草木湖の周辺でひどい目にあった「岳山」「残馬山」 
                                        登山日2012年3月25日

座間峠手前の伐採地から草木湖(袈裟丸山・庚申山、奥白根山・男体山が取り囲む)


岳山(たけやま)標高1057m 群馬県桐生市/残馬山(ざんばさん)標高1107m 群馬県桐生市・みどり市



今年の3月は週末の天気が思わしくない。今回は、群馬県北部、あるいは新潟あたりを考えていたが、そちらの方面は大荒れの模様だ。吹雪の中、単独で山に登るのはリスクが多すぎるので、場所の選定に悩んだ。なんとか月に一回の山歩きはやっておきたい。そこで目をつけたのが桐生市、みどり市付近の山だった。この付近は20年ほど前に登ったきり覚えが無い。それにこの付近の山は道が複雑に入り組んで大変にわかりにくいと言う思い出がある。この付近、まだ登っていない山はかなりある。地形図を見ると、「岳山」なんて格好いい名前の山が見つかった。このあたりならば雪もないだろうし、たまには日溜まりハイキングも良いかなと思って出かけることにした。



3月25日(日)
みどり市童謡ふるさと館の駐車場に車を置く。今は冬期閉館中なので当然ながら閑散としている。支度を整えながらカップラーメンの準備をする。ところが箸がないのに気がついた。コンビニで入れ忘れたのか、どうしても見つからない。仕方なく駐車場のわきに生えている竹の枝を頂戴して箸を作った。この箸は貴重品なので、ザックに入れてそのまま持っていくことにした。


車道を渡り、座間峠と表示された方向に向かって歩き出す。100mほどで、再び標識が現れる。左に林道が分岐しており、ここを歩いていくらしい。このあたりは林道の分岐も多く、迷い込みそうになる。地形図を見れば、山腹を巻いてから沢に突き当たり上部に向かうようだ。その通り、沢音が聞こえてきて流れのある沢を渡り道が続いている。道は舗装されていたが、途中で崩落部分があり車の通行は出来そうにない。


沢をそのまま詰めると、砂防堰堤に到着。砂防堰堤は4提あったが、防災上これがどれだけの効果があるのか素人にはわかりくい。とりあえず流れの速度を緩める効果があるのだろう。砂防堰堤を越えて斜面を上がると明瞭な林道に出た。すぐ左に分岐した道が続いていたが、そのまま真っ直ぐに歩くことにする。わずかばかり歩くと、展望の良い場所にたどり着いた。ここには座間峠へ導く道標が無造作に林道のり面に置かれている。その脇を登り、一旦右の高みに登ってみるそこにはきれいな赤松が立っており、なかなか良い雰囲気だ。そこからは草木湖を見下ろし、いままで登ってきた道を振り返ることが出来た。



童謡ふるさと館

堰堤が4堤ある

堰堤の上部には林道が来ている

林道から少し上がると赤松が美しいピーク


道はハイキングコースそのもので、赤松とナラの木が混在した林の中を気持ちよく登っていく。しかし、新潟県境は荒れているのか、季節風が強く時折雲が頭上を通過すると思わず身震いしたくなるほどの寒さとなる。このあたりは私有林なのだが、所有者に代わって整備を進めているとの看板がある。まあ、水資源を守るためには税金を使うしかないのだろう。それにしても赤松の林は気持ちが良い。日本の里山の風景によく似合うと思う。村の年長者が「戦時中は松の根を掘らされた。それで燃料油を作って飛行機を飛ばそうなんて考えてたんだから、勝てるわけ無いよな」と言っていたことを思い出す。私が小さい頃は、松の幹の皮を剥がして遊んだ。皮は子供の掌くらいに細かく剥がれる。この皮は柔らかく、ザラザラした石の表面で削って舟の形にして川で遊んだ。ものが不足していた時代は、子供も貧しかった。


歩き始めて1時間半くらいで広い伐採地に飛び出した。真新しい切り株を見ると最近伐採されたらしく、倒された木も一部が横たわって残っている。下を見ると林道が見えるが、おそらく堰堤を過ぎたときに左に分岐した道がそのまま沢に沿ってここまで延びてきているのだろう。切り株は整然とならび腰掛けるのに丁度良い感じだ。この伐採のおかげで展望はこの付近で一番素晴らしい場所になったようだ。展望は扇形に広がり、かなめの部分には青く水をたたえた草木湖が位置している。それに冬の佇まいが消えず、雪を纏った山が展望の先に取り囲んで見えている。袈裟丸山、庚申山、奥白根山、秀麗なコニーデ型の男体山がこの付近の盟主のごとく鎮座していた。その盟主に向かってこの付近から続くみどり市と桐生市からの山は、さざ波のごとく複雑に尾根を絡ませながら延びていた。しばしその展望に見とれて立ちつくしてしまった。


