珠玉の南アルプス「日向山」「鞍掛山」「大岩山」
登山日2018年5月20日



クモイコザクラの群落



日向山(ひなたやま)標高1660m 山梨県北杜市/鞍掛山(くらかけやま)標高2037m 山梨県北杜市/大岩山(おおいわやま)標高2320m 山梨県北杜市

大型連休の喧騒も去り、本格的な山歩きがしたくなった。そこで黒戸尾根経由で甲斐駒ケ岳を考えたのだが、体力不足と日程の関係で諦めざるを得ない状況になった。それならば同じ登山口から登る日向山の頂上から甲斐駒ケ岳を見るのもいいなあと思った。そこで検索するとなんと「あにねこ」さんが登っている記録が目に留まった。あにねこさんは日向山から鞍掛山、大岩山とつないで往復している。あにねこさんとはかつて上信国境で遭遇し、見事に追い越されている経緯がある。そうして考えるとあにねこさんのコースタイムにプラスして時間配分を考えなくてはならない。ともかく、日帰りは十分に可能との判断で計画を立てた。

5月20日(日)
朝4時に起床し車の中から這い出す。昨夜は寒くてシュラフの中に潜り込んでいたが、車外に出るとそれほど寒くは無い。尾白川渓谷駐車場は閑散としており、人の動きも感じられない。お湯を沸かしてカップラーメンを食べながら支度を整える。しかし、胃が目覚めていないためかあまり食欲が無い。

ここの登山口の登山計画書提出箱は施錠がしてある。施錠を確認してから用意してきた計画書を投函した。基本的に計画書は施錠していない箱には投函しないことにしている。計画書は家人に渡してあり、もしもの時の通報は家族が行うことになるので、個人情報が詰まった計画書を投函しても無意味と考えている。

登山口からキャンプ場までは車道が通じている。キャンプ場には車が数台とテントが見えている。そこから右に折れて山道を登って行く。斜面にジグザグにつけられた道を歩き、次第に高度を上げて行く。時折、朽ちた炭焼き釜がいくつかみられる。この中にはなにか獣が潜んでいるようで、中を見るのは勇気がいる。やがて上部を見上げると、カーブミラーと白いガードレールが目に入ってくる。そしてその舗装された林道に出てから100mほど歩いて再び山道に入る。よく踏まれた道は歩きやすく歩く人が多いものと推測できる。そして再び林道にたどり着く。ここは矢立石登山口で、現在は崩落個所があるために下方から車で来ることはできないが、整備されればここまで容易に入れることになる。そうすれば尾白川渓谷駐車場からの1時間が短縮されるわけだ。しかし開通させないほうが、静かな山歩きを楽しむ者にとってはありがたいと思う。
登山口で注意書きなどを読んでいると、膝まで隠れるような白い上着を着て走ってくる人がいる。髪の毛はアフロヘア―で見れば私よりも年上の女性だ。思わず恐怖を感じて身構えると、軽く頭を下げてそのまま登山道を駆け上がって行った。呆気にとられて脚があるか否か確認する。脚は付いておりもののけの類ではなさそうだ。気を取り直して登山口から登り出す。植生保護のため靴を洗うためのプラ舟が置いてあったが、入っている水があまりにも不潔そうだったので洗う気にはならなかった。また登山者の人数を数えるカウンターが設置してあったが、稼働中なのかはわからなかった。

登山道は新緑が美しく、ヤマツツジの赤い花が見事だ。高度を上げるにしたがってミツバツツジの紫の花に変わっていく。登山道はよく整備されており、たしかにハイキングコースと書いてあるだけのことはある。また「10/1」「10/2」と合目の表示があり、おおよその位置関係がわかるようになっている。「10/8」付近で追い抜いて行った白服の女性が戻ってきた。立ち止まって少し話をする。地元の方で、ほとんど毎朝ここを走っているということだ。最後に「脚があったので安心しました」と声をかけた。


尾白川渓谷駐車場


矢立石登山口

快適な道

ヤマツツジ

新緑も美しい

日向山三角点


清々しい新緑の中の道は山に来てよかったと思わせるに十分だ。雨量観測所を過ぎると三角点の標識がある。とりあえず立ち寄ってみたが展望もなく、ここで休憩する人もないらしく三角点の周りの裸地は広がっていなかった。三角点からわずかに進むと突然視界が開けて目の前に白砂の風景が広がった。

