万場町から登る寂峰「塚山」「飯山」 登山日1999年11月27日


塚山(つかやま)標高954m 埼玉県秩父郡・飯山(めしやま)標高798m 群馬県多野郡

塚山から見る神流湖11月27日(土)

 朝7時に万場町の「こいこいあいランド会館」の駐車場で、スピーカーから町内に響きわたるグリークの「ペールギュントの朝」の音楽で目を覚ました。さわやかな曲の筈だが、眠い目をした酔っぱらいにはうるさいの一言だ。そんなわけで寝袋の中に頭をつっこみ、惰眠をしばしむさぼった。しかし、それも長くは続かずに朝の光に目を開けた。車の窓には厚く霜が降りて、なかなか外の様子を伺うには時間がかかる。何とかその隙間から外を見ると、飯山の山頂に朝日が当たり好天を約束しているようだ。

 隣の車の中にいる猫吉さんは、すでに外に出てなにやらうろついているようだ。最近は猫吉さんの方が私よりも早く起き出す事が多くなったようだ。車の中を片づけてラーメンを作って食べ終わる頃は、すっかり周囲は明るくなっていた。時間を無駄に浪費しても仕方ないので、ともかく塚山の登山口まで行こうと、群馬・埼玉県境の土坂隧道の入り口に向かうことにした。


***塚山へ***

 隧道の入り口は、適当な空き地があったがどうも工事車両が頻繁に出入りをしているらしく、轍の跡が土の上にしっかりと残っていた。トラブルを避けるためにもここに駐車することは諦めて、林道の路肩に駐車することにした。

 これからがまた大変、二人とも一ヶ月あまり山から遠ざかっていたものだから、車の中に散在している道具を集めてパッキングするのに時間がかかる。おまけに忘れ物も多数で、なかなか出発できない。最大のものは私が、登山靴を忘れたことである。10年も前にスリッパで雪山に登った人もいるが、そんな芸当が出来るわけもない。

 幸いにも、猫吉さんの20年前の予備の靴があったので、試しに足を入れてみるとなんとサイズが合うではないか。若干しっくりこない点はあるが、スリッパよりましであることに違いない。今まで靴を忘れたことはもちろん初めて、他人の靴で登る事なんてあり得ないことだった。猫吉さんは、かつてこの塚山に挑戦したが、時間切れで断念している。今回も出発が9時半と大幅に遅れているので、ちょっと不安が頭をよぎった。

 土坂隧道の上の斜面は、檜の苗の手入れをする作業者が二人で盛んに鍬をふるっている。アメリカセンダングサが密生している斜面は、どう逃げてもその種が着ているものに付着する。付着した種を取り払いながらひとしきり登るとそこが土坂峠だった。隧道が出来る前は、上州と武州はこの土坂峠で繋がっていた。傍らにはその当時からの推移を見ている、小さな石祠が武州の方向を向いている。

 土坂峠から県境尾根をゆっくりと登ると、次第に周囲が明るくなりすっかり暖かくなってきた。県境尾根をたどり、ちょっとした尾根のコブに出た。ここにはテレビの共聴アンテナが東京方面に向けて設置されていた。古くなったアンテナは斜面に放置されて朽ち果てていた。このコブから見ると、県境尾根のさらに先のピークには巨大なアンテナが光っている。これから先は藪こぎを予想していただけに、ちょっと興ざめの点もある。

 ともかくしっかりとした県境尾根をさらに辿ると、右からの明瞭な尾根と合流した。この先は藪が深そうなので、セーターを脱いで腰を下ろして休んだ。しかし、目の前にある巨大アンテナのピークが、塚山の山頂なのか否か気になるところである。GPSを取り出して確認すると、どうやらそのピークは地形図の978mの標高点と判明した。

 休憩後その標高978mのピークに向けて歩き出す。はじめは藪が深く難儀するかに見えたが、その藪はすぐに消えて歩きやすくなった。一旦鞍部に下りるとそこには、なんと軽トラックが入り込んだ跡のある道が延びてきていた。地形図の987mピークの手前の破線の道がそれと思われる。鞍部からは暗い檜林の中の急斜面をあえぎながら登った。あまりにも息が切れるので、立ち止まって後ろを振り返って猫吉さんを見ると、やはり同じように立ち止まって息を整えていた。同じような事をしているので、顔を見合わせて笑ってしまった。

