例年の如く8月は山無し月となってしまった。野暮用が多いのと猛暑、それに会社の新型コロナの爆発的な流行で休みが取れない。なによりも足首の痛みが改善しないことが大きい。最近は痛み止めを飲めば、なんとかなる様になってきた。しかし、あまり無理はできないので、歩行時間が少なく、アップダウンの少ない山を選ばなくてはならない。そこで目をつけたのが北八ヶ岳だ。天候がなかなかハッキリせず悩んでいたが、ピンポイントで晴れそうな日に会社を休んで出かけることにした。
9月16日(金) 紅葉シーズン前の北八ヶ岳は人気も少なくお気に入りの山である。「白駒池駐車場」はガラガラで駐車するのに何の問題もない。駐車場の係員もいないので備え付けの封筒に「600円」を入れて車のナンバーを記入してポストに投函しておいた。 登山口からは木道が敷いてあり土の上を歩くことがない。この木道は運搬車が通行することから登山道とすれば高速道路のようなものだ。白駒池に到着して左に進んで、湖畔を周回するがこの道は白駒池が見えない。青苔荘(せいだいそう)の前を通り、キャンプ場を抜ける。木道は乾燥しているので滑ることもなさそうだ。「ニュウ・稲子湯」の標識が現れるところから、いよいよ登山道らしくなってくる。
白駒湿原は季節が過ぎているためか、目に留まるような花はなかった。道はなだらかなのだが、石ころと泥濘に悩まされながら歩くことになる。北八ヶ岳は苔のあるフワフワした道を想像するが、苔は登山者の踏みつけによって絶えてしまい、土は雨に流されて石だけが残った道に変わってしまった。そのうえ道は泥沼となってしまい、道の脇を通るものだからますます広範囲に荒れていくという悪循環に落ちっている。石の多い道は飛び石伝いに歩くと疲労が少ないのだが、石がツルツルになっていると滑る危険が多くなるから難しい。そのうちに上部から賑やかな声が聞こえてきた。近づいて見ると男性4人パーティーで下山途中らしい。ヘルメットを被っているから稲子岳の登攀かと思ったがそうではないようだ。彼らはここからニュウまでは1時間と言っていたが、そんなにはかかるはずがないと思った。傾斜は急になったが、それほどのキツさはない。途中で若者2名を追い越してしまった。そんなに調子が良くないはずなのだが、ペースはそれなりに順調らしい。
ニュウの山頂は岩峰で360度の展望が得られる。霞んではいるが富士山が美しい、穂高岳、槍ヶ岳はかなり小さく見え、浅間山は雲海の上に頭を出していた。これから向かう稲子岳は緑に覆われて黒ずんで見えている。その奥にある天狗岳は青空の中に浮かんでいる。そのうちに追い越した若者二人が到着した。30歳台という二人は疲れてはいるものの、若さにあふれてうらやましい限りだ。
ニュウを辞して稲子岳に向かう。どこかに標識があるはずだと思いながら歩いていくと、稲子岳からどんどん外れていく。10分ほど歩いたがどうもおかしい。標識を見落としたのかもしれないと引き返すことにした。しかしどうしても標識が見つからない。しかたなく地形図を見るとピンポイントで場所がわかるのだが、踏み跡らしきものが見つからない。しかし、崖下を見ると踏み跡らしきものが見える。こうなれば無理をしても下降しなくてはならない。立ち木につかまりながらなんとか下部に降り立った。そこには踏み跡があり明らかに登山道で間違いなさそうだ。コメツガの林の中の踏み跡を辿って進んでいく。時折、薮となるがなんとか辿ることができる。それでも時折ルートを見誤って、ウロウロしてしまう場面もある。こんな時はとてもうれしくなるのはなぜだろう。ルートを探しながら歩くというのはこんなにも楽しいのだ。山頂近くなると倒木が多くなり、それを越えるのに難儀する。稲子岳の文字が書かれた円筒状のものを見つけた。ここが2380mの地点だが展望は全くない。周辺を探してみたが、それらしき展望の場所はなかった。ここで菓子パンを食べてしばらく休憩だ。 休憩後、先に進むと樹木の無い砂礫の場所に出た。たしかここはコマクサが咲いていた場所だった。40年ほど前にみどり池のシラビソ小屋に宿泊し、稲子岳南壁左カンテを登ったことを思い出す。あの時は楽しかったと思い出にふけった。ここから下降する際に浮石に乗って背中から滑落、幸いにザックがクッションとなり大怪我に至らなかった。ちょっとだけ腕を擦りむいただけで済んだのだった。砂礫の場所からどんどん下降して樹林帯に入る。途中でロープが設置されてある場所を通過すると鞍部に到着し、さらに歩くとみどり池からの道に合流した ここには「この先、稲子岩壁ルートにつき、関係者以外進入ご遠慮ください」と書いてある。稲子岳には標識類が全くないので不思議に思っていたが、これで理由がわかった気がする。登攀者の安全を確保するために一般登山者は入らないようにと言うことなのだろう。ここにはかすれた文字で「中山峠まで40分/みどり池まで40分」と書いてある。見れば中山峠までの道は急斜面が続いていた。
やっとのことで中山峠に到着。中山峠は何度か来た記憶があるが、初心者を伴って厳冬期に来た時にアイゼンが装着できずにいたのを素手で手伝ったら、見事に凍傷になったことがある。その時、紫色になった指は腐ってしまうのではないかと毎日恐れていた。中山峠から中山に向けて歩き出すと展望台と呼ばれる場所があり、稲子岳の砂礫の山頂が間近に見られた。ここで、ニュウ山頂で出会った若者に再び出会った。彼らは黒百合ヒュッテに立ち寄るという。よく踏まれた登山道をたどり、ニュウへの分岐を過ぎると中山への登りとなる。ここも石ころだらけの道で歩きやすいとは言えない。 中山山頂は展望もないただの通過点だ。ここからわずかに進むと「中山展望台」という開けた場所に出る。ここは石が一面に敷き詰められ、広々としており気持ちがいい。ここでゆっくりとカップラーメンを作って昼食にする。
中山展望台からは泣きたくなるような、石ころだらけに道をひたすら下降することになる。この辺りは登ってくる人と頻繁にすれ違うが、この道にうんざりしているようで「あとどれくらいですか?」と何人かに聞かれた。 コールタールの臭いがするようになると「高見石小屋」が近くなったと感じる。高見石小屋の名物は「揚げパン」なので、迷わずこれを注文する。持ち帰ると言ったら「持ち帰るとぐちゃっぐちゃになってダメですよ」と言われた。しかし、とても食べられそうにないのでケチャップのついたものを食べて、後は持ち帰ることにした。(案の定、ぐちゃぐちゃになりとても不味そうになったが旨いことに変わりはなかった)せっかく来たのだから高見石にも登っておく。ここから見る白駒の池はなぜか小さく見えてしまう。 高見石小屋からは傾斜が緩やかで、駐車場への距離の短い下山路を辿った。
「記録」 白駒池入口登山口06:52-(.08)--07:00白駒池-(.26)--07:26白駒湿原-(.44)--08:10ニュウ08:39(21分ロス)--(.33)--09:33稲子岳10:05-(.26)--10:31登山道合流--(.32)--11:03中山峠11:04-(.30)--11:32中山--(.02)--11:34中山展望台12:15--(.53)--13:08高見石小屋13:35--(.31)--14:06白駒池-(.06)--14:12白駒池入口登山口 群馬山岳移動通信/2022 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号) |