目の前には緑が濃い南アルプスの山並みが広がり、目を転じれば八ヶ岳が一つの山塊となって青く霞んでいる。さらに180度視界を転じれば甲斐駒ケ岳が沢筋に白い雪跡を残してこちらを見下ろしている。残念ながら中腹はガスがかかって山容の全体は見えないが、その大きさは圧倒的な迫力だ。風化した花崗岩が砂状になり敷き詰められたこの場所は、まさに砂浜という呼び方がぴったりだ。倒木はさながら海から漂着した流木そのものだ。吹く風は乾燥していて心地よく、浜風を受けているよう。この場所はやがて崩落が継続してやがては山容が変わって行くのだろう。しかし、この砂の斜面を転落したら這い上がってくるのはかなり大変だろうと思った。ところでこの白砂の斜面の末端はどうなっているのだろうという好奇心も芽生えた。絶景を堪能していたらあっという間に15分が経過してしまった。日向山を辞して、白砂の斜面に靴を半分以上を潜らせて鞍部に向かう。鞍部から振り返ると、帰路の日向山への登りは嫌だなあと思った。鞍部には標識があり「錦滝」「鞍掛山」それぞれの方向を示している。




日向山(雁ヶ原)からの展望


甲斐駒ヶ岳

風化した花崗岩の砂礫

海のようだ

不思議な光景だ


鞍掛山への道は細い尾根を辿って行く。周囲はミツバツツジの大群落でこれほどの規模の群落は経験したことが無いほどだ。左右を見ても、振り返っても、見上げてもミツバツツジの紫の花が視界に入るのだ。それにしてもこのルートは踏み跡が多数あり、迷いやすいと思われる。帰路は実際にルートの選択に迷い引き返す場面もあった。その踏み跡は、はっきりとしており迷わないほうが不思議と思われるくらいだった。ここからは一本調子で樹林の中をひたすら高度を上げて行く。標高1590m付近から道は左に向かい、やがて尾根のルートに乗る。尾根は左側(南側)が切れ落ちている場所が多く、時には展望が開ける場所がある。そんな時に富士山が見えるとうれしくなるのは、普段は富士を見ていない群馬県人だからなのだろうか。富士山の横には鳳凰三山のオベリスクが天を指しているのが見える。日陰に入れば寒いくらいの条件は、山歩きには最高の条件だ。眼下には水引田が太陽の光を反射している。こんな南アルプスの名水で作られる米はうまいんだろうなあと思う。

標高1900m付近で私と同じくらいの年齢の単独行登山者に追い越された。
そして「クモイコザクラですか?」と聞かれた。
「ここに咲いているんですか?」と答えた。
「今年はいつもより早くなっているから、今日あたりは満開ですよ」
「サクラソウの仲間は好きな花なので、それはうれしい」
雑談してからその単独行者は先行しすぐに視界から消えた。


ミツバツツジとヤマツツジ

鳳凰三山

甲斐駒ヶ岳

富士山

カモシカがこっちを見ている

駒岩(鞍掛山分岐)


駒岩(鞍掛山分岐)は小高い場所にあった。標識には「大岩山2h」「日向山2h」「鞍掛山0.3h」とある。0.3hとは???20分?30分?、おそらく30分のことなんだろうなあと思いながら鞍掛山に向かう。標高差90m下降し100m登り返すというものだ。90mの下降はあっけなく、わずか6分だった。鞍部には追い越して行った登山者ではなく、別の単独行者がおり、しばらく話し込んでしまった。この北杜市に住みながら、春は西上州にアカヤシオを見に出かけるという。今年は袈裟丸山にも足を延ばしたとのこと。こんなに素晴らしい南アルプスに居ながら、遠出をするとはこちらからすると信じられない。

