ミドリ池から北八ヶ岳を歩く 登山日2001年7月17日


東天狗岳(ひがしてんぐだけ)標高2640m 長野県茅野市・南佐久郡/天狗岳(てんぐだけ)標高2646m 長野県茅野市/根石岳(ねいしだけ)標高2603m 長野県茅野市・南佐久郡/箕冠山(みかぶりやま)標高2590m 長野県茅野市・南佐久郡


天狗岳直下より蓼科山を遠望
7月17日(火)

 久しぶりに会社を休み、平日登山と洒落込んだが、どうも天気が芳しくない。自宅の庭で空を見上げると、どうも北の方面の雲が多くどんよりとしていた。それに引き替え、西の方面は青空が広がり快適そうだ。そこで八ヶ岳にでも登ろうと、自宅から西方面に向かうことにした。

 さて、八ヶ岳のどこに登ろうかと車を走らせながら考える。時間はもう既に6時近くになっている。そうなると、北八ヶ岳の天狗岳あたりが良さそうだ。ここならば25年ほど前に3回ほど登っているので、それなりの気安さも働いた。

 稲子湯を通過して、さらに進むとミドリ池に通じる林道に出会う。林道の手前はゲートが設置されており、一般の車は入ることが出来ない。手前には車が10台以上置ける駐車余地があった。

 ゲートの脇を抜けて唐沢橋を渡り林道を歩くと、ミドリ池に向かう標識が現れる。標識に従い、林道を離れて林の中に入る。林の中の登山道の脇には、ホタルブクロが特徴ある姿で並んでいた。この登山道は林道と再び交わり、屏風橋を渡り分岐を左に向かう。沢の左岸に付けられた林道をそのまま進むと、堰堤に出くわした。そこで沢の水に手を入れると冷たくて、とても長時間は入れていられない程だった。さらに歩くと林道から離れ、沢を渡り、本格的な登山道に入ることになる。

 登山道はかつての軌道の跡を利用しており、鉄路はそのままに残されている。標高はこの時点で1700m程度なのだが、通り抜けてくる風は乾燥していて心地よい。何しろここのところの猛暑には、辟易しているだけに救われたような気持ちになってくる。

 快調に登りを楽しみながら歩くと、水場のところで中学生の集団登山に出くわした。水場はすっかり、100人ほどの青いジャージ姿の集団で埋め尽くされていた。聞けばこの近くの南牧村からやって来たのだという。これから硫黄岳に登ると言うことだが、引率者はかなりの気苦労があろうと思った。しかし、この集団は統率が取れており、道を空けて私を通したり、挨拶をしたりとなかなか好印象を持った。

 水場をすぎてひとしきり登ると、傾斜も緩やかになり歩きやすくなった。そしてさらに歩を進めると、展望がひらけてミドリ池に到着した。ミドリ池のそばに建つしらびそ小屋はひっそりとしていて、人の気配さえも感じられなかった。昔ここに来たときはもっと拓けていたような気がする。それは厳冬期に来た事によるものか、木々の高さが低かったのかどうもハッキリとしない。
ミドリ池から見る天狗岳
 ミドリ池からは目指す天狗岳が湖面を挟んで正面に見えていた。ベンチに腰を下ろしてスポーツドリンクとパンを食べた。そうしていると寒さを感じるようになり、鳥肌が立つようになった。標高2000mの風は爽やかで、むしろ寒ささえ感じるようだ。気温は20度を下回っているから、下界とは20度近くの温度差があることになる。そうこうしているうちに先ほどの中学生の集団が到着した。そこでここを明け渡して一足先に出発することにした。

