この時期に登る山は限られている。北に向かえば雪を覚悟しなくてはならない。歩くのは良いのだが、どうしても雪道のドライブは尻込みをしてしまう。そんなことを考えていたら、職場山岳部が奥武蔵の「伊豆ヶ岳」に行くという。まだ登っていない山であり、食指をそそられた。総勢6名で、たまには賑やかに山を歩くのも良いだろう。 1月24日(土) 集合場所は西武秩父線の正丸駅で、午前6時半頃に到着し、メンバーを待つ。この正丸駅の駐車場は有料で500円/24hrである。料金は発券機で支払うのだが、操作方法が分からない。良く見れば理解できるのだろうが、歳をとったせいかすぐに操作できないところが情けない。定番のカレーヌードルを食べながら準備をする。やがて、メンバーが揃い登山届けをポストに投函して出発だ。 多くの人の記録を見ると、いきなり正丸峠に登るのがほとんどだが、我々は旧正丸峠経由で登ることにした。正丸駅から一旦、国道299号線に出て車道を300mほど辿ってから、左の集落への道に入る。集落をすぎて、過ぎの植林地を抜けて進むと、車道に出る。これは正丸峠に続く道で、この時期は通る車は見られない。車道をわずかばかり進んで、再び右の山道に入り進むと「旧正丸峠」に到着する。ここまでかなりの急登で、真冬にもかかわらず、じっとりと汗をかく程だった。 旧正丸峠で一休みをしてから、再び急登の階段を上っていくことになる。雪が凍結し、ストックを支点にして登らなければスリップは間違い無いだろう。しかし、用意してきた軽アイゼンを使うほどの危険は無かった。急登を登ると「正丸山」の標識のあるピークに到着。ここは「カンゼ山」の名称もあるが、どちらが正式なのかは不明だ。展望もないので、このまま先に進むことにする。
正丸山から15分ほどで車道の正丸峠に到着。ここには建物があり、入り口は閉まっていたが、2階の窓には電球の明かりが見えるから、営業しているのだろう。旧正丸峠があるから、ここは「新正丸峠」となるだろう。しかし、正丸トンネルが開通したあとは、通行も疎らだ。そんなわけでアニメ「イニシャルD」では、AE86同士のバトルが繰り広げられた舞台ともなった。 正丸峠からは霞んではいるが、かすかにスカイツリーを見ることができる。その右に見えるのは新宿あたりだろうか?高層ビル群が立ち並んでいる。ここには「昭和天皇陛下、明仁親王殿下、美智子妃殿下行幸行啓記念碑」が建っており、ここで景色を眺められたことが記してある。それだけ、この正丸峠の展望と言うのは素晴らしいということなのだろう。 正丸峠からはアップダウンの少ない植林地を歩く。さしたる展望もなく、話し相手がいなければ退屈しそうな道である。登山道は日陰に残った雪が凍結して、緊張が緩むとその途端にスリップして、尻餅をつきそうな雰囲気だ。道から外れた小高い場所があったので、パーティーから離れてちょっとだけ寄り道。先ほどの正丸峠に劣らない大展望が広がっていた。 そこからちょっとだけ斜面を登るとベンチのある場所があり、休憩にはちょうど良いところだ。その少し高いところには「小高山」の標識と広場があった。あとで確認すると、小高山はこの標識のあるところではなく、先ほど寄り道をした展望の良い小高い場所だったようだ。ともかくこの小高山の標識のある場所は、雑木の間から武甲山から武川岳あたりの山々が眺められた。ここで、若者の3人パーティーがやってきた、手には拾った木の枝の杖、足元はスニーカーと言ういでたちだ。「すごいなあ!」と声をかけると「もうこの時期は二度と登りたくない」と答えた。それにしてもこの凍結路を登るだけでも大したものだ。若者は我々を追い越して先に進んでいった。 小高山からもダラダラと道を辿っていく。 やがて、鞍部に到着すると、先ほどの3人組とご夫婦らしき2人が休んでいた。ここがこの付近で唯一の岩場である伊豆が岳の鎖場だ。標識がいくつかあり、「落石注意」「事故あった場合は自己責任」「落石の危険があるので女坂を利用してください」などの文字が並んでいる。雪は乗っているものの、それほど困難な岩場には思えない。そうしているうちに、3人組と2人組は巻道である女坂に消えて行ってしまった。わがパーティーはどうするのかと聞くと、「女坂」に向かうという。しかし、ここまで来て登らないのは悔しいので一人だけで登ることにする。ストックをザックに差し込んで、登っていく。メンバーも私が先頭で行けば、ひとりくらい付いてくるかと思ったが、だれも付いてこない。 歩き始めた以上、やせ我慢にて登っていく。まあ、だれも見ていないから少しくらいみっともない格好になってもいいだろう。鎖につかまって身体を持ち上げる。しばらく岩場を登っていないので、両手にかかる体重がつらく感じる。意外とホールドがなく、鎖が無いとちょっとつらい。岩場の中央付近は雪も多くなりちょっと緊張を強いられる。 なんとか上部にたどり着くとほっとした。しかし、ここで行き詰ってしまった。3m程度の岩の壁があり、これを巻くために左のルートに進んでみる。しかし、途中で道は崩れてしまっている。どうしたらいいだろう?こうなったら岩の壁を登るしかない。取りついてみると、ホールドは豊富にあり心配するほどでもなかったので安堵した。
