新潟の低山でまさかの敗退
                                        登山日2016年6月11日




金冠山から右に鉾ヶ岳、左に権現岳

金冠山(きんかむりやま) 標高1140m 新潟県糸魚川市


久しぶりに同僚のTさんと山に登ることになった。Tさんは昨年(2015年)7月に新潟県上越市に異動してバタバタの日が続いている。そんなわけで、山に行く機会が極端に少なくなっている。そこで新潟まで遠征して一緒に山歩きをしようと計画した。場所は糸魚川市にある「鉾ヶ岳」と「権現岳」で、それぞれの登山口に車を分散して縦走しようというものだ。

6月11日(土)
午前8時に集合場所の棚口(はしぐち)に到着した。ここは権現岳の登山口で数台の車が置けるスペースがある。また傍らには登山者用の水場もあり、蛇口をひねると冷たい水が飲みたい放題だ。Tさんはすでに到着しており準備万端と言ったところ。Tさんの車をデポして私の車で溝尾の鉾ヶ岳登山口まで移動する。

鉾ヶ岳登山口まで200mの表示のあるところで舗装は終了している。さらに奥まで行けそうなので乗り入れてみたが、あまりの悪路でバックして戻る羽目になってしまった。何とか舗装最終地点に戻り転回して駐車した。駐車できるのは転回場所も考えると5台程度かもしれない。周囲は植えたばかりの早苗が風に揺れていた。それにしても準備の段階から汗だくになり、今日は苦行の山行になることが予想される。

先ほど引き返した林道を歩き始めると、道の脇にはササユリが出迎えてくれる。清楚なその花はまさに癒し系そのものだ。ほどなく林道終点に到着、2台ほどの駐車スペースがあるが、雑草が伸び放題なのでここまで入らなくて正解だったと思った。ここからしばらくは杉林の中を歩くことになる。Tさんのザックに括り付けたクマよけの鈴が林間に響き渡り、この大音量ならばクマも逃げ出すに違いない。



駐車場所


登山口まで200m


ここが登山口、車1台分のスペース


ササユリ

Tさんは山登りに1年以上のブランクがあるせいか、足が細くなったかなと感じさせる。久しぶりの再会でなんだかんだと話題は尽きない。まして今までの共にした山行の思い出は、苦労が多かったものばかり。苦労話は当事者だけにしか解らないので、それを共有するのは楽しい。Tさんは仕事柄、酒席も多く今回も前日は3次会までこなしているという。まあ、不健康な生活習慣を実践しているような毎日のようだ。

山腹をトラバースするように道は高度を上げて行き、登山口から30分ほどで島道分岐となる。島道鉱泉からの道だが、踏み跡はしっかりしているようで歩く人も多いのだろう。それにしても暑い、休憩しても汗が引かないで流れ落ちるばかりだ。汗を吸い込んだタオルを絞ると、勢いよく地面に流れ落ちる。おまけに2リットルのハイドレーションパックも、すでに半分ほど消費している。周囲からは蝉の声が聞こえているが、耳鳴りと同期してうまく識別できない。

樹林帯の道は風もなく蒸し暑く体力を消耗する。おまけに登山道に張り出した木に何度も頭を打ち付けた。もっともこの付近は豪雪地帯なので、雪の重みで樹が斜めに伸びて登山道に覆いかぶさるのも仕方ないことだ。それに真新しい崩落個所もあり、この登山道も刻々と変化しているに違いない。GPSで確認すると、現在地は地形図に表記されている登山道とは大幅に違っている。崩落した場所はロープが渡してあるが、あまりにも余裕がありすぎて、大きく振られる可能性がある。したがってあまり頼りには出来ないので、慎重にわたるしかない。


タニウツギ


崩落地を通過


ウラジロヨウラク


金冠山

やがて尖塔のようなピークが見えるようになる。Tさんがあれは「金冠山らしい」と言う。あそこをどうやって登り越えて行けばいいのだろうと不安感が増してくる。何度か沢を渡る感じで越えていくと、倒木を利用した足場もあり通過には緊張感を強いられた。沢の中から下がったロープに掴まって這い上がると標識があり4/8と書いてある。どんな意味があるのかちょっと不明だ。

