数日前から体調が悪い。階段を昇るときに妙な疲れと関節の違和感。そのうちに喉が腫れてくるような感じで痰が出るようになってきた。当初は一泊での山歩きを計画していたのだが、どうやらそれは無理と判断せざるを得ないようだ。しかし、2ヶ月も山を歩いていないので、このへんで山に登っておかないと、農作業が忙しくなるので、当分出かけられそうにない。そこで無理しても出かけることにした。
こうなれば歩く時間は10時間以内という事で、探し当てたのは会越国境にある「御神楽岳」だ。自宅からだと車の運転が4時間なのでちょっときつい。退社してから19時半に自宅を出発、23時に磐越道阿賀野川SAで仮眠をとる。 9月2日(金) 朝3時半に起床して、津川ICを4時前に出る。平日なので深夜割引を適用させるにはこの方法しかない。市街地を抜けて水田地帯に入ると稲穂が垂れて秋を感じさせる。やがて御神楽岳登山口の標識に従って左折する。恐ろしく狭い道を抜けて橋を渡り山の中に進んでいく。ダートの道と舗装された部分が交互に出てくる道を進んでいくと登山口に到着した。車が3台ほど駐車できるスペースがあり、そこの一角に駐車する。林道はさらに100mほど進んだところで終点となり、ここにも数台の駐車が可能だ。 登山口にはポストがあり、中には登山届用紙が綴じてあり、それぞれがここに記入するようになっている。私は持参した登山届を投函しておいたが、このポストはセキュリティーも何もあったものではない。投函した登山届は帰りには回収することにした。 沢沿いの道は夏草に覆われている場所もあり、この時期の山としては仕方がない。心配していた蚊やアブなどは全く姿を見せないのでちょっとばかり安心する。歩き始めて15分ほどで沢を渡渉して樹林の中の道をひたすら歩いていく。 樹林の中の道は変化に乏しく見るべきものもない。トチの実が時折足元に散乱しているが、種はすべて無くなっている。そのうちに近くで悲鳴のような声が聞こえる。どうやら実を食べているのは猿ではないかと推測する。登山道は難しいところは無く、ピンクテープが要所に下がっており迷いようがない。また、朽ち果てそうな標識に山頂までの所要時間が書いてあったが、あまりあてになるようなものではない。
最後の水場は沢の流れが心地よい場所で、ここで一休みする。今日はシーズンオフの平日という事もあり、人の声も聞こえず静かなものだ。休憩をとってから再び歩き出す。風邪は治ってはおらず、今が症状のピークなのだろうか、痰が喉に絡まって不快だ、痰を出すために咳き込むと、その咳が止まらず妙に病人らしくなる。そう言えば、昨日関越トンネルを過ぎたあたりから、耳が塞がれたようになり、唾をいくら飲み込んでも回復しない。無音の高速道路走行は実に快適そのものだった。
急斜面を登ると開けた場所にでる。針葉樹の大木に「大森」と書いてある。ここで小休止して水分を補給する。とにかく暑く、汗っかきの私は上半身乾いたところは無くなっている。首に下げたタオルは、絞ると吸い込んだ汗が勢いよく流れ落ちた。 大森からも樹林帯の道を登っていくが、尾根道に変わったこともあり日差しが眩しい。今日は晴れなのだが、大気中に水分が多いのだろうか、遠くはすっきりと見えていない。尾根道は快適でやがて平坦な稜線歩きとなる。この辺りはシャクナゲ通りと呼ばれているらしい。前方には雨乞峰と三角形の御神楽岳が見えている。 こうなると気分は高揚して、ペースも上がってくる。わずかな時間で雨乞峰に到着することが出来た。雨乞峰からの展望は素晴らしく、なんといっても雪に磨かれた岩壁の妙に目を奪われる。「下越の谷川岳」と呼ばれる由縁である岩壁は見るだけで恐ろしい。しかし、この岩壁の稜線を辿る「蝉ヶ平ルート」は御神楽岳を登るには最も楽しいということだ。この岩壁が紅葉したらきっと素晴らしい景観が生まれるだろう。 雨乞峰から御神楽岳までは、この岩壁を見ながら歩くことになる。実に爽快な気分で何の不安も感じない。山頂直下には石祠がありそこを過ぎればすぐに御神楽岳山頂だ。山頂には二等三角点と標柱が、その横にはドラム缶のような円柱の山頂方位盤が設置してあった。この山頂表示板は見えないはずのサハリン、モンゴルなどが書いてあって面白い。肝心の山座同定は全くわからない。それはこの山域に全く知識が無いので、基準となる山を求められないのだ。しかし、展望は360度素晴らしく、霞がかかっていなければ本当にサハリンが見えるのではないかとも思わせる。
時間はたっぷりとあるので、本名御神楽をピストンすることにする。御神楽岳よりも120mほど低いので、なんとなくもったいない感じがするが、ここまで来たのだからとりあえず行かなくてはなるまい。
シーズンにはヒメサユリが咲くという事だが、今はその影も見えない。むしろ藪が多くて歩きにくい。踏み跡も室谷コースから見ると薄いと感じる。どんどん下っていき鞍部に到着。ここからわずかに登ると石祠があり、その脇を抜けると本名御神楽の山頂だ。立派な標柱が立つ山頂は展望が良い。しかし山座同定するにもこの山域はあまりにも無知だ。記念写真をとり早々に山頂を辞することにする。 再び御神楽岳の山頂に戻り大休止とする。山頂からわずかに離れて座り込む。日差しが強く皮膚が刺激を感じるほどだ。マッタリとしながら雨乞峰方向を眺めて過ごす。そのうちに登山者の姿が見えてやがて、私のそばに」近づいた。本日、出会った最初で最後の登山者だ。名古屋から来たという私よりも年配のご夫婦で、車中泊しながら山歩きをしているという羨ましい身分だ。明日はえぶり差岳に登るらしい。このご夫婦は山頂滞在が数分でそのまま下山して行った。周囲はガスがかかってきたものの天気が崩れる様子は無い。山頂でゆっくりと時間をかけて昼食とした。山頂滞在は約1時間で、久しぶりに山でゆっくりとした時間を過ごした。
下山は樹林帯の予想外の暑さに閉口、登山口に戻ったときはヨレヨレになっていた。さあ近くに温泉は無いかと探したが見つからない。(事前の調査が不充分)仕方なく沢の水で身体を拭いて帰路についた。しかし風邪の症状は強まるばかりで、やっとの思いで自宅にたどり着いた。
【記録】 群馬山岳移動通信/2016
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