「妙高山」の爽やかな涼風   登山日2010年7月24日



妙高山(南峰)からの展望(左手前が高妻山、遠く白馬岳、中央が金山、焼山、火打山、焼山の付近が能登半島)


妙高山(みょうこうさん)標高2454m 新潟県妙高市/神奈山(かんなさん)標高1909m 新潟県妙高市




妙高山はかつて笹ヶ峰から登り、高谷池ヒュッテに泊まり火打山を往復した事がある。しかし、このときはあいにく天候が悪く、展望はほとんど得られずおまけに寒くて記念写真だけで早々に引き上げた経緯がある。今回は、火打山の隣にある焼山に登りたかったのだが、現在の精神力と体力ではとうてい登れそうにないので、焼山の近くにある妙高山を選んだ。どうせなら、一昨年麓から見た妙高山の一角である神奈山の姿が立派だったので、出来れば登りたいと考えた。


7月24日(土)

睡眠不足が続いており、山行を中止したいと考えた。しかし、ここで好きなことを止めたら、なにか問題が起きるような胸騒ぎがするので、その萎える気持ちを奮い立たせて登山口である燕温泉に向かう。一昨年、猫爺と旅人の3人で歩いたゲレンデのなかの道を車で辿る。午前4時20分に燕温泉の登山者向け駐車場に駐車する。駐車スペースは広く余裕もかなりあるが、紅葉の季節には満車になることもあるのだろう。まだ夜明け前ということもあり薄暗いが、ヘッドランプを必要とするほどではない。外気温は20℃なのでわずかに寒さを感じるほどだ。外で準備をしていると、大型バスが乗り付けて高校生と思われる団体が降りてきた。賑やかに号令を掛けながらストレッチをはじめた。これは困ったことになった。先行しようかとも考えたが、こちらの準備が整わない。そのうちに団体は自分の前を隊列を作って歩き出してしまった。まあ、仕方ない後塵を拝しながらゆっくりと行くことにする。ところでザックを持ち上げて、その重さに不安を感じた。暑いだろうから水の消費も当然多くなる。ゼリー飲料を含めて水は5リットルになってしまった。まあ、汗っかきの私はこれくらい持ち上げないと不安である。


さて、ザックを背負って歩き出すが、久しぶりの山歩きで少し足が地に着かないような感覚を受ける。太股もだいぶ細くなってしまったなあと感じる。距離にして100メートルほどの温泉街を抜けてから、標識に従って左の石段を登る。大山祇命を祀る神社を過ぎると道はさらに続き、野天風呂の「黄金の湯」の脇を通過する。ちょっと覗いてみると乳白色の湯の中に男性が1人身動きせずに肩まで浸かっていた。もう少し見学したかったが、あまりにも気持ちよさそうなので遠慮してさらに先に進んだ。ここからは登山道ではなく林道を歩くことになる。朝日が昇りはじめて周囲の木々の葉まで暖色に染まりはじめた。今日も暑くなりそうな雰囲気が早くも現れていた。


車道は結構急な登りで、喘ぎながら登ると早くも汗で背中が濡れてきてしまった。車道はなおも続いているが、登山道は北地獄谷に沿って上部に向かっている。その道は良く整備されて、コンクリート舗装で山腹を縫うようにして続いている。深い峡谷となっているので日射しはなかなか届かず、ジリジリとした真夏の太陽からは逃げられている。所々には資材置き場があり、この道が良く整備されていることを物語っている。やがて目の前に小屋が見えてきた。近づくと手前には水場があり、小屋の前には大量の薪が積まれていた。小屋には煙突があり清潔そうな感じを受ける。さらに近づくと小屋の前には「赤湯温泉 温泉管理小屋 無断使用を禁ず」と書いてあり、山側のコンクリートの道からは硫黄臭のある蒸気が噴き出していた。この時点でなぜ登山道がコンクリートで整備されているのか理解することが出来た。それはこの赤倉温泉への源泉を管理するための管理道路だったのだ。この管理道路の一部は導水(温泉)路の一部をなしていると思われる。この管理小屋の前にあるベンチに腰掛けてゼリー飲料とパンを食べた。そのうちにあとからきた単独行の登山者に追い越された。自分のザックから見るとずいぶん小さいザックなので羨ましいとおもった。


