9月9日にNHK−TVの「小さな旅」という番組で瑞牆山が放送された。その際に「鷹見岩」に立ち寄っていた。そこからは絶景と呼ぶにふさわしい展望が広がっていた。かつて瑞牆山と金峰山の両山に登ったときに疲れ果てて「鷹見岩」に立ち寄る気力がなかった。心残りになっていた山であることはたしかだ。それによく見れば「飯森山」「大日岩」も登っていない。さらにエアリアマップを見ると「魔子」なんて怪しい名前の山、「五里山」という道のない山まである。これは楽しめそうだと出かけてみることにした。 9月15日(土) 瑞牆山荘の近くにある市営駐車場に着いたのは午前6時過ぎだった。駐車場はすでに8割以上埋まっており、百名山の人気は相変わらずだ。天気は心配なさそうだが、標高2000mなのでそれなりの装備はザックに詰め込んだ。9月というのに歩き出すと蒸し暑い。長袖のシャツを着ていたが、すぐに半袖のシャツに切り替えた。良く踏まれた道はなんの不安もなく、歩くことが出来る。やがて林道を横断すると道は登山道らしくなってくる。前後に人は疎らで駐車場の車両の数から見れば少ないように感じる。登山道を離れて、里宮にお参りしてからさらに進んでいくと、道に水溜まりが現れる。これは水場の水が流れてきたものだ。満開のマルバタケブキを横目に見ると、富士見平小屋はすぐそこだった。 しばらくの間無人だった富士見平小屋は昨年から小屋番が常駐し、周辺が管理されてきれいになった。小屋の前にはカラフルな看板が掛けられていた。小屋の中は真新しいテーブルがあり、厨房は調理器具が整然と並べられていた。先日NHKで放送されたこともあり、早速記念の手ぬぐいを販売していた、こういう記念品に弱いもので購入してしまった。(800円) 富士見平小屋からもしっかりとした道は続いている。さほどのアップダウンもなく、涼風が心地良く快適に歩くことが出来る。富士見平小屋から30分ほどで鷹見石への分岐に到着した。ここで先行していた単独行の男性に追いついた。男性は金峰山に向かってそのまま通過していった。こちらはとりあえず目的地の鷹見岩に向かって登山道を離れた。道形はハッキリしていて、エアリアマップの破線とはちょっと様子がちがう。しかし、歩き続けるとシャクナゲの藪が濃くなり上半身が引っかかる様になったが、それでも困難を要するものではない。ふと後方を振り返ると、先ほどの分岐で金峰山に向かったはずの男性がこちらにやってくる。気が変わったのか、道を間違えたのかそんなところだろう。
ふたたび鷹見石の分岐に到着、さてどこから飯森山に取り付いたらいいのだろうか。ちょっと先に進んでみたが踏み跡らしきものはない。こうなったら登山道に沿って高度を下げないうちに、登っていくしかない。適当なところで、苔むした樹林の中に入り込んだ。もう道形はないから、ひたすら登るしかない。なるべく藪を避け、倒木をまたぎ直線的に登るように努めた。下方の登山道からだろうか、大きな声が聞こえてくるが、この飯森山に登る人はおそらくいないだろう。上部に行くに従って倒木も少なくなり傾斜も緩やかになってきた。こうなれば山頂も近いだろうと、歩く速度が速まってきた。 平坦な飯森山の山頂は樹林に囲まれて展望は全くない。しかし、その中に白く輝くものがあった。久しぶりに見る達筆標識で設置は2000年6月16日だから、もう10年以上も経過しているのに、劣化はしていない。しかし、木ネジを付けてあった穴には紐が通されて、立木に縛り付けられてあった。 さて、これから大日小屋に向かって最短距離で下降しようとGPSで方角を確認して歩き出した。しかしなんと言うことだろう、山頂から少し下ったところでシャクナゲの密藪に阻まれてしまった。それにどうも大日小屋の位置がおかしい。(実際、地形図の位置は違っていた)こうなったら、なるべく登ってきた道を辿るようにして下降した方が良さそうだ。飯森山の山腹を登ってきたルートに近づくようにトラバース気味に戻った。
