なんと目の前には広範囲にわたって伐採が行われ、荒涼たる斜面が広がっていた。その先には白い雪を被った男体山が姿をのぞかせていた。手前の山々の名前はわからぬが、いくつかは登ったことがある山に違いない。この道を辿ってよかったと感じた瞬間だった。
道は伐採地の縁に沿って、急斜面を下っている。しかし、それほど難しいルートではない。途中から右手は杉の植林地、左手は雑木の林となった中間を歩いた。とりあえず尾根を外さずに辿ることに専念し、斜面を下ることは避けた。もっとも植林地の場合、その中に入ったとしても、危険は少ないはずである。思った通り、尾根は地形図に記載のない林道にたどり着いた。 あとは、この林道を辿って駐車地点まで戻るだけだった。 藤川畑林道(標高510m地点)07:52--(.16)--08:08林道分岐--(.25)--08:33林道終点--(.35)--09:08左の斜面を登る--(.04)--09:12尾根--(.10)--09:22稜線--(.08)--09:30天狗山--(.28)--09:58白浜山三角点--(.17)--10:15白浜山東峰10:37--(.12)--10:49白浜山三角点11:22--(.30)--11:52枝尾根分岐--(.12)--12:04天狗の太刀割岩12:09--(.05)--12:14伐採地上部--(.23)--12:37林道12:50--(.14)--13:04林道分岐--(.13)--13:17駐車地点 群馬山岳移動通信/2013
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