同僚のTさんが、ダイヤモンド富士を見るために「竜ヶ岳」に登るという。それならばと同行させていただく事にする。自宅から関越道→圏央道→中央道と乗り継ぎ、3時間半で毛無山登山者臨時駐車場(無料)に到着。がらんとした駐車場にはTさんの車が駐まっていた。とりあえず、ビールで乾杯して眼前の闇夜の中に浮かぶ富士山を眺める。夜空は無数の星が散りばめられ、天の川が頭上を雲のように広がっていた。今日は冬至であり、おまけに新月というのは19年ぶりとのことだ。前回の「空木岳」の時は呑みすぎて失敗しているので、今夜はビール一缶で切り上げて、早々にそれぞれの車で眠ることにした。 12月23日(祝) 朝3時半に起床して準備を整える。私の車はここにデポして、4時20分にTさんの車で149号線を北上して、山梨・静岡県境の「割石峠」に向かう。「コーヒーPara Mount FUJI」の裏にある空き地に駐車する。「天満宮入口」の看板があることから、この先にはそれらしき宗教施設があるのだろう。 4時50分過ぎに出発する。 竜ヶ岳から見る日の出は7時40分頃なので、それに合わせて行けばよいので、時間的には3時間も余裕がある。ヘッドランプに照らされる東海自然歩道の標識を確認してから山道に入る。道幅は広く。自然歩道として整備されているだけのことはある。10分ほどでトイレに到着し、ここでちょっと休憩する。トイレも良く整備されており、真っ暗にもかかわらず、不気味さは全く感じられない。 ヘッドランプの照らされる空間を確認しながら進むと前方に、光る点が二つ。どうやら、鹿がこちらを向いているのだと分かるまでちょっと時間が掛かった。鹿は近づくと、光る目を向けながら薮の中に消えていった。道はほとんど水平に続き、高度は上がっていかない。A沢貯水池からの道と合流すると、いよいよ登山道らしくなってくる。 分岐から30分ほどで端足(はした)峠に到着。端足峠は、竜ヶ岳と雨ヶ岳に向かう道の鞍部にある。また本栖湖に直接下降するルートの出発点でもある。ここに着く頃には、ヘッドランプの灯りも不要になり、急速に周囲は明るくなってきた。今までは樹林帯だったが、いつの間にか富士山が姿を現し、駿河湾のあたりは朝焼けがはじまっている。こうなると、竜ヶ岳に早く到達したいと、気ぜわしく感じた。
端足峠から、竜ヶ岳の道はジグザグに登っていく。クマザサの丈が高くなり、富士山は思うように見られない。しかし、南アルプス方面は朝焼きの時を迎えて、赤く染まっている。一番左は北岳だろう、白峰三山、から赤石岳まで見事な稜線がつながっている。影富士が三角形の頂点を稜線を射すように伸びている。これほどの雄大な景色はなかなか見られないだろう。Tさんのペースは快調で、あっという間に置いてきぼりにされてしまった。 山頂に到着すると、すでに20人ほどの登山者がカメラを構えて待機していた。山頂は広く、テントが数張りあった。我々もその一角に陣取って、ダイヤモンド富士の瞬間を待つことにする。風も無く、気温も素手で作業が出来る気温だった。とりあえず、ダウンジャケットを着込むと、じっとしていても寒さは感じない。 刻一刻と日の出の時間が近づくと、気持ちが高まってくる。周囲も同じで、ざわめきが少なくなってきたようだ。 7時42分、その時間がついに訪れた。周囲から「アッ!!」という声が上がった。富士山頂のお鉢の水平部分の右隅ギリギリから強烈な光が目を射してきた。それは想像していたような赤い光ではなく、金属的で色を持たない光だった。その光は次第に大きくなり富士山頂から離れて宙に浮かんだ。これが「ダイヤモンド富士」かと感動せずにはいられない。まさに日本の最高峰の山から、太陽が生まれて昇る瞬間だ。最高の条件で見る「ダイヤモンド富士」、もうこんな光景を見ることは無いだろう。そう考えるとこの瞬間が、この時間が何とも愛おしい。 ここで、カップラーメンを取り出す。「アレッ!!」、Tさんはカップラーメンを持ってこなかった。たしか登山計画書には”カップラーメン必携”と書いてあったのに。Tさんはザックの中を何度も確認するが、無い!無い!ちょっと悲壮感が漂うほどあった。なぜかというと、カップラーメンの蓋の押さえに使うフィギアを持ってきたのに、肝心のカップラーメンを忘れたのだ。そのフィギアは「SONICO」と「フチ子」の二体だ。しょうがないので、私のカップラーメンを使ってダイヤモンド富士との撮影会となった。フィギアを持ってきたのに、Tさんの落胆ぶりは可哀想なほどで、昇りゆく太陽とは対照的であった。
