雨飾山は頸城山塊にありながら、群馬県からのアクセスが非常に悪い。しかし、2010年の秋に金山から天狗原山まで歩き、間近に見た雨飾山は山肌がそげ落ちて、きれいな名前とは似てもにつかない奇っ怪な形をしていた。まして天狗原山から見れば標高は200mほど低く、百名山としての風格は無いように思えた。 11月4日(日) 冬型の気圧配置が続き、日本海側は天候が不順だった。計画は10月下旬だったのだが、天気の様子を見ていたら一週間延びてしまった。雨飾高原キャンプ場の駐車場には、前日の22時頃に到着して車中泊とした。登山口に近い第一駐車場は50台のスペースがあるが、20台ほどの駐車でガラガラ状態だった。 5時に起き出して、準備を整える。駐車場は昨夜から数台増えている程度だった。湯を沸かし、カップラーメンを作って食べる。最近はこれが出発前の定番になっており、起き抜けでも食べられるし、腹持ちがよく途中休憩時も食料の補給がいらない。 ザックは今回新調したオレンジのザックである。新調したと言っても同じメーカーの同じ型番のもので色を変えただけだ。統一したわけでもないのだが、登山靴もスパッツもオレンジになってしまった。まあ、昨夜は読売巨人軍が日本シリーズで優勝したからグッドタイミングともなった。 大海川と言う、この山の中には似つかない名前の川に沿って登っていく。このあたりは湿地なので木道が敷かれている。木道の上には雪が乗っていて、ちょっと油断するとスリップしそうになるので慎重にストックでバランスを取りながら歩く。このあたりの紅葉も時期を過ぎてほとんどが散ってしまっている。まして、最近降った雪で落葉が進んだ感じだ。 ほとんど水平に近い木道歩きも15分程度で終わり、いよいよ登山道に入っていく。標柱には「雨飾山頂まで180分 荒菅沢まで90分」と書いてあった。このあたりから積雪が多くなり、登山道は真っ白になっている。周囲はブナを中心にした広葉樹の林となっている。落葉したモミジと白い雪のコントラストは見ていてきれいだと思う。道は良く踏まれており、木の根が剥き出しになって場所がほとんどだった。 午前7時を過ぎると明るい日射しが雪面に反射して眩しくなってくる。空を見ると素晴らしい青空が広がっている。この分で行けば今日は一日中天気は良さそうだ。標高1500m付近で、静寂の中に下方から賑やかな声が聞こえてくる。その声はどんどん近づいてきて、ついに追い越された。それは若い二人のパーティーで、道を譲ると風のごとく通り過ぎていった。実に羨ましいスピードで、雪の中でヨレヨレになって、大汗をかいた還暦爺さんには太陽よりも眩しく目に映った。
小尾根を横切ると道は若干下り気味になる。ここで、目の前が急に開けて雪の衣をまとった大きな岩壁が覆い被さるように迫っていた。これが布団菱と呼ばれる岩壁で、その迫力は3000m級の高山を思わせる荘厳な雰囲気をただよさせている。ここには5人パーティーが休んでいた。ここでは休む必要もないので、そのままパーティーをやり過ごして通過した。 このまま道は下降を続け、流れのある沢に降り立った。ここは荒菅沢で深田久弥さんが雨飾山に登ったときに辿った沢である。ここには先ほど追い越された二人と単独行の女性が立ち止まっていた。ここからの布団菱の眺めは素晴らしく、紺碧の空をバックに峨々たる岩峰は新雪で青みを帯びて透明感を感じさせる。また岩にへばりついた木々は枝の先まで雪を付けてその一本一本が岩峰の棘のように見えている。また岩峰の上には残月がまさに沈もうとしているところであった。大汗をかいた身では立ち止まると寒さを感じるので、3人を追い越して対岸に渡り先に進むことにした。 ここからの道は急登であるが、その分高度が順調に上がっていくのが良い。雪は10センチほどで凍結もなく登るに当たってはさほどの困難はない。むしろ帰りの事を考えると、スリップが心配になる。途中で女性二人を追い越すとすぐに、荒菅沢で休んでいた二人に再度追い越されてしまった。すれ違う時に「あの山は何ですか?」と聞かれたので「焼山で、その裏が火打山だと思います」と答えた。二人は納得したように確認してからどんどん先に向かっていった。この先山頂までこの二人には追いつくことは出来なかった。
標高1750m付近で森林限界となり、駐車場の車の様子も見える。どうやら台数は増えているものの満車にはなっていないようだ。目を転じると山頂部分しか見えなかった焼山が、基部の部分まで見えるようになっていた。さらに高度を上げるとハシゴが二連かけられて、その先にもハシゴがかけられていた。このハシゴを登り切ると傾斜はゆるみ笹原の中の切り開きの道に出た。さらに進むと小ピークで笹平の標柱があった。ここからの景色は絶景で、なんと言っても眼前に立ちはだかる雨飾山本峰の見事な三角錐とその背後の後立山連峰、眼下には糸魚川市街地の町並みと日本海、いつまで見ても飽きない眺めである。
それにしても笹平から山頂まで40分とあるが、とてもそれでは行けないような感じを受ける。それほどまでに最後の登りはきつそうだった。雪がまとわりついた笹の原を進んでいく、途中で梶山新湯(雨飾温泉)への道を右に分け、わずかに登りそして下降する。ここから標高差100mほどだが、核心部の急登に取りかかる。私を追い越した二人はすでに山頂に達しているようだ。ここからの布団菱の断崖絶壁は滑落すれば一気に300mは止まらないだろう。緊張するが、それでも楽しい感じはどこから来るのだろうか。一歩一歩確実に、慎重に登っていく。笹平の付近には追い越してきた人たちが歩いているのがわかる。
基部から10分ほどで山頂の鞍部に到着。右に行けば北峰、左に行けば南峰で三角点は南峰だ。つまり、雨飾山は谷川岳と同じ双耳峰で、標高も同じであるとガイドブックには記されている。まずは南峰に向かうと二回も追い越された二人が山頂でくつろいでいた。カメラのシャッターをお願いして、展望を楽しもうとするが登ったことのない山ばかりでわからない。その二人に山の名前を教えてもらう事にした。白馬岳、鉢ヶ岳、雪倉岳、朝日岳・・と説明してもらうが覚えきれない。槍ヶ岳は薄く見えるのだそうだが、私には確認することが出来ない。老眼と近眼では仕方ないかもと諦めた。二人は富山から来たと言うことなので、地元の山といった感じなのだろう。そのうちに、山頂も人が増えてきて賑やかになった。下山時の渋滞を考えると早めに下った方が無難だろう。 山頂には30分ほど滞在して、下山することにした。予想通り下山時はすれ違う人が多く、登りよりも時間の掛かったところもある。ともかく駐車場に着いたときは正午前だった。
雨飾高原キャンプ場06:05--(1.26)--07:31荒菅沢--(1.05)--08:36笹平--(.29)--09:05雨飾山山頂09:35--(.25)--10:00笹平--(.46)--10:46荒菅沢--(1.03)--11:49キャンプ場 群馬山岳移動通信/2012
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