ここからの道は先ほどの延長なのか、樹木が大量に伐採されて無造作に放置されていた。これから片付けるのだろうが、大変な労力を要すると思われる。それにしても、もったいないと思うのはリョウブが大量に切られていたことだ。リョウブは堅く柔軟性があり、鍬や鉈の柄になるからだ。持ち帰りたいところだが、これから事を考えると、とてもその気にはなれなかった。


やがて道は標識が標柱から外れて地面に置いてある座間峠に到着。展望もなくなんの感慨もない場所だった。周囲を歩いてみたが、さしたる展望もなく諦めてチョコレートを3片ほど口に入れた。ところで標識だが「神土駅」と書いてあるのが気になる。「神戸駅(ごうどえき)」が正しいのだが、なにかこだわりがあるのかもしれない。それに地名の「座間峠」と「残馬山」何となく言い回しが似ている。「ざんまとうげ」「ざまやま」と言い換えても違和感がない。そんなことを考えながらこの峠をあとにした。



かなり大規模な伐採地

伐採地から見る草木ダムと袈裟丸山・庚申山

座間峠

桐生市基準点bP38


エアリアマップでは座間峠から残馬山は上級者向けと書いてある。その割に踏み跡はしっかりとしている。途中に「桐生市基準点bP38」の金属プレートがあった。市町村境にこのようなプレートを設置してあるのは今まで見た事がなかった。伐採もこの付近で終わりとなり、快適な尾根道を快適に歩くことが出来た。そして尾根が交わったところに標識があり残馬山の方向を示していた。しかし、この付近に「岳山」があるわけだ。残馬山とは反対方向に斜面を登ると小高い場所に、手作りの木彫りの標識が立木に架けられていた。誰が作ったのだろう、作成者の名前も見あたらない。こんな素朴な標識が風景に合っている。しかし、周囲の立木にはテープの類が多く巻き付けてある。丁寧に名前を書いてあるものや、トリコロールのように色を変えて巻いてある物もある。それにしても寒い、気温を測定すると5.4℃風があるから体感温度はかなり低く感じる。岳山での時間は寒くて、それほどとどまれなかった。すぐに先に向けて一歩を踏み出した。



岳山山頂

標識に救われる


斜面をおりると檜林に遮られた。どうやら道は左に続いている。そこでそちらを辿ってみるが、どうも残馬山から離れてしまうような気がした。尾根を間違えたかと思ってトラバースして右の尾根に渡った。しかしどうしてもおかしいので再び左の尾根に戻ることにした。どうもこれがこの山域の難しいところだ。今度は檜林と雑木林の境を進んでいけばいいと確信した。そこには境界を示す杭もあるからわかりやすい。地形図では単純に見えた道であったが、実際は屈曲点が無数にありなかなかわかり難い。また「三俣山→」と書いてある標識がある。????どこだそれはと考えてしまう。ひょっとしたら「三境山」の間違いなのかもしれない。時々地形図とエアリアマップを交互に見ながらルートを確かめる。あとから考えれば市町村境界をトレースすれば良かったのだが、その時はなぜか気がつかなかった。そんなことを繰り返していると、エアリアマップが無くなっていることに気がついた。どこで落としたのか皆目見当がつかない。まあ、地形図があるから問題ないのだが諦めきれない。そこで5分ほど戻ってみたが見つからず諦めることにした。それにしてもわかりにくい。

標識も少なく設置された木の標識はクマに破壊されて残骸となっているところもあった。しかし、この静けさのなか、鈴の音を高らかに鳴らして歩くことは罪悪感を感じるため、鈴はザックの中に仕舞い込んだままにした。密集した雑木の隙間から残馬山がかなりの高度感を持って見えてきた。実際に取り付いてみると道は凍結しており、その表面が緩んで滑りやすくなっていた。とりあえず木に掴まりながら山頂を目指す。途中で展望が開けたところがあり、ここからは男体山が間近に望める。どうやら今日の天気はこの男体山あたりが境界で、その奥は雲が白い布を垂らしたような背景となって見えていた。そこから吹き込んでくる風は当然の事ながら冷たく剥き出しの耳が痛くなった。


急斜面であったが残馬山山頂は意外とあっけなく到着した。三等三角点があり、標識が二枚立木に架けられていた。ところが実に賑やかな山頂であった。なぜなら男性登山者が二人、大音量でラジオを聞いているのだ。ラジオの高校野球の実況はこの寂峰には全くふさわしくない。山頂でひと休みと思っていたが、記念撮影だけでその場を辞した。少しばかり歩くと山道は再び静けさを取り戻してきた。まあ、時間も早いので展望もなく寒い山頂でわざわざ休むことはないと納得させながら歩いた。幾つかの小ピークを越えながら高度を下げていく、途中で単独行者とすれ違った。本日の出会った人はこの人を含めて3人だけだった。