竜ヶ岳から端足峠に下山、今度は雨ヶ岳に向かって標高差500mを登ることになる。 雨ヶ岳への道は、徐々に雪が増してきたのですぐに軽アイゼンを装着する。展望のない雑木林をひたすら登ることにする。振り返っても竜ヶ岳は見えないし、眼下に見えるはずの本栖湖は青い湖面が木々の隙間から見えるだけだ。急登は徐々に傾斜を増していき、ペースは格段に落ちた。当然の如く、後ろから追いついた単独行者と、若いカップルに見る間に追い越されてしまった。 標高1620m付近で展望の良い場所にたどり着く。 ちょっとだけ、日射しを浴びながらゆっくりとする。追い越された男性登山者は、この時点で我々に追い越されていた。我々もなかなか捨てたものじゃないと思った。しかし、私は必死に踵骨棘の痛みに耐えていた。 目の前が明るくなると、周囲がひらけて展望抜群の場所に到着、ここが雨ヶ岳だった。山頂標識があり、富士山の展望は抜群だ。いや、このコースは常に富士山を見ながら歩く事が出来る素晴らしいコースだ。それにしても雨ヶ岳の登りは、堪えたのでしばらくは動く気にならなかった。やがて、追い越した単独行者が到着し、しばらく話し込む。どうやら、我々とは違ってピストンの予定らしく、雨ヶ岳で引き返すか?その先まで行くか悩んでいる様子だった。 雨ヶ岳からは快適な縦走路を想像していたが、なかなか厳しい道だ。樹林帯に入るといきなり寒さを感じる。道は雪が乗っていて軽アイゼンがありがたい。それにしても時間がどんどん過ぎていく。ふと時計を見るとなんと正午を過ぎている。こうなると、大休憩をしたくなるがとりあえずタカデッキまで行こうと頑張る。途中で単独行者とすれ違い、さらに進んでいく。タカデッキ山頂は展望も悪く、休む気にはならない。やはり休むのだったら富士山を見ながら休んだ方が良い。ちょうど、タカデッキの先に笹原が広がる展望の良さそうな場所があるので、そこまで頑張ることにした。 その場所は、富士山がよく見え、その先には白銀の尾根を連ねる南アルプスが望める場所だった。ザックを下ろして、白湯を飲むと人心地がついた。菓子パンを食べ富士山を眺める。そのうちに2機のパラグライダーの目の前に近づき「こんにちわ!」声を掛けてから飛び去っていった。実に羨ましいが、とても私には出来そうもない。予定ではもう少し休むはずだったが、身体が冷えてきたので約30分の休憩で出発することにした。ここで雨ヶ岳で出会った単独行者がやってきた。どうやら、ここで引き返すようだ。
タカデッキからも急な登りが続く。Tさんが突然立ち止まった。どうやら、雪を踏み抜いたときに、足の筋を伸ばしたようだ。しかし、なんとか歩けるようなのでひとまず安心だ。この時期は水分を補給不足になるので、足が攣ることがあるがそうでもなさそうだ。登りに掛かったところで、追い越されたカップルが休んでいた。美味しそうなうどんの臭いがとっても羨ましかった。 大見岳は登山道の途中のような場所だ。地形図では読みにくいが、ルートは大きく右に曲がることになる。再びカップルに追い越されて、我々老人はそのあとを追うが離されるばかりだった。ちょっと薮が多くなったような感じだが、先行者のトレースがしっかり付いているので不安感はない。斜面を登り上げると、毛無山最高点だ。標高1964mと言うのは、この地点の標高なのだが、明瞭な標識もなく山頂らしくない。なによりも展望が無いのが難点で、だれも立ち止まらないと言うのが事実だろう。 さて、ここに立ち止まるのはやめて、三角点峰に進むことにする。道は薮がさらに多くなったように思える。適当なところを選んで歩くと行ったところだ。実際、先行者のトレースは辿らずに、Tさんとも別に適当なコースを選択して歩いた。 