蝶ヶ岳は約40年前に横尾から登ったことがある。前日は奥穂高岳に登った後だったから、かなり疲れていたこともありあまり印象がない。去年の夏に三俣からの登山口を下見しておいた。ここからならば常念岳との扇形周回が可能であることが魅力的だ。しかし、この三俣の駐車場は70台なのですぐにいっぱいになってしまう。早朝に着いたのでは駐車場所は限られてしまうことは間違いない。 そこで、前日の金曜日に現地に向かうことにした。常念岳登山口の標識を見ながら夜道を走っていく。やがて見覚えのあるような建物が見えてきた。しかし建物の前には駐車スペースがない。どうも様子がおかしいと思いながらも適当な駐車余地に停めて眠る準備をする。すっかり準備をしてからあらためて地図を見るとどうも三俣ではない。もうひとつの登山口である、「一の沢(ヒエ平)」であることがわかった。これじゃダメだと慌てて三俣の駐車場に向かうことにした。なんというさい先の悪いスタートだろう。 幸い三俣駐車場は空きスペースが数台残っており、沢沿いのスペースを確保することが出来た。ますはビールを呑んでから、23時半に横になることが出来た。 7月28日(土) 予定では3時に起きて4時出発と思っていたが、なんとなく周りが騒々しいので時計を見ると、なんと4時を回っているではないか。またもや寝過ごしてしまったと言うことになる。今年はどうもこんな状況が多い。車の外に出ると半袖では寒さを感じるので、一枚着込んでから準備を始めた。 なんとか準備を整えて出発したのは5時丁度だった。 さすがに人気の北アルプスなので登山口から人の列が繋がってぞろぞろ歩いていくという感じだ。その列に加わって林道を20分ほど歩くと、指導員のいる建物がある。ここでは登山届を提出しなくてはならない雰囲気がある。そのまま通過しようものなら、指導員に呼び止められそうな状況である。登山届もそれなりに厳しくチェックされ、書き直しをさせられる人もいた。ここでもまだ迷っていた。蝶ヶ岳に登るか?常念岳に登るか?周回するか?結果的には「蝶ヶ岳ピストン」と記入しておいたが常念岳に行くことを念頭に置いていたことは間違いない。それにしてもここのコース案内板にある花の名前はどうなっているのだろう?だれも気がつかないのだろうか。 道は常念岳への道を分けて沢沿いに進んでいく。あれほど歩いていた登山者は疎らになり、静かな山歩きとなった。100名山である常念岳に登る人が圧倒的に多いと言うことなのかもしれない。ほどなく本沢に架かる橋を渡ると登山道らしくなってくる。沢音が聞こえるので気持ちがよいが、すぐに暑さでうんざりとしてくる。Tシャツ一枚になっても汗がしたたり落ちてくるほどだ。
登山道は傾斜が緩やかになり歩きやすくなってきた。しかし、展望のない変化のない道は相変わらずで面白味がない。すでにTシャツはずぶぬれ状態でパンツも腰のあたりが濡れてみっともない感じだ。タオルを腹と背中に挟んでおいたが、すぐに濡れてしまって絞ると汗が地面に落ちていった。やがて登山道にぬかるみが現れて、そのまましばらく進むと流れのある沢に出会った。エアリアマップに記入されていないところを見ると、季節によっては消えてしまうのかもしれない。とりあえず蝶沢の水場としておこう。ザックを降ろして、その水場で顔と腕を洗って、タオルで身体を拭くと何となくさっぱりとした。ゼリー飲料を飲んでから再び腰を上げて出発だ。 水場からの道は、ハシゴがあったりしてかなりきつい。下山してくる登山者とすれ違うことも多くなってきた。登り優先と言うことで、道を空けてくれるのだが、早くしなくてはと思うとペースが乱れよけいに疲れてしまうことになる。むしろ、登りの時に前にいる団体を追い越す方が困難だ。まあ、こんなところでイライラしても仕方ないので後塵を被りながら付いていくしかない。やがて周囲が明るくなり、オオサクラソウやシナノキンバイが目立つようになると何となく山頂が近い感じを受ける。しかし、バテバテでとても一気に登る元気はない。しばらく休んでいる内に何人ものパーティーに追い抜かれてしまった。本当に体力不足と暑さに慣れていない身体では身動きが出来ない。
蝶ヶ岳ヒュッテ前の風景 しかし、蝶槍まで行ってから考えることにして、先に進むことにした。それにしても素晴らしい展望を見ながらの稜線歩きは楽しい。大汗をかいていたはずなのに、汗はいつの間にか乾いてしまっていた。ダラダラと歩いていたら、蝶槍に付いたのは10時半になってしまった。ここで、常念岳からやってきた登山者が到着、開口一番「きつかったあ!!!」「そんなに大変だったですか、これから行けますかね?」その人は私のメタボ体型を見て「かなり大変ですよ。無理しない方が良いと思います」と言われてしまった。たしかに見えている常念岳のピークは急傾斜になっている。エアリアマップと時間を照合して確認する。今日は午後8時までに自宅に帰らなくてはならない都合もある。それに体力的にバテていることも間違いない。こうなったら、大展望を見ながらゆっくりとビールを呑むのもいいなあと思い始めた。
大展望(焼岳、前穂、奥穂、北穂、南岳、槍ヶ岳、大天井岳、常念岳、黒く見えるのは蝶槍) またひとつ常念岳という宿題を抱え込むこととなってしまった。まずは痛めている足の回復と、鈍っている体力を復活させること。これがない限り挑戦は無理だと感じた山行になってしまった。
|