 987mのピークに立ち、問題の巨大アンテナに近寄ってみる。アンテナは三つの施設に分かれており、「防災行政無線万場中継所」と書いてあるものと、残りは名称は無いものの携帯電話の中継局と思われるものだった。さらにこの中継所までは幅の広い道が延びてきており、現に100mほど先には軽トラックが2台駐車してあるのが見える。そしてさらにその先には目指す塚山があり、そちらの方面にも林道は通じているようだった。ここまで苦労して歩いてきたことが何か空しくなり、疲れがどっと出るようだった。

 ともかくこのピークからの展望は良く、間近の御荷鉾山が大きく見えており、谷川岳、武尊山、赤城山が遠望できた。紅葉のピークはすでに過ぎていたが、それでも個体によっては鮮やかな原色の紅葉の木があり、青空の中に似合っている。

 展望を楽しんで、いよいよ塚山に向かって出発する。はじめは林道を歩いたが、県境を辿った方が近そうなのであえてそちらに足を踏み込んだ。県境は檜の幼木が植えられており、先ほどの軽トラックの作業員が二人しきりに鍬をふるっていた。幼木の先端を曲げ、土を被せて寒さから守る作業で、根気のいる仕事だと感じた。作業者とはちょっと目があったので軽く会釈をしておいた。おそらく何でこんなところに登山者がいるのだろうか?奇異に感じたことだろう。

塚山に登る最後の尾根(後方左上が987m峰)
 その県境尾根も意外に歩きにくく、標高907mの標高点の手前の鞍部で林道と接近したので、林道を歩くことに切り替えた。林道はさすがに歩きやすく距離を稼ぐには最高だ。林道のピークにはちょっとした駐車スペースがあり、家庭ゴミが散乱していた。道は下りになるのだが、これでは尾根から外れてしまう。右のカラマツの斜面に付けられた道を登り、再び県境尾根に戻ることにした。

 県境尾根に登ると、武州側は伐採が進み展望が開けていた。しかし、馴染みのない武州や武蔵の山はなかなか山座同定には至らなかった。目指す塚山のピークは最後の斜面の急登を残すのみとなった。


 塚山山頂は人の手が加えられ伐採がされて、跡にはツツジが植えられそれを支える竹棒が無数にさし込まれていた。しかし、展望は周囲の檜が伸びすぎているためにあまり良くない。わずかに木々の間から見る神流湖の水面の青い色が印象に残った。

 さて無線の運用だが、私は子供と携帯電話で連絡を取り、簡単に無線に出て貰い終了した。猫吉さんはさかんにCQを連発したが、なかなか思うように相手が見つからない。これもアマチュア無線の衰退が顕著に現れている事を見せつけられた格好だ。

 さて、塚山山頂で1時間近くも過ごしてしまい。次に予定している飯山に行けるかどうか微妙になってきた。しかし、二人ともさほど急ぐこともなく、ゆっくりと山道を土坂峠に向けて戻った。




***飯山へ***

 土坂峠に戻ると、時間はすでに午後1時半になっていた。晩秋の陽は短く行動はおのずと限られてしまう。飯山は微妙なところだが、ともかく偵察の意味を含めて途中まで行ってみることにした。土坂峠から下り、万場高校の近くの生利大橋のたもとに車は路上駐車した。ここで、ちょっと腹の中にゆで卵とパンを流し込んで、早々に出発した。やはり外気温は確実に下がって、身体は冷え込んでいるので、パーカーを着込んだ。

 万場町の生利地区を貫く国道462を西に歩くと、右側に「御荷鉾山入口」と書かれた碑があり、その上には「町営生利住宅入口」の標識もあった。この標識に従い脇道に入り、道なりに上部に歩く。道は狭いがコンクリート舗装で、民家の庭先に迷い込まないようにすれば問題はない。犬がうるさい民家を過ぎると、道は農道の雰囲気になり、耕作を取りやめた畑が目立つようになった。