三角点峰は裸地になっており、富士山の展望が木々の間から見えている。山頂標識は標高1946mでこの三角点の標高が記されていた。先ほどの最高点は1964mなので、なんだか混乱しそうだ。山頂には追い越されたカップルと、女性1人を含む若い3人パーティーが休んでいた。ここには気になる標識がある。「麓集落への道は廃道」つまり三角点峰からは直接下降できないのだ。それと、「雨ヶ岳への縦走路はクマザサが多いので必ずベテランの人の同行を」というものだ。それほどでもなかったような気がするが、遭難も多いのだろう。カップルの方は、このあたりの地理に詳しいようなので、下山路を確かめておく。ともかくこれから登山口まで標高差約1000mを一気に2時間で下降しなくてはならないのだ。このデータだけでも、どれほどの危険が伴うのか想像が出来ようというものだ。 カップルが最初に三角点峰を発ち、続いて3人パーティーがそれに続いた。
とりあえず、危険なのでストックはザックにくくりつけた。案の定、急傾斜の道は最悪だった。岩場、雪、凍結路、落ち葉の積もった場所、所々にはロープが張ってある。軽アイゼンは凍結路では効果的なのだが、岩場ではむしろ扱いにくい。途中で、3人組に追いついたので、足元を見るとなんとスニーカーのような履き物なのだ。思わず「これじゃ、遭難するようなものだ」とTさんと顔を見合わせた。我々には、まさに無謀としか見えなかった。 標高1550m付近になると雪も少なくなったので、軽アイゼンを外すことにした。ついでに休憩していると、あの3人組に追いつかれあっという間に追い越されてしまった。「みんなには絶対に追い越されないと思ってた」そう声を掛けると、笑いながら自信たっぷりに下方に消えていった。若い人はすごいとあらためて感じた。 そんな3人組も標高1150m付近で休んでいるところで追いついた。話してみると、見かけによらす気持ちの良い若者達だった。 標高1050m付近の「はさみ岩」まで来ると疲れはピークを迎えていた。Tさんはスリップする回数が増えてきたようだ。登山口までたどり着いたが、その先はとても長く感じられた。水のない沢を越えて林道に着いたときはホットした。あとは林道をダラダラ歩くだけだ。 林道を下降、堰堤を2度ほど徒渉して進んでいく。 しかし、どうも様子がおかしい? 慌ててGPSを取り出して確認するととんでもない方向に進んでいることに気がついた。これは戻るしかない!!踵を返して道を戻ることにする。すると後ろで大きな音がする。振り返るとTさんが倒れたまま起き上がれないで、照れ笑いをしている。本当に疲れがピークになっているのだろう。 戻ると「麓→」の標識があり、この標識は2人とも確認していたのだが、その方向に進むという意識が全く無かったのだ。樹林の上には残照を受けて真っ赤に染まった富士山の上部が見えていた。
標識に従って杉林の中を進むとすぐに林道になった。さびた金鉱石破砕機の遺構を過ぎると、神社となり有料駐車場となった。我々は無料駐車場に停めたので、ここからまだまだ歩かなくてはならない。 冬の陽は落ちるのが早い。瞬く間に暗くなっていく車道を、Tさんと2人で敗軍の将の如く歩いて行った。 割石峠04:51--(1.02)--05:53分岐--(.34)--06:27端足峠06:35--(.40)--07:15竜ヶ岳08:39--(.36)--09:15端足峠--(1.57)--11:12雨ヶ岳11:27--(.52)--12:19タカデッキ12:50--(.43)--13:33大見岳--(.11)--13:44最高点--(.19)--14:03三角点14:26--(1.55)--16:21登山口--(.03)--分岐16:24--(.07)--16:31戻る--(.07)--16:38分岐16:43--(.27)--17:10毛無山無料駐車場 群馬山岳移動通信/2014 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。 (承認番号 平16総使、第652号) |