 北八ヶ岳の深い樹林の中を潜るようにして道は続いている。苔むした倒木や岩石が敷き詰められている様は、この森の歴史が古いことを感じさせる。標高2000mとはいえ歩き始めるとさすがに暑いので、短パンにはきかえると今度は快適になった。右手には稲子岳南壁が輝いて屹立していた。若いときにあの南壁を先輩に引っ張り上げて、もらったときは本当に怖かった。特にチムニーの登りはスリル満点だった。さらに帰りの時に浮き石に乗ってしまい、後頭部から落下してしまったことがある。幸いにもカスリ傷程度で済んだのだ。そのときに傷の手当てをしてくれた、先輩の女性部員に淡い思いを抱いたことが
、懐かしく胸の中にこみあげて来た。

 標高2200m付近で下山してくる男女2人に出会った。なんでも白駒の池から中山峠を経由して降りる途中とのことだった。中山峠から白駒の池の間は「ハエ」「アブ」「カ」が大量に発生していて、通過するのが大変だったという。この異常気象と、人の過剰利用によった結果だろうと感じた。

 恐る恐る中山峠に登りあげると、その昆虫たちは全く姿を見せなかった。それどころか、涼しい風が峠に満ちており、汗が乾燥して行くのがわかる程だ。近くの岩の上に腰掛けて、ゆっくりと目を閉じて休んだ。これが幸せな時間と言うものなのだろう。しばらくするとやはり中学生の集団が天狗岳から下りてきた。総勢200人ほどだろうか、登ってくるときに出会った、南牧村の集団とは違って、引率者は疲れ切っており、生徒は愛想もなく私の目の前を無口で通り過ぎるだけだった。
東天狗岳と西天狗岳
 集団が黒百合ヒュッテに向かい、静けさが戻ったところで、腰を上げていよいよ天狗岳の登りに取りかかった。天狗岳の登りは岩場のルートがほとんどで、目の前の東天狗岳と西天狗岳の二つのピークを見ながらである。振り返ると蓼科山付近まで遠望できたが、ガスがその一部を覆い始めていた。どうやら午後の天気はにわか雨にでもなりそうな雰囲気である。

 岩場をペンキのマーキングを頼りの登り詰めると、東天狗岳の山頂に飛び出した。山頂には誰の姿も見えなかった。露岩と山頂標識があるだけで、期待していた展望はガスがかかり、間近にあるはずの硫黄岳さへも確認することが出来ないほどだ。ただ、西天狗岳は目の前に秀麗な姿を見せていた。無線機を出してスイッチを入れると、タイミング良くニュウからCQを出している局が見つかった。静岡から来ていると言うその局は、根石山荘に泊まったと言うことなので、時間がもう少し早ければすれ違った可能性もあった訳だった。
東天狗岳山頂
 間近に見える西天狗岳が気になったので、そちらに向かうことにした。露岩の斜面を鞍部まで下って、再び登り返すと意外に簡単に西天狗岳の山頂に到着した。見た目よりも簡単に登れたのでちょっとあっけない感じがした。山頂には三角点があったが、山頂標識は見あたらなかった。しかし、ここで疑問がわき上がった。それは、西天狗岳と東天狗岳は山ランとしてはどちらが有効なのか?と言うことである。急遽決まったこの山行なので、2万5千分の1地形図をもっていない。エアリアマップだけなのでどうもそのあたりがハッキリしない。そこで猫吉さんに電話をして確認することにした。すると、天狗岳と言えるのは西天狗岳であるとのことだった。しかしながら東天狗岳はコンサイス日本山名辞典に記載されているとのことで、いずれも有効とのことだった。さっそく、高崎の局と交信して無線機のスイッチは切った。
西天狗岳から東天狗岳を望む
 さてここで恒例のラーメンと、ビールで昼食にする。展望はないが、この時間は至福の一時と言ったところだ。ところが気が付くと足元がなんだか変だ。それはブヨが足に食らいついていたのだ。慌てて手で叩いたが、すでに真っ赤な血が流れて、それは両足に3カ所となっていた。虫さされ軟膏を塗ってその場はしのいだが、あとで腫れ上がることが怖いと思った。