時折見える金冠山の尖塔を見ながら樹林帯の中を登ると、尾根に登りあげることが出来た。木々の隙間から「権現岳」が見えた。標高わずか1000メートルの山でありながら、沢筋には雪渓が残り急峻な山容は谷川岳を連想せずにはいられない。金冠山の基部までたどり着いたところで、予想していたとはいえロープの下がった岩場が待ち構えていた。Tさんがロープに掴まったところで、いきなり登るのをやめて戻ってきた。「休みましょう」「大賛成です」そんなわけで予期しない大休止となった。

休憩後、気を引き締めて岩場に取り付いた。かなりの急傾斜で、いまだに右肘に痛みの後遺症が残っているので、その苦しさとも戦わなくてはならない。見下ろせば足元はスパッと切れ落ちて高度感が半端じゃない。車を止めたあたりにあった作業小屋が小さく見えていた。いつになったらこの登りから解放されるのかそればかりを考えていた。

ロープが無くなったところでやっと金冠山山頂に到達することが出来た。取り付き地点から標高差約100メートルの山頂は露岩の狭い山頂に標識があった。展望は素晴らしく能生海岸の向こうに日本海が霞んで見えている。この先を見ればここから下降して登りあげる先が「大沢山」その稜線の先に「鉾ヶ岳」さらに鞍部を越えてその先に権現岳が続いている。あそこまでなんと遠いことか。ガイドブックのコースタイムならここまで2時間のわけなのだが、なんと3時間もかかっている。その原因はなんだろうか?考えてみたがはっきりとわからない。2リットルを用意してきた水はほとんど無くなっている。あとはペットボトルの1リットルだけだ。このまま縦走を続けるには不安がある、どちらともなく「ここで引き返そう」と言う結論になった。なんと標高1000メートル、3時間の登りで敗退とは思いもよらない展開となってしまった。まあ、このまま進むことは危険と判断することは間違いないだろう。そうなれば、ゆっくりとするのが良いだろう。ここで休憩するには不安が残るので、とりあえず登ってきた岩場を下降してから休むことにした。


金冠山


ショウジョウバカマ


金冠山基部


金冠山に登る

岩場を下降して日差しを避けられる場所に座り込んで、ビールのプルタブを開けて乾杯だ。話題はもっぱら今回の敗退の原因と言い訳だった。
「天気が崩れそうだったから撤退したと言いたいが、でもそんな様子はない」
「ガイドブックのコースタイムが間違っているのかな?でもみんなこの程度で歩いてる」
「コースタイム5時間なので甘く考えていた」
「暑さかな、この辺の山は早朝が鉄則かもしれない」
「ストックを持ってこなかったこともある」
なんだかんだと、言い訳を考えたが体力不足が一番だったかもしれない。そのうちに眠くなり横になって20分ほど休んでしまった。そろそろ出発しなくては立ち上がると、Tさんが「マ・ム・シ!」と叫んだ。確かに背中に見覚えのある長いものが動いている。動作が緩慢なのは腹の膨らみから何かを呑みこんで消化中だからかもしれない。なんとマムシと一緒に休んでいたとは・・・

ヨロヨロと立ち上がり、登るときは気にならなかった苔の付いた岩や、木の根に何度も足をとられながら下降した。ロープがたるんでいたところでは、Tさんが危うく崩落地でロープを掴んだまま大きく振られてしまった。幸いにもロープを離さなかったのでよかったが、ヒヤリとした瞬間だった

ヨレヨレになり、汗まみれになって登山口まで戻ってきたときはホッとした。金冠山で引き返したことは残念だったが、結果的には無事に帰還したことで正解だったと考えるしかない。Tさんとは次回の山に向けて計画を練ることにした。





金冠山山頂


能生海岸


疲れた

帰路は標識で気になっていた「万年雪」まで行ってみることにした。ここで驚きの事実を目の当たりにすることになった。1986年の大規模な雪崩で13名もの方が犠牲になったとのこと。そこで大規模な工事が行われている。その工事がとてつもなく凄い。雪崩を人家に向けない誘導工、防護柵、防護堤、森林整備などで必見の価値がある。それに権現岳の山肌が雪崩によって崩落し恐ろしいような岩壁を形成し、その下には雪が残っている。強大な自然の力と人間の抵抗が凝縮されているようだ。



万年雪
その後は棚口温泉権現荘に立ち寄り汗を流してから帰途についた。





群馬山岳移動通信/2016

溝尾登山口08:31----09:12島道分岐09:18----(休憩34分)----11:37金冠山12:10----(休憩88分)--15:15溝尾登山口


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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