伊豆が岳山頂は山頂部の露岩部分を除いて広くなっており、大人数が押し寄せても大丈夫だろう。山頂部分には頂部がかなり露出した三等三角点があった。山頂からは木々の間から展望が望める。遠くに見える白い山は浅間山、その隣にたおやかな四阿山、武川岳の右の頂部が白い三角形は浅間隠山、そして上信国境の岩菅山が連なっているのが見える。残念ながら、この付近の山は不案内で、なかなか場所がわからない。 伊豆ヶ岳で30分ほど休憩し、急降下で鞍部に向かって下っていく。さしたる変化もない登山道をひたすら歩くのみで、変化もなくあまり面白味がない道だ。ナローノ高畑山はやはり展望の無い場所で、高い木々に囲まれている。昔は、伊豆ヶ岳とこのナローノ高畑山に、登山者目当ての売店があったそうだ。時刻は正午近くなっているので、ここで大休憩にする。お湯を沸かしてコーヒーを飲むとなんとなく落ち着いてくる。周囲を見るとみなさんストーブ持参で、コーヒーやラーメンを楽しんでいた。
雨目指峠には舗装路が通り、ちょっと興醒めだ。ここにはウナギを食べた祟りで村が流されたという伝説が書いてある。こんなところでもウナギが取れたのか、それらしき川が見当たらない。この雨目指峠からの登りは疲れてきた身体には、かなりきつい。休むと気力がなくなるのでそのまま一気に登ることにする。今まで寒いと思っていたのだが、一気に汗が噴き出してきた。あまりの激坂なので、10分ほど登ったところで休憩となってしまった。 気力を振り絞って、さらに上部に登っていく。やがて真新しい幣束が飾られた社が鎮座していた。見れば、かなりの賽銭が置かれており、お参りをする人がいることがうかがえる。ここから子の権現まではわずかだ。にぎやかな団体登山者とすれ違い、広い道を歩いていく。何やら下方に白いオブジェが見えるので、目を凝らすと、どうやら手のようだ。それも手首から先だけで、何のためにあるのか、現実離れしたオブジェで不気味ささえ感じる。 子の権現は、足腰守護の仏様で知られている天台宗のお寺と言うことだ。境内には大きなワラジ、下駄が置いてある。これは祈願しなくてはいけないと賽銭を用意して、本堂に向かった。なんとそこには「ぼけ封じ」のロウソクがある。これも祈願しなくてはいけないと思ったが、住所氏名を書かなくてはいけないということで、恥ずかしいのであっさりとやめてしまった。 参道で伊豆が岳のバッジを購入し、車道を辿って下山する。
途中で「浅見茶屋」への杉の植林地の中に切り開かれた山道に入る。浅見茶屋まで25分とあるが、少しでも短縮しようと、ちょっと小走りで駆け下りていく。浅見茶屋は古民家を改築したらしく、とっても雰囲気がいい。古い道具が飾られて懐かしいものばかり。中には火縄銃なんてのもある。登山靴を脱ぐのが面倒なので、いす席がよかったが、あいにく満席なので、座敷に上がってテーブルを囲むことにした。全員が「季節限定の鍋焼きうどん」を注文。 やがてアツアツの鍋焼きうどんが運ばれて、みんな無口になって箸を動かす。手打ちうどんはコシがあり実に旨い、これ以上はおなかに入らないと思うほどだった。ところが、この寒いのにバニラアイス、抹茶アイス、名物甘味bPの一品を注文するメンバーもいた。 この浅見茶屋を経営するご家族の笑顔は素晴らしく、それが接客態度に表れている。またこの店の跡取り息子も見よう見まねでうどんを打つという。この店がこれからも続いていくことを期待する。
残った我々も、なんとか間に合うように急いだのだが、惜しくもあと3分足りなかった。走ったメンバーの1人は予定通り車を回収して戻ってきた。とても老人には真似の出来ない芸当だ。ともかく、電車を待つこともなく帰路につくことが出来た。
久しぶりの、団体登山だったが、とても楽しいものだった。黙って1人で歩くのとは大きな違いがあった。 正丸駅07:20--(.59)--08:19旧正丸峠08:41--(.12)--08:53正丸山(カンゼ山)--(.16)--09:09正丸峠09:17--(.19)--09:36小高山--(.03)--09:39小高山(標識)09:50--(.50)--10:29伊豆ヶ岳10:59--(1.07)--11:06古御岳--(.42)--11:48ナローノ高畑山12:32--(.36)--13:08天目指峠--(.13)--13:21休憩13:33--(.30)--14:03子の権現14:14--(.09)--14:23山道へ--(.18)--14:41浅見茶屋16:02--(.39)--16:41吾野駅 沿面距離:17.6km 群馬山岳移動通信/2015 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。 (承認番号 平16総使、第652号) |