残馬山手前から見る奥白根山、男体山、女峰山

残馬山までもう少し

残馬山三等三角点


尾根にある踏み跡をたどり下降を続けると、ちょっとした岩場に出た。脇に避けて1mほどの高さなので問題はない。木の根があるのでそれに掴まって降りることにした。木の根に手を掛け、支点にしながら、下降を始めようとしたときに木の根がおかしいと感じた。なんと表面だけしっかりしているように見えるのだが、芯は空洞になっていたのだ。支点としていた木の根は掌の中で砕けた。支点を失った身体は当然バランスを崩して岩場から離れた。

「これで終わりか・・・」
身体は重いザックを背負った背中の部分を下にして上半身から落下。
そこで停止するかと思ったが、岩場の下は斜面になっていて、そのまま横倒しとなり回転して落ちていく。
斜面を数回転したところで、身体が石にひっかかり止まった。

上部を見ると、ストックと帽子が上部に散乱している。
ザックはウエストベルトと胸部のベルトで締められていたので外れることはなかった。

恐る恐る立ち上がると、右膝と脇腹、左肩が痛いがなんとか歩ける。
どうやらザックを下にして落下したので、それがクッションとなり衝撃を吸収したらしい。

しかし、これから身体にどんな変調が起こるか予想が出来ない。痛みも今のところはたいしたことはなく、吐き気もない。ダメージが現れる前に行動を起こさなくてはならない。急ぎストックと帽子を拾ってからゆっくりと下降を始めた。若干は膝に違和感があるが何とか順調にいける。


ふと気がつくとずいぶんと下降してしまっているのに気がつく。下を見ると車道が見えるではないか。GPSで確認すると三境隧道の上部にいるではないか。たしか、この先に少し行けば下降点があるはずだ。しかし、地形図に表示された破線の道を辿って見たい。せっかく下降したのだが、その道を40mほど登り返すことに決めた。なんと苦しいことか、ストックを支点にしてゆっくりと身体を左右に振らしてGPSを見ながら登っていく。GPSの破線の位置まで来たがそれらしい目標もない。桐生市方面から登ってくる道もあるわけだが、それも確認が出来ない。

GPSが無ければとてもこの下降点は難しい場所にある。しかし、よく見れば獣が歩いた跡なのかわからぬが、明らかに足形が残っている。それに時折黄色いテープが巻き付いた枝が落ちていた。よく見れば意図的にそのテープの枝は折られているように思える。しかし、この尾根は間違っていないことはたしかだ。枝尾根がいくつも分岐しており、時々GPSを取り出して見なければ不安になってしまう。何しろダメージを受けている身体が、いつ悲鳴を上げるのか不安があるからだ。やがて、右側の谷に水音が聞こえると何となく林道が近づいた感じがする。とにかく林道まで下ることが出来れば何とかなる。時刻は正午を過ぎてしまったようだ。



何でもない岩場から滑落

右膝の傷口

三境隧道上の鞍部まで降下してしまった


分岐から林道に向かう


とにかく安心できる場所まで休まないように、そればかり考えていた。フカフカのスギの落ち葉を踏みしめながら歩き続ける、とやっと目の前に林道が見えてきた。降りきって沢を渡りわずかばかり登り上げると、舗装された林道に到着。やっと不安から解消された安堵感から、しばらく林道の脇に立ちすくんでしまった。その後、適当なところに腰を下ろして、暖かいラーメンを作って食べるとやっと人心地がついた。



たどり着いた林道

林道途中にある岩(何かを祀ってある)
小屋の中はガラクタばかり



地形図を見ると駐車地点の林道まではまだまだ長い。時折、足を引きずりながら舗装された林道を辿った。車に到着してズボンを脱ぎCWXを脱いで驚いた。CWXの内側は血糊がこびりつき、膝は表皮が大きく剥がれていた。出血はまだ止まらないので、洗浄後「キズパワーパッド」を貼り付けてなんとかしのいだ。
初めは下山したらもう一山を考えていたが、とてもそんな気分にはなれなかった。



童謡ふるさと館06:54--(.37)--07:31堰堤--(.51)--08:22切り開き--(.28)--08:50座間峠09:06--(.27)---09:33岳山09:40--(.02)--09:42迷う09:54--(1.15)--11:09残馬山11:12--(.21)--11:33滑落--(.16)--11:49三境隧道上部(戻る)--(.06)--11:55分岐--(.27)--12:22林道--(.05)--12:27休憩13:09--(.45)--13:54童謡ふるさと館

沿面歩行距離:15.4km

群馬山岳移動通信/2012



GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)