登山道に到着、さあこれから大日岩に向かって、ほとんど水平の道を辿っていく。ほどなく大日小屋に到着。もっとも大日小屋は登山道から少し下ったところにある。何組か休憩していたが、このまま大日岩の分岐まで行ってしまう方が得策と考えて、休むことなく登りの道に取り付いた。急なところはあるが、総じて歩きやすい道なので、あまり疲れは感じない。むしろ、先行者を追い越すときに気を遣うほうが疲れる。大日岩の下部は格好の休憩場所のようで、何組か休んでいた。岩場を登り切ると、そこが金峰山と小川山の分岐だ。小川山に向かうルート上に大日岩があるように地形図には記載されている。間近に見える岩場を登れば簡単に山頂に達する渡考えて、ここでも休むことなく大日岩に向かった。
岩には赤ペンキで○印が書かれているので、それを頼りに登っていく。いったん平らなところに出るとちょっと安心する。このまま直登すると思ったら、そうではなく山頂を巻くようにマークが付いている。そして行く先には大岩があり、その下部が窓のように開いている。1人がやっと潜れるような穴だ。しかしそこには赤ペンキで××が書かれている。つまり「行くなと言うことなのだ。さて困ったぞ、周囲を見るとなんと岩場を下降するようになっている。岩場には浮き石もあり、これを落としたら下で休憩していた人を直撃するに違いない。それもたいへんだが、自分自身が滑落するかもしれない。それに、下降したら大日岩に登れなくなるのではないか?と言う疑問だ。しかし、××マークを無視して行く勇気はない。思い切って○印の案内に掛けてみることにした。 慎重に落石に注意しながら、岩場を下降する。ルートはそのままトラバースしながら続いている。そしてついに大日岩を半周してしまった。そして、岩場を過ぎて樹林帯に入った。ここには「大日小屋→」と書かれた標識があり、消えてしまいそうな道が下方に向かっていた。上部を見ると木々も多く、何となく登れそうな雰囲気がある。踏み跡は見られないが、ここから上部に登ってみることにする。樹林帯を過ぎると岩場に出て、細い溝が上部に延びている。みればホールドも豊富で、所々に灌木が岩に張りついている。これなら何とかなりそうなので、思い切ってこの溝に取り付いた。三点確保の基本を守りながら、慎重に登って行く。山頂の岩が見えるところで、何とか登れる目途が付いた。振り返ると大日岩の基部はかなり下に見えており、高度感が味わえた。 大日岩の頂部は意外に広く、落ち着いて大展望を楽しむことが出来る。鷹見岩で見えた富士山は見えなかったが、代わりに近くにある小川山の鋭鋒と、近くにある白い岩肌の岩峰が目に付く。その岩峰はカラス天狗にも見える。いや、よく見ると無数の顔の彫刻の集合体にも見える。何とも奇怪な岩で印象的だ。目を転じて金峰山を見ると、上部の五丈岩はガスが掛かっているが、緑の森の山容はこの付近の盟主としての貫禄充分だ。この大日岩の頂部でビールでも呑みたいところだが、帰りのことを考えると、我慢するしかなかった。 展望を楽しんだあと、いよいよクライムダウンだ。慎重に、慎重にと言い聞かせながら下っていく。何よりも緊張するのは岩場の浮き石だった。これを落とせばきっと怪我人が出ることは明々白々だ。それにしても、小川山へのルートとしてエアリアマップに記載されているが、これは安易にルートに入り込む人を防ぐ意味で記載しないのが適切だと思った。 大日小屋で、やっと安心してビールと焼きそばパンを食べ、10分近く休んだ。 富士見平小屋は朝と同じような賑わいだ。小屋に寄り、ご主人と大日岩について言葉を交わした。その後、瑞牆山を見るために林道を辿り、駐車場に戻った。
市営駐車場6:35--(.21)--6:56林道横断--(.08)--07:04里宮--(.16)--07:20富士見平小屋07:25--(.30)--07:55鷹見岩分岐--(.11)--08:06鷹見岩08:26--(.08)--08:34鷹見岩分岐--(.28)--09:02飯森山09:17--(.24)--09:41登山道--(.06)--09:47大日小屋--(.23)--10:10小川山分岐--(.27)--10:37大日岩10:48--(.16)--11:04分岐--(.20)--11:24大日小屋11:32--(.34)--12:06富士見平小屋12:10--(.05)--12:15林 道--(.22)--12:37登山道--(.14)--12:51駐車場
|