管理小屋を過ぎると目の前に二段にかかった光明滝と称名滝が遠望できた。流れ落ちる水の周りは鉄分が多いのだろうか、赤茶けて周囲の緑とは明らかに違和感のあるコントラストのある色彩を見せていた。また流れる水は硫黄分が多いためか乳白色になっているように見える。私を追い抜いて先行した登山者はすでに一段目の滝(光明滝)の上部に立っているのが見える。それにしてもなんと素晴らしい景色なのだろう。先行者が見えたところまで行ってみると、そこは光明滝の落ち口になっていた。それにしてもなんとなく乳白色の河床を見るとなんとなく温泉のように感じる。そこで手を入れてみると、予想に反してとっても冷たく数秒たりとも手を入れておける状態になかった。快適なこの場所は、このままここに留まって落ちる水のしぶきを受けながら一日中過ごしても良いなあと思った。ルートはこの上部の滝を巻いて登るようになっていた。地形図を見るとかなりの急傾斜なので登るのはかなりきつそうだ。


しかし、このルートはどこかで経験したような記憶のある風景だった。こんな苗場山の最後の登りにも似ているようで、苦しいが楽しみながら歩いていけばどんどん高度が上がっていくという、楽しい登りであることはたしかだ。案の定高度はどんどん上がり、やがて称名滝の上部に到着することが出来た。しかしそこは滝の落ち口ではなく、かなり上部になっているのが残念だ。しかし、沢の水量は多く爽やかな風が上方から吹き降りて来ていた。沢を跨いで渡るとそこには麻平に続く道が分岐していた。荒天時は麻平に向かうように標識が出ていたが、たしかに今までの道は危険が多いのかもしれない。



燕温泉の駐車場

黄金の湯からの分岐

燕温泉スキー場の中の道(前方が妙高山)

赤倉温泉源泉管理小屋

赤倉温泉専用引湯路

迫力ある光明の滝と称明の滝

称明の滝上部を徒渉

雪渓からの沢水が冷たい



妙高山へはこの沢を辿って上部に行くことになる。沢沿いの道は時折涼しく快適に登れる。残雪もまだ残っており、真夏の雪の感触を楽しむことが出来た。見れば沢の上部は残雪が豊富にあり、それが融けてこの沢の流れとなっているのだ。こんな事ならば、水を大量に背負ってきたことが悔やまれた。しかし、道はその沢から離れて左の斜面を次第に高度を上げていく。湿気のある斜面を登っていくと「胸突き八丁」なんて言う標識があるので、どうやらここが最難関なのかもしれない。ゆっくりと歩くことに努めてストックを支点にして登っていく。


胸突き八丁から約30分で天狗堂と呼ばれる場所に着いた。隅には石祠があり屋根の部分に天狗堂と文字が彫り込まれていた。ここには夏山リフトの案内標識があることから別ルートからの合流点でもあるらしい。ここでも休憩して冷たいスポーツドリンクを飲んで時間を過ごした。天狗堂からの登りは展望も徐々にひらけ気分も良くなってくるのだが、日射しが強くなってくるのがつらい。静かなたたずまいの善寺池を過ぎてさらに登ると風穴の標識がある。たしかに手とかざすと冷たい風が吹いてくるのが分かる。顔を近づけるとさらに涼しさを感じることが出来た。風の出口には冷気にさらされながらイワカガミが一株咲いていた。登りは辛くなってきたが体調はそれほど悪くない。徐々に山に慣れてきているのかもしれない。しかし、日頃の悩みストレスは終始頭から離れることはない。
ふと人の気配を感じて顔を上げると、単独行の男性が休んでいた。聞けば66才で、昨日は苗場山に登って来たとのことだ。実に元気な物で私に向かって「あなたほど若ければもっと歩けるんですが」という。「そんなことはありませんよ、私は58才ですから」というと「40才代かと思った」とこたえてくれた。まあ、若く見ていただけるということは、この歳になると嬉しいものだ。



天狗堂

モミジカラマツ

天狗堂を過ぎると展望が広がる

光明寺池



樹林帯を過ぎると、鎖場に出た。ここで息を整えていると後続の男性に追い抜かれた。長身で10リットルほどのザック、トレランのような格好でするりと私の横を抜けて鎖場を越えていった。私もそのあとに続いて登っていくのだがどうも足が攣れてしまう感覚を覚えた。水分を補給してちょっとストレッチをしたらなんとか押さえられたようだ。鎖場からは北信五山の幾つかが望め、とりわけ高妻山が大きく見える。鎖場を抜けると展望の良い岩場があった。ここには温泉管理小屋と、さきほどの鎖場で追い越された登山者が休んでいた。その三人で北アルプスの山々山岳展望を楽しんだが、私にはほとんど分からない山ばかりであった。これからこの三人は妙高山山頂まで一緒に歩くことになった。


