中之条町の珍山名「古界名山」
                                        登山日2015年2月14日


古界名山から対峙する大岩山の一部を見る



古界名山(こがいなやま) 標高1131m 群馬県吾妻郡

古界名山はなんと不思議な名前だろうか。群馬300山によると地元では「こげえなやま」といっているらしい。ひょっとすると漢字は著者の当て字なのかも知れない。場所は群馬県北西部で近くには沢渡温泉や暮坂峠があるが、群馬県人でも、この地域は分からない人が多いかもしれない。それだけ、忘れ去られた場所である。

2月14日(土)
どうも、昨日から喉の調子がおかしい、咳き込むと止まらないのだ。ひょっとしてインフルエンザと思ったのだが、熱は36度5分なので、寒気は覚えない。関節はだるくないし、痛みもない。まあ、風邪なら山にでも行ってたっぷりと汗をかけば治るかもしれない(実際はこんな事はないのだが・・・)
渋川市を過ぎて、中之条町に入ると途端に雪模様になってきた。日陰は凍結路に雪が積もって、時々ハンドルを取られる。5年目に入ったスタッドレスタイヤはそろそろ交換時期なのかも知れない。

沢渡温泉を過ぎて進むと、右に「老人健康村 美ら寿」の標識が見える。ここから山に向かって入っていく。除雪がされたことがないのだろうか、路面は真っ白になっている。ほどなくその「美ら寿」の建物が見えてくる。鉄製の門扉は開けたままになっているので、車を転回するために中に入らせてもらう。クッキリと施設内に轍ができたのがトラブルになりはしないかと、ちょっと不安になる。まあ、この施設は今は利用されていないようで、人の気配はまったく感じられない。転回して「仙人くつ遊歩道 入口」のカーブのところが広くなっているので、そのちょっと先に駐車する。雪の勢いは衰える気配はないようだ。車外に出ようにも、スニーカーで雪の中に出るのも嫌なので、TVを見ながら時間を過ごすが、このままウダウダしても仕方ないので、装備を整えることにする。そうしているうちに次第に薄日が差し、雪の降り方も弱まってなんとか8時半に歩き始める。遊歩道というだけあって道は広く、所々に標識もあり整備がされていたという感じがする。それというのも標識は古くなり、案内板は色が褪せている。「美ら寿」が運営されなくなってから、遊歩道も忘れられてしまったのだろう。杉の植林と雑木の混生樹林を進んでいくと、雪の降り方は穏やかになり、目指す古界名山の山容が見えるようになってきた。思っていたよりも荒々しく、山の斜面が崩落した痕が、岩肌を剥き出しにしている。

所々にベンチと赤い円筒状の灰皿、歩き始めて30分ほどのところには東屋も設置されていた。カモシカの睨むような視線を感じながらさらに進んでいくと、分岐に到着する。



暮坂峠に通じる県道沿いにある「美ら寿」入り口

「美ら寿」手前の「仙人くつ遊歩道入口」からスタート

遊歩道は広く整備されている

遊歩道から「古界名山」のピークを見る

カモシカが2頭

東屋

「仙人窟」「仙人の滝」の分岐(道標と倒木がある)
「仙人窟」に向かう


分岐は3方向に向かって「仙人窟まで285m」、「仙人の滝」、「入口まで1250m」となっていた。入口とは「仙人くつ遊歩道入口を指しているものと思われる。本来なら、ここにもう一つ「古界名山」があっても良いかもしれない。とりあえず「仙人窟」まで往復してみることにした。何度か細い沢を徒渉して、雪の中を進んでいく。右側は切れ落ちているので、ちょっと緊張する。この沢の流れが「仙人の滝」の水源になっているのだろう。

ほどなく急な斜面の下りとなる。トラロープが張られ、雪に埋もれたスチール製の階段が現れた。慎重に雪を払いながらロープに掴まり下降すると、「仙人窟」に到着だ。穴は人が立って歩ける高さがあり、奥行きは10m程だろうか外からの届いた光で、充分に奥が確認できるほどだ。

ここに来た目的の一つは「氷筍(ひょうじゅん)」を見ることだ。上部からしたたり落ちる水のしずくが、瞬時に凍り上部に向かって伸びていくもので、氷の単結晶であるという。ざまざまなかたちと長さのものがある。この氷筍の透明度はすばらしく、家庭の冷凍庫で作った氷とは全く違うものだ。



「仙人窟」手前の雪に埋もれたハシゴ

氷筍

仙人窟内部から入口を見る





仙人窟から分岐に戻り、ここから上部に向かって進むことにする。赤テープとかそれらしき目印は見られないが、なんとなく道形があるようにも感じられる。なだらかな斜面を登り、標高940m付近で右に大きく曲がり、笹の急斜面を登ることになる。気になるのは目の前にある岩壁だ。はたしてどこから取り付いたらよいものか?岩壁は長い屏風のように広がっている。岩壁の上部はアカマツが、大きな枝を広げて見下ろしている。岩壁に近づくとその険しさで、先に進もうとする力は萎えてきてしまった。

左に回り込んでみると、先ほどの仙人窟のような穴があり、上部からはツララが下がっている。それではと右に回って登っていくと黄色い荷造り紐のマーキングを発見。ルートはこちらで良いのかと思って、さらにマーキングを探すが見あたらない。右に回り込んで谷に下降しようとしたが、一旦下ってから登るのは気が進まない。それならばと目の前の岩を登ることにした。雪が乗っているので、手で払いのけると適当なホールドがあるので、思い切って登ってみることにする。しかし、3mほど登ったところで愕然としてしまった。下からは見えなかったのだが、その先はさらに険悪な岩場が続いており、リスクを冒して登るルートではないと判断した。

