穂高山荘から白出沢コースで新穂高温泉へ   登山日2012年10月12日



白出沢は石の墓場だ



10/12(金)


穂高岳山荘の朝食は6時からなので、ちょっと遅い。それまでの間、外に出て日の出を見ることにする。昨日からよく話をさせていただいた名古屋から来た女性二人となんだかんだと言いながら日の出を待つ。なんでも彼女らは三年連続で穂高山荘に泊まったが日の出を見ることが出来なかったそうだ。今日は期待できるとその時を待った。奇しくも奥穂高に掛かっていた上弦の月と金星を隠すように夜明けが始まった。5時49分常念岳の右の雲海の上に太陽が顔を出した。ご来光はあっという間に周囲に光をもたらし、暖かさを運んできた。名古屋からの女性の記念撮影をしてから朝食となった。



上弦の月と金星

前穂高岳の岩峰に朝焼け

涸沢に夜明けがやってくる

ご来光


さて、出発を急がなくてはならない。あまり気分の良くない一夜の宿を抜け出し、山荘の裏から始まる白出沢に一歩を踏み出した。白出沢は落石が沢を埋め尽くしたような場所だった。その中にかろうじてコースと思われるペンキマークが書かれている。もっともこの沢はマークを無視しても問題なさそうだが、一応マークを忠実に辿ることにした。それにしても歩きにくいルートでのんびり構えて歩けばたちまち転倒しそうだ。前方の笠ヶ岳は雲海の上に頭を出して朝日に照らされて輝いていた。いつかはあの山頂に登ってみたいものだ。振り返ってもなかなか穂高山荘の姿は小さくならない。それだけ下降の速度が遅いと言うことなのだろう。

この沢は遅くまで雪が残るというが、この時期にあっても雪は残っていた。その雪の傍に近づいてみると、雪の下にテントの残骸が見える。さらにザイルの切れ端も登山道脇に放置されている。尋常ではない光景にちょっと動揺する。見たくないものを発見したらどうしよう。そんなわけで残雪近くまで行くことは諦めて、その場を急いで立ち去った。この沢で滑落して九死に一生を得た人が居たと後から知ることになった。

長い白出沢の下降も次第に草付きを抜けて樹林帯に入ることになる。沢を離れて荷継小屋跡の石組みを横目で見ながら歩いていく。下降の傾斜はきつく登りはかなり大変だと感じた。このあたりから登ってくる人とすれ違うようになる。避けようとしたときに思わずバランスを崩して尻餅をついてしまった。思わずすれ違った若者に「大丈夫ですか?」と声をかけられてしまった。かなり疲れていることは間違いない。



白出沢から穂高岳山荘を見る

130分 スベル アブナイヨ

残雪がまだあった。この下にテントの残骸

笠ヶ岳はおおきいなあ

鉱石沢(こんなとこ下るのかよ)

鎖に掴まり下降する

鎖に掴まり水平歩行

白出沢に重太郎橋が見えた

重太郎橋からの登り口

白出岩切道(大変な作業がだったろう)



鉱石沢の流れに出会うとしばらくはこの鉱石沢に沿って下降することになる。これがまたとんでもない緊張感を強いられる道だった。足下は滑るし、手がかりは少なく泣き出したくなるようなキャットウォークだった。左に白出大滝の見事な流れが見えるが、じっくり見物する気分になれない。まして標識には「この付近落石多し速やかに通行してください」なんて書いてあるから立ち止まることも出来ない。おそらく昨日、悪天候の中無理してこのルートを辿ったらと思うと、穂高山荘で宿泊というのは間違いではなかったと感じた。そして、最後のはしごを伝って白出沢の本流に降り立ち、橋を渡って対岸に渡るとやっと一息つくことが出来た。その場にすわり、ポットのお湯を飲むと、長かった白出沢の疲れが一気に解消した。もう危険なところはない、あとはのんびりと苔むす樹林帯の道を白出沢出合まで辿り休憩。その後新穂高温泉まで続く林道を、秋の陽を楽しみながら歩いた。

駐車場の車に荷物を放り込み、深山荘の風呂に直行した。清潔な檜風呂に入り、ひげを剃り歯磨きをすると、これで本当に人心地がついた。そして駐車場では思わぬ人との再会が待っていた。同僚のTさんが、わざわざ新穂高まで会いに来てくれたのだ。茨城県鹿嶋市から8時間をかけてやってきてくれたのだ。本人は笠ヶ岳に登りに来たと言ったが、その心遣いがたまらなく嬉しかった。こうなれば、呑まないわけにはいかない。結果的には、日本酒4合、ウイスキー1瓶、ビール各1本を呑みきって打ち止めとなった。Tさんはその後本当に23時17分、笠ヶ岳に向かって出発していった。あれだけ呑んで大丈夫とは信じられない。

私は当然もう一泊車中泊となり、朝自宅に向けて出発した。今回の山行は良き理解者に恵まれて、長年の夢に理解を示してくれた家族の協力なしでは実現できなかったものであり感謝する。



新穂高ロープウェイ

Tさん(左)と酒盛り



穂高岳山荘06:25--(2.03)--08:28荷継沢--(.31)--08:59鉱石沢--(.20)--09:19重太郎橋09:30--(.46)--10:16白出沢出合10:25--(.37)--10:57穂高平--(.59)--11:56新穂高温泉無料駐車場


群馬山岳移動通信/2012





この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)