丹波山村から大菩薩嶺へ  登山日2013年5月25日



大菩薩峠から富士山(撮影時は富士山が不鮮明なので画像処理)

中指山(なかざすやま)標高1330m 山梨県北都留郡/サカリ山(さかりやま)標高1542m 山梨県北都留郡/日向沢ノ頭(ひなたざわのあたま)標高1685m 山梨県北都留郡/妙見ノ頭(みょうけんのあたま)標高1990m 山梨県甲州市・北都留郡/大菩薩嶺(だいぼさつれい)標高2057m 山梨県甲州市・北都留郡 

5月25日(土)



午前4時、道の駅「たばやま」の駐車場で起きると、周囲は白々と明けはじめていた。駐車場には同じように車中泊をした人たちが動き始めている。なかにはシュラフに入って建物の軒先で過ごしている人もいる。あんなところで寝られるものなのだろうか。おそらく熟睡は出来ないだろう。隣では鹿島から来た同僚のTさんがおり、やはり動き始めている。昨夜は酒も適量でやめているが、その適量もちょっと酒量が多かったかもしれない。しかし、一度も起きることなく爆睡できたことは良かったかもしれない。

準備を整えて、あらかじめ考えていた「ローラーすべり台駐車場」に移動する。駐車場は2段に分かれておりそれぞれ20台程度は駐車できそうだ。特に駐車禁止と書かれているわけでもないので、とりあえずは問題ないのだろう(村営無料駐車場とも書かれてある)。

ザックを背負って車道を歩き始める。途中にはいくつもの分岐があり様々な登山口を案内している。かまわず車道を進んでいくとマリコ川に掛かる「鞠子橋」に到着する。渡ってからそのまま行くと小菅村に行くことになるらしい。ここで右に入る林道が分岐しており、道はすぐにゲートで封鎖されて施錠がされている。今回もルートはTさんに任せてあるので、彼の考えを聞くと、ここから尾根を直登して中指山に行こうという。しかし、のっけからかなり急な斜面で躊躇していると、「普通に登ったのでは面白くない」と妙な説得をされてしまった。まあ、大菩薩は塩山市から登れば軽いハイキングコース、わざわざ奥多摩からロングコースを登るのだから、プラスαくらいあっても良い。のり面に掛けられた林業作業用の、鉄階段を登って斜面に取り付く。思っていたよりも急斜面で、足元は不安定で立ち止まっただけでズルズルと滑り落ちてしまう。ヒノキの幹に掴まりながら、徐々によじ登って行く。なんとか尾根状の場所に着くと少しは歩きやすくなったが、この急傾斜が中指山の主稜線まで続くのかと思うと、潔くこのへんで引き返そうかとも思ってしまう。しかし、時刻は6時なのでその判断はまだまだ早すぎる。杉の落ち葉のある風景を見ると、Tさんと登った丹沢のヤマビルの事を思い出す。しばらくはTさんとヤマビル談義に花が咲く。

腕時計の高度計を見るとグラフ表示が見事なまでに右肩あがりで気持ちいい。急傾斜の道には時折シカの糞が落ちている。シカならば難なくこの斜面を登るのだろうが、日頃から運動不足の中高年には厳しい登りだ。まだ、7時にもなっていないのに水の消費が多くなり、当然のことながら大汗をかいて登っていく。ハイドレーションは1500ccを持ってきているが、不足するのではないかと心配になるほどだ。それでも、新緑に覆われた尾根は心地よく、時折吹き上げてくる風は乾燥していて爽やかだ。

カメのような歩みでも、登りはじめてから約1時間半で中指山の稜線にたどり着くことが出来た。そのまま東方向にわずかに進むと中指山の三角点峰だが樹林に囲まれて展望は得られない。この三角点峰は1314.6mで中指山山頂からは150mほど離れている。1330mの等高線で囲まれた部分が中指山山頂となるわけだ。




村営無料駐車場に駐車

ここから中指山にとりつく

急斜面

急斜面が続く



さて、地形図で中指山から目指す大菩薩嶺見ると、なんと距離の長いことか。ここまでの登りで体力の大部分を使い果たしてしまっているので、これからどうなるのか不安が残る。ともかく時刻は午前7時なので、あと5〜6時間もあれば何とかなるだろうと考えた。Tさんが先行して地形図を確認しながら進んでいく。アップダウンは少ないが、尾根が分岐するところがあり、迷いやすい感じがする。しかし、Tさんはかたときも地形図を離さず、自信を持って進んでいく。こちらは時折GPSで位置を確認するだけなので、大名旅行みたいなものだ。