鞍部からの登りはかなり急傾斜で、木の根がむき出しになった斜面は、踏み跡が多数ありルートを失う場所もあった。何とか山頂部分に到着すると、先行していた単独行の男性が下山してくるところだった。「山頂の先に展望台がありますが、さらにその先にある岩峰からの眺めが最高です」と教えてくれた。山頂には崩れた大きな石祠と不動明王が待っていた。切れ落ちた崖の上にある展望台から見る甲斐駒ケ岳に圧倒される。さらに奥の岩場に向かって藪道を進む。すると絶景が待っていてくれた。そこには富士山、鳳凰三山、甲斐駒ケ岳、鋸岳のパノラマが広がっていた。それらの山々は青空の背景に、飛行機雲のアクセントを加えている。無音無風で誰もいない展望台を独り占めしていることに対して、なにか恐ろしいものを感じる。ましてこの風景が現実なのか?と感じる。甲斐駒ケ岳の黒戸尾根を下方から頂上に向かって目で辿ってみる。はたして今のこの体力で登ることが出来るのだろうか?その確認に来た訳だが、闘志を燃やすよりも気持ちが萎えていく自分がそこにあった。鞍掛山で40分も滞在してしまったので下山しようとしたら、鞍部で会った単独行者がやってきた。ここで再び雑談して下山する。鞍掛山の下山中に5人の登山者とすれ違い、鞍部から登りあげるときに2人の登山者とすれ違った。


鞍掛山山頂直下から富士山




鞍掛山展望台からのパノラマ



駒岩(鞍掛山分岐)に着いたのは11時過ぎ、標識によれば大岩山まで2時間、逆算すると駐車場に到着するのはかなり遅くなりそうだ。ここで日向山に引き返すという事も考えたが、思い切って大岩山に向かう事にする。地形図では破線となっているが、道ははっきりとしている。カラマツの天然林の標識があるので周囲を見ると、たしかに不規則にカラマツが育っている。今まで植林された場所しか記憶にないものだから新鮮な感じを受ける。カラマツは芽吹いたばかりで、その新緑が眼に眩しい。笹原の中に切り開かれた道を歩くのは実に心地良い。こんな道を歩くのはとても好きで、気持ちが穏やかになる。この笹原の道は傾斜が強まると笹はまばらになりカラマツの樹林へと変わった。

大岩山手前の駒薙ノ頭(2230m)のピークに到着すると、若干展望が得られた。ここにはブリキの板と熊手そして赤のスプレー塗料が置いてあった。どうやら登山道の立木に目印を取り付ける作業をやっているらしい。ルートはここから60m下降してから140mを登らなくてはいけない。そこで背負っている荷物をデポしていくことにする。置いていくものは雨具と緊急用具を選択した。これをザックカバーで包んで倒木を乗せておいた。これだけでかなり荷物が減った感じがする。実際に計量してみると2キロになるから、かなりの重さだ。

鞍部まで一気に下降してから140mの標高差を一気に登り上げる。何も考えずに無心で登ることにする。そうすることが気力を持続することなのだ。傾斜が緩くなりわずかに進むと山頂標識がぽつんと設置されていた。しかしここは全く展望が無いのでもう少し先に進んでみる。標高差20mほど下降して先に進んでみたが相変わらず展望は無かった。ふたたび山頂に戻り、ここで休憩する。焼きそばパンとゼリー飲料を流し込んで、腹を満たした。

この山頂で気になっていることを試してみる。それは血中酸素濃度の測定で、通常は98%なのだが、どう変化するのかを見ることだ。測定してみると90%の結果が出たので危険と言うことだ。そこで呼吸を意識して速めてみると、96%まで上昇した。標高2300mでは酸素濃度が低いので意識して呼吸をしないと、血中酸素濃度は下がるのかもしれない。また飲酒をすると濃度は2%程度低下するので、高山での飲酒は考えた方が良いかもしれない。(この辺は素人考えなので正確では無いが・・・)


快適な道

カラマツの天然林

駒から大岩山と鋸岳

大岩山山頂

下山途中に日向山を俯瞰する

ここを登れば日向山


休憩後の時刻を確認すると13時になっている。コースタイム通りに行動すれば、駐車場到着は18時半ということになる。あまりゆっくりとしていられないから下山を急ぐことにする。

結果的には日向山まで誰にも会わずに歩くことになった。日向山からの下山でも犬連れの3人を追い越しただけで駐車場に到着した。

久しぶりの12時間行動の締めくくりは「尾白の湯」でゆっくりと汗を流してから3時間のドライブで自宅に戻った。


群馬山岳移動通信/2018

尾白川渓谷駐車場05:00--(.55)--05:55矢立石登山口--(1.16)--07:11三角点--(.07)--07:18日向山07:34--(1.44)--09:18駒岩(鞍掛山分岐)--(.06)--09:24鞍部09:37--(.18)--09:55鞍掛山10:39--(.32)--11:11駒岩--(1.30)--12:41大岩山13:05--(.57)--14:02駒岩--(1.27)--15:29日向山--(.50)--16:19矢立石登山口--(.44)--17:03駐車場


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)