 その畑も終わり、杉林の手前の標高430m付近で道は分岐した。分かれた道はやはり舗装されており、山に登る雰囲気もあるが、どうも畑に行く農道で行き止まりになりそうだ。そこでその道を見送って、なだらかに登って山腹を巻く本線を進むことにした。

 この林道は、さほど高度も上がらずに山腹を回って続いている。やがて三坪ほどの作業小屋に辿り着き、道はその脇を抜けて下って行く。ここで、いよいよ道を抜けて藪の中に突入だ。この杉林はかつては畑だったのだろう、石垣が行く手を遮るように何本か横切っている。杉林の中の藪はさほどうるさくもなく、これなら何とかなりそうだ。しかし、標高差300mをこれから登るとなると、時間が問題となることは確かだ。先を行く猫吉さんが、振り返って「どうしますか?」と声を掛けてきた。実は猫吉さんからの借り物の登山靴が、調子が悪くあまり歩きたくなかった。そこで「やめましょう」と答えたが、「じゃあ、偵察でもうすこし歩きましょう」と再び歩き出した。やはり、山ランの鬼は健在で、この時間になっても山に登ることは意に介さないようだ。

 ところがその杉林の中の登りも、様子が変わって状況が変化した。それは再び明瞭な林道(作業道)が現れて上部に続いていたからだ。この道はおそらく標高430mのところで分岐したあの脇道から来ているものと推測出来た。こうなればこの歩きやすい道を歩いて行かない手はない。ところが、登山靴が左のくるぶしのところで、こすれて痛くてどうしても歩くのが辛い、バンダナをくるぶしのところに当てて、何とかしようとしたがうまくいかない。もうこうなったら、我慢するしかない。痛みをこらえて先行する猫吉さんを追いかけた。

 林道は何処まで行くのだろうか? 地形図に記載がないので何ともいえないが、おそらく飯山の先にあるゴルフ場あたりまで行くのではないかと考えられる。ともかく徐々にではあるが、高度を上げている以上この林道を詰めていくのが正しいと考えられる。

 高度も上がり標高680m付近で右の稜線が近くなり、ピークらしきものが見える様になった。そこで林道を離れて、斜面に付けられた仕事道を登ることにした。仕事道なのか獣道なのかはっきりしないが、落ち葉の積もった道を息を整えながら登った。

 稜線に着くとなんと右と左に似たようなピークがある。果たしてどちらが飯山なのか迷うところだ。こんな時はGPSで確認すればいいのだが、面倒くさいこともあり、勘で右に進んでみることにした。そしてその右のピークに登ってみて現在の我々のいる場所が特定できた。それは飯山の北の稜線にある標高770mの等高線に囲まれたピークだった。そして、南側の間近に見えるピークが飯山に間違いない。
飯山山頂
 すっかり、葉の落ちきった雑木林の中をゆっくり辿り、斜面を登るとそこが塚山だった。山頂には三角点とGさんの標識があるだけだった。展望は雑木に囲まれて全く見えず、弱くなった日差しが差し込んでいた。ここでの無線運用は全く出来ず、お互いに奥の手運用で簡単に済ませた。寒さに震えながら、ミカンを向いて食べてから早々に退散する事にした。

 山頂からは今度はいきなり西の斜面を駆け下りた。そして林道を忠実に辿って下ると、道は予想通り標高430mの分岐点に繋がっていた。ここで猫吉さんと二人で腰を下ろし、神流川の上流の山に沈む夕日を眺めてから帰った。

「記録」

***塚山***
土坂隧道09:29--(0.32)--10:01TV共聴アンテナ--(.44)--10:45防災無線中継局11:00--(.33)--11:33塚山山頂12:21--(1.08)--13:29土坂隧道


***飯山***
生利13:50--(1.00)--14:50林道を離れる--(.14)--15:04稜線--(.07)--15:11飯山山頂15:42--(.08)--15:50林道に出る--(.17)--16:07林道分岐16:18--(.11)--16:29生利


群馬山岳移動通信 /1999/