林業作業用のモノレール軌道の終点を見てからわずかに進と、展望がひらけた場所に飛び出した。標識もあり、広い道が交わって交差点となっている。おまけにベンチまであるではないか。標識には「追分」とあり、帰路はここから丹波山村に向かってルートをとる予定である。この場所からは奥秩父の山が青く見えており、山名を書いた表示板が置いてあった。表示はないが、ここから市町村界に沿って登れば途中にサカリ山があるはずである。トレースはそれなりにあるので、登る人もいるのだろう。順調に登っていると、青地に白い水玉模様のビニル風呂敷が目についた。そばにはストックが一本立てかけてある。なんだろう、Tさんと考えるが明確な答えが見つからない。休んだときに忘れたのだろうか?まさか事件事故ではないだろう。念のために「お〜〜〜い」と声を出してみるが、応答はない。あまり気持ちが良くないので、あまりそこに留まらずにサカリ山に向かってふたたび歩き出した。

サカリ山は登山道の途中にある通過点と言ったところだ。ほとんど埋没してしまった三角点と標識が立木に取り付けられていた。展望はなく周囲は枯れた笹が取り囲んでいる。あまり長居をするような場所ではないので、そのまま通過して先に進むことにした。ところがサカリ山を過ぎるとトレースは薄くなり、尾根筋が広くなり明瞭でなり、Tさんの読図も怪しくなってきた。こうなるとGPSで確認するのが手っ取り早い。ルートは正確に市町村界をトレースしているが、踏み跡がここまで見にくいと不安になってくる。エアリアマップのルートも近くにあるはずだが、確認できないまま先に進んだ。どうやらサカリ山の南に表記されている登山道は、間違いである可能性があると言うことが濃厚になった。それにしても枯れ枝が散乱していたり、熊棚を見ると熊の存在を感じる。二人とも、越後湯沢で買い求めた同じ鈴をじゃらじゃらと鳴らしながら歩く。この鈴は本当に良く響くのでお気に入りの山道具となっている。それに同じ大きさなのに音が微妙に異なる。Tさんの鈴よりも私の方が微妙に高い音が出るようだ。



中指山の三角点

地形図を確認しながら進む

モノレール終点

追分


追分から秩父の展望

追分の表示板

忘れ物?

忘れ物?

サカリ山

サカリ山から下降する



薮が突然開けて木が伐採された明るい場所にたどり着いた。ここがノーメダワと言う妙な名前の場所である。定期的に草刈りがされているような感じの場所である。ともかく明るい日射しのある快適な場所だ。ザックを降ろしてその日射しを身体いっぱいに受け止めて、小休止とした。

今までは標高がなかなか上がらなかったが、ノーメダワからは歩くたびに標高が少しずつ上がっていく。今までの道とは違って、幅の広い道となった事もあり、予定は大幅に短縮されそうだ。登り初めの中指山への登りと比較すれば、楽だと感じるのだろう。しかし、道は展望が無く木々の緑を眺めながら登るしかない。樹林の中は蝉の声が響き渡り、もう初夏の雰囲気を感じさせている。

ノーメダワから1時間ほどで、同じ様に木が伐採されて周囲が開けた場所にたどり着いた。途中に日向沢ノ頭があったはずなのだが、気付かないうちに通過してしまったらしい。ここの名前も変わっていてフルコンバと言うらしい。小菅村からの道が左側から合流しており、かつては小屋が建っていたと言うが、その名残は見あたらない。Tさんとふたたびここでザックを降ろして休憩することにした。すると時間を同じにしたように、小菅村から私たちと同年齢と思われる男女のパーティーが登ってきた。同じようにザックを降ろして休憩となった。この二人はテント泊のようで、大型ザックがパンパンに膨れていた。話し好きの男性と他愛もない話をして過ごす。そのうちに、ここから一分ほどのところに水場があるというので確認に出かけた。Tさんがエアリアマップで確認すると、たしかに水の表記がある。女性はそんな無駄なことはやめなさいといった感じで、座り込んでいる。こちらも水が必要ではないので、ザックを背負って出発することにした。すると、その男性が戻ってきて、水場は充分に使えると声を上げた。それならば、帰りに確認してみようと返事をしておいた。



ノーメダワ

快適な道

フルコンバ(水場は歩いて1分)

もうすこし



フルコンバからの道も相変わらずしっかりとしている。かつては往来が盛んな時代もあったのだろう。石組みの基礎があるところから、うかがい知ることが出来る。標高も次第に高くなるが、周りの風景は相変わらず樹林が展望を遮っている。この辺になると単独登山者2名、マウンテンバイクの2名とすれ違った。さらにすすむと、前方にマウンテンバイクが放置してある。なんでこんなところにと思ったら、その持ち主が上から歩いてきた。降りてきたのは若者で、仲間と離れてしまっているらしい。それにしてもどうやってこのコースを走破していくのだろうか。若者は我々を追い越してどんどん先に進んでいってしまった。