登りよりも下降は、いっそうの神経を使我なくてはならない。なんとか岩の基部に降り立ち、どうしようか?再び左に回ってマーキングを探すが見つからない。こうなったら仕方ない、右側に戻って今度は谷に下降する決心をした。

谷に向かうと言っても、岩壁を回り込むようにしてトラバースしたから上部に登っていく。その先には枝尾根の稜線が見えているからこのルートは正解だと確信した。かなりの急傾斜の斜面を登っていく。こちらは日射しの届かない谷間の北斜面と言うこともあり、積雪は膝のあたりまである。一歩一歩ラッセルしながら、休みながら登っていく。登りはきついのだが、先が見えていることは大きな励みだ。

枝尾根にたどり着くと、明るい日射しが届き、気分は良くなった。左側は切れているので恐ろしい絶壁で、右側は1210mの三角点ピークとその南にある1160mピークが恐ろしく大きく見えている。枝尾根に乗っても相変わらず急登は続き、登り上げたところは檜の植林地だった。そうなるとこのあたりまで作業道はあったはずなのだが、それを探すのは大変なことだと思う。檜の植林地を左に見ながら進むと標高1040m付近で視界が開けて「古界名山」の山頂部分が見えた。太陽の光も豊富で、しばらくここで休むことにする。



分岐から上部に向かう

前方に岩壁が立ちはだかる

ここを登ってみたが危険なので下降する

岩壁を右に巻いて斜面を登る

膝までの積雪をツボ足で登る

岩壁を巻いて枝尾根を進む


1040m付近で古界名山のピークを見る
檜の植林地


標高1040m付近で休憩後は再び登りになるが、目の前の1160mピークへは登らずに、南側の斜面をトラバース気味に登っていく。このルートは道形が見られることから、植林のために使われたものなのかも知れない。ここを辿って標高1160mピークと古界名山を繋ぐ稜線にたどり着く。

ここからはひたすら膝まである雪のラッセルを続けながら歩き続ける。このくらいになるとワカンがあれば快適かと思うくらいだが、それなりのスピードも出るのでヨシとしよう。そう言えば、今日はアイゼンも使わないで登っていた。道は再び登りになり、若干の薮がザックに取り付けたピッケルに絡まり歩きにくい。ピッケルも使わないので余分な装備となったようだ。

古界名山の山頂は南北に細長く、たどり着いた北の端からは、標高1240mの三角点ピークが大きく見える。しかし、木々が多く葉の繁る季節は展望は無いだろう。山頂部分を南に向かうとアカマツが、山頂の主のように立つ南の端にあるピークに立つ。山頂にはGさんの「こげえな山」と書かれた小さなプレートがあった。古界名山と書かないところにGさんのこだわりを感じる。

山頂から西はスパッと切れ落ちた断崖絶壁だ。近くに行くだけで恐怖心を感じてしまうほどだ。近くの「大岩山」は未登だが、この古界名山と同様で、周囲が岩壁に囲まれてどこからも取り付けないような感じがする。その斜面は風が強いのだろうか、時折雪煙が舞い上がって、雲のように見える。目を遠くに移せば、真っ白な浅間山そして左には浅間隠山、鼻曲山などの上信国境の山が起伏に富みながら青く連なって見える。カップラーメンをつまみに焼酎を呑んでから、12時半に山頂を辞した。


山頂付近に熊棚

振り返って標高1210mの無名峰(右)

あそこが山頂だ

群馬(上州)弁「こげえな山」

山頂は展望が良い

山の斜面は風に煽られて雪煙が舞う

浅間隠山付近を見る


下降は自分のトレースを辿るだけなので、なんの迷いもなく分岐に到着してしまった。時間も早いので、「仙人の滝」を見ておくことにする。標識が示す方向に向かって下降していくと、目の前に氷結した滝が現れた。見事な氷結した滝で、この風景を独占しているのがとても贅沢に感じられる。

久しぶりに群馬の山をバリエーションルートで登るというのは、とても充実感があった。


仙人の滝



グローブは安くてこれが最高(トワロン)

帰りに県道から古界名山を眺めてみると、恐ろしいほどの岩山だった。あの山頂に立ったと思うと、なんとなく嬉しくなった。次は左横に対峙して並ぶ「大岩山」が気になる存在となった。


美ら寿から見る「有笠山」

県道から見る「古界名山」

当日は体調不良で登ったのだが、翌日は体温が38度を越してしまった。我慢できずに日曜当番医に出かける。結果は「A型インフルエンザ」だった。「こんな状況で良く山に行けたものだ」と、医者に感心(呆れた?)されてしまった。インフルエンザ治療薬ラピアクタの点滴を受けて、なんとか山行記をまとめた。

「記録」
仙人くつ遊歩道入口08:27--(.26)--08:53東屋--(.16)--09:09分岐09:16--(.08)--09:25仙人窟09:34--(.09)--09:43分岐09:48--(.15)--10:03岩壁基部10:23--(.20)--10:43枝尾根--(.31)--11:14主稜線--(.41)--11:55古界名山12:28--(.50)--13:18分岐--(.04)--13:22仙人の滝13:31--(.08)--13:39分岐13:50--(.21)--14:11仙人くつ遊歩道入口


群馬山岳移動通信/2015


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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