大型連休の前半は目指した山に登れずに落ち込んでいた。それならば後半は宿題の山に登ろうと計画を立てた。それは忠次郎山で、去年の春にもう少しのところまで行ったのだが、時間切れで引き返している。
5月5日(祝) 苗場スキー場の奥、旧三国スキー場に続く林道入り口に着いてみると、なんと林道に雪がない。これじゃ、薮がうるさくて歩くのは大変なのが想像できる。これでは歩くことは無理かなと思った。林道入り口は立入禁止の標識があるが動かそうと思えば簡単に動かせる。簡単にビールを呑んで眠りにつく。 前日の農作業疲れもあり爆睡していたら、なにやら外が騒々しいので目を覚ました。 時刻は午前2時4分。 曇ったガラス窓を拭いて目を凝らすと、なにやら大勢の人が話しながら暗闇の中を移動している。 そのうちいなくなるだろうと、ふたたび横になる。 しかし、その集団は通り過ぎるどころか、車から30mくらい離れたところに陣取って、気勢を上げ始めた。 なにやら、人の名前を次々に叫んでいる。 かけ声も聞こえる。 なんだろう。 怪しい宗教団体の催事だろうか。 ふたたび、窓からのぞいてみるが、不思議なことにライトが見えない。 林道の暗闇の中でなにかが行われているが、まったくわからない。 背筋が寒くなってくる。 ホラー映画の一場面が頭の中でグルグルと周回している。 30分待ったが、事態は収束する気配はない。 こうなったらここから離れるしかない。 しかし、エンジンを掛けた時、集団の視線は一斉にこちらに集中するだろう。 ひょっとして、一般人に見られた事で、それを知られないように口封じに迫ってくるかもしれない。 なんの騒ぎなのか知りたい気持ちはあったが、車のエンジンを掛けて一目散にその場を離れた。 そんなわけで、睡眠不足と気合いが入らないので、違う山を探す。そんな中で目にとまったのが「法師山」だった。今年の3月に旧三国峠から見た法師山は行こうと思ったが、やはり時間切れで宿題としていた経緯がある。 三国隧道の新潟県側に車を止めて歩き出す。旧三国峠までは幅の広い道が続き遊歩道の雰囲気だ。沢筋には雪が残り登山道脇にはショウジョウバカマがうつむき加減に群落している。連休なのだが、こんな山に登る人はいないのだろう。しかし、三国隧道を利用する車の騒音は相当なもので、大型車や二輪車の音は静かな山に途切れることなく、まとわりついてきた。
旧三国峠は3月の時は雪でほとんど埋もれていた鳥居が基礎の部分まで露出していた。あのときは3m近い積雪であったことがわかる。目指す長倉山方面は夏道が続いており、残雪はわずかだった。スパッツを着けて長倉山に向かって登りはじめた。急登の道は刈り払いがされており、薮漕ぎは全く無縁だった。急登を登り詰めると、その先には素晴らしい景色が広がっていた。目の前には残雪に輝く嶺々が連なって、青空の中に天と地の境界をハッキリと示している。登山道は両側が切れ落ちて「万里の長城」のようになっているが、風もないこの条件ならば危険もなく歩くことが出来るであろう。
長倉山は登りながら見ると、立派に見えるが、実際に立ってみると登山道の一部のようで感動は覚えない。さて法師山はこのピークから派生する尾根上にある。標高差140mなので雪があれば問題ないのだが、一歩踏み出してみると背丈ほどの笹が密生しており、かなりの困難が予想される。 笹は背丈を越えるとかなり苦しいが、腰のあたりならば楽だと感じる。今までで酷い目にあった笹薮は志賀高原の「黒湯山」、秋山郷の「笠法師山」で、足が地に付かなかったが、この笹薮は足が地面に付くだけ儲けものだ。無雪期に法師山までこのルートを辿る人はほとんどいないだろう。道形はハッキリせず、獣道も見られなかった。それでも物好きはいるもので、所々に青い結束用のヒモが枝に結んであった。 1378m標高点を過ぎると笹丈は胸のあたりになり、速度は格段アップした。それにいままで見えなかった道形も確認できるようになった。かつてはここを歩く人もいたのに違いない。さしたるアップダウンもなく薮をこいでいくだけだ。今の時期は緑が少ないから見通しが利くので、法師山の場所はよく分かる。
ダラダラと歩いて行くと足元に真っ白な三角点があった。ここが法師山山頂で間違いあるまい。念のためにGPSで確認しておいた。期待通り展望は無く、笹と灌木の原が広がっているだけだった。山頂標識もなく、清々しい気持ちで三角点を撫でてみた。しかし、ゆっくりしている暇はない。標高差140mを下降したからには、今度は笹薮を140m登らなくてはならない。 法師山から1時間以上掛かって長倉山にやっとの思いでたどり着いた。 さて、ここから稲包山方面に向かって行けるところまで歩いてみよう。
長倉山からの県境稜線は実に気持ちの良い場所だった。残雪が残っている場所は歩きやすく、夏道が現れたところは、刈り払いがされて素晴らしい道ができあがっている。 周囲の展望を楽しみながらゆっくりと歩いた。 キワノ平ノ頭は目立たないピークだったので、標柱を確認して通り過ぎる。その先の平坦なピークについたのが11時ちょっと過ぎだった。稲包山まではあと2時間は掛かるだろう。いまさら目指して歩く必要性もない。たまにはこんなところでゆっくりするのも良いだろう。そう思って、ここで大休憩を取ることにする。それにしても素晴らしい展望の場所である。稲包山はすぐ傍にあり、目を右に転じると白砂山、そして目指すはずだった忠次郎山が白く輝いている。旧三国スキー場は雪が無くなっている場所もあり、急速に雪解けが進んでいることを感じさせる。さらに苗場山、苗場スキー場の建物を挟んで平標山、仙ノ倉山、三国山、上州武尊山と思い出を辿りながら観ることが楽しい。焼酎を呑みながら過ごす至福の時間とはこのことだ。JA1RLと交信して、無線機はそのままNHKラジオに切り替える。NHKのど自慢が始まりこれを聞くのも幸せだ。 そうしているときに、稲包山から単独行の登山者が戻ってきた。秩父から来たという登山者と30分以上も山談義。これまた楽しい時間を過ごすことになった。結局、2時間半も居座ってしまったことになる。まあ、これも楽しいと言うことだ。
帰りは、長倉山手前の鉄塔から巡視路を辿り、花を愛でながら快適な道を下った。
06:18三国隧道(新潟側)--(.31)--06:49旧三国峠06:53--(.26)--07:19長倉山07:29--(.54)--08:23法師山08:32--(1.12)--09:44長倉山09:54--(1.01)--10:55キワノ平ノ頭13:29--(.45)--04:14長倉山下(鉄塔)--(.20)--14:34登山道合流--(.16)--14:50三国隧道
群馬山岳移動通信/2013 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。 (承認番号 平16総使、第652号) |