 再び東天狗岳に戻ると、数人のパーティーが休憩中だった。立ち止まる必要もないのでそのまま根石岳に向かった。砂礫の道は風通しが強く、時折ガスを交えてやってくる風は冷たく、短パンにTシャツ姿ではちょっと寒すぎる。しかし着替えるのも面倒なので、そのまま歩くことにした。本沢温泉への道を分けて、10分ほど登るとそこが根石山山頂だった。山頂は露岩が積まれたような場所で、山頂標識から少し高い所があり。そこに腰を下ろした。展望はガスに阻まれて見えないが、時折その切れ間から根石山荘が見える程度だった。無線機の電池を交換して、やっと一局と交信して根石山を離れることにした。
根石岳のコマクサ
 根石山から根石山荘への砂礫の原は、今まさにコマクサの盛りとなっていた。こんな荒々しい場所に咲く花というのは、何かそれだけで可憐に見えて来るから不思議なものだ。カメラのレンズを何度か向けて、その姿を記録した。根石山荘への道を分けて箕冠山への樹林の道を、登りはじめた途端に雨が降り出した。これは困ったと思ったが、箕冠山山頂に着く頃にはすっかりとあがっていた。

 箕冠山山頂は、登山道の途中の三叉路の地点で、樹林に阻まれて展望もなく、およそ山頂らしくなかった。無線機を出して、かろうじて松本の局と144Mhzで交信してから荷物をまとめて夏沢峠へ向かって道を歩きだした。

 夏沢峠はその懐かしい名前とは裏腹で、小屋が2軒あるだけだった。立ち止まる必要も感じなかったので、そのまま通過して本沢温泉への道を下った。

 道は樹林帯の中でちょっと蒸し暑さが気になる。それでも誰ともすれ違うこともない静かな道は、ウイークデーの山の魅力を感じることが出来た。やがてイオウの臭いが気になり出し、右下の沢を見ると乳白色の露天風呂が見え、数人の人の姿が見えていた。これは話の種に一風呂浴びて行こうと考えて先を急いだ。

露天風呂の矢印の示す方向に行くと、前から若い男性が歩いてきた。
「今、おばちゃんが4人入っていますよ」
そう言って参ったような表情を作った。
「それは困った。諦めて稲子湯まで歩きます」
「これから歩くんですか?」
男性は、怪訝な顔をしたが、なぜそんな顔をしたのか分からなかった。おそらく今の時間を気にしたのかも知れない。本沢温泉の宿に着くと、10人ほどの人が庭先でくつろいでいた。こちらもベンチに腰を下ろして、パンと水を補給した。

 本沢温泉から今度はミドリ池に向かって歩き出した。幅の広い道から左の斜面に取り付くところで雨となった。しかし、樹林の中だったために、あまり濡れることもなく10分ほどの雨は過ごすことが出来た。この本沢温泉からミドリ池までの道は、北八ヶ岳の森の雰囲気が良く出ていた。苔むした深い樹林は怖ささえも感じるほどだ。途中で湧き水を補給しながらミドリ池を目指した。

 ミドリ池のしらびそ小屋は、早くも夕餉の支度が始まったのであろうか。煙突から煙が立ち上っていた。小屋の前でミカンを食べて、ミドリ池と天狗岳を見比べて時間を過ごした。

 帰路は登山口まで充実した一日を振り返りながら、ゆっくりと山道を下った。

しらびそ小屋
「記録」」

7:38登山口(稲子湯)--(1.15)--8:53しらびそ小屋8:58--(1.16)--10:14中山峠10:24--(.52)--11:16東天狗岳11:31--(.13)--11:44西天狗岳11:23--(.12)--12:35東天狗岳--(.22)--12:57根石岳13:07--(.19)--13:26箕冠岳13:35--(.16)--13:51夏沢峠--(.29)--14:20本沢鉱泉14:26--(.54)--15:20しらびそ小屋15:36--(.44)--16:20登山口


群馬山岳移動通信 /2001/