やがて、なにやら人の雰囲気を感じるようになった。話し声ではなく何となく物体が動いている感じがする。子供の頃、養蚕をしていたのだが、その時の蚕が食桑するときの音に似ていると感じた。そして、11時半に大菩薩峠に到着、歩き始めてから6時間半も掛かっている。それにしても目の前の光景には圧倒される。カラフルな衣装をまとった老若男女が稜線に数珠繋ぎになっているのだ。そして、昼時と言うこともあり、あちこちで食事の真最中だ。軽装の人がほとんどで、汗まみれの中年登山者は完全に浮いている。もっとも、甲州市方面から登れば、たった1時間半で登れるので観光気分できてもおかしくはない。深田久弥さんが「大菩薩岳」を書いたときでさえ、あまりの観光地化に驚いているほどだ。ともかく、休む場所もないので大菩薩嶺まで一気に行ってしまうことにした。帰りにこの大菩薩峠の介山荘でビールを買って呑もうと言うことになった。

大菩薩嶺までは開けた稜線上の快適な漫歩となる。数珠繋ぎの列に加わって登りはじめると、春霞の中に残雪をいただく富士山が見えた。この富士山を見に来たようなものだから、その姿を見ただけで感動してしまった。しかし、富士山は今にも春霞の中に消えてしまいそうな、ぼんやりとしたものだった。おそらく時間が経過すれば、ぼんやりと見えている姿も消えてしまうだろう。見える内にと思ってカメラを向けたが、思うように撮影することは出来なかった。眼下に見える大菩薩湖は空の色を反射して、青色の瞳をこちらに向けていた。なんと素晴らしい景色なのだろうか、さすがは百名山の名に恥じぬ景色だ。しかし、喉が渇いてきて、ビールのことが気になって仕方ない。景色を楽しんでいる場合ではない、ビールだ。

雷岩と呼ばれる場所までは露岩が続くが、その先は樹林に入ってしまい、展望はきかない。どんどん進んでいくと開けた場所に人が立っている、中心には大菩薩嶺を示す標柱が立っていた。歩き始めてから7時間も掛かっているが、まあまあ順調に到着、いや予定外に早かったかもしれない。さあ、ビールだ、記念写真もそこそこに戻ることにする。

途中で、妙見ノ頭に寄ってみるが、宗教的な文字が書かれた石柱があり、訪れる人も希なのだろう、踏み跡も消えてしまいそうだった。ここから見る大菩薩峠の介山荘は人影も疎らで、空いてきたように見える。さあ、その大菩薩峠に向かって一気に下っていく。



とりあえず350ccを一本購入して、Tさんと乾杯。しかしこれだけでは物足りない、もう一本購入してやっと喉が潤った感じがした。それから重たい思いをして持ってきた完熟グレープフルーツを食べると、何とも幸せな気分となった。



大菩薩峠

大菩薩峠展望盤

おみやげ

大菩薩峠記念塔

甲州市方面の大展望

大菩薩峠を振り返る

賽の河原

大菩薩嶺

妙見ノ頭

妙見ノ頭から親不知ノ頭

のどを潤す



大菩薩峠で一時間近くも休憩して、今度は帰る時間が気になってきた。サカリ山に登らずに南面の登山道を歩いたが、快適な登山道ではあるがなにしろ距離が長い。追分から丹波山村までの道も、とにかく長い。Tさんと泣きを入れながらやっとの思いで駐車してある場所まで歩いた。



麓が近づいてきた

藤ダワ



帰りの温泉は「道の駅たばやま」に併設された「のめこい湯」に入った。受付が18時までなのだが、わずか8分前に滑り込んだ。独特の湯質で、とてもゆったりとすることが出来た。

大菩薩嶺、いつかゆっくりと甲州市方面から登ってみたいと思った。




すべり台駐車場05:08--(.16)--05:24鞠子橋--(1.35)--06:59中指山07:03--(1.04)--08:07追分08:16--(.29)--08:45サカリ山--(.44)--09:29ノーメダワ09:38--(.55)--10:33日向沢ノ頭--(.07)--10:40フルコンバ10:49--(.43)--11:32大菩薩峠--(.47)--12:19大菩薩嶺12:23--(.25)--12:48妙見ノ頭12:53--(.18)--13:11大菩薩峠14:03--(.32)--14:35フルコンバ14:39--(.44)--15:23追分15:30--(1.23)--16:53藤タワ16:59--(.27)--17:26鞠子橋--(.13)--17:39駐車場





   群馬山岳移動通信/2013

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)


歩行沿面距離28km