妙高山山頂は南峰と北峰にわかれているが、燕温泉から登るとまずは南峰に到着することになる。南峰にはすでに3人組の登山者がおり、山岳展望を楽しんでいた。こちらも360度の展望をしばし楽しむことにする。北アルプスは一部が雲に隠れているが、それでも残雪の残る白馬岳や鹿島鑓といった有名な山は目立っていた。また近くの火打山と焼山の先には日本海の水平線が弧になって空との境界を示している。三角点のある妙高山の北峰は、こちらから見るとたいへんな賑わいに見える。しかし、三角点のある北峰に行かなくてはならない。南峰と北峰の間は巨石が聳え立ち不思議な光景を見せている。その様は巨人の世界に踏み込んだようである。その巨石に間を抜けて北峰に着くと、団体が丁度腰を上げて下山するところだった。山頂は途中で知り合った3人だけとなった。お互いに記念写真を撮り合って時間を過ごした。それにしてもこの大展望はなんと素晴らしいのだろう。風は涼しく時間を忘れさせてくれる。さて、これからどうしようかと考えた。もちろん登ってきた道を戻るつもりはない。時間はまだ早いし体力もまだあるように感じるので、神奈山に行くことに決めた。そうと決まればゆっくりしていられない。ザックを背負って、名残惜しい妙高山の山頂をあとにすることにした。


妙高山からの下りはとてつもなく辛い下りだった。急傾斜である上に、この時間になると続々と団体が登ってくるのである。そのすれ違いの面倒くささが、疲労を増幅してくるのである。まあ、日本百名山であるからこれくらいは仕方ないのだろう。延々と続く樹林帯の下降を続けると、雪渓が現れた。この時期の雪渓は堅く締まっており、油断すると滑落しそうである。恐る恐る下っていくと山頂で別れた団体が休んでいた。みればここは分岐となっていて、黒沢池ヒュッテに行くものと、長助池に行くものである。団体の休んでいるところで休むのはイヤなので、立ち止まらずにその場所を通過して、長助池に向かってさらに下降を続けた。


分岐からすぐに沢に出て、道は沢の渡渉を繰り返しながら歩いていくので、水の心配もなさそうだ。やがて目の前が開け、湿原が展開した。ここが長助池でワタスゲの白い毛が風に揺れていた。ベンチでは3人パーティーと単独行者が休んでいた。先ほどの分岐で休まなかったので、私もここのベンチに腰を下ろしてゆっくりとパンを食べた。そのうちに山頂まで一緒だった長身の単独行者がやってきた。彼もパンを囓りはじめたので少しだけ話をして過ごした。しかしこちらは地形図を見ると、まだまだ先は長そうなので早々に立ち上がって歩き出した。ここからの道はなだらかに下降することになる。途中で何人かのパーティーとすれ違いながら快適に下降していくが、ガスが巻いてきて周囲が薄暗くなってきた。まあ、雨が降り出すことはないだろうが、展望が無くなるのは辛いところがある。やがて大倉池にたどり着いたが、ここは葉が巨大化した水芭蕉が密生しており、湿原といった様相を呈している。さて、ここには標柱があり、神奈山への道を指している。ここまで来れば考える余地はない、ましてザックには冷やしてある350ccの缶ビールが入っているのだ。



風穴の前に咲くイワカガミ

鎖場からの展望

妙高山(北峰)から火打山と焼山を遠望する

妙高山(南峰)から火打山と焼山を遠望する(遠く日本海の水平線)

長助池


神奈山への分岐



分岐からは樹林帯の急傾斜な道をひたすら登ることになる。今までの爽やかな風もなくなり、したたり落ちる汗を拭いながら登る。こんな道を歩く人がいるのだろうかと思うが、なんと最近大人数のパーティーが歩いた形跡がある。ひょっとしたら、出発時に出会った子供の団体かなとも思ったが、まさかここまでは来ないだろう。登山道には時折マガリタケの中を進むために滑って滑落しそうになる。おまけに雪の重みで伏している木に気づかずに頭を激突することが何度もあった。それにしても蒸し暑く、妙高山との標高差500mはこんなに違うのかと思う。やがて崩落地にロープが下りているところを登るとそこが稜線だった。ここは「三ツ峰分岐」で神奈山と反対は黒沢池方面だ。ここでは疲れもあって、凍ったスポーツドリンクを首筋に当てて溶かして呑んだ。どうやらガスは切れそうになく、それどころか濃くなっているようにも見える。ここまで来れば天候はどうでもいい、神奈山に行くしかないだろうと一歩を踏み出した。


神奈山に向かって踏み出したが、いきなり深い笹藪に阻まれてしまった。予想外の展開にちょっと戸惑った。笹藪が無くなると今度はオニアザミの原が続くようになる。このアザミのトゲが歩く度に刺さり痛く、半ズボンで来なかったことが正解だ。それにしてもこの道は廃道になるのではないかと思われ、うっかりすると道を失うような場所もある。ともかく安易に踏み込まない方が良いのかも知れない。地形図で見ると水平に近い感じがするが、実際はアップダウンもあり息を整えて歩かなくてはならない程だ。シモツケソウ、クルマユリを愛でながら気力で歩いていくと、崩壊地がありその先に待望の神奈山山頂があった。


山頂には標柱とコンクリート片が二本置かれていた。地形図には展望に優れると記載してあったが、あいにくのガスに阻まれて周囲は白一色であった。山頂でまずしたことは、コンクリート片に腰掛けてじっとしていることだった。帽子のツバから滴り落ちる汗が地面に吸い込まれ行くのをそのまま見ていた。とにかく疲れたと言うのが、正直なところだ。さて、いつまでもこんな事をしていられない。冷やしたキュウリの塩漬けを肴にビールを呑むと全身に生気が行き渡る感じがする。落ち着いたのでここで菓子パンを一つ口に入れた。かんたんな昼食だったが、これ以上は口に入れる気にはならなかった。神奈山山頂を辞して下山に取りかかるが、今までの登りを再び辿るのは気が重くなる。いっそのことこのまま関温泉まで行ければ楽なのだが、そこから燕温泉までのアクセスが問題だ。いままで一緒に歩いていたTさんがいればこれも可能だったに違いない。



シモツケソウ

クルマユリ

キノコはわからん

クガイソウ

シモツケソウとオミナエシ?

神奈山山頂



全身汗びっしょりになって、大倉池の分岐に戻った。休む気にもならないので、このまま下山を続けることにする。ゴーロ状の石の道で河原を歩いているようなので、歩くのがかなりきつい。分岐から10分ほどで「黄金清水」に到着だ。ここの水をがぶ飲みしてしばし休憩、かなりの時間を費やして体力の回復を待った。ここからも延々と続く下降路に閉口しながら、ひたすらあるくしかない。なんどもやめようかとおもったが、空模様も気になるのでそれにも急き立てられるように歩いた。やがて大倉谷の水音が聞こえるとなんとなく、気持が楽になった。じめじめしてロープが設置された急傾斜の道を下降するとやっと大倉谷に着くことが出来た。ここにはご夫婦だろうか一組のパーティーが休んでいたので、軽く頭を下げて沢に渡してある簡単な丸太橋を歩いて対岸に渉った。しばらくは大倉谷に沿って歩いたが、すぐに道は山に入りそのまま樹林帯の中を延々と歩くだけだ。


やっとの事で麻平に到着、登る時に北地獄谷を渉ったところにあった分岐を右に折れればここにつながるわけだ。立ち止まる必要もなくこのまま歩くことにする。途中に崩落箇所の修復をやっている場所があり、登山道は直線的に下る巻き道が設置されている。しかし、これがまことに歩きづらい。ロープに掴まり慎重に慎重に下っていく。やがて沢音を聞くようになると目の前に大きな吊り橋が現れた。橋の手前では登山者が一人佇んでいた。私に気づいたのがきっかけで、橋を渡らすに谷に降りていった。その橋に近づいてみると「妙仙橋」とありそこには標識で「野天風呂」と書いてあった。行ってみたいと思ったが。着替えもなくさっぱりしたところで、再び汗まみれになるのは嫌だと諦めた。橋を渡るとそこには林道が延びてきており、ベンチがあったのでしばらく周囲のけしきを眺めながら時間を過ごした。



大倉谷に架かる橋

大倉谷に沿って下降する


妙仙橋

燕温泉




林道歩きもわずかで、燕温泉に到着することが出来た。すると後ろの方で私を呼ぶ声がする。みれば山頂で一緒だった単独行の男性が呼んでいるのだ。聞けば「黄金の湯」に入りいま帰るところだという。大宮から来たその男性は良く喋り、妙高山のいろんな思い出を話ながら駐車地点まで戻った。

帰りは「国民宿舎妙高」で汗を流してからゆっくりと帰路についた。

それにしても10時間程度の歩きでバテバテになるとは、体力が落ちていることは間違いないだろう





燕温泉04:45--(.04)--4:49黄金の湯--(.15)--05:04車道から登山道へ--(.22)--05:26温泉監視小屋05:34--(.05)--05:39光明の滝上部--(.23)--06:02麻平分岐--(.23)--06:25沢を離れる--(.28)--06:53天狗堂07:01--(.08)--07:09光善寺池--(.17)--7:26風穴--(.28)--07:54鎖場--(.32)--08:26妙高山山頂08:57--(.44)--09:41分岐--(.19)--10:00長助池10:09--(.16)--10:25大倉池--(.32)--10:57稜線--(.42)--11:39神奈山12:17--(.46)--13:03大倉池--(.09)--13:12黄金清水--(.43)--13:55大倉谷--(.19)--14:14麻平--(.17)--14:31妙仙橋14:41--(.04)--14:45燕温泉


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)

GPSの感度悪く登りは緑線で加筆した




